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713 縛り付けられた者、やはり因果応報

修正しました。

行ったじゃないか」→ 言った~

「全員、死んでいるんですよね」


 ハリーがなおも問うてくる。


「ああ」


 でなきゃ、ハリーが慎重に探ったのに気配を見逃すなんてありはしない。

 敵が生きている人間だと思い込んでしまったハリーのミスである。


「人の気配がないのは分かりました。

 でも、それだと矛盾すると思うのですが」


「矛盾?」


「ゴーストたちは拙いながらも操られていました」


「そうだな」


「死ぬどころか存在すらなかったことにされているのに操るなんて不可能です」


『なるほど』


 ハリーの言いたいことは分かった。

 そして己のミスに気付いていないことにも。

 いや、勘違いと言うべきか。


『まずはそこから気付かせないといけないか』


 状況は逼迫している訳ではない。

 【多重思考】と【天眼・遠見】を駆使して状況確認している。

 うちの面子は誰1人としてピンチに陥ったりはしていない。


 フェルトは子供組の方へ戻ってきて待機しているし。

 子供組は無双しないようにゴーストたちを牽制しつつ戦っている。

 トモさんは相変わらずの回避モード。

 ブルースがゴーストを8体倒すごとに1体をシンサー流の技で斬っている。


 変化があるとすればブルースか。

 直に見ていた時より動きが良くなってゴーストを倒すペースを上げていた。


『なかなかやるな』


 トモさんの動きを部分的に取り入れているようだ。

 徐々に吸収している感じだろうか。


 見ただけでコピーするなど簡単にできるものではない。

 レベル3桁に到達しているのは伊達ではないということだ。

 まあ、トモさんがあえて見せているというのもあるけれども。


『アピールするかのような位置取りだし』


 単に躱すだけじゃなくてブルースに見えやすい位置に誘導しながらとか芸が細かい。


『おまけに間合いと呼吸でタイミングまで変えてるし』


 これもブルースが隙を作らずに済むようにしている訳だ。

 その場にいたら、きっと「そこまでするかい?」とツッコミを入れていたことだろう。


『面倒見のいいトモさんらしいとは思うけどさ』


 ブルースはアラサーのオッサンなんだけどな。

 まあ、レベル的にはトモさんの方がずっと上だけど。


 そういうこともあってか、手取り足取りとは行かないまでもフォローしているようだ。

 されている側がそれと気付かぬようにってのが、また心憎い。


『それにしたって実戦のなかで成長するとはな』


 ブルースにも素養があるということだ。

 案外、短期の合宿でシンサー流をものにするかもね。


 なんにせよ心配するような状況でないことだけは間違いない。

 廃村の村長宅内で待っている面々からすると戦々恐々なのかもしれないが。


 悪いけど、そこまでは見ていられない。

 一騒動あるとしても村長宅から出てこなければいいのだ。


『でないと落ち着いてハリーのために時間を使えないじゃないか』


 間違っても【遠聴】なんか使って中の音声を拾ったりしない。


「ハリー」


「はい」


 俺の呼びかけに感じ取るものがあったのだろう。

 ハリーが己の表情を困惑から真剣なものに切り替えていた。

 これから耳にすることと聞き逃すまいとしているのが分かる。


「俺は雑魚がいると言ったはずだ」


 ミイラ状態の死体を雑魚とは言わないからな。


「あ……」


 呆然とするハリー。


『それだけじゃないんだぞ』


「そしてハリーも物音を聞きつけたのだろう?」


「はい」


 今度は、ばつの悪そうな顔をした。


『今日はコロコロと表情が変わるね』


 実に珍しい。

 が、それを弄る訳にはいかない。

 楽しんでいる状況ではないからな。


「肝心の魔道具はまだ見つけていないだろ」


「確かに……」


 最終的に神妙な表情になった。


「2階に行けば敵の正体が分かる」


「はい」


 ハリーは頷き、外から2階を見上げた。

 端から中を見通そうとするようにしつつ視線を動かしていく。

 そして真ん中近くまで来たところでピタリと止まる。


「これは……」


 1点を凝視するハリー。


『気付いたか』


 今度は音で気付いたのではない。


「魔道具を対象にして探すなら魔力の流れを追った方がいいよな」


「はい、見落としていました」


 ハリーはしょぼくれた返事をしてくる。

 色々と自分の失念していたことを指摘された後だからな。

 だが、ネガティブになるのは考え物だ。


「胸を張れ。

 今のは収穫じゃないか。

 足りないものに気付けたんだからな」


 励ますとハリーは姿勢を正してペコリと頭を下げた。


『生来の性格だからな』


 もう少し砕けた感じにとリクエストしても難しいだろう。


「それでは行ってきます」


「あー、俺も行くぞ」


 この件の首謀者を1発くらいは殴っておきたい。

 本気で殴ると消し飛んでしまうだろうけど。


 そんな訳で2人してこの村の村長宅に入った。

 階段を上り2階へと上がり、目的の部屋へと向かう。

 障害になるものは何もなかった。


『いや、進路上のミイラは邪魔だったか』


 かつて人であったことなど認めたくない悪党だったので、そのまま跨いだけどな。

 これが村人であったなら避けて通ったけれど。


『この連中には敬意を表する気にもなれないね』


 カーターたちに証拠として見せる程度の価値しかない。

 それが終われば用済みだ。


 黒幕に突き付ける証拠には不向きだろう。

 兵士をミイラ化させた犯人扱いされかねないし。

 何より面倒だ。


『別に黒幕を糾弾する必要性を感じないからな』


 最下位とはいえ王位継承権を持つカーターを暗殺しようとしたのだ。

 そんな情報は公にはされないはず。

 適当な理由をつけて消されるだろう。


 立場のある者だろうから病死の発表くらいはされるとは思うが。

 ならば、いつの間にか居なくなっていたとしても結果は同じだろう。


 問題は他所の国の厄介ごとであるということ。

 エーベネラント王国は友好国ではないし俺が首を突っ込むのは筋違い。

 それは分かっている。


 本来であれば当事者であるカーターが解決すべきことだ。

 が、そこをあえて曲げさせてもらおう。

 かなりムカついたのでね。

 これが盗賊の根城を潰したというのであれば「ふーん」で終わらせた。


『住民を皆殺しにして村ひとつを潰す?』


 どうやら黒幕は村人が死ぬことに何の痛痒も感じていないようだ。

 重罪を犯した者が殺されるのとは訳が違うというのに。

 まして年端もいかぬ子供まで犠牲にするなど断じて看過できない。


『他所の国のこと?

 知ったことかよ!』


 実は先程の広場の光景を目にしてブチ切れている。

 それを表面に出さないのは【千両役者】の助けを借りてようやくといった体たらくだ。

 ここぞという時にしか使わないつもりが、さっそく使ってしまっている。


 実に情けない。

 とにかく首謀者を本気で殴れない分は黒幕でってことだ。


 で、魔道具がある部屋の前まで来た。

 ドアはないため入り口から部屋の中がうかがえる。

 質素なテーブルの上にそれはあった。


「鍋……ですか?」


 ハリーが盛大に勘違いしている。


「鍋なら、あんな太い脚は邪魔なだけだろう」


「そうですね」


 まあ、言いたいことは分かる。

 俺の指摘した脚さえなければ、鍋としか思えない幅広の器だったから。


「何故かトロフィーだな」


「ああいう形のものもあるんですね」


 人によっては、とある日本の地方都市で行われる戦争に出てくるアレとか言いそうだが。

 主にトモさんとか、ミズキとか、マイカとか。

 もしくはサッカーが好きな人だと、あの大会の優勝カップとか思い浮かべるかもしれん。

 とにかく、そういう形をしている。


 それが瘴気を纏った状態で魔力を発していた。

 瘴気は半透明の墨色をした鎖をいくつも伸ばして縛り付けている。

 テーブルの側で椅子に座るローブ姿の人物……だったものを。


『あれじゃ動きたくても動けんか』


 状態は階下で見た干涸らびた兵士の成れの果てに近いと言える。

 吸い尽くされた体は同じ。

 痩せ細って皮と骨しかないようにしか見えなかった。

 ただ、ローブの人物の目の中は青白く揺らめく炎のようなものがあった。


「まさかと思うのですが、死者の王と呼ばれるやつですか?」


「気持ちは分からんではないけれど違うよ。

 そもそも雑魚だって言ったじゃないか」


「そうでした」


 何度も間違えたことにハリーが落ち込んでしまう。


「目のあたりなんか迫力があるから、そう思ってしまう気持ちは分かるさ」


 簡単に慰めたくらいでは復活できないようだ。


「それっぽく見せてるが最下級のミイラだな」


「何故、そんな風に見せる必要が?」


「魔道具を守るためだろ。

 見た目で騙されてくれるからな」


「うっ」


 更に落ち込むハリー。


『失敗した……』


 不要な一言を最後に付け足してしまった。

 まさに蛇足である。


「陛下のように騙されなかった時はどうするのですか?」


 落ち込みながらも疑問を口にするハリー。


『器用なことをするなぁ』


「そんなことできるの【鑑定】のスキル持ちくらいだぞ。

 普通は支配下に置いたアンデッドに守らせるだろうし」


 それをしなかったのは襲われる訳がないと高をくくったであろうローブの人物だ。

 今は動くに動けないミイラだが。

 時折、身じろぎして椅子をガタガタさせてはいるけれど。


『逃げたいのかねぇ?

 どう足掻いたって人間には戻れないってのに』


 魔道具を作った者も使う奴がここまで間抜けだとは夢にも思わなかったはず。

 まあ、自業自得だ。


読んでくれてありがとう。

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