700 ソフトランディングさせて先を急ぐも……
46話を改訂版に差し替えました。
違法な奴隷であることが証明された者たちは解放され自由の身となった。
無罪放免である。
『当然の結果だな』
違法な奴隷として自発的な行動を封じられていたのだから。
操り人形として扱われていた者たちを罪に問うのは酷というものである。
彼らがどんな感情を抱いていたかまでは知らない。
もしかすると痩せ狐の悪事に荷担したことを何とも思わぬ輩もいるかもしれない。
奴隷という立場でなければ奴の相棒になっていた者がいたかもしれない。
もちろん、その逆もあるだろう。
ここから先の人生をどう歩むかは彼ら次第である。
痩せ狐のように打ち首獄門になどならぬように生きてほしいものだ。
せっかく助かったのだから。
『まずは自由を満喫するんだな』
その足しとなるよう、総長と相談して幾ばくかの金子を包んでおいた。
これはトモさんとの話が切っ掛けである。
「こっちじゃ犯罪被害者って泣き寝入りなんだろう?」
最初はこんな風に聞いてきた。
「社会保障制度が確立されてないからね。
あと加害者による弁済についてもあやふやだし」
「きっついなー。
無一文で放り出されるのか。
保証金がほしいところだ」
顔を顰めているトモさん。
そこに総長が割り込むように入ってきた。
「無一文で放り出したりはしませんよ。
加害者の財産が分割して渡されるでしょう。
もちろん禁制品は除外してのことになりますが」
今回のケースだと馬車と馬と積み荷ってことになるな。
「安すぎない?」
トモさんがこう言うのも頷ける話で、頭割りにすると雀の涙になりそうだ。
禁制品以外はさしてお金になるようなものを積んでいなかったからな。
「もうちょっと……
何かないのかな」
「お友達はお優しいのですね」
総長はそう言って悲しそうな笑顔を見せた。
彼女も現状を憂えているのだろう。
「そうだな」
あまり表情には出さないが、トモさんも似たような心境だと思われる。
「餞別みたいなのを渡すのはダメかな?」
ふと思いついたようで、そんなことを提案してきた。
「気持ちは分かるが難しいね。
餞別ならゲールウエザー王国がまず払わなきゃならなくなる」
「俺たちはたまたま居合わせた外国の人間で部外者ってことか」
「そうなる」
「それだと見舞いを名目にしてもダメだろうし……」
「丸っきりダメということもないでしょう」
「えっ、しょうなのぉ?」
久々に出た荻久保清太郎さん。
『条件反射だな。
けど、そのネタが通じない相手に使ってどうするんだよ』
「寄付という形にすればいいのです」
総長には普通にスルーされた。
俺がいるって?
こんな所でツッコミが入れられるかっての。
「高額にはできませんが、よろしいでしょうか」
今回のことは例外だからな。
「少しでも足しになるなら」
「俺も出そう」
「私も及ばずながら、お出しします」
という具合だったのだ。
結局、総長の寄付ということで誤魔化しつつ隊長に預けておいた。
これなら俺たちがゲールウエザー王国を差し置いて勝手なことをしたことにはならない。
少なくとも表向きはね。
金額が少なめということで黙認してもらえるようだ。
路銀と当座の生活費で消えてしまうだろうが……
『ハードモードだが健闘を祈る』
ただ、いきなり釈放とはいかなかった。
痩せ狐が問答無用で処刑されたことで取り調べを受けることになったのだ。
ダイアンたちが軽く確認したところ、かなり重要なことも知っていた。
『痩せ狐はアホだな』
逆らえないからって取り引きの場に同席させたりとか油断しすぎだ。
もっと用心深い奴かと思っていたけど。
まあ、おかげで犯罪組織をひとつ潰せるのだ。
社会貢献したようなものだと思えばいい。
死んでしまっているので奴にとっては何の価値もないが。
仮に生きていたとしても減刑の役には立たなかっただろうがね。
あと、もうひとつ役に立ったことがある。
奴のことを証言した元奴隷たちに報賞金が出ることになったのだ。
彼らの証言で痩せ狐の処刑が確定したという形を取るらしい。
『ダニエルも粋な計らいをするものだ』
とはいえ何時までも浸っている訳にはいかない。
痩せ狐のせいで時間をロスしたからな。
そんな訳で先を急ぐ。
『もうひとつ検問所があるんだよ』
エーベネラント王国側にね。
ウンザリした気分にさせられてしまった。
少し進んで見えてきた検問所に並ぶ。
『今度は大丈夫だろうな』
トラブルが続くなんて御免被りたい。
そんな風に思っていると続くものだがな。
幸いにして何もなかった。
雰囲気的にはブリーズの街に入る時の感じに似ている。
そんな印象を抱くくらいにはスムーズだった。
バスやトレーラーを見咎められないように認識阻害の魔法を使った甲斐がある。
ゲールウエザー王国の旗を掲揚しているのも大きいか。
とにかく入国はできた。
ここから後は王弟の馬車を追うことになる。
検問所から少し進んだところで街道が分岐に差し掛かった。
ここで小休止を挟む。
バスからは降りないがね。
ここで道を間違うと大変だとダニエルが言ったからだ。
要するに道の確認と、どちらへ向かうかを決めるために停止した。
国内各所へと向かう道が幾つにも分かれているので言っていることは正しい。
俺からすると既に確認済みなので間違うことはないのだが。
「あちらの太い道が王都へ向かっています」
使者の経験がある護衛副隊長のリンダが座席から立ち上がって街道を指差した。
「大半の馬車がそちらに向かうようですね」
総長が窓の外を見て周囲の様子を確認している。
「では、我々もそちらへ進路を取るということで」
ダニエルが決定した。
「ちょいと待った」
「何ですかな?」
怪訝な表情で俺の方を見るダニエル。
「この国の王弟と合流したいならこっちだ」
俺が指し示した方向にも分岐がある。
ただし王都へと向かう街道の半分ほどしか道幅がない。
おまけに誰も利用していなかった。
「そちらは旧街道になります。
王都方面へ向かうには遠回りになりますが……」
戸惑いの色を隠せないリンダの心情はよく分かる。
王弟がこんな道を使うものなのかと思っているはずだ。
彼女が言うように遠回りだし、新街道よりも道がよろしくない。
この旧街道を使う他の理由もあるとは思えない。
「こっちに行った理由は本人に聞いてみないことにはな」
「それは確定情報ということでよろしいのでしょうか?」
総長が聞いてきた。
「ああ、うちにも斥候がいるからな」
「そちらに向かったのは影武者ということはありませんかな」
ダニエルが聞いてくる。
随分と慎重だ。
『無理もないか』
道を違えれば王都に到着するまで接触することがなくなるからな。
いずれの道を選んでも俺たちの方が先に到着するのは間違いないのだし。
それは使者を送り出した側として些か問題があるのだろう。
礼儀やら何やらの部分で。
実に面倒くさいことだとは思うが。
「あるだろうな。
俺たちは王弟の顔を知らん。
だから馬車の外観と護衛の数で判断するしかない」
「斥候の方との連絡はどうしているのですか?」
ナターシャが聞いてきた。
『勘の鋭いことで』
総長の次くらいに油断ならない相手ではなかろうか。
それも当然と言える。
エリートである宮廷魔導師団の中でも総長の補佐を専任で任されるのだから。
「念話の魔法だ」
そう答えた直後のゲールウエザー組の反応は3段階だった。
まず、予想外の返答に呆気にとられた感じになり。
続いて言葉の意味を理解した瞬間に驚愕。
最後に諦念を感じさせる溜め息で全員がそろう。
おそらく「この人だもんなー」とでも言いたいに違いない。
『俺にどうしろと?』
「いまコンタクトを取ることはできますか?」
総長が聞いてきた。
現状を確認したいのだろう。
「王弟の動向を知りたいのなら無理だぞ。
既に引き上げさせたからな」
「それは何故ですかな?」
ダニエルが聞いてきた。
「あんな往来の見られない街道で追跡なんてできると思うか?」
やろうと思えばできる。
が、最低でも光学魔法を使わねば確実に気付かれるだろう。
あるいは鳥型の自動人形を使うか。
はっきり言って、そこまでする必要性を感じない。
「それは……
止めた方がいいでしょうな。
監視されていると思われるのは確実。
下手をすれば刺客と勘違いされかねない」
「そういうことだ」
「もしかして気付かれたから旧街道に向かったとか」
護衛の1人がそんなことを呟いた。
皆の視線が一斉に集まる。
「ももも申し訳ありません!」
ガバッと立ち上がって凄い勢いで頭を下げる。
「いや、その意見はもっともだ。
誰だってそう思うだろうしな」
「はわわわわ」
護衛ちゃんはオロオロしている。
俺が特に叱責しなかったことで逆にどうしていいのか分からなくなったのだろう。
「目くじら立てたりしないから大丈夫だ」
そうは言っても、立場的に安心はできないのだろう。
とにかくペコペコと頭を下げるばかりである。
『これじゃあ俺が悪者みたいじゃないか』
無駄に罪悪感が湧いてしまう状況は勘弁してほしい。
そう思ってダニエルや総長の方を見る。
「ヒガ陛下がこう仰っているのです」
助け船を出してくれたのは総長であった。
「それくらいにして座りなさい」
「はひ」
命令を受けて護衛ちゃんが座ってくれた。
『やれやれだ』
読んでくれてありがとう。




