695 車内で話し込むと時間を忘れる?
今回、俺たちが乗るのはマイクロバスではない。
もう少し大きめの小型バスである。
全長は7メートル程度でほぼ同じなんだが。
幅とか高さとかが違うからマイクロバスの方が窮屈なんだよね。
もちろん、うちのは特別仕様だから空間魔法で拡張しているけど。
あからさますぎるので目立たないように小型バスにしたのだ。
エーベネラント王国側にも見られることを考慮した結果である。
『王弟が乗りたいとか見たいとか言い出さないとも限らないし』
まあ、ゲールウエザー組は今更なので乗せることに抵抗はない。
「中は広いんですね」
乗り込んだ時にナターシャが何気なく言った言葉に冷やっとしたのは内緒だ。
「そうか?」
適当に受け流す。
下手なことを喋って空間拡張していることがバレると、うるさそうだし。
「それだけ、このバスという乗り物の壁が薄いのでしょう」
総長が推論を述べた。
間違ってはいないので俺は否定しない。
「なるほど……
ですが、大丈夫なのでしょうか」
壁が薄いということに納得したものの、それ故に不安になったようだ。
「物理的にも魔法でも簡単には傷つかんよ」
どれくらい頑丈であるかについてまでは説明しない。
『これも自重しておかないとな』
エーベネラント側に漏れたら変に警戒されたりとかされかねないし。
「とりあえず、突っ立ってないで座ろうぜ」
入ってきた所でナターシャが立ち止まってしまっているから後続が乗れずにいる。
「ああっ、失礼しました」
慌てた様子で奥へと入ってきた。
先に座っていた総長の隣の席へと腰を下ろしながらキョロキョロと車内を見渡している。
「本当に広いですね。
馬車とは大違いです」
ゆったりした室内空間を確保できるように工夫したからな。
そのせいで座席はベニヤ板かってくらい薄っぺらくなってしまったが。
【万象の匠】スキルで本気を出した結果だ。
反省も後悔もしていない。
「この椅子も恐ろしく座り心地がいいですし」
ダニエルや総長が同意して頷いている。
「これだけ座席を確保してテーブルまであるのですからな」
車内は奥の中央にテーブルを置き、それを囲むようにコの字型で座席を配置している。
「そうですね。
乗り込んでからも驚かされるとは思いませんでした」
総長はそんなことを言っているが、乗り込んでからはずっとニコニコしっぱなしだ。
とても驚いていたようには見えない。
さすがに嘘だと指摘したりはしないが。
驚きより楽しむ気持ちの方がより強いというだけのことだろう。
『ホントに子供みたいな婆さんだよな』
それだけ地の部分を隠さずに出しているということだと思う。
別に今まで俺が信頼されていなかった訳ではない。
公人としての態度を崩さなかっただけだ。
『それに長らく寝たきり同然の状態だったし』
いくら無事に復帰できたとはいえ、慎重にならざるを得なかったはず。
具合を確かめながらでは気を抜くこともできなかったのではなかろうか。
今回はそういう様子は見られない。
完全に油断しきっている訳ではないが私人としての己を出しているのだ。
毒にやられていた頃の影響は完全に払拭していると言って良いだろう。
『ん?』
まさかと思うが……
わざとアピールして心配ないと暗に言っている?
仮に気付かなくても、あの様子を見続ければ気を遣う必要もないとなるだろうし。
別に俺は気を遣ってなんかいなかったけど。
なんにせよ意図的なものであるとするなら一杯食わされたことになる。
『食えねえ婆さんだ』
底をなかなか見せてくれない。
『これで腹黒だったらと思うと寒気がするな』
そういうキャラじゃないから一安心だ。
逆に同行してくれているのが心強い。
当の本人はダニエルやナターシャと椅子の座り心地について語り合っていた。
実に無邪気で楽しそうである。
『案外、素の部分を隠していないだけか?』
芝居っ気がないので分かりづらい。
全部が全部、芝居ではないだろう。
むしろ公人であろうとする方が仮面を被った状態なのかも。
『やっぱり食えねえ婆さんだ』
出発前から些か疲れた気分になってしまった。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
ブルースが運転するバスが山道をすいすいと下っていく。
後ろには自動人形たちが運転するトレーラーが続く。
走っているのは前からあった道ではない。
うちで新設したミズホ国の専用道路だ。
部外者とすれ違うことがないので快適に進むことができる。
結界と幻影魔法で関係者以外はブロックされるようになっているからだ。
外からは侵入することはもちろん見ることもできない。
合流地点では認識阻害の結界も使っている。
幻影魔法の向こうへ突入したり出てきたりしても違和感を感じないという寸法だ。
故に外部に専用道路のことを知られる心配もない。
『ダニエルたちには知られることになったけどな』
そこはしょうがない。
専用道路を作った理由を説明したら納得してくれたし。
前の道は往来が多くなったせいでスピード出して走れなくなったのだ。
もちろん拡幅はしてるさ。
それでもスピードが出せない。
すれ違いはできるけど徐行しないと相手の馬が怯えるのでね。
徐行してばかりじゃ車に乗っている意味がないだろ?
それくらい往来が増えた訳だ。
ジェダイトシティに新たにできたダンジョンの影響なのは言うまでもない。
「バスも快適ですね」
「まったくだ。
これでは輸送機とさほど変わらん」
総長とダニエルのやり取りにゲールウエザー組一同がしきりに頷いている。
やはり空を飛ぶのとは印象が違うようだ。
すぐ側にある窓の外を流れる風景は輸送機では見られないからな。
もしかすると飛行中は夢見心地な部分があるのかもしれない。
地上を走るということは経験からの比較もできてしまう訳だし。
「今後は馬車に乗るのが憂鬱になりそうです」
苦笑する総長。
「せめて乗り心地がマシになるよう職人に依頼するしかあるまい」
ダニエルが前向きな発言をしていた。
「いいんじゃないか。
いっそのことコンテストにしてみたらどうだ?」
「コンテストとは何ですかな?」
不思議そうな顔でダニエルに聞かれてしまった。
総長も興味深げな目を向けてくる。
この2人が知らないってことは、他の面子も知らないだろう。
念のためにナターシャを見てみたが首を捻っている。
『ルベルスの世界にはないのか……』
【諸法の理】で確認してみたが、無い訳ではないが根付いてはいないようだ。
「別の言い方をするなら競技会かな」
そう言って反応を見てみるがピンと来ないようだ。
文化的なギャップが大きいと、こんなものだろうとは思う。
ある程度は予測できていたのでショックはない。
が、トモさんは違ったようだ。
見てみたら信じられないって顔をしていたさ。
半分、うちの面子に向けたパフォーマンスだとは思うが。
『というより、これは遊んでるのか』
子供組はトモさんの変顔一歩手前の顔芸で吹き出していたし。
『無茶するなぁ』
ゲールウエザー組は考えることに夢中で気付いていない。
気付かれそうになったらトモさんも顔芸は中断するつもりなんだろうけど。
『ダイアンあたりに気付かれたら失礼だとか煩いだろうに』
そのあたりのスリルを楽しんでいる節がある。
『サービス精神が旺盛というか……
チャレンジ精神に溢れているというか……』
ほとんど前者だと思うけどね。
俺が子供組を構ってやれないからさ。
フェルトもそれが分かっているのだろう。
トモさんをたしなめたりはしていない。
夫婦そろっての配慮には頭が下がるばかりだ。
申し訳なくもありがたい。
このまま好意に甘えさせてもらうとしよう。
「具体的に言うと、特定の分野や種目で人を集めて競い合わせる催しだ」
そう説明するとゲールウエザー組が俺の言葉を反芻するように考え込み始める。
そんな中でいち早く感心したように「おー」と呟いていたのが神官ちゃんであった。
『居たのかっ!?』
いや、居るのは分かっていたよ。
分かっていたけど、なんだろうね。
存在感が希薄すぎて存在に気付くと驚かされるというか。
どこかの幻的なバスケ少年みたいだよ、ホントに。
『それにしても頭の回転もピカイチなんだな』
さほど間を置かずに総長やナターシャも俺の説明を理解したみたいだけど。
ダニエルは何やら考え込んでいる。
「分かりづらかったか?」
問いかけてみるとダニエルは我に返った。
「いえ、そうではありません。
催しで競い合わせるのは理解できるのです」
「では?」
「それを盛り上げる要素がないと人が集まらないだろうと思いましてな」
「ああ、そういうことか」
「ヒガ陛下は簡単に説明されただけではないですか?
そのコンテストなる催しのお話をもう少し聞かせていただければ解決するかも」
総長がフォローを入れてきた。
まあ、俺にもっと説明しろとせがんでもいる訳だが。
「集める人は競わせる者たちだけじゃない」
「ほう?」
「むしろ観客を多く呼び込むんだ。
催しな訳だから半ばお祭り感覚にすれば盛り上がると思わないか?」
「おお、左様でしたか」
「それは分かるのですが、賭が横行しませんか?」
ナターシャが聞いてきた。
「最初から主催側が限度額を決めて賭を取り仕切ればいい。
同時に主催者が管理しない賭博行為は厳しく取り締まる必要はあるがな」
「なるほど、飴と鞭ですか……」
ナターシャは納得したようだ。
「では競技の参加者が集まらない場合はどうすれば良いでしょうか?」
今度は総長からの質問だ。
「宣伝になるのに参加しないとは考えにくいがな」
「あっ、そうでした。
観客も集めるのでしたね」
そこまで気付いている総長には細かく説明する必要はないだろう。
「まあ、ただ参加するだけにならないような工夫は必要か」
「それはどのような工夫ですかな?」
まるで順番を決めていたかのようにダニエルが聞いてきた。
実際のところはコンテストをやる気になったから色々と聞きたくなったのだろう。
その後もあれこれと質問に答える時間が続いたので、たぶん間違いない。
いつの間にか国境付近まで来ていたほど熱心に聞かれたよ。
かなり本気なようだ。
読んでくれてありがとう。




