691 あれこれの後につくってみた『トレーラー』
『さて、じゃあ俺も自分の作業にかかりますかね』
サクッとメールで連絡を入れて運搬車両を作らなければいけない。
そこで不意に気になることがあった。
『そういや、ブルースは座禅を組んだままだな』
折り紙教室の妖精組に対して1人孤立してしまっているブルース。
そちらを見ると座禅を組んだままの姿勢を維持していた。
幼女が騒いでいるのに心を乱されずに瞑想を続けているようだ。
『ほう、あれで心を乱されんとはな』
感心していると、ブルースの頭がカクッと頷くように落ちた。
『ん?』
ゆっくりと持ち上がり、またカクッと落ちる。
どう見ても船を漕いでいるようにしか見えない。
『居眠りかよっ』
座禅しておいてこれである。
仕込みネタかとツッコミを入れたくなった。
渋い面をしている割にどうにも締まらないオチを提供してくれるオッサンである。
『やれやれ……』
つい溜め息が漏れてしまうが、目くじらを立てるようなことでもない。
隙を見せる訳に行かないような環境下でなら雷のひとつも落とすとここではあるが。
「お?」
廊下を早足でこちらに向かって来る者がいる。
ピクリとブルースの瞼が動いた。
『ほう、寝ていても気付くか』
すぐにブルースが目を覚まして扉の方を見た。
眠そうな雰囲気がない。
元戦闘奴隷だった頃に身につけた技術だろう。
少なくとも俺は教えていない。
『こういうのも皆に教えた方が良さそうだな』
そんなことを考えていると、扉の前で誰かが立ち止まった。
普通は聞こえるはずのない衣擦れの音などからするとメイドで間違いないだろう。
一呼吸置いて扉がノックされる。
「どうぞ」
俺が応じると──
「失礼いたします」
見立て通りメイドが入ってきた。
「ヒガ陛下に鳩が到着したことをお伝えに参りました」
「ありがとう、わざわざ済まないね」
「いえ、失礼いたしました」
入ってきた時と同様に一礼してメイドが去って行った。
『ふむ、第1陣が来たか』
何事もなければ明日は国境到着を知らせる第2陣の鳩が飛んでくるだろう。
タイムラグを考えると使者の現在位置は国境付近ということになる。
『追いつくのは国境を越えてからか』
検問でどれだけ時間を取られるかで追いつくタイミングも変わってくる。
ゲールウエザー側は宰相の顔パスで行けると思うが。
問題はエーベネラント側である。
『できれば国境を越える前に合流したかったな』
そうは思うが今更である。
妙なトラブルがないことを願うばかりであった。
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鳩が来た知らせを受けた後、俺はお茶で一息つくことにした。
付き合ってくれる面子は……
『いないんだよなぁ』
些かショックである。
折り紙組は試作しながらお見舞い用をどれにするか決めるらしく騒がしい状態だ。
さすがに喧々囂々とまでは行かないがね。
その状態の中でブルースは瞑想に戻っていた。
集中しづらい方が修行にはなるだろう。
居眠りしなければだけど。
『まあ、接近する気配には気付くようだから何の役にも立たない訳ではないか』
両者のギャップを眺めながら茶を啜る。
『そうだ、忘れてた』
フェルトへの応援要請と皆への状況説明。
お茶を飲んでいる今のタイミングがいいと判断した。
物作りに取り掛かってからでは、返信などがなおざりになりかねない。
そんな訳で俺は茶を飲みながらメールで連絡を入れる。
すぐにトモさん夫婦から了承が得られた。
が、うちの奥さんたちが煩かったのは予想通りでゲンナリだ。
全員じゃなかったけどね。
[これは陰謀の匂いがするわ]
マイカの返信である。
根拠は? とレスしたら即座に返ってきた。
[だってトラブル予告されてたじゃん]
嫌なことを思い出させる我が妻である。
読むには読んだが放置した。
そしたら追加でメールを送ってくる。
[無視なんて許されないわよ]
どうあっても今回の一件に関わる気らしい。
[私が一緒に行って解決してあげるわ!]
しかも、こんな文面まで送ってくるし。
何とかしてくれとミズキにメールしたら沈黙したけどな。
説教を受けて無駄に漲らせたやる気を削られていくマイカの姿が目に浮かぶようだ。
ミズキ様々である。
そして同時進行で暴走気味だったのがリオンだった。
[何とかお役に立ちたいです]
どうにも前のめりな雰囲気が漂っていた。
陰謀とか書いたりしてこないだけマシだったけど。
気持ちはありがたいという礼を入れつつ留守番をよろしくと返したんだが。
[そこをなんとか]
『マジか……』
平坦な文面のはずなのに鼻息の荒さが伝わってくるかのようだった。
何故そう思ったかは俺にも分からない。
ほとんど勘だ。
ヒートアップしているように感じるとレオーネに連絡を入れてみた。
待つことしばし……
[我慢します]
リオンから短い文面のメールが来た。
姉に叱られたっぽい。
他にもABコンビから似たようなメールがあった。
[何かお手伝いできませんか]
この文面がアンネ。
[何でもします]
こっちがベリーである。
彼女らは先の2人よりはマシだった。
留守番を頑張れとレスしたら素直に引き下がったからね。
他の奥さんたちは、俺に対する応援や気遣いのメッセージのみに留まった。
そんな訳で礼を返信して、お茶休憩は終了である。
『やれやれ、一息ついた気がしないな』
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メールのやり取りで気疲れさせられたが、休んではいられない。
明日までに運搬車両を用意しないといけないからな。
作ること自体は、さほど難しいものではない。
ただ、直接の友好国でない面子を乗せることになるので気を遣う。
程々の性能で文句が出ないようにとか考える必要が出てくるからだ。
乗り心地を悪くし過ぎると限界性能が低くなる。
その調整は高性能なものにしようとするより面倒である。
こんなことで頭を悩ませたくはないのだが、仕方あるまい。
まあ、倉で作業を進めるので休んでいるようにしか見えないのだが。
作るのは、ぶっちゃけたことを言えばトレーラーである。
牽引車が1種類と被牽引車が3種類かな。
被牽引車が何故3種類も必要かというと馬車、馬、人間の分で作りを変えるからだ。
もっとも面倒なのは馬車用だろう。
馬車の運搬は外から見えないとクレームがつきそうだし。
煩いのがいると傷がついたとか難癖をつけてきかねない。
そういうのを黙らせるには丸見えの方がいい訳で。
ただ、そうなると固定もしづらくなる。
大きくて重いのに、さして丈夫でもないのにだ。
故にあれこれと考える必要がある。
『あれ? でも、馬の方が大変かな』
考える点が多いのは馬車だと思うが、気を遣うのは馬だと思う。
臆病な動物だしな。
え? 人間も初めてじゃパニックを起こしかねない?
そうかもな。
とはいえ乗り心地が悪くなけりゃ文句も言うまい。
最初に説明しておけば、そのうち慣れるだろう。
あまり良くし過ぎると後が煩いので加減が難しいところだ。
そうでなくても珍しい魔道具ということで根掘り葉掘り聞かれる恐れがある。
『乗り心地は馬車より少しマシ程度にしておくのが無難だろ』
とりあえず考えることの多そうな馬車用の被牽引車から解決していこう。
牽引車は拾ってきた画像を参考にササッといくつか試作しておいた。
引っ張られる方が手間を食うというのも変な話だと思いつつ脳内設計作業を進める。
見えるようにするなら平ボディーでノッペリした荷台にしないといけない。
『馬車を乗せるなら低床型の方がいいかもな』
乗せるためにはスロープ状になるラダーレールを使って段差を無くさないといけない。
その角度が急だと載せるのが大変だ。
馬で牽引して載せることができないからね。
それをしようとすると馬を下ろすのが大変になるし。
バックで乗せるのも馬には負担がかかる。
身体構造的に不向きな上に坂道をバックさせる訳だからな。
『それならウィンチとか使った方が早いだろ』
あるいはラダーレールに術式を仕込んで積み降ろしの補助をさせるとか。
いずれにせよ魔力の消費効率を考えれば、低床型の方が有利に決まっている。
『問題はホイールなんだよな』
サイズが大きいと低床型の妨げとなるのは言うまでもない。
限界まで小さくすると接地面が砂地だったりした場合、埋もれてしまう恐れがある。
それなら無い方がマシである。
ということで被牽引車は車輪なしとなった。
それと、もうひとつ低床にすべき問題がある。
『重心が高くなりすぎるんだよな』
馬車そのものが背の高い乗り物だ。
なにより馬の体格に合わせて作られているからね。
御者が前方を見通すためには低くはできないし。
加えて国の使者が乗るような代物である。
他の馬車から見下ろされるようなことがあってはならない。
そういう理由で大きく作られていたりする。
言うまでもなく空気抵抗なんてものは欠片も考慮されていない。
『それは荷台に術式を掛けるか』
ただ、完全遮断は酸欠になる。
人を乗せないのなら、それでいいだろうと思うかもしれないが。
事故が起こってからでは取り返しがつかない。
という訳で空気の循環がされるように仕様を決める。
そうなると逆に人が乗らないのは勿体ない気がしてくる。
せっかく馬車に乗っているのだ。
降車させる必要もないだろう。
『まあ、人間用に乗りたいとか言い出すくらいは考えておくべきだろうがな』
後は逆に護衛が馬車に張り付く形で乗り込んでくることもありそうだ。
『手すりと安全ベルトみたいな物も必要になるかね』
そうなると、ますます空気関連の調整が重要になってくる。
ただ、完全遮断して内部で空気循環されるようにするのは無駄が多い。
搭載した物や人によって空気抵抗を減らす程度に留めておくことにしよう。
後は襲撃を受けたとき用の防御結界とは独立させておく。
『で、車止めに術式を入れて完了だな』
残るは馬用と人間用だ。
読んでくれてありがとう。




