679 予告されてしまった
改訂版41話をアップしました。
「ハルトくん、お疲れ様」
おやつを食べ終わってマッタリしているとベリルママが声を掛けてきた。
「ありがとうございます」
俺が思うにベリルママの方がお疲れなんじゃないかと思うのだが。
神の酒の騒動で直属の上司からこってりと絞られたはずだし。
まあ、深く追及はしない。
何が地雷になるか分かったものではないからだ。
とにかくイベントはすべて終わった。
後は晩御飯を食べてゆっくり休んで翌朝に帰るのみである。
「色んなことがあったわね」
ベリルママにそんなことを言われると冷やっとする。
顔には出さないよう【ポーカーフェイス】を使ったけど。
『わざわざ自分で地雷を踏みに行くの!?』
コメントしづらいので曖昧な笑みを浮かべるに留めておいた。
「大丈夫よ」
ベリルママに苦笑されてしまった。
俺の考えていることなどお見通しって訳だ。
『これって自罰行為なんだろうけど……』
本人が納得ずくなら俺も気にしない。
深く反省しているみたいだし、俺がとやかく言うことでもないだろう。
ああ、でもひとつだけ思ったことがある。
『どこかの筆頭亜神さんには是非とも見習ってもらいたい』
余程のことがない限り無理だとは思うけど。
「この後の予定はどうなっているの?」
今日の予定は朝食の時に説明したから、これは俺が何をするかという質問だ。
「温泉にでも入ろうかと」
露天風呂でボンヤリ風景を眺めるのも悪くはあるまい。
趣味みたいなもんだからね。
日本人だった頃は一人旅でよく温泉巡りをしたものだ。
「あら、いいわね。
一緒に行ってもいいかしら」
「もちろんです」
そう答えた瞬間にシュバババッと人が集まってきて囲まれてしまった。
面子は奥さんたちである。
『なんたる地獄耳』
まあ、注目されていたからというのもあるだろう。
何も言わないが、全員が期待感を滲ませた目をしている。
ベリルママを見てみたがニコニコしていた。
親子水入らずなんてことは言わないようだ。
「皆もどうかな」
期待されている上に反対意見もないなら、そう言うしかないよな。
で、皆で温泉タイムと相成りましたとさ。
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眼福&至福の時間はあっと言う間に過ぎ去った。
些か残念であるのはボーッとする余裕がなかったこと。
もっとも不満はこれっぽっちもない。
『皆であれこれと談笑して楽しいひとときを過ごせたし』
ベリルママともゆっくり話せた。
ミズホ国のこれからを聞かれたけど何もないんだよな。
別に領土的な野心なんてないし。
信用できる相手が望むなら受け入れることはあり得るけど。
そういやガブローから報告があったという話をガンフォールから聞いた。
南部地域のドワーフたちが、うちの国に合流したがっているんだと。
飢饉を乗り切るために手助けしていたら打診を受けたってね。
近隣ドワーフの小国家との付き合いについては完全に任せていたんだが。
『ガブローの奴、なにやったんだ?』
相当に張り切ったのだろう。
その原因は、どうやらガンフォールのようだ。
「すまぬ。
発破をかけすぎた」
なんて謝られてしまったけれど。
どうやら手押しポンプの設置で感銘を受けたのが切っ掛けのようだ。
さすがドワーフは根っからの職人魂を持つ種族である。
そこからあれこれと手を貸している間に、ことのほか気に入られてしまったようだ。
義理堅い種族でもある。
「別に構わんよ。
問題のない相手だし」
南部地域を回った時にローズが見ているからね。
「俺も嫌いじゃない」
そんな訳で細かな交渉はガンフォールに任せることにした。
「頑張れ、宰相」
俺が発破を掛けると苦笑していたがね。
とにかく近々に訪問する予定である。
俺じゃなくてガンフォールとガブローが、だけど。
こんな感じのことをベリルママには報告したくらいである。
そうしたら頷きつつもアドバイスを受けることになった。
「帰ったらゲールウエザー王に会っておいた方がいいわね」
ドワーフの小国家が点在する南部地域は確かにゲールウエザー王国とのみ接している。
ならば挨拶は必要かと思っていたのだが。
「助けを求められるわよ」
どうやら別口のようだ。
「トラブルですか?」
それには曖昧な笑みを返されてしまった。
「大丈夫よ、ハルトくんならね」
『俺ならって……』
それはゲールウエザー王国だけでは解決できないと言っているようなものだ。
楽な案件であるはずがない。
「うへえ……」
休暇もそろそろ終わろうかというタイミングで問題発生の予約が入ってしまった。
「勘弁してくださいよー」
俺が辟易した感じでそう言うと、苦笑されてしまった。
「御近所付き合いは大切よ」
そんな風に言われてしまったら逃げられない。
誰かに任せてしまおうかとも思っていたのだが、逃げ道は先に塞がれてしまった。
「仕方ないですね」
逃げられないなら本気でやるまでだ。
何があるのかは分からない。
ベリルママもそこまでは教えてくれないだろう。
それでも俺なら出来ると言われた以上はやってみせるまで。
「手伝いますっ」
やけに力の入った瞳で決意しているのはリオンだ。
「私も」
ボソッと呟いた割には気合いの入り方が半端じゃないノエル。
「ゲールウエザーのことなら任せてください」
珍しくマリアが自己主張している。
「「そうですよ!」」
ABコンビが鼻息も荒く同意していた。
エリスやクリスは頷くだけだが、消極的な雰囲気は微塵もない。
そこからは奥さんたちのお手伝い宣言を全員分、耳にすることになったのである。
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『さすがに奥さん全員を引き連れて行く訳にはいかんよな』
その辺りについては人手が必要になったら呼び寄せるということで納得してもらった。
なんにせよ休暇はまだ終わっていない。
『家に帰るまでが休暇ですってな』
風呂から上がって夕食を済ませる頃には皆も落ち着きを取り戻していた。
やはり空腹は敵である。
そんなことを考えながらエヴェさんと将棋を指している。
「大変でんな」
エヴェさんはそう言いながらパチリと駒の音を響かせる。
「いやー、ハハハ。
なるようにしかなりませんよ」
ほぼノータイムで俺も駒を動かす。
何気ない普通の手を装ったつもりの一手だったのだが。
「おっと、これはこれは……」
俺の狙いに気付いたようでエヴェさんは顎に手を当てて考え込み始めた。
「エヴェさーん、攻めないのぉ?」
ギャラリーの1人であるアフさんが問いかける。
あおっている感じではない。
暗に攻めないと負けると忠告しているようだ。
「いやいや、ここは守るべきだろう」
リオス様は正反対の意見だった。
「静かにしろ」
フェム様はそんな2人を注意した。
「へーい」
「む、すまない」
大人しく引き下がる亜神2人。
それ以前にエヴェさんは気にした様子もなかったけどね。
『こりゃ長考になるな』
次の手が来るまで俺は気を抜くことにした。
周囲を見渡すと俺たちの対局以上にギャラリーが群がっている対戦がある。
ベリルママとルディア様だ。
『あっちは囲碁を打っているのか……』
打っているというよりは周囲のギャラリーに教えていると言うべきか。
完全に囲碁教室である。
楽しめているようなので口を挟むのは無粋というものだろう。
そんなこんなで夜が更けていく。
この場にいない面子は別の広間でトランプに興じたりしている者も結構いるようだ。
後は露天風呂や花火を楽しんだり。
銘々が休暇最後の夜を楽しんでいた。
ただし、ひとつだけ実行していないイベントがある。
夏に泊まりがけで出かけるなら定番と言えるアレ。
「肝試しはやらないの?」
夕食後、トモさんにも聞かれたさ。
「できないんだよ」
「そりゃまたどうしてだい?」
「うちの面子にお化けとか通用すると思うかい?」
ルベルスでお化けとされるものがいるとするなら、それはアンデッドだ。
光魔法で一発消去である。
「確かに通じないね」
トモさんも認めざるを得ない。
ルーリアに弟子入りしてシンサー流を習得したくらいだし。
「そいつは盲点だった。
誰もビビらない上に冷静に対処されてしまうじゃないかっ」
恐怖を感じる要素など何処にもない訳だ。
「これでは肝試しが不意打ちで驚かせるだけのつまらないイベントになってしまう」
「それも止めた方がいいな」
「なにゆえっ?」
「うちの面子でそんなことしたらどうなると思う?」
トモさんが疑問を呈してきたが俺は質問で返す。
すると面食らったような表情を見せて固まってしまった。
「忍者同士の夜戦になると思わん?」
気配の読み合いになるのは確実だろう。
高速で移動したりもするはずだ。
魔法はともかく手裏剣が飛び交ったりもするかもしれない。
迂闊に実施できる訳もない。
「……なりそうだね」
トモさんも俺の考えたことを想像したのだろう。
少しの間はあったが、明確に同意した。
「訓練でもないのにピリピリした雰囲気になるのはマズいか。
それどころか、せっかくの休暇なのに楽しめる要素がないんじゃダメだな」
そう結論づけた。
「そういうこと」
かような訳で肝試しは実施されないのである。
トモさんは少しばかり残念がっていたけど。
「フェルトとイチャイチャしたいだけだろ」
そう言ったら、すごくいい笑顔が返ってきたよ。
まあ、俺も男だから気持ちは分からんではないけどね。
読んでくれてありがとう。




