表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
686/1785

676 見えないだけじゃない

 マイカの気合いの入った声を耳にして俺は苦笑する。


『そう上手くいくと思ったら大間違いなんだな』


 そんなことを内心で呟くもののマイカに届くはずもない。

 念話じゃないからね。


 何も知らないマイカが手にした目隠しのアイマスクを装着する。

 途端にマイカがよろめいた。


「おおっとぉ?」


 脚を開いてどうにか踏ん張るも上半身が泳いでいる。


「マイカちゃん!?」


 驚いたミズキが声を掛ける。

 何が起こっているのかすぐには把握できないだろうからな。

 ミズキだって視界はグニャグニャ状態なんだし。


 慣れてくれば足を止めたまま動いているのが分かるだろうけど。

 眼鏡を掛けて間もない状態では難しい。


「何よ、これぇっ!?」


 マイカの上半身だけを見ると酔っ払いのように揺れていた。


「言い忘れていたが──」


 ここで皆に通知する。


「眼鏡は視界を歪ませる。

 アイマスクは平衡感覚を狂わせるから」


「そういうことは先に言ってよぉーっ!」


「いやー、スマンスマン。

 最初から誰かがアイマスクを装着するまで待つつもりだったんだ」


「なんだとぉっ、訴えてやるぅ」


『どこにだよ』


 とりあえずツッコミは心の中だけに留めておいた。


「悪いが却下だ。

 事前に説明したらクレームつけてただろ?」


「そ、そんなことはないわよ?」


『どもってるじゃないかよ。

 それに疑問形なのは何故なんだ?』


 動揺しているのは誰の目にも明らかであった。


「スイカとの距離を脳裏に焼き付けておいてダッシュ&アタックなんかを狙ってたよな」


 距離感さえ間違えなければ一発で終わる。


『目隠しくらいで誤魔化せるなんて思っちゃいないよ』


 それを読まれるかもという発想がないことが驚きなんだけど。

 おやつ増量はそんなにも冷静さを失わせるのだろうか。

 だとしたら、その猪突振りに呆れてしまうばかりである。


「てぃがうよよよよ?」


『違うよって言いたいのか?』


 多分そうだとは思うが、さっきより酷い。

 噛んだし疑問形でどもったし。

 平衡感覚が狂わされたくらいでこんなことにはならないはずだ。


 追及しようにも動揺した状態のままで、こちらに注意を払う余裕はないようだ。

 それどころか立っている余裕もないらしい。


「うにゅにゅにゅにゅ~」


 竹刀を支えにして片膝をついている。

 どうやら目を回しているようだ。


「ねえ、ハルくん」


 代わりにミズキが話し掛けてきた。


「マスクにはそんな術式が刻まれているように見えなかったんだけど」


『なかなか鋭いな』


 さすがはミズキさんである。


「そりゃあ隠蔽するよ。

 すぐにバレるような術式じゃ渡した時点で何か言われただろうし」


 俺の言葉に、まだアイマスクをつけていない面子に動揺が拡がっていく。


「気付かなかった!」


 それにより竹刀を持った面子はほとんどが慌てていた。


「どうやってるの?

 術式の痕跡なんて無さそうだけど」


 周囲の空気がざわついてしまう。

 それこそ古参組も人魚組も関係のない状態だ。

 動揺が動揺を呼ぶような形になってしまっている。


「超精密記述だったら読めないよ」


「そうだよ」


「陛下にしかできないじゃん」


 そこまではしていない。

 古参組なら読み取れる程度にはしておいた。

 それなりに苦労するとは思うけれど。

 人魚組には厳しいだろう。


『経験の差があるからなぁ』


「痕跡くらいは分かるでしょ」


 諦め気味の人魚組に対して妖精組は諦めていない。


「あっ、それっぽいのがあった!」


 発見したのは予想通り妖精組の1人だ。


「どこどこ?」


「縁の所を1周してる」


「ホントだぁ。

 間隔を開けたりして芸が細かぁい」


「でもさぁ、これ変だよ?」


「うん、魔力流しても反応が返ってこないね」


「術式として成立するの、これ?」


「確かに……

 中途半端な気がするね」


 読み取る前に違和感を感じ取ったのはさすがだ。


「これが隠蔽してるってことかな?」


「そうかも」


「どうやってるんだろう?」


「分かんないわよ」


「陛下の新技術かなぁ?」


「だったら尚更わかる訳ないじゃん」


 さすがに妖精組の間にも落胆の空気が拡がっていく。


『おいおい、いつから術式の研究会になったんだよ』


 内心でツッコミを入れてしまった。

 リアルで入れないのは泥沼にはまって収拾がつかなくなる気がしたからだ。


『教えて教えてと殺到されたら敵わん』


 絶対にそうなるとは言わないけれどな。


「あーっ、きっとコレだよ!」


「どれよ?」


「竹刀のスタンプ術式に紛れ込んでる」


「うわぁ、気付かなかったぁ」


「アイマスクと連動してるのかぁ」


「この発想はなかったね」


「ホントホント」


「ねえ、これ面倒くさいことしてない?

 分離して別の術式として成立させてるよ」


「そりゃそうだよ。

 でないとどっちも発動しないじゃん」


「ちょっと待って。

 こっちも成立するか怪しい術式だよ?」


 何処までも術式の追及をしてしまうつもりなのか。

 さすがに痺れを切らしてしまう。


「おーい、ゲームを続ける気がないのかー?」


 誰からも返事がない。

 肯定するつもりで黙っている訳ではないのは分かる。

 ゲームを無視する形になっていたことが気まずいのだ。


「おやつがいらないなら術式講座は続けていいぞー」


 嫌みっぽい言葉だったがバババッと持ち場に戻る一同。

 それと入れ替わるようにしてフラフラ状態のマイカが立ち上がってきた。

 どうやら動揺した状態からは脱したようだ。


「おにょれー」


 しかしながら呂律が微妙に回らない状態である。


「謀ったな、ハルゥー」


 復帰するなり面白いことを言ってくれる。


「人聞きが悪いことを言ってくれるじゃないか」


『酔ったか』


 動揺したことに加えて平衡感覚が保てない状態が続いたことで、こうなったのだろう。

 可変結界の中じゃなければ、もっとシャキッとしていられたのかもしれない。

 呂律が回らないということは姿勢の方もフラフラってことだ。


「うおっととと」


 今度こそ本物の酔っ払いのようにフラフラと右に左にと歩き出す。

 冷たいようだが、それは向こうの責任だ。


 そしてマイカはレーン内に足を踏み入れていった。

 意図してかどうかがハッキリしない状態だがね。

 それでもレーンに入ったからにはルールに従ってもらうけど。


 本人も理解しているようで竹刀を腰から上に持ち上げている。

 その反動でよろめいていた。

 俺はお構いなしで話を続ける。


「質問はないかと聞いたはずだがな」


 聞かれれば答えていたよ。


「こにょぉー、屁理屈ぅおぉっとっとっと」


 喋りながら歩くことを止めなかったマイカがつんのめる。

 どうにか倒れるのは堪えたようだ。

 片脚を軸にしてグルンと回ったりして器用なものである。


「ぬぎぎぎぎぎぎっ」


 まるで素人が綱渡りをするかのようなバランスの取り方をしたり。

 腰砕けになりそうになって竹刀を杖代わりにしてみたり。

 すかさず猫型自動人形が駆け寄ってきたけどね。

 最初に動揺していた時と違ってレーン内に侵入しているからな。


「竹刀が下げられた状態です。

 3秒ルールが適用されます」


 警告が入った。

 ここから3秒で減点される。


「ふぬああぁぁぁっ!」


 反動をつけて踏ん張り直し、竹刀を持ち上げた。


「警告から3秒未満と判定。

 ポイントは減点されません」


「その調子だー」


「そうです、踏ん張ってー」


 チームメイトであるトモさんたち夫婦が応援している。

 だが、指示はない。


「とにかく前進だ」


「まだ半分も来ていないと思います」


 同じくツバキとカーラ。

 こちらは具体性には欠けるものの、どうにか指示を出そうと頑張っていた。


 そんな中でミズキは匍匐前進で的の近くまで移動している最中だ。

 立って歩くと視界が揺らいでしまい、まともに歩けないからそうしているのだろう。


『考えたな』


 少なくとも倒れて更に視界が変になるのを防いでいる。

 そうまでして的の近くに来たってことはチームメイトを信じているのは間違いない。

 スイカに直接挑むマイカ自身を。

 マイカに指示を出して誘導する他のチームメイトのサポートも。


『的の近くで最後の指示を出すつもりか』


 接近してから移動を始めたのでは遅いと読んだようだ。

 ミズキの匍匐前進より遅れて前に進むマイカ。

 息もピッタリといった感じで事前に打ち合わせしたかのようだ。


 いや、それにしてはマイカの進みが的確すぎる。

 先程までの不安定さから考えると一定のリズム過ぎるのだ。


『そうか、なるほどな』


 ミズキが匍匐前進する音を聞き分けて距離と位置を量っているらしい。

 打ち合わせもなく咄嗟にやれるのは見事と言うほかはないだろう。


 この方法の凄いところは耳が頼りとなるので、しくじりにくいことだ。

 しかも気付いている者がいないようなので真似をされそうにないのもポイントが高い。


 問題はスイカに接近してからになりそうである。

 どう指示を出してスイカに竹刀を当てさせるか。

 お手並み拝見である。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ