675 ボールじゃない
スイカ割りなのにスイカを転がすとは、これ如何に。
我ながら奇抜な発想だったと思うよ。
ただ、ポイントをマイナスする要素はなるたけ多く欲しかったんだよね。
指示を出す者たちに眼鏡を掛けさせるのは確かに要素のひとつではあるんだけど。
なんとなく不安だったんだ。
思惑以上の結果になるとは夢にも思わなかったけどね。
さて、さっそくスイカを転がす者が出てくる。
人魚組の1人だ。
ファールラインの前に立つと、大きく両脚を広げた。
スイカは両手に挟み込むようにして持っている。
そのまま腕を下にさげ──
「それっ」
すくい上げるように投げた。
真っ直ぐ転がるようにと考えた上での投球方法だろう。
『両手から伝わる力が均等であればズレることはないと判断したか』
決して間違った考え方ではない。
しかしながら、このゲームにおいてそれは悪手と言える。
それを証明するようにスイカが徐々に右へと曲がっていった。
「ああっ、どうしてっ!?」
本人は投げた瞬間に手応えを感じていたのだろう。
愕然とした表情を浮かべている。
結局、スイカはレーンの横枠の所まで転がっていき止まってしまった。
的には擦りもしていない。
ただ、距離的には悪くなかった。
真っ直ぐに進んでいれば的の中心近くで止まっていただろう。
「ああーっ」
投げたドルフィーネちゃんは想定外の結果を目の当たりにして倒れてしまった。
『反応が芸人っぽいな』
確実に誰かから教わった動きだ。
それとも自分で動画を見て覚えたか。
「ブブー」
ファール音が鳴った。
「減点1です」
猫型の自動人形が告げる。
「何やってんのよー」
竹刀を持ったチームメイトが文句を言った。
眼鏡組もブーブー言っている。
「ゴメーン。
予想外の動きをしたのよー」
ペコペコと謝っている投げ手ちゃん。
「ちゃんと狙わないからでしょうが」
「狙ったわよー」
竹刀ちゃんと投げ手ちゃんが言い合っている。
その間に自動人形がテシテシとスイカを転がして戻してきた。
「あっ、ありがとー」
スイカを受け取る投げ手ちゃん。
フンスと鼻息を強くして再び構えに入った。
ただし、今度は左脚を幾ばくか後ろに下げている。
『右に流れたから左側に角度をつけたか』
スイカが同じ動きをするなら悪くない角度だと思う。
思わず苦笑してしまった。
『そう上手くいくかな』
「今度こそ~っ」
意気込みすぎである。
『あちゃー』
先程と違って肩に力が入ってしまっているのを見て俺は失敗を確信した。
「えいっ!」
投球フォームは先程と同じだ。
が、力んだせいで微妙な回転が加わってしまった。
「うそーん」
有名絵画の叫んでいる人みたいなポーズと表情になってしまう投げ手ちゃん。
今度は左へとスイカが曲がっていく。
「ダメじゃーん」
竹刀ちゃんも失投を確信したのだろう。
再びの文句である。
だが、しかし……
スイカはレーンの左枠に当たると枠沿いに進んでいく。
枠の結界に当たっては少しだけ弾かれ。
弾かれても回転が加わっていることで枠へと戻る。
その繰り返しでレーンの奥へと進んでいった。
『これは面白いことになったな』
力んだ影響もあって勢いも悪くない。
もし枠の結界に当たらず進んでいたらオーバーランしていたはずだ。
いいあんばいで減速していくスイカ。
「ああっ」
「おーっ」
投げ手ちゃんと竹刀ちゃんもそれが分かっているのか身を乗り出すように見ている。
それだけ期待感を持って見ているのだろう。
ただ、まったく問題がない訳ではない。
枠の近くを転がっているため、今のままでは的に擦るかどうか微妙なラインである。
枠にピッタリついた状態で止まれば的を外す。
少しでも枠から離れれば的の端にかかる可能性がある。
「「行けぇーっ」」
拳を突き出してスイカを応援する2人。
そんなことをしたところでスイカが奮闘する訳ではないのだが。
『気持ちは分からんではないがな』
そしてスイカが止まる時が来る。
最後に枠の結界に弾かれて少しだけ斜め横に転がった。
完全に止まったのを確認して審判である猫型自動人形が近づいていく。
「「─────っ!」」
2人が必死さを顔に出して見守っている。
「的枠に接触していると判定。
投球を有効とします」
「「やったーっ!」」
手を取り合って喜ぶ投げ手ちゃんと竹刀ちゃん。
「なお、中心より離れているので減点されます。
マイナスポイントは30点です」
中心点からズレた場合の最大マイナスポイントである。
「「だぁーっ」」
結果を聞いた2人がズッコケた。
「目一杯のマイナスかー」
落胆したように竹刀ちゃんが言った。
「ゴメン」
投げ手ちゃんの落胆はもっと酷い。
「もっと上手く投げてたら、こんなことには……」
「任せなさいっ」
竹刀ちゃんがガバッと立ち上がり──
「ここから先を最少失点に抑えれば望みはまだあるっ」
拳を握りしめて宣言した。
周りを見渡せば、決して慰めの言葉でないことが分かる。
「あーっ、またそれたぁ」
ゴロンゴロンと転がるスイカが狙い通りに行かなくて嘆く別レーンの投げ手。
「きゃーっ、曲がらないでー」
ボウリングで強いフックをかけた時のように曲がっていくスイカに懇願する投げ手。
「そっちじゃないよぉー」
思い通りの方に進まないスイカに縋るように手を伸ばす投げ手。
「何故だぁっ」
「坊やだからさ」
こんな具合である。
『最後に聞こえてきたのはアレだけど』
アレって言うかトモさんだ。
条件反射で三毛田庄一さんの物真似するとか恐れ入るよ。
それはさておき、だ。
みんな何度も投げているのに的に入らない。
ファールの減点は1だが、何度も投げ直すからマイナスが積み重なっていく。
『みんな向きになってるからなぁ』
完全に悪循環に陥ってしまっている。
別に陰謀でも罠でもないのだが。
念のために言っておくと変な細工などはしていない。
する必要もないからな。
『スイカが綺麗な球形をしているはずがないだろ』
気付けよと言いたくなるけどね。
まあ、欲に目が眩むと冷静さを失う典型例だと思う。
『おやつ増量に気を取られすぎなんだよ』
ただ、中には冷静な者たちもいるようで。
周囲を観察してほとんど投げていない者もいたりする。
タイムアタックでないことを理解して上手く立ち回っていた。
その代表格がエリスだろう。
未だに1投もしていない。
手にしたスイカを少しずつずらしながら観察するということもしていた。
後はミズキとかダニエラとかが同じように気付いているみたいだ。
数少ない気付いている派だと言える。
彼女らがそれぞれ属しているチームが現状の優勝候補だろう。
その中で最初にスイカを投げたのはミズキであった。
「やっと投げるんだ。
待ちくたびれたわよ」
竹刀を手にしたマイカがブリブリ文句を言っている。
「どう転がるかの見極めが大事なのよ」
「えーっ、そう?」
ミズキの反論に疑わしげな目を向けるマイカ。
2人の性格の違いが如実に表れていると言って良いだろう。
データを重視するミズキに対してマイカは感覚で勝負するタイプだからな。
「行くわ」
宣言して投球フォームに入るミズキ。
『なんだぁ?』
ミズキは野球で言うアンダースローに近い投げ方をした。
しかもリリースの瞬間に思いっ切り手首を使った捻りを入れている。
『レーンとほぼ垂直に強いスピンを掛けるつもりか』
ほぼ推進力にはならない回転だ。
スイカを前に進ませるのは腕の振りから生じた回転とは異なる力である。
スピンが強すぎて砂を固めたレーンを上滑りして進むスイカ。
ゆるく弧を描いていくような軌道だ。
推進力を失うにつれ強くカーブしていった。
だが、ミズキにとっては曲がることも計算のうち。
最初からレーンの端から端までを目一杯利用するように斜めに投げていた。
的を外すどころか、むしろドンドン接近していく。
そしてスイカは的の上で静止した。
「的の中での停止を確認。
中心からの距離によりマイナスポイントは5点です」
「あー、もうちょっと推進力が足りなかったかー」
ミズキが残念がっているが中心点に接触するかしないかスレスレの所で止まっている。
狙ってこれなのだから誇っていいと思う。
「上出来、上出来。
ほぼパーフェクトじゃないの」
次はマイカの番だ。
竹刀をブンブン振ってファールラインの前に立つ。
「頑張れ、マイカちゃん」
「まっかせなさーい!」
そう返事をしたマイカと入れ替わりで退いたミズキはレーンの横に回り込んだ。
そして眼鏡を装着する。
投げ手はこのように指示を出す方へ回ることも可能だ。
逆にそうしない場合は口出しが一切できなくなる。
「さてと、じゃあ一発で決めるわよ」
マイカが気合いの入った声で宣言した。
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