646 職人の目線で話をする爺さんたち
「これが花火……」
ガンフォールが一瞬だけ呆気にとられた表情を見せたが、すぐに真剣な面持ちとなる。
「見事なものじゃな」
「まったくです」
「打ち上げ前の完成品は見たか」
「はい、見せてもらいました。
良い仕事をしていたと思います」
「うむ、そうじゃな。
何より安全対策の結界以外は術式を刻み込んでおらなんだ」
「魔法に頼らずというのは共感できます」
『完全に職人の目で見てやがる』
花火そのものより職人の仕事ぶりに感心が向いているのは明らかだ。
設計をしたのは俺である。
だが、実作業は自動人形たちにすべて任せた。
したがってガンフォールたちは自動人形の手業に着目していることになる。
『人がやってるわけじゃないんだがなぁ』
自動人形が失敗しないとは言わない。
機械的な動きよりも人間に近い動きを優先して取り入れているからだ。
『些か趣味に走りすぎたかもしれん』
まあ、そうしないとダメな理由はちゃんとある。
それは国民の受ける印象だ。
不気味さを感じると言い出す者がいるんじゃしょうがない。
色々と試行錯誤したお陰で最近はそういう声が少なくなってきたと思う。
完全に無くすことはできないだろうが、減らすべく今も研究と試験は続けている。
ただ、自動人形ならではの利点を完全に消すつもりはない。
特に疲労しないということは大きいと思う。
均質な作業をさせれば良い仕事をしてくれる訳だ。
「作ったのは自動人形じゃがな」
ガンフォールも、そのあたりは理解しているみたい。
「じゃが、魔法に頼りきりにならぬという基本姿勢は好ましいわい」
そんなことを言われると背中がムズムズする。
方針を決めたのは俺だからだ。
『ガンフォールめ……
知ってて言ってるな』
こちらを振り返ったりなどはしないが、意識されているのは感じる。
『褒めても何も出さないぞ』
向こうもそんなつもりは毛頭ないだろうが。
「職人としては負けておれぬ」
どこまでも職人気質なのである。
「確かに触発される向きがありますな」
『ハマーもか』
それでこそドワーフと言えるのだろうが。
「いっそのこと作ってみますか、親父殿」
ハマーがそんなことを言い出してしまった。
『おいおい、花火なんて作って何処で使うつもりだよ』
一応は危険物だしホイホイ気軽に使えるものではない。
『まさか売りに出すつもりじゃないだろうな』
それは許可できない。
西方で花火が火薬であるという話が広まれば兵器として転用する輩が出てくるだろうし。
だから使い道が著しく制限されるのも仕方あるまい。
そうなると作ってどうするのかという問題が発生する。
『今シーズン中に使うしかないだろうな』
夏以外でも何かの行事で使うのは有りだとは思うけど。
「あれをか?」
作ろうと言われたガンフォールは、わずかに面食らった様子を見せた。
「はい、面白そうだとは思いませんか」
『おいっ!』
思わず声に出してツッコミを入れそうになってしまった。
『面白そうってだけで作ろうとするなよ……』
せめて許可を得てからにしてくれないものだろうか。
絶対に作るなとは言わないさ。
だから面白半分では作らないでもらいたい。
「悪くはないかもしれぬ。
火薬を使ったことはないからのう」
発言から受ける印象はハマーに近いものがある。
『ガンフォールでもこうなるのか』
情けなさを感じてしまう。
が、念のため【天眼・遠見】スキルでガンフォールの表情を確かめてみた。
「……………」
どうやらガンフォールに面白半分な意識はないようだ。
興味深さは感じられるが真剣味も感じられる。
『問題はハマーということか』
そちらも確認してみたが、ヘラヘラしているようには見えない。
「……………」
溜め息をつきたくなってしまった。
花火見物の時に見咎められたくはないので我慢したが。
地味にフラストレーションが溜まる。
『困った爺さんたちだぜ』
これくらいで注意するわけにもいかないし。
かといってスルーはもっとできない。
ジレンマである。
他の面子は素直に花火の感想を述べているというのに。
例えばスマホでの動画再生を使いこなしながらも国民として日の浅い面々。
3姉妹とABコンビにレオーネとリオンを加えた面子なんかがそうだ。
実は冒険者としてはこのメンバーで[幻の風]という名称で登録していたりする。
最初に口を開いたのはエリスであった。
「動画で見たのとは違うわね。
何とも言いがたい迫力があるというか」
少し目を丸くしながらも感心したように語っている。
「本当ですね……
圧倒されてしまいました」
惚けたような表情を見せるクリス。
それを見て苦笑するマリア。
「いくらなんでも大袈裟ですよ」
「いえいえいえいえいえ、決して大袈裟じゃないですよ」
『何回「いえ」を言ったら気が済むんだ』
アンネの口振りに落ち着きがない。
そのせいで目を丸くしているリオンが──
「どうしてですか?」
と聞いていた。
「だってそうでしょう」
我が事のようにアンネがドヤ顔をする。
なぜかベリーもドヤ顔をしながら頷いていたが。
「まずは打ち上げた瞬間」
「鼓膜の振動が分かるかのような音」
ベリーの言葉を追うようにアンネが語る。
「花火が打ち上げられて上がりきったとき」
「光を放ちながら夜空に大輪の花を咲かせるスケールの大きさ」
どうよと言わんばかりにABコンビがリオンの反応を待っている。
「えーっと、音も大きさも動画とは比べ物にならない迫力があると?」
「「それもあるわね」」
「それもって、他には?」
今度はレオーネが聞いた。
「音や大きさだけなら圧倒されたりはしなかったでしょうね」
そんな風にアンネが言っているが、圧倒されたと言ったのはクリスである。
当のクリスは特に口出しせずに見守るつもりのようだ。
「「言葉にしづらいんだけど」」
妙なところでハモるABコンビである。
「一瞬一瞬ではなく、消え行くまでの流れというか空気というか」
必死になって身振り手振りで表現しようとしているアンネ。
「消えた後に残る寂寥感まで含めた雰囲気?」
アンネを援護すべく補足説明しようとするも何故か疑問形なベリー。
生真面目なところのあるレオーネやリオンは真剣な表情で考え込んでいたが。
3姉妹なんかは苦笑していたけど。
まあ、これが普通の花火談義ではないだろうか。
台詞ほどには熱くならず。
それでも花火の良さを語り合う。
何処とも似たような調子である。
人竜組のように興奮しすぎな面々もいるけどね。
とはいえ彼女らも純粋に驚いているだけだ。
ガンフォールたちのように職人目線で見てはいない。
いや、見ていたとしても伏せていると言うべきか。
古参組には色々と教え込んだからな。
頭の片隅では技術的な解析とかしているはず。
それを口に出さないのは今日は遊びで来ているという自覚があるからだろう。
『あの2人も、ちょっと職人魂を控えめにしてもらえないものかね』
花火を見てろくに感想を述べずに作るとか言い出すし。
とりあえずジジイコンビの会話に注目しておこう。
「扱うときの緊張感は鍛冶をするときとはまた違ったものになるじゃろう」
「火薬の詰め方が肝要ですな」
『あー、とうとう技術的な話までし始めたよ』
「丁寧な仕事をしておった。
結果を見てもそれは明らかよ」
「雑な詰め方をすると、ああも見事に拡散させられませんからね」
「それもあるが、火薬の量も均質にして適量じゃ」
「それに火薬だけではありませんな。
薬品や金属の配合についても同様でしょう」
「確かにの。
火薬で色は変わらぬ。
見た目以上に仕事が多そうじゃ」
「ですな」
「この上、打ち上げる高さやタイミングも考慮せねばならん」
「緻密な計算に基づいた完璧な仕事ですな」
「これぞ職人の技よ」
うんうんと頷いているガンフォール。
「美しいですなぁ」
ハマーも同じように感心していた。
言うまでもなく花火そのものについてではなく、その仕事についての発言である。
『君ら、感心するベクトルを間違えているぞ』
ドワーフだからそういうことが気になるのは分かるのだが。
花火を用意した側としては嘆きたくもなろうというものだ。
『少しでいいから粋や風流ってものを理解してくれんかね』
俺からそれを言うと雰囲気を壊しそうなので何も言わないが。
『別に貶されたわけじゃないしな』
悪し様に言われたなら俺も黙ってはいなかったがね。
そういうこともないからスルーでいいだろう。
「お二方とも……」
ボルトが溜め息をついた。
「素直に花火が綺麗だってことでいいじゃないですか」
その表情は嘆かわしいと言わんばかりである。
俺の思いを代弁してくれたような気になってしまった。
ちょっと嬉しくなったが、顔には出さないようにして見守る。
「職人の目線を持つなとは言いません。
自分もあの仕事ぶりは凄いと思います。
ですが、今日は休みの日なんですよ」
怒るでもなく淡々と話すボルト。
「「う……」」
ボルトの正論に老人コンビはタジタジである。
「技術的な考察は帰ってからにしましょうよ」
「そうじゃな、すまぬ」
いつもは叱る側のガンフォールが叱られている構図は珍しいんじゃないだろうか。
そんな風に思った花火1発目打ち上げ直後のことであった。
読んでくれてありがとう。




