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643 夢見心地の相手は苦労する?

「ちょっといいか」


 人魚組がほっこりしつつも結束を固めているところに俺は話し掛けた。


「あ、陛下」


 最初に応対してくれたのはアスカミだった。

 ただし、モジモジした様子で会話が通用するかは微妙なラインであった。

 自分たちの会話を聞かれたのが恥ずかしいのだろうか。

 些か謎ではあるが、地味子さんのモジモジする仕草は可愛い。

 ちょっと和んだ。


「どうなさったのですか」


 アスカミの代わりに応じてくれたのはマリナミであった。


「どうもこうも、アレはどうするんだ」


 俺の目を向けた方向には未だにフラフラした様子のヤエナミがいた。

 上の空すぎてハラハラさせられる。

 さすがに酔っ払いの千鳥足とまではいかないけどな。


「あー、忘れてました」


 答えたのはユリノエであった。

 コクコクと頷いているクノミカ。


「陛下、優しい」


 頷いているだけかと思ったら発言した。

 普段は無口なので意外ではある。


「えー、なんでそう思うんだ?」


「危なっかしいヤエナミを心配している」


『そう思うんなら自分たちでフォローしてやれよ』


「そう言うクノミカも心配してるから気付くんだろ」


「むう、不覚」


 そんなことを言いつつもテヘペロをしてきた。

 無表情キャラにされると印象がまるで違う。


『これはこれで悪くない』


 とはなるのだが……


「何処で覚えてきたんだ」


「奥方」


 素直に、だが素っ気なく答えるクノミカ。


「あー、マイカね」


 小さく頷くことで肯定された。

 そして微妙にドヤ顔っぽいのだが……


『一体どんな教え方したのやら』


 気にはなるが追及すると切りがなさそうだ。

 そんなことよりヤエナミである。


「ともかく、ヤエナミが落ち着くまで頼めるか?」


 クノミカがコクリと頷くと同時に──


「「「はい」」」


 マリナミ、ユリノエ、アスカミが声に出して返事をした。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 マリナミたちに付き添われてヤエナミが去って行く。


「ふう……」


 ヤエナミたちから意識がそれて一息ついたが、これで終わりではない。

 食堂にいくつか気配が残っているのだ。

 夕食が終わってからそれなりに時間が経過していた。

 食べ過ぎた者たちさえゆっくりした足取りながら既に食堂から去っている。


『どうしたんだ?』


 何か他のトラブルかとも考えたが、それならもっと騒ぎになっているはず。

 とはいえ万が一ということもあり得る訳で。

 念のため俺は食堂に顔を覗かせる。

 そこには特に何をするでもなくボーッとした様子の人竜組の姿があった。


「なんだネージュたちか」


「あ、陛下……」


 別に気配を隠蔽していた訳でもないのに声を掛けてようやく気付くような有様だ。

 ネージュだけではなかった。

 他の面子も似たような状態である。

 まるで気付かないということがないだけマシかもしれない。


『マシかもしれんが、意味ないよなぁ』


 案内用に自動人形をつけてはいたが、要求や質問がなければ動かないからな。


『なるほど……』


 彼女らの様子を見て何となく想像がついた。

 ヤエナミと同じなのだ。

 いや、移動することすら思い浮かばないことを考えると、より重症だろう。


『そういや雑に火を通したものしか食べたことがないんだっけ』


 こうなるのも道理なのだろう。


『付きっ切りになるのもプレッシャーかと思ったんだが』


 目を離したのは良くなかったようだ。

 話し掛けても、どこか上の空に近い反応しかないし。

 屋台のあれこれを食べてもここまでの状態にはならなかったというのに。


『カニ恐るべし』


 とはいえ、このまま放ってはおけない。


『夜風に当てれば少しは反応するか』


 浜の方に出れば、誰かしらいるだろうし。

 それもまた刺激になるだろう。


「ここで朝まで居続けるつもりか?」


 呼びかけてみたが──


「……………」


 俺の方へと視線を動かすだけでポーッとしている。

 なまじ半端な反応があるだけに質が悪い。


『勘弁してくれよぉ』


 どうすりゃいいのかと頭を抱えたくなった。

 だが、それをする前にメールを発信。

 途方に暮れるのは後でもできるからだ。


 文面は[手の空いている人、救援を求む]である。

 ものの数分と待たずに助けが来た。


「くっくっくうー」


 呼ばれて参上ーと真っ先に来てくれたローズさん。

 さすがは我が相棒。


「主があのように助けを求めるとはな」


「マリカが助けるー」


 シヅカとマリカも一緒である。


「旦那よ、どうしたのだ」


「何かありましたか」


 続いてツバキとカーラ。

 すぐに来ることができたのは、ここまでである。

 他の面子はメールの返信で来られないと言ってきていた。


[食べ過ぎたので激しく動くのは無理そうです]


 これはハリーの返信である。

 ここにもカニの洗礼を受け食べ過ぎてしまった者がいた訳だ。

 俺は無理をしないように返信をしておいた。


[入浴中]


 素っ気ない返信はマイカだった。

 邪魔をするなという意思表示なのは明白。

 ここで何が何でも来るように連絡すると後が大変である。

 大した用事でないと判断されると、しばらく機嫌が悪くなってしまうからな。

 休暇で遊んでいる時にヘソを曲げられると特に厄介である。


 とはいえ本当に緊急事態であれば納得してくれるんだけど。

 今回はマイカが納得するような事情ではないだろう。


[マイカちゃんがテコでも動こうとしないの。

 私だけでも行った方がいいかな?]


 こういうときのミズキはマイカのことを気にしてばかりになるので来ても意味はない。

 向こうに残っても、こちらを気にするんだけど。

 故に、人員を確保したので応援不要と返信した。

 これなら大丈夫だろう。


 他にもすぐには動けない、もしくは到着が遅れるというメールが相次いだ。

 食べ過ぎたか温泉か外に出てしまっているか。

 理由は様々ではあるが、ミズキへの返信とほぼ同じ文面で皆にも返信しておいた。


「見れば分かると思うけど……」


 ネージュたちの方へと集まっていた視線が俺へと向けられる。


「くくぅくうくーくっくっくーくう、くーくぅくくっくーくーくぅくー」


 カニでここまでトリップするとは、どんな食生活を送ってきたんだーだってさ。


『そこまで重症か』


 ローズを驚かせるとは思わなかった。


「マリカがやってみるー」


 言うなり狼モードになってネージュたちに近づいていった。

 匂いをかいでペロペロと顔を舐める。

 だが、ネージュたちはされるがままでマリカをチラリと見た程度であった。

 マリカが人化してションボリした様子で帰ってくる。


「ダメだった」


「主よ、あれでダメなら手こずるぞ」


 マリカをあやしつつシヅカがそんなことを言ってきた。


「だから助っ人を要請したんだ」


「そうは言われてもな。

 役に立てなくて済まぬが妾もお手上げじゃ」


 シヅカが白旗を揚げた。

 手がない訳ではないが……


「変に威圧することもできぬしのう」


 シヅカもそれは頭の中にあったようではある。

 上位者の存在感を前面に出してアピールする方法だ。

 それならばネージュたちは嫌でも正気に戻るとは思う。


「やってしまうと、この後のお楽しみを台無しにしてしまいかねぬ」


 ただし、凄く畏縮することになるだろう。

 半日は使い物にならなくなってもおかしくない。

 シヅカも自覚しているから提案してこないし。


「ローズはどうだ?」


 専門家に聞いてみた。


「くうくぅくくっくぅくーくっくぅくくぅくーくう」


 カニと同じくらいのインパクトが与えられればね、か。

 そう言いながら肩をすくめるとは余程である。

 さすがに専門家にそこまで言わせるほどの状態とは思っていなかった。

 それだけに落胆は大きい。


「無茶言うなよぉー」


 そんなの今から探してられない。

 どれだけ時間がかかるやら。

 まず間違いなく次のイベントに間に合わない。


「無茶ではないかもしれませんよ」


 そう言ったのはカーラである。


「何ですとっ!?」


 声に出して驚いたのは俺だけであったが、守護者組は目を丸くしていた。


「旦那よ、分からぬか」


「む?」


 ツバキは分かっているようだ。


「こうすれば良いのですよ」


 カーラが魔法を使った。

 ネージュたちの前に靄が立ちこめていく。


「幻影魔法か」


『それにしては半端なことをするな』


 そんな風に思っていたら靄が徐々に形を変え始めていた。

 ピクリと反応する人竜組。

 幻影が明確な形を再現したとき──


「「「「「カニィ─────ッ!」」」」」


 人竜組が目の色を変えて幻影のカニへと手を伸ばす。

 が、際どいタイミングで滑るように避けるカニ。

 普通はこんな動きをしないが、ネージュたちはお構いなしだ。


 まるで猫じゃらしに夢中になる猫のように頭に血が上っている。

 そのうち追いかけっこが始まってしまい……


「はい、終わりです」


 カーラがバラバラに制御していた幻影のカニが一個所に集まった。

 8人が急には止まれず正面衝突。

 それと同時に幻影は消えていた。


「「「「「痛ぁ─────い!」」」」」


 結構な勢いでぶつかったからな。

 お陰で目が覚めたようだけど。


読んでくれてありがとう。

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