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624 皆で遊ぶと言えばコレになる?

 砂浜にうつぶせになった10人が横一列に並んでいた。

 面子は人魚組ばかり。

 全員、踵をピタリと合わせて顎を浮かせた同じような姿勢だ。

 よく見ると浮かせた顎の下で手が組まれている状態である。


 それを少し離れた位置で見守るその他大勢。

 俺もその中の1人である。


「コンペティターズ レディ!」


 10人の脇でトモさんがホイッスルを片手に声を発した。

 大きくて良く通る声。

 明らかに仕事用なんですがね。


『気合い入ってるなぁ』


 それは10人に対して準備を促すものであった。

 コンペティターズとは競争相手や出場選手という意味だ。

 これが徒競走なら「位置について!」という掛け声に相当するだろうか。


 寝そべる10人の爪先から20メートル先には7本の小さな旗が砂に突き刺さっている。

 そう、ビーチフラッグが行われようとしているのだ。


 何故これをすることになったかというと、人数の都合というやつである。

 大人数で遊ぶとなると競技的な遊びにするしかなかったのだ。

 競技に直接参加しなくてもギャラリーで楽しめるしな。


 しかも3人ずつ脱落していくというルールだから徐々に盛り上げることができる。

 少なくとも昼飯くらいまでは引っ張れるだろう。


「ヘッド ダウン」


 これは「用意」の掛け声に相当する。

 顎が重ね合わせた手の上に乗せられた。


 ここから先は微動だにできない。

 フライングになるからだ。

 陸上競技と違って1回で失格となる。

 最後の2人がフライングをした場合は最初からやり直しだが。

 普通は3人以上が同時にフライングとか無いからな。


 ただ、うちでは全員がフライングしたら仕切りなおせることにした。

 全員失格は興ざめしそうな気がしたからだ。

 さすがに10人同時なんて考えにくいけど。


『うちだと無いとは言い切れないからなぁ』


 緊張の瞬間である。


「ピィッ!」


 鋭いホイッスルの音が響いた。

 10人が瞬時に反応して立ち上がりつつ振り向く。


『フライングはなしか』


 バッと飛び出した10人だが動きは俺たちの感覚からすると緩慢だった。

 そうなるよう競技用フィールドに結界を張り巡らせた結果である。

 レベル差も考慮した可変結界なので誰が出場しても優勝の目があるのが自慢だ。

 とはいえ俺が結界を構築した訳じゃないけどな。


「頑張れー」


 皆に交じって声援を送っているベリルママのお仕事ですが、何か?

 俺がやるより精度が高いから、より公平なんだよね。

 ダダダダダーッと砂浜を駆けていく水着の女子10人。

 砂浜で健康的に躍動する姿は美しいとさえ思う。


『いやぁ、眼福だわ』


 トモさんの方を見たが小さく頷かれてしまった。

 皆まで言わずとも分かっていると言われた気分である。

 どうやら同じ心境のようだ。

 え? 奥さんがいるのに不謹慎?


『うーん、別にナンパしようって訳じゃないんだよな』


 強いて言うなら芸術鑑賞に近いかも。

 見て愛でるというか。


「おっ」


 俺があれこれ考えている間に走り抜けた10人の間で決着がついた。

 悔しがったり喜んだり。

 声援を送っていたギャラリーサイドも盛り上がっている。


「あるじー、マリカもやるー」


「ハル兄、私も」


 マリカとノエルが周囲の雰囲気に乗せられたのか参加表明してきた。

 最初は見ているだけだったが、応援している間に興が乗ったようだ。


「よし、じゃあ俺も参加するか」


「ハルトが参加するなら私もやってみよう」


 ルディア様が参加するとか言い出した。


『なんですとっ!?』


 思わず声に出してしまうかと思ったさ。


「面白そうですね」


 のっぽなリオス様までやる気になったようだ。


「リオスがやるというなら私もだ」


 フェム様もそんなことを言い出すし。

 真剣勝負でも始まるのかって雰囲気を醸し出しているのは、どうなんだろう。


『遊びなんですけど……』


 ホントに生真面目な人なんだな。


「じゃあ、私も」


 アフさんの気軽さを見習ってほしいところである。

 何にせよ、俺が参加する組に亜神が4人も参加することになった。


『なんかノリノリというか高ぶっているというか』


 呆れるくらい本気度が高い。

 軽く遊ぼうという程度の気持ちで飛び入りしたらガチな人達が来ましたよ。

 思わずノエルと顔を見合わせてしまった。


「娯楽に飢えているんだと思う」


 ノエルがボソリと呟いた。

 その目が切ない空気を醸し出している。


『未成年に哀れまれるとか……』


 コメントのしづらいところだ。


「まあ、なんだ。

 楽しんでもらおう」


「うん」


 この7人でやるのかと思っていたら、面子が募集されて10人になった。

 追加されたのはローズ、シヅカ、レオーネである。


 並びは言い出しっぺの2人が真ん中で、後は参加表明順だ。

 フラッグは7本なので有利不利はない。

 実際にはあるのかもしれないが、遊びと認識している時点で厳密な見方はしていない。


 あんまり手を抜くとルディア様から文句を言われそうではあるが。

 手抜きというのは言い過ぎか。


 こちらは本気で遊ぶのみ。

 勝っても負けても面白ければ、それでいい。

 対する向こうは真剣勝負。

 負けると心底悔しがる気がするんだよな。


 どちらもマジなんだけど、根本的に違うというか……

 まあ、似て非なるってことだ。


『そのあたり誤解されないように気を付けよう』


 そんなことを考えながら所定の位置で腹ばいになる。

 踵を合わせ顎の下で手を組む。

 準備オッケーだ。

 フェルトやカーラがチェックしてまわり、全員の用意が調った。


「コンペティトゥワァーズ ルゥエディ!」


 妙に張り切ったトモさんが巻き舌でいい声を出した。


「なんで綿本盛男さんなんだよっ」


 思わずツッコミ入れてしまったさ。


「ヤエナミたちが訳分かんないって顔してるじゃんか」


 古参組は動画とか見まくっているお陰で元ネタが分かるんだけど。

 人魚組は国民になって日が浅い。


 忍者の頭領が謎の丸っこい生命体なギャグアニメとか分からんぞ。

 トモさんはこれがいたくお気に入りだけどな。

 ブルーレイのボックスも観賞用と保存用と予備を所持している。


「フハハハハッ!

 布教するに決まっているじゃないか」


『そんなこと考えてたのか……』


「無理じゃないかな」


「何故だっ!?」


 瞬間的に銀座弾正さんを挟んでくるし。


「坊やだからさ」


 俺に三毛田庄一さんの物真似はできないが、台詞だけでも付き合っておく。


「じゃなくて忍者好きな妖精組と一緒にしちゃいけないよ」


「ガーン!」


 変顔で驚きを表現するトモさん。

 直後にスパーンと後頭部を叩かれた。


「痛っ」


 後頭部をさすりながらトモさんが振り返る。


「痛い訳ねーだろ」


 そこにはマイカがハリセンを持って仁王立ちしていた。

 些か鼻息が荒そうに見えるが、本気で怒っている感じではない。


「いいから、とっとと始めろや」


 ガラの悪い感じを出そうとドスを利かせてはいるが怒気が感じられない。


「あ、サーセン」


 ぺこっと頭を下げて仕切り直しとなった。

 またコンペティターズからだったが、そこそこ間が空いたので仕方あるまい。


「ヘッド ダウン」


 顎を手の上に乗せる。

 乗せたが最後、動けない。

 ホイッスルの合図があるまで辛抱だ。

 そして短い笛の音が聞こえれば瞬時に反応してダッシュしなければならない。

 完全に脱力して弛緩することもできない状態。


『これが意外に苦しいんだよ』


 変に力むとスタートダッシュが遅れてしまうからだ。

 適度な状態を維持しなければならないが動けないから難しい。


『ここでフライングなんてしてしまったら興ざめもいいところだもんな』


 独特の緊張感があった。

 遊びだからと馬鹿にしてはいけないのだ。


『皆で遊ぶからこそ真剣にってね』


 ほんの数秒が長く感じる。

 急上昇する緊張感が頂点に達しようかという瞬間。


「ピィッ!」


 鋭いホイッスルの音が響いた。

 ズザッと砂を跳ね上げて起き上がる。


『よしっ』


 反応は悪くない。

 結界の中だから思うように体が動かない状態ではあったが。

 それでも出遅れたりはしていない。

 全員がほぼ同時に起き上がりダッシュの体勢に入った。


「お姉ちゃん、頑張れー!」


 リオンが姉を応援している。

 ちょっと羨ましくなった。


「あっ、ズルい」


 反対側からアフさんの声がした。


『ズルいって何だ?』


 フライングは失格だし。

 失格にならないズルなんてあっただろうか。

 何事かと視線を向けると──


「ウオーン!」


 マリカが狼モードに変化していた。

 4脚で全身のバネを使って走れば、そりゃあ速いさ。


『確かにズルいな』


 そこまでするかと呆気にとられてしまった。


「負けぬ!」


 一方で闘争心に火をつけたのがルディア様。

 グンと加速した。


 そこに追随するローズとシヅカ。

 少し遅れて亜神3人組。


 俺とノエルは呆れてしまった分だけ初期加速が遅れてしまう。

 結局、その差は埋められなかった。

 残念である。


「変身したマリカちゃんは失格です」


 ベリルママに言い渡されてマリカもションボリしていた。


 ちょっと面白かったし[笑わせてくれたで賞]をあげるとしよう。

 副賞はモフモフマッサージだ。

 これで機嫌を直してくれるといいんだけど……


読んでくれてありがとう。

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