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613 水着あれこれ

「元々そんなに怒っちゃいませんよ。

 こっちの世界に来られて色々とラッキーでしたし」


 会えないと思っていた掛け替えのない人たちとも再会できたし。

 それ以外でも家族が増えた訳だし。

 魔法だって使えるようになった。


「むしろ感謝しているくらいです」


 感謝という言葉にリオス様とアフさんに微かな反応があった。

 だが、フェム様は微動だにしない。

 そのせいか2人も頭を上げることはなかった。


『フェム様をどうにかしないといけない訳か』


 思わず溜め息が漏れそうになる。

 だが、これは我慢だ。

 溜め息ひとつで余計に罪悪感を抱かせてしまう恐れがあるからな。


『ん? 罪悪感か……』


 この際、それを逆手に取るのも仕方あるまい。

 あまりに頑なすぎて説得が通じる自信がないしな。

 そうと決まれば、さっそく作戦決行である。


「勘弁してくださいよ。

 遊ぶ時間が減ってしまいます」


「うぐっ」


 これにはフェム様も反応せざるを得なかったようだ。

 身も蓋もない言い方である。

 故に間髪を入れずフェム様の頭が跳ね上がった。

 直後に追いすがるようなポーズで固まってしまったけれど。


『ちょっと酷だったかな』


 リオス様とアフさんは普通に面を上げてくれた。


『フェム様に付き合っていたのかな』


 どうやら仲良し3人組のようである。

 で、2人はフェム様に対して同情するような目を向けていた。


『もしかして普段からこんな感じなのか』


 やり過ぎて自爆するパターン。

 そして付き合う2人。


『フェム様は生真面目すぎるんだな』


 何処かの筆頭亜神に見習って欲しいものだ。

 たぶん爪の垢を煎じて飲ませても効果がないだろうけど。

 千倍くらいに濃縮すれば少しは違うかもしれないが。

 今日、来ていないところを見ると許されていないのだろう。

 自業自得なので少しは悔い改める機会だと思ってもらわないとな。


『あんまり期待できないけど……』


 まあ、この場に居ない人のことを考えても仕方がない。

 とにかくフェム様、撃沈である。


『できれば使いたくない手だった』


 嘘ばっかりというツッコミが聞こえてきそうだが。

 ノーコメントということにしておこう。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 やってきましたオオトリへ。

 到着するなり──


「変身っ!」


 とか叫んで砂浜を駆け出す御仁がいらっしゃる。

 トモさんだ。


 本当に変身するわけじゃない。

 服を自前の倉庫に放り込んで海パン姿になるだけだ。

 そのままドドドドドドッと砂浜を一気に駆け抜けた。


「いぃやっほおおおおぉぉぉぉぉぉ────────っ!!」


 そしてズババババッと海上を走っていく。

 どこかで覚えのある光景だ。


『そういや、俺もアレやったな』


 錬成魔法で無茶して1年間の眠りから覚めた後のことだ。

 今となっては懐かしく感じる。


『あれから2年と経っていないのになぁ』


 それだけ日々が充実していたということか。

 あんまり休んでいなかった証拠でもある。

 それについては反省済みなので追求はすまい。

 にしても……


「唐突だなぁ」


 色々とストレスが溜まっていたのだろうか。

 何か爆発するような感じだった。


『無理ないか』


 こっちの世界じゃなくて日本の方で色々あるみたいだもんな。

 なにより呪いの解消が大変だ。


『今日は思いっ切り発散してもらおう』


 俺がそんな風に思っている一方で、気苦労を背負い込んでいる人がいた。


「すみませんすみません」


 ペコペコと頭を下げるトモさんの嫁フェルト。

 フリーダムな旦那の行動に恐縮しきりといった様子である。


「いいんじゃないの?

 今日は遊ぶ日なんだし。

 誰かに迷惑掛けてる訳でもないし。

 いきなりだから驚いたけど何も悪いことはしていないよ」


「せやせや、うちらかて負けてられへんで」


 気合いの入った笑顔を見せるアニス。


「そこでどうして勝ち負けが出てくるのよ。

 今日は皆で遊ぶ日でしょうがっ」


 すかさずツッコミを入れるレイナ。

 2人とも既に水着姿である。

 アニスは黄色のビキニ。


『髪の色に寄せた感じか』


 くすんだ金色に合わせるのは苦労しただろうに、少しも変なところがない。

 対するレイナは虎縞のワンピース。


『こっちは尻尾に合わせたか』


 着る人間を選ぶようなシャープで際どいデザインの水着であるが似合っていた。


『ビキニじゃないのがミソだな』


 おそらくマイカあたりからコスプレ認定されることを予見して回避したのだろう。

 そして2人の小脇に抱えられたボディボード。


「いきなりボディボードとは気合い入ってるなー」


「動画見て面白そうやなぁて思てたんよ」


「ミズホシティの海でも試せたんだけどね。

 我慢に我慢を重ねて今日まで待ったのよ」


 楽しそうに話すアニスにドヤ顔のレイナ。

 その口振りからも期待値は相当のようだ。

 が、ボディボードの動画はそんなに充実していなかった気がするのだが。


「動画だったらサーフィンの方が色々あっただろ」


 俺がそう言うと、2人して人差し指を立てて「チチチ」と左右に振った。


『まるで車のワイパーだな』


 妙なことを連想してしまった。


「ハルトはんは分かってないなぁ」


「そうよ、ボディボードの方が楽しめる幅が広いんだから」


「そうなのか」


 2人がそう主張するからにはそうなのだろう。


「まあ、楽しんでくれればそれでいいさ」


「「「「「もちろん!」」」」」


「え?」


 アニスとレイナが返事をしたと思ったら、それだけじゃなかった。

 気が付けば妻組全員が水着姿でボディボードを抱えていたのだ。

 それを見たフェルトが「ふええーっ」とか言いながら目を丸くしていた。


「みんなノリノリだなー」


「当然ですよー!

 待ちに待った海水浴なんですから~」


 ダニエラが笑顔で力説する。

 ちなみに着ている水着は白いスク水だ。


『よりによって、これを選ぶのかっ』


 微妙にダサいデザインだが、持っている人間が着ると破壊力満点の兵器と化す。

 え? 何を持っているかだって?

 そんなの破壊力と表現した時点で聞くまでもないことだ。

 ダニエラのはジャイアントでバインバインな感じの代物である。


『しかも、特定部位のサイズをあえて小さめに作るとか』


 どう考えても狙っているとしか思えない。

 まあ、俺の趣味を理解した上でやっているのだろう。

 隠し事はしてないから全部バレバレだし。


 意外と策士というかあざとい一面のあるダニエラ女史である。

 それはカラー選択にも現れている。


『レアもののホワイトだもんなぁ』


 あえて選んでいるのは間違いあるまい。

 通は標準色を選ぶんだろうが……

 ノーマルの紺色だと平凡すぎて目立たない恐れがあるからな。


 学生時代に散々見てきたせいで気にならないというか。

 見慣れてしまったことによる影響だろう。

 故にレアを選択するという工夫をすることで俺の注目を浴びることに成功している。


『ダニエラ、恐ろしい子』


 ちなみにスク水をチョイスした者は他にはいなかった。

 大半がビキニだ。

 デザインは様々だったけどね。

 胸元がリボン風になったのとか。

 紐なしとか。

 中には陸上選手のようなのもいた。


『何を参考にしたんだか……』


 資料を提供したのは俺だけどさ。

 請われるがままに「はいはい」と渡すだけだったとはいえ。

 どうしてこうなった、である。


『まあ、眼福だからなんでもいいや』


 数少ないワンピース派はミズキやノエルだ。

 花柄でフリルがついた可愛い系のミズキ。

 対するノエルはというと……


 色は自分の髪の色に合わせたピンク色で可愛らしいものだったが。

 デザインに問題があった。

 胸元からヘソ周りがくり抜いかれたシャープなやつだったのだ。

 そして首回りは露出が少ない。

 ザ・筒状。

 隠す場所を間違えていないかと問いかけたくなる。


『何のためにこんなデザインなんだ』


 そう言いたくなったが、答えは背面にあった。


『マジか……』


 首と尻しか隠れていない。

 大胆にも程がある。

 嫌でも大人っぽさを感じさせる代物だ。


 いや、そんな生易しいものではない。

 本人の見た目は大人になりきれていない状態なのにそれなのだ。

 中学生が頑張り過ぎちゃいましたと言えば分かってもらえるだろうか。


 そして前も後ろも見せるためにクルリと回ってピタリと止まる。


「似合う?」


 いつものほぼ無表情で問うてくる。

 小首を傾げながら聞くとか、何処で覚えてきたんだか。


『確実に俺が提供した動画資料だよな』


 ここでも「はいはい」と渡すだけだった影響が出ている。

 なんにせよ答えなきゃならんのだが、確実に試練だと思う。


「おお、似合うとも」


 それ以外に答えようがあるものか。

 桃髪天使ちゃんを泣かせるようなことはあってはならない。

 だが、内心では頭を抱えていたのも事実。


『好きにさせすぎた』


 せめてデザインが上がった段階でチェックを入れるべきだったのだ。

 婚約者としてはともかく保護者失格だろう。


「あら、可愛いわね」


 そう言ったベリルママはV字風ハイレグワンピースを着ている。

 V字は大人しめだがツートンカラーの配色でそれっぽく見えるよう工夫してあった。


「…………………………」


 なんも言えねえ。


読んでくれてありがとう。

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