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612 大中小の亜神が来た理由

修正しました。

浅黄 → 浅葱

 亜神のお姉さんたちがベリルママに呼び寄せられた。

 そして自己紹介を促される。

 まずは背の高い人からだ。

 俺より高い。


『のっぽさんだ。

 いや、のっぽおねいさんと言うべきか』


 勝手にニックネームをつけてしまった。


「初めまして。

 私の名はリオステリア」


 名乗ると見た目以上に落ち着いた雰囲気が感じられた。


「地上では豊穣の神と思われていますね」


『そうなんだ』


 見た目だけだと若干の違和感があるかもしれない。

 透明感のある浅葱色の長い髪は緩くウエーブがかかっていてイメージが違ったんだよね。

 こういう緑がかった青って芸術的な印象を抱いてしまうのだ。

 あくまで俺がそう思うだけなんだけど。


 だから特に根拠はない。

 あえて言うなら髪の色がペリドットと言われる宝石に似ていたからだ。


『うん、何を言っているのか自分でも分からん』


 とにかく色を見て連想したイメージの結果としか言い様がない。

 割といい加減である。

 故に豊穣の神と言われれば「そうですか」といった具合に相槌を打っていた。


「リオスと呼んでいただければ幸いです」


「はい、分かりました。

 リオス様ですね。

 よろしくお願いします」


 続いて中背の人。

 中背とはいっても、やや低めである。

 リオス様とは首ひとつ分の差だ。

 セミショートで切り揃えている髪の色はアイボリー。

 年を取って色が抜けたような白髪とは違う。

 日の光を受けるとキラキラと反射して若々しい感じがするのだ。


『こういう光沢のある白髪は始めた見たな』


 俺としてはレアものを見て得した気分なんだが。


『なーんか、御機嫌斜めだなぁ』


 あからさまな感じはしないから普通は気付かないだろう。

 当人としては隠しているつもりらしい。


『だが、ノエルで慣れている俺には隠しきれないのだよ』


 どうも居心地の悪さから来るものらしい。


『無理ないか……

 いきなり連れて来られたみたいだし』


「フェマージュ」


 名乗りは表情よりもハッキリしていた。

 誰が聞いてもぶっきらぼうだと分かる。

 怒っているようにも見えるが、怒気は感じられない。

 本当に居心地が悪いだけのようだ。


「フェムでいい」


 とにかく短く喋る人だった。

 普段からこうなのかは不明だ。

 現時点では何とも言えない。


「フェム様ですか。

 よろしくお願いします」


「ん、魔法神なんて言われてる」


 そして西方人たちの間での位置づけ。

 こちらも俺のイメージとは少し違っていた。

 最初は体育会系の人かと思ったのだが、それは内緒である。

 それを言うとフェム様が怒りそうな気がしたからね。


「そうでしたか。

 今日はよろしくお願いします」


 無難な言葉を選ぶと無言で頷かれた。


『なんというか不機嫌なクラス委員長って感じだな』


 居心地の悪さが消えたときにどうなるかは気になるところだ。


 そして最後は、フェム様から頭ひとつ背の低いちみっこなおねいさん。

 本人にそれを言うと怒られそうだけど。

 ただ、怒っても迫力がなさそうな雰囲気を感じる。


 俺の第一印象は新任の高校教師だった。

 一生懸命だけど空回りするようなタイプ。

 生徒からは「ちみっこ先生」とか呼ばれたりしてからかわれるが人気もあるみたいな。

 本人からしてみれば「ちみっこ」呼ばわりはNGワードで毎回怒っている訳だ。

 たとえ「おねいさん」を付け足しても耳に届かずプリプリ文句を言う。

 失敗すると目に見えて落ち込むのも定番か。


『いや、勝手な妄想だけどな』


 第一印象がそんな感じだったというだけだ。

 実際がどうなのかは分からない。


 が、イメージを覆すのは些か難しいのも事実。

 ちみっこおねいさんの呼称は俺の中でだけオフィシャルということで勘弁してもらおう。

 暴露すれば、それさえも許されない気がするので絶対に秘密だ。

 怒っても迫力不足だとは思うが、泣かれそうな気がする。

 それだけは勘弁願いたい。


「アフェールだよ」


 背伸びしながら一生懸命アピールする感じの自己紹介。

 青紫のポニーテールがピョンピョン飛び跳ねている。

 ちみっこおねいさんの元気が宿ったかのようだ。


『じっとしていれば桔梗の花を連想させてくれるんだがなぁ』


 どうにもイメージと結びつきにくい。

 それだけに印象に残るんだけどね。


『にしても、そこまでしてアピールする必要があるのかね』


 どう見ても少しでも背を高く見せようとしているようにしか思えない。

 本人はそれで大人であると主張したいのかもしれないが。

 俺には子供っぽさが強調されているようにしか見えなかった。


『まさに、ちみっこおねいさんだな』


 そんな風に確信してしまった程だ。


「ねえ、ちょっと」


「なんでしょう?」


 自己紹介中なのにジト目で見られた。


『うええっ!?

 俺、何かしたっけ?』


 ヘマをした覚えはないんだが。

 というより初対面である。

 ヘマのしようがない。


「いま何か失礼なことを考えなかった?」


 妙に勘が鋭い。

 一瞬、心を読まれたかと思ったほどだ。

 冷や冷やさせられたさ。

 そんなことはおくびにも出す訳にはいかないけどね。


「いえ、そんなことはないですよ」


 しれっとした澄まし顔で返事をしておいた。

 じーっと見られたが目をそらさず見返しておく。

 ここで目をそらしてしまえば負けである。

 失礼なことを考えていたと自白したも同然だ。

 が、この程度なら動揺することはない。


「まあ、いいや」


 実にアッサリ追及が終了した。

 このあたりは性格だろう。

 もしかすると俺のような面倒くさがりなタイプなのかもしれない。

 いずれにせよ、背の低さについての話は地雷であることが推測される。

 確定情報ではないが、わざわざ確認するまでもないだろう。


『君子危うきに近寄らずとも言うしな』


 聞くのは止めておくべきだ。


『泣かれちゃ敵わん』


 ちみっこなおねいさんを泣かせたら罪悪感ゲージも一気にレッドゾーンな気がするし。

 とにかく面倒事はゴメンである。


「私のことはアフさんって呼んでね」


「分かりました。

 アフさんですね」


「そうそう」


 このあたりはエヴェさんという前例があるのでスムーズだった。

 俺も抵抗感なく受け入れられたし。


「それで私、商売の神様ってことになってるんだけど?」


 何故に疑問形なんだか。

 俺に聞かれても事情も理由も知らないんだから答えようがない。


 なんにせよ、こちらも自分と城住まいの面子を紹介していった。

 人魚組とかブルースは、そのほか一同ということで勘弁してもらう。

 で、それが終わったらオオトリへ向かおうと思っていたのだが。

 いきなりフェム様が頭を下げてきた。


「すまない!」


 まるで武道家が礼をするかのようなキビキビした頭の下げ方だった。

 もっと深く下げてきたから向こうにそんなつもりはないんだろうけど。


「えーっと……

 訳が分からないのですが?」


 だが、フェム様は頭を下げたままだ。

 何も答えてはくれない。

 リオス様やアフさんも驚いている。

 事情は知らないと見ていいだろう。


『俺にどうしろと?』


 こっちは困惑するしかできない。

 すると、ベリルママが助け船を出してくれた。


「フェムちゃんは、ずっと気に病んでいたのよね」


 どうやら勘違いや人違いの類いではないようだ。

 その言葉だけでは俺にはサッパリだったけど。

 リオス様やアフさんは「あっ」という顔になっていた。

 かと思うと──


「「ごめんなさい」」


 2人してガバッと頭を下げてきた。


「なんでっ!?」


 どうしてこうなった状態である。

 慌ててベリルママの方を見ると苦笑されてしまった。


「魂喰いの件よ」


 短くそう告げられる。

 それだけで理由は分かった。

 俺がこの世界に来る切っ掛けになった魂を半分喰われたことで詫びているのだ。


『死にかけたからなぁ』


 納得の理由ではあるが……


「謝罪なら既にルディア様たちから代表して受けています」


 こう言ったくらいで3人の頭は上がらない。


「俺もそれで納得しましたし。

 今じゃ当時のことなど気にもしていませんよ」


 これでも上がらない。

 罪悪感は根深いようだ。

 それとも責任感の強さから来るものだろうか。

 エヴェさんの方を見ると頭を振られてしまった。


「フェムやんは自分が魔法を出し渋ったせいや言うて、ずっと自分を責めてたんや」


 それは居心地が悪いのも道理である。


「リオスはんとアフさんは当時フェムやんのサポートをしてたし」


 2人はフェム様の影響を受けて謝罪モードに入ったようだ。

 ベリルママが3人を連れて来たのも、これがあったからだろう。

 適当に連れて来た訳ではないのはよく分かった。


『どうすんの、これ』


 途方に暮れるとは、このことだろう。

 そうは言っても俺が何とかしないといけない。

 さて、どう説得したものか。


読んでくれてありがとう。

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