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601 自動人形で学校案内

 さて、校内の案内開始だ。

 黒猫型自動人形に指示を出して歩かせる。


 猫の視点なので下から見上げる感じなのが新鮮だ。

 コイツの利点は授業妨害になりにくいことだろう。

 小さい上に基本は足元を移動するからな。

 高いところで移動できるならその限りではないが。


 現状は廊下を歩いている。

 本物の猫のように滑らかな歩みだ。


 ただし、それはカメラの映像からは分からない。

 自分撮りでもできれば話は別だろうがね。

 そんなことを考えて、ふと思いついた。


「今度、尻尾の先にカメラを仕込んでみるか」


 自由に動く尻尾で撮影できるのは面白そうだ。

 ちょっとした隙間にも尻尾を差し込めば対応できるだろう。

 その気になれば自分撮りもできる。

 課題は尻尾の見た目を損なわずに仕込みながら高精細な映像の撮影を可能にすること。


『尻尾の毛とか邪魔だもんな』


 色々と工夫が必要になるだろうが、それは逆にモチベーションを上げてくれるのだ。


『是非とも実現させよう!』


 難題だとは思うが苦とは思わない。

 現状のバージョンに至るまでも難題はあった。

 その度に、あれやこれやと手を尽くしてきたからな。


 最初期の問題なんかは現在に至るまで修正に次ぐ修正だった。

 どんな問題かって?

 カメラの映像が揺れまくったことだな。

 猫の体の動きをリアルに再現したことでカメラアイから入る映像がヤバい。


『立体的に動いた時なんて酷いもんだよ』


 たぶん俺のラリードライブに同乗するより厳しいんじゃなかろうか。

 俺は【天眼】スキルがあるから自前で楽々補正できるんだけどね。

 そう、これができるのは俺だけだ。


『無補正の映像を誰かに見せるのは問題あるよな』


 ごく短時間だったりゆっくり歩くだけなら大丈夫なんだけど。

 長時間見続けると間違いなく映像に酔って気分が悪くなる。

 素早く動けば、激しい画面のシェイク振りに短時間でもアウトだろう。

 誰もがそうなるとは言わない。

 中には耐性があって耐えられる者もいるはずだし。


 が、慣れていない者なら多くが閲覧注意な状態に追い込まれると、当時の俺は確信した。

 故にどうにかするべく問題解決に向け手を尽くしてきたのだ。

 もし、この問題をスルーしていたなら今日は映像酔いする者たちが続出したはずだ。


『考えるだけでも恐ろしいな……』


 血の海の方がマシだと思える惨状になっていたとしても不思議ではない。


『良かった、本格的にバージョンアップしておいて』


 人魚組を可哀相な目にあわさずに済んだ。

 俺は内心で安堵していた。

 これに関するバージョンアップ内容は大まかに言うと2種類ある。


 ひとつはハードウェアからのアプローチ。

 カメラの構造をブレに強いものにした。

 ひとことで言ってしまうと、それで終わってしまうのが悲しいところだ。

 衝撃吸収のためだけに、あれやこれやと組み合わせたというのにね。

 衝撃にだって色々な種類がある。

 ひとつの方法でそれらすべてには対応できないということだ。


『一時は恐ろしく複雑な構造になったもんな』


 その割には思ったほどの効果は得られなかったけど。

 お陰で今はかなり簡略化している。

 費用対効果で考えて最適な状態じゃないかという自負がある。

 もちろん完全に処理は仕切れない。

 そこは、もうひとつの方法で対処した。


『ハードがあるならソフトだってあるさ』


 ということで、もうひとつはソフトウェアからのアプローチだ。

 術式を構築して光魔法で映像を処理しているのでソフトウェアと言えるかは微妙かもな。

 人によっては認めないものと思われるが、便宜上そういうことにしている。

 光魔法での処理方法はコマ割りした画像を処理して映像につなげ直すものだ。

 それでブレブレにならない滑らかさを出している。


『けっこう難しいんだ、これが』


 滑らかさを意識しすぎると、逆に気持ちの悪いものになる。


『動きにぬめりを感じるというか……』


 なんとも表現しづらいのだが、これはこれで映像酔いすることになると思われる。

 処理する画像が多いせいなんだけどね。


 まず、ある高さを一定の基点としてベース画像とすることで上下動を抑制。

 これだけで繋いでしまうとスライドショー状態だ。

 次に基点以外の画像を基点の高さに合うように補正していく。

 同時に細かな左右のブレも調整。

 それらを連続してつなげることで定位置にカメラがあるような揺れない映像になる訳だ。


 簡単に言うとこうだが、こんな短い説明で終わるものではない。

 現に細かなバージョンアップを何度も繰り返している。


『ベータ版の頃なんて酷かったもんな』


 何も補正しない方がマシなくらいの代物だった。

 映像はカクカクするし揺れも明らかに残っていたからな。

 調整に次ぐ調整で現在に至る、という訳だ。


『今日の案内で映像酔いしたら泣いちゃうよ』


 泣くのは冗談だが、それくらい自信があるってことだな。

 ダメだったら分析して更に改良するけど。

 さて、延々と廊下を歩くだけでは案内にならない。


『おっ』


 丁度この先の教室で授業が行われているようだ。

 軽く見学させてもらうとしよう。


「これから授業を行っている教室に入る」


 教室の後ろから入るよう黒猫型自動人形に指示を出す。

 授業中なので引き戸は閉じられている。

 だが、隙間くらいは猫サイズでも開けられる。

 猫が通るには困難なわずかな隙間でも大丈夫。

 むしろ、隙間が開いていればどうにでもなるのだ。

 形を変形させて通り抜けてしまう。


「あれぇっ、画面が!?」


 誰かが驚きの声を上げた。

 他の面子も声こそ発さないものの似たような反応だ。

 画面がどうなったか。

 そんな大した話ではない。


 隙間を覗かせた状態でしばし固まってしまっただけだ。

 侵入を開始する直前には画面がブレもした。

 さすがに不定形の状態に変形しているときはカメラも機能しない。

 機能しなければ画像情報も入ってくる訳がない。

 したがって表示されている映像に動きが見られるようになるまで一時停止状態って訳だ。


「心配はいらん。

 一時的に映像を撮影できない状態になっているだけだ」


 そこから復旧すると──


「急に変わった!?」


「ここ何処っ!?」


「広いわね」


「どうなってるのっ!?」


「人がいるわ」


 急に騒がしくなった。


「静かに!」


 俺が声を張ると、静まってくれた。

 このまま騒がしいのが続くのは勘弁してほしいところだったからな。


「教室内への移動が完了した証拠だ」


 どうしてこうなったかの説明は省略する。

 現時点では理解できるとは思えないのでね。


「ここは一般教室だ。

 座学での授業を行う場所だな」


 黒猫に最後尾の誰も座っていない机へ跳び乗らせた。

 光学迷彩を使っているので教室内の人間には気付かれていない。

 気配に敏感なら話は違ったかもしれないが。


 しかしながら授業に集中している状態で小さな侵入者に気付くのは、なかなか難しい。

 少なくとも教室内にいる者たちにとっては。

 黒猫に正面方向を向かせる。


『間違いない』


 誰も気付いてはいない。


『授業の邪魔をせずにすんだな』


 俺は軽く一息ついた。

 一方で人魚組は皆一様に息をのんだ。

 驚いたというよりは学生たちが真剣に授業を受ける姿に気圧された感じだろうか。


「授業内容は分からんだろう。

 今日の所は雰囲気だけ感じ取ってくれればいい」


 そう言い置いて、しばし授業風景を映し続ける。

 ドルフィーネたちは誰もが真剣に見入っていた。


『これなら明日から学校に放り込んでも大丈夫そうか』


 絶対の確信などはない。

 それでも、この時点で拒絶されないのであれば望みはある。

 頃合いを見計らい次の場所へと移ることにした。


「次の場所へ切り替えるぞ」


 ノエルにハンドサインを送ると画面は再び見取り図になった。

 その瞬間、一斉に息が吐き出された。


「そんなに肩に力が入ってると最後まで保たないぞ」


 たぶん無理だと思いながらも注意はしておいた。

 みんなバラバラに頷いてはいたが、その頷きにすら気合いが入っている。

 この調子では学校案内が終わる頃にはヘロヘロになってそうだ。


『しょうがないなぁ』


 少し早めだが、これが終わったら昼休憩にしよう。


『そっか、学食を利用するか』


 学食だけは直に案内することにする。

 学生たちとは時間が被らないだろうし。

 たとえ被っても席には余裕があるから混雑面では問題なしだ。

 人魚組を見た学生サイドが騒ぐかもしれないけれど。


 一応は新しい家族ということで国民が増えた旨はメールを配信して知らせてある。

 いくつか写真も添付してあるから露骨にジロジロ見られることはないとは思うが。

 何が起こるかは俺も予測不能だ。


 とりあえず案内の予定が変更になるのだけが確定した。

 それについてはこちらで対応すればいいだけのことである。

 ノエルにはメールで知らせておけばいいだろう。

 上手くやってくれるはずだ。


「次の場所は野外訓練場だな」


 赤い光点を点滅させてから現場の映像に切り替える。

 ただし、近距離からの撮影ではなく円盤形で斜め上から撮影したものだ。

 さすがに訓練とはいえ戦っている様子は間近でみせると刺激が強すぎると判断した。

 拾う音もわざと絞り込んでいる。


 それでも顔色を変えている者がチラホラと見受けられた。

 些か心配にはなったが、ヤエナミがそこに含まれていなかったので安堵する。

 引き気味の彼女らも慣れることはできそうだ。


『ここでドン引きされると明日以降が厳しくなるからな』


 訓練場の様子を見せるのは早々に切り上げ、次へと移動する。

 こんな具合に各施設を見せてまわった。


「以上で学校案内はほぼ終了だ」


 そう言うと、視聴覚教室内の空気が一気に弛緩した。

 中には机の上に突っ伏す者たちまで出てくる始末である。

 俺を含め古参組としては苦笑するしかなかった。


「お疲れ様。

 少し早いが昼にしよう」


 この一言でみんな復活する。


『意外に食いしん坊が多いな』


 苦笑の連続である。


読んでくれてありがとう。

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