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596 役所へGO

「はーい、整列」


 次の場所へ向かうためにという名目で並ばせてみた。

 特に訓練もしていない人魚組が混じった状態でどうなるか。

 それ次第では明日からやろうかと考えている特訓の難易度が変わってくる訳で。


 俺の号令から動き始めた一同。

 古参組が先頭に立つ形で並んでいく。


「主よ、どうじゃろうな」


 俺の隣に立ったシヅカが聞いてくる。


「レベル相応だろうな」


「手厳しいのう。

 訓練などしておらんのじゃろう。

 あれだけ動ければ上出来ではないかえ」


「初期評価は低い方がいいんだよ」


「よく分からんのう」


「一から育てるなら伸び代を確保しておくのが吉だ」


 スタートで伸びたと思わせるには初期評価を抑え気味にしておくのが味噌である。

 最初が高いと訓練で普通の成果を出しても評価しにくい。


 最初こそ成功体験をさせておくべきなのだ。

 褒めるか実感させるか、人によってやり方は違うだろうけど。

 後者はかなりのスパルタになるだろうから今回の場合はお勧めできない。

 人魚組はつい先日まで我慢を強いられていたからな。

 各々が溜め込んでいたストレスは如何ほどか。


『俺には想像もつかんな』


 いずれにせよ、まだまだ発散しきれていないだろう。

 表面上は人魚組の面々も普通に振る舞ってはいる。

 けれども、大きな不満があればすぐに爆発してもおかしくはない。

 イライラが続くような状況も良くないだろう。

 それだけ長く我慢を強いられた生活によって許容可能な部分が減っているってことだ。


「ふむ、主がそう言うのじゃ。

 そういうことなんじゃろう」


 そんなやり取りをしている間に整列完了。


『なかなか優秀だな』


 そうは思ったが、ここでは何も言わない。

 褒めるとするなら明日以降にとっておくべきだ。


 あと、神の子の号令だからキビキビと動けているだけという見方もある。

 真相は聞いてみないと不明だがね。


『怖くて聞けないけど』


 面倒っていうのもあるけど、今回に限って言えばメインではない。

 俺が思っている以上にビクつかれているとかだったら、なんて考えてしまったんでね。

 罪悪感から来る申し訳なさとか感じてしまう訳だよ。


 あと、恐れられることで壁ができるのが寂しいとかもある。


『俺にとっちゃ国民は家族だからな』


 友達付き合いになるかと思っていた人魚組が国民になってくれたんだぜ。

 人前ではしゃいだりはしなかったが、嬉しかったんだ。


 もちろん他の国民がうちに来てくれたときも同じように喜びがあったさ。

 ただ、今回は友達どまりだろうと勝手に思っていたのでね。

 友達は大事にしないとなとか、あれこれ考えていたんだ。


 そんな中で国民にという流れだったから完全に想定外。

 だから、その分の差が嬉しさに拍車を掛けたと言えるのかな。


『他の皆と比べて意気込みが増したとかはないんだけどさ』


 友達と家族という彼女らの立ち位置が変化したことでモチベーションは上がった。

 友達よりも家族の方がずっと大事だからね。


『大事に思っている家族から避けられたら悲しいだろ』


 ああいう感覚だ。

 幸いにして避けられている感じではないので助かっている。

 目の前から逃げ出されたりされたらと思うと、それだけでショックだ。

 マジでそんなことになったら俺は泣くかもしれん。

 え? 成人した大人の男がキモいって?

 俺にとっちゃそれくらいショッキングな出来事になると言いたいのだよ。

 泣くことはなくても寝込むくらいはするかもな。


「よーし、そろったな」


 彼方此方からバラバラに返事がきた。

 まだという声が無いことを確認。


「じゃあ、転送魔法を使うよ」


 そう言うと人魚組を中心としてざわめきが起きる。


「今日はミズホシティの外には出ないから」


 ざわめきのトーンが小さくなった。

 それでもヒソヒソな感じの会話が彼方此方で行われている。

 何処へ行くのだろうと些か不安はあるようだ。


「神社は城を出てすぐだったけど、次の場所は徒歩だと距離がある。

 時間短縮と皆の体力の消耗を考慮しての転送魔法だ」


 そう言うと、全体に安堵した空気が流れた。


『そんなに不安だったのか』


 これはかなりビクビクしているかもしれない。

 サプライズとかは極力回避すべきだろう。

 余裕のあるときに行うべきだな。


「じゃあ、行くぞ」


 なるたけ自然になるように心掛けたつもりだ。

 あまり大仰にすると、それだけで不安になるだろうし。

 変な演出も入れずにササッと移動。

 それでも移動直後にビクッとされるんだよな。


「「「「「っ!?」」」」」


 予告ありでも未だになれない人魚組ではある。


『これはしょうがないんだよ』


 自分にそう言い聞かせる。

 それと、神の子への意識が薄れるのもあるだろうから悪いだけではないはずだ。


『できれば今日中に慣れてほしい』


 贅沢で無理な願望ではあるとは思うけどね。

 とりあえず、人魚組が落ち着くのを静かに待つ。

 特に声を掛けたりはしない。

 徒歩で歩いてくることを思えば数分程度の時間を待つくらいは大した時間ロスではない。


 徐々に静まっていく人魚組。

 古参組は銘々が勝手に雑談モードだ。

 まあ、人魚組の動揺が収まるにつれ静かになっていくけどね。

 頃合いを見計らって俺は案内を始める。


「それじゃあ、次な」


 少し間を置く。


『大丈夫だ』


 皆ちゃんと聞いてくれている。

 ガチガチな状態の子はいないようだ。

 内心で密かに安堵した。

 俺の話を聞く余裕がない子がいた日には、どうなっていたか。


『ううう、考えたくない』


 ということで案内だ、案内。

 少しでも雑念を振り払えば気も紛れるだろう。


「俺の後ろにあるのが役所だ」


 半身で振り返りながら建物を指差した。

 動揺を悟られぬよう【ポーカーフェイス】スキルの力を頼った。

 そこまでしなくても、人魚組は建物の方に目が釘付けだ。


「大きぃーっ」


「なんか凄いわねー」


「お城だけじゃないんだぁ」


「えー、でもお城の方が大っきいよー」


「どこもかしこも大きいでいいじゃない」


『君ら、大きさしか話題がないのか?』


 内心でツッコミを入れておく。

 リアルでやると、また土下座されかねないのでね。


「国民としての手続きや相談はここで行うことになる」


「「「「「おお─────っ」」」」」


 何故か、やたらと感心されてしまった。

 必要となるであろう常識を先に与えているからだろうか。

 でなきゃ質問が飛び交って賑やかなことになっていたと思うし。

 マルチプルメモライズでうちの常識を渡しておいて良かった。


『ああ、でも細かな手続き方法とかはまだだっけ』


 その辺りを説明していかなければなるまい。


「神社の次に来たのは住民登録をしてもらうためだ」


 この人数を登録するのはなかなか大変だがね。

 ここで挙手があった。

 名も知らぬドルフィーネの1人だ。


「はい、そこの人」


 指差して指定する。

 同時に全体に声が行き渡るよう彼女を中心とした拡声の魔法を使っておいた。


「すみません、ありがとうございます」


 手を下げてペコリとお辞儀した。


『ほほう』


 俺は密かに感心していた。

 この子は他のドルフィーネたちより度胸があるなと。

 お辞儀をするまでの流れの中で俺にビビっている感じの素振りは見て取れなかった。

 それだけのことと言うなかれ、だ。


 現状でも俺の一挙手一投足で人魚組は目立たないけどビクビクと反応しちゃうんだよね。

 それがないだけでも大きく違って見える。

 人魚組の中で他にそんな面子はナギノエとヤエナミだけである。

 ヤエナミは他の人魚組より俺と接している時間が長いからというのもあるとは思うけど。


「質問なんですが、よろしいでしょうか」


 既に指定したのに確認してくるとか律儀なことである。


「おうとも。

 疑問があれば、ドンドン聞いてくれ」


「私達は住む家が決まっていないのに住民登録ができるのでしょうか」


 実に真っ当な疑問であった。

 が、これも手続きに関する知識を渡していないせいである。


「心配は無用だ」


 細かな説明に入る前に言っておく。

 些細なことだが、安堵する空気が流れた。

 これで聞き漏らされることもないだろう。


「国民であるなら何ら問題はない。

 諸君らの場合は住所欄はミズホシティと記載されるだろう」


 俺の説明にほとんどの者が納得したようだ。

 質問ちゃんは、まだ疑問が残っている様子である。


「他にも疑問がありそうだな」


「細かなことなのですが」


「構わんよ。

 ドンドン聞いてくれと言っただろ?」


「後で住所が決まったときに役所で手続きする必要があるということですよね」


「その必要はないぞ」


 そう答えると、さすがの質問ちゃんも目を丸くしていた。


「今日は身分証も一緒に渡す。

 住所が決まったら同時に渡す魔道具で身分証に設定するだけでいい。

 魔道具が自動的に役所へ情報を送って登録内容を変更してくれる」


「「「「「おーっ」」」」」


 ちょっと感心されてしまった。

 質問ちゃんも納得の様子である。

 最新のシステムにバージョンアップして間がないことは黙っていよう。


「ちなみに身分証は他国では冒険者の証明にもなるものだ」


 最初は身分証をどうするか悩んで保留していた。

 けれども、他国でも通用するようにすることを考えれば答えはすぐに出た。

 幸いにして冒険者カードなら既に触れたことがある。

 コピーは容易だった。


 そして後は魔改造である。

 情報を登録する欄はいくらでも余裕があったので何の問題もなかった。

 西方で使っている魔道具で読み取られないようにする必要はあったけどね。


 そんなに難しいことじゃない。

 ミズホ語、すなわち日本語を使うようにして隠蔽の魔法をかけただけ。

 隠蔽しなくても読み取れないことは冒険者ギルドの魔道具で確認済みだけどね。


「他に質問のある人」


 返事はない。


「なら、中に入って登録だ」


読んでくれてありがとう。

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