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595 過去に倣えばいい

 ローズが前の出来事を思い出せと言ってきた。

 人魚組の土下座をどうにかする方法があるようだが……


『はて、いつのことだろう』


 記憶を遡ってみる。

 最近のことじゃないらしいが、すぐには思い出せない。


『いつの話だ?』


 それこそ最初から考えた方がいいかもしれない。

 最初と言っても生まれ変わって建国した頃は除外されるだろう。

 ローズとは出会っちゃいないんだし。

 思い出すとするなら、そこからか。


『精霊獣として誕生する瞬間に立ち会ったんだよな』


 場所は暴走した後のダンジョン最下層。


『いきなり契約を求められたっけ』


 ずいぶんと懐かしく感じる。

 が、ローズが言う話につながりそうな何かが感じられない。


『懐かしがってちゃダメなんだよ。

 次だ、次。

 つっても、ここからイベントが目白押しだったよな』


 ダンジョンから出た直後に妖精組と出会った。

 皆でバーベキュータイムになって。

 食べ終わった頃にツバキが出てきたっけ。

 まあ、俺が出てくるように促したようなものだが。


『ん?』


 そういや、人魚組と食事をしたのも夜だったな。

 メニューは大幅に違うが、なんとなく場の雰囲気が似ているように思えた。


『みんな引っ繰り返ってディジェスト使ったからかもな』


 その後、王都ミズホシティに連れ帰った状況も似ている。

 妖精組の時は空を飛んで帰りはしたけどね。


『でも、眠っている間にミズホシティに来たからなぁ』


 感覚的には今回の転送魔法で跳んできたのと変わらないのかも。

 そのあたりは妖精組に聞いてみなければ分からない。

 今回の状況とは相違点も多々ある訳だし。

 国民となったタイミングとかね。

 だた、俺は似ていると強く感じるようになってきた。


『そういや目覚めるなり騒いでいたっけ』


 人魚組も好奇心を隠そうとしなかった。


『ふむ……』


 これだけ似ていると感じるなら、ローズの言いたいことの答えはきっとこれだ。

 あの時の何かが鍵になるのだろう。

 未だにピンと来るものがないが……


『いや、アレだ!』


 不意に思い出した。

 妖精組がうちの国民となる宣言をした直後の出来事だ。


『急にルディア様が来られたんだよな』


 いつもの侍風な雰囲気をぶち壊すようなバイオレンス風味な黒レザーの出で立ちだった。

 アレを忘れていたとか俺もどうかしている。

 かなりギャップがあったせいでインパクトも充分あったというのに。


 けれども、ひとたび思い出すとスルスルと記憶が蘇ってくる。

 混乱した妖精組が、ただただ土下座するだけマシーン状態となった。


『そういや、あの時も四苦八苦させられたよな』


 俺がじゃなくてルディア様がだけど。

 とにかく妖精組の頭が上がらない。

 時代劇なら「面を上げい」なんて偉い人が言うと従うのにね。

 妖精組はルディア様の言葉が届いていないかのようにノンストップ土下座。


『あの時はベリルママに来てもらったんだよな』


 更に混乱させて訳が分からない状況に追い込んだ。

 それくらいしないと妖精組の頑なな状態を解除できなかったと思う。


「あっ」


 俺は馬鹿じゃなかろうか。

 危うく解決策をスルーしてしまうところだった。

 暖気に懐かしがってる場合じゃない。


「くーくくぅ?」


 思い出した?


「おうよ、アレを再現すればいいんだよな」


「くうくぅ」


 そゆこと、だってさ。

 ファインプレーなんだけど微妙に上から目線だ。

 だが、まあ腹は立たない。

 逆にあんな単純な手を忘れていた自分にムカついたくらいだ。


「恥ずかしくなるくらい綺麗に忘れてた」


「くくっくー」


 ダメじゃん、だって?


「ハハハ、面目ない」


 ついつい乾いた笑いが漏れてしまう。

 そういうのは良くないとは思うのだがね。


「くうくっくくぅくーくぅ」


 笑ってる場合じゃないよ、って?


「まったくもって仰る通り」


 透かさず入れられたツッコミに反省しきりである。

 ただ、反省するのも後回しにしないといけない状況だ。

 人魚組に慣れない土下座をこれ以上させておく訳にはいかない。


『たぶん脚が痺れ始めている者もいるだろうし』


 このまま放置プレイが続けば、間違いなくそうなる。


「じゃあ、始めようか」


 以前使った手を再現するだけの簡単なお仕事です。

 ただし、言うは易く行うは難しだ。

 ルディア様は呼べないからだ。

 忙しいベリルママの補佐をされているようだし。

 邪魔以外の何物でもないだろう。


 エヴェさんも止めた方がいい。

 下手をすると海水浴イベントがまたも先送りになりかねないからな。

 このままだと再現などままならない。

 そう思ってしまうところだが、道は残されている。


 ここでまず実行するのは脳内スマホを使うことではない。

 電話は必要ない代わりに魔法を使う。


 マルチプルメモライズ。

 必要最低限に絞っていた情報を更に小出しにする。

 その事実だけを伝えることでインパクトを持たせるために。


「「「「「────────っ!?」」」」」


 人魚組から顕著な反応があった。

 土下座のままビクッと震えたかと思うと頭だけはどうにか上げた。

 そしてキョロキョロと落ち着きなく周囲を見渡す。

 最初は困惑の表情だったのが、次第に焦りを帯び始める。


 目的とする人物が見つけられない人魚組に指差しながら教えることにした。

 苛めるためにしていることではないのでね。


「後ろの方にいるよ」


 誰がとは言わなくても意味は通るようだ。

 驚きつつも横を向きつつ振り向く人魚組の面々。


「ヤッホー」


 俺に指差されたことで、トモさんは察してくれたようだ。

 にこやかに手を振って自分の居場所を人魚組にアピールしてくれている。


「「「「「───っ!」」」」」


 すぐに発見するも、今度は俺とトモさんの間で視線を右往左往させ始めた。

 中には横を向いたまま左右に頭を下げる者までいる。

 忙しない感じでパニクってますよ。


 なんだか微笑ましい感じがしないではないが本人は至って大真面目である。

 こういう反応は少し予想外だった。

 悩みに悩んでの状態なので馬鹿にはできない。


『俺以外にも神の子がいると知れば、こうなるのか』


 他所の世界の神様の子供というのが余計に動揺を誘うのかもしれない。

 予想していた以上に焦っている気がする。

 早急に何とかしてあげたいところだ。


「世話が焼けるわねえ」


 溜め息交じりにマイカが呟いた。


「アンタたち、少しは考えなさいよ」


 人魚組に話し掛けるマイカさん。

 姐御モードが発動している感じだ。


「神様の子供相手に土下座するなら本番が来たらどうするつもり?」


「来週になったら本物の神様が来ちゃうんだよ」


 ここでミズキも援護射撃に入ってくれた。

 両名が左右に分かれて歩いて行く。

 この2人も俺がどう魔法を使ったか理解してくれたようだ。


『助かるわー』


 感謝感激である。

 察してくれなかったら、第2段階として念話でお願いしていたところだ。

 なんにせよ、お陰で人魚組はグルグル回り始めた。

 四方を囲まれれば尻を誰かに向けることになるからな。


 いい具合に外そうとしても、そうはさせない。

 こっちだって動けるからね。

 そうなれば土下座なんてしている余裕などありはしない。


 まあ、まだ正座したままだけど。

 中には中腰になって脚の痺れと戦っている者もいたが。


 そんな訳だから治癒とバフの魔法をサクッと使っておく。

 人魚組の痺れを解消しつつ心の負担も軽くする。

 そうすることで時短を目指した訳だ。

 試しにナギノエとヤエナミに声を掛けてみる。


「いきなり土下座とかされると、困るんだがな」


「「申し訳ございません」」


 しょぼくれた顔でそんなことを言われると、こっちが悪いことをしているみたいだ。

 罪悪感ゲージが跳ね上がるので勘弁願いたい。


「で、どうする?

 もう1回、土下座するか」


「いっ、いえっ、それはありませんっ」


「右に同じですっ」


 2人してガクガクと首を縦に振るのだが……


「だったら、正座は止めて立ってくんない?」


「「しっ、失礼しましたっ!」」


 慌てて立ち上がってきた。

 ただし、直立不動。

 こっちとしちゃ頭を抱えたくなる反応だ。


 けれども、それを見た人魚組が後に続いてくれたのはラッキーだ。

 立つように促す必要がなくなったからね。

 全員に向けて声を掛けて、果たして立ってくれたかどうかなんだよな。

 直立不動ではあったけれども。


「そんなすぐには無理か」


「慣れですよ、ハルトさん」


 そんなことを言ってきたのはエリスだった。

 確かにそうかもしれない。


「下手にここであれこれ言うより、先に進んだ方がいいでしょう」


 そのアドバイスを受け入れて神社にお参りすることにした。

 数百名規模なのでそれなりに時間はかかったけどね。


 二礼四拍一礼の作法は先に知識を渡しているので特にまごつくことはなかった。

 鳥居の外に出る頃には少し落ち着きを見せていたので密かに安堵したものだ。

 とはいえ、まだまだぎこちない感じがする。


『慣れてもらわないと困るんだよなぁ』


 ベリルママが来るのは確定しているし。

 どうなるかは未知数だ。


『土下座は回避できてもビクビクされっぱなしじゃ意味ないし』


 そのあたりは海水浴の予定日までにどうにかするしかあるまい。

 学校に放り込んでメンタルを鍛えるぐらいしか思いつかないが。

 あんまりビシバシ厳しくするのは考え物だし悩ましいところである。


『とにかく明日以降だな』


 今は案内が先だ。

 全員がそろったのを確認して次の場所へと向かう。


読んでくれてありがとう。

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