589 トモさんとつくってみた『焼きそばを使ったアレ』
「おらおらぁっ!」
鉄板の上を大量の具材が舞い踊る。
中太麺、キャベツ、人参、ピーマン、タマネギ。
ジュージューとソースの香ばしい匂いが漂ってきた。
「なあ、トモさんや」
焼きそばづくりに鬼気迫る表情で挑んでいるトモさんに声を掛けた。
「なにかな」
返事はあるが、こちらを一瞥することさえないような状態だ。
両手に持ったコテは忙しなく動いている。
そのたびに周囲へソースの香りが拡がっていく。
気合いが入っているどころの話ではない。
焼きそばづくりを買って出てくれたときは単純に助かるとしか思わなかったのだが。
『どんだけ本気なんだ』
ここまでとは思っていなかった。
だからこそ問いたいことがある。
「肉なし焼きそばを作るつもりかい?」
一瞬、ビタッと止まる。
そしてコテを動かす手が更に速くなった。
当社比300%ぐらいだろうか。
『ああ、こういう時は通常の3倍のスピードだと!? って言うべきか』
絵面的に微妙ではあるが。
コテさばきは華麗と言えなくもないがね。
何にせよ肉を入れ忘れたのは、ほぼ確定である。
「肉がなかろうと我が焼きそばは最強なり!」
『やっぱり……』
芝居じみた口振りで言った後に「フハハハハ!」と高笑い。
言うまでもなく声も仕事用の渋い感じだ。
でも、誰かの物真似をして誤魔化す余裕がないのは明らか。
確実に動揺している。
それでも調理をミスることなく焼きそばは作り終えていたけどね。
そして倉庫からソーセージを何本も出してきて焼き始める。
「肉なし焼きそばの上にソーセージをのせて誤魔化すんだ」
ボソリと呟いてみた。
「ギクッ!」
口で言っちゃってますよ。
「ギャグアニメじゃないんだからさ」
苦笑せざるを得ない。
トモさんは追い詰められた表情になっていた。
これがホントにギャグアニメなら凄い量の汗がダラダラと顔面を流れていることだろう。
焦った様子を見せながらもソーセージを焼き続けている。
『細長いタイプか……』
それを見てふと思った。
『使えそうだな』
料理のレシピサイトなんかで見たことがある。
完成した焼きそばに、焼いている最中のソーセージ。
俺はもうひとつ食材を用意することにした。
倉の中で焼きそばの数に合うだけを用意して切れ目を入れていく。
「おっと、ちょいと待った!」
トモさんがコテでソーセージをぶった切ろうとしているのを見てストップを掛けた。
ギリギリの所でコテが止まる。
「どうしたのさ?」
「ソーセージはそのまま焼いてくれるかい」
「へ?」
怪訝な表情を浮かべたトモさんだったが。
「わかった、ハルさんがそう言うなら」
そう言って切らずに焼き続けてくれることになった。
「ソーセージが足りないから、もっとジャンジャン焼いてくれるかい」
「了解!」
追加で投入されるソーセージの山。
山は言い過ぎかもしれないが、とにかく大量のソーセージだ。
普通なら捌ききれるはずもない量である。
だが、トモさんは残像で手を何本にも見せるような早技のコテさばきを見せる。
「うおりゃああぁぁぁっ」
ただの1本も焦がすことなくソーセージを焼き上げていく。
俺が何故にソーセージを切らずに焼くように言ったのかなど既に気にしていない。
理由は分からなくてもトモさんはノリがいいからな。
あと俺に何か考えがあることを察してくれているというのもあると思う。
それに答えるべく次の行動に移る。
「ハリー、黒猫3兄弟、ここに」
そんなに忙しくしていないように見受けられた4名を呼び寄せた。
瞬時にシュバッと参上して片膝をつく4名。
相変わらず忍者チックな登場の仕方だ。
「………」
無言のハリー。
『なんかお庭番って感じだよな』
「「「黒猫3兄弟、ただいま参上」」」
一方でハモっている3兄弟は少し古い子供向け忍者アニメを思い出させてくれた。
3人組が主人公になる忍者の卵のやつではない。
街に出てきた忍者が少年の家に居候する方だ。
漫画が原作の作品である。
原作者はセールスマンが笑うのとか奇想天外な技を使うゴルフ少年の漫画も描いている。
あのアニメにおけるオープニングの台詞が想起させられたのだ。
何故かは俺にも分からない。
とにかく集まってくれた4名には手伝いをお願いするつもりである。
俺の指示通りに料理を仕上げる簡単なお仕事ですってな。
他の古参組もそれぞれ別の料理を作っている。
なんだか、ちょっとした競技みたいに思えてくる。
そんな訳はないのだが。
むしろリハーサルのようなものだ。
『海水浴イベントに向けて試験的にあれこれ作ってもらっているからな』
弟子1号2号はもちろんコンビで調理担当だ。
関西の某百貨店名物となっているイカ焼きを作っている。
他の妻たちは何人かで組になって全員が何かしらの調理を担当してくれている。
子供組も声を掛ける前から調理担当として立候補してくれた。
メニューは様々である。
カレーライス、豚汁、うどん、カツ丼、ハンバーガーなどなど。
見事に統一性がない。
屋台のメニューって感じでもない。
『まあ、海の家なら考えられそうなのもあるけど』
皆が食べたいもの作りたいものを自由に作っていいことにしたら、こうなった。
どうしてとは言わない。
モチベーションに水を差すほど野暮じゃないつもりだ。
直接は調理に関わっていない残りの古参組も生き生きと手伝いをしているからな。
マリカも子供組に混じってあれこれと働いているし。
シヅカも弟子組の手伝いだ。
フラフラしているのはローズくらいのものである。
ただし、ドルフィーネの間を行ったり来たりしているからカウンセリング担当だろう。
あの姿を見ると妖精組と初めて食事をした時を思い出す。
こんな具合に皆、何かしら仕事をしている状態だ。
え? 俺は何もしないのかって?
『俺が作ると皆にノウハウが行き渡らないからなぁ』
海水浴イベントの時は自動人形に作業をさせるけどね。
でも、自主的な行動を禁止するものではない。
中には屋台をやりたいという者たちも出てくるだろう。
後はドルフィーネたちにも手伝ってもらっている。
『これも立派な交流だよな』
ドルフィーネたちが感じていた空腹は相当なものだったがね。
そこはポーションを配って我慢してもらった。
体力回復と疲労回復のやつでね。
皆してシワシワの顔をしていたよ。
それでも少しは空腹が紛れたようだ。
鈍っていた動きも良くなったし。
一応、できる範囲でいいからと言っておいた。
無理をするような者はローズのストップがかかっていたけどね。
あと、味見と称したつまみ食いも承認。
これだけでも随分と違うと思う。
「それで我々は何をするのでしょう」
俺が指示を出す前にハリーが聞いてきた。
「うん、調理の仕上げを担当してもらう」
そう言ってテーブルを出して倉の中で用意したものを引っ張り出して積み上げた。
食材のひとつひとつに皿代わりの紙が敷かれている。
手に持って食すので包み紙の類いに近いのだけれども。
「パン、ですな」
長兄ニャスケの言葉に次兄ニャンゾウがツッコミを入れる。
「兄者、コッペパンだ」
「そんなの、見りゃ分かる」
「これで仕上げを?」
末弟ニャタロウが軽く言い争う兄たちを尻目にテーブルと俺を交互に見て問うてきた。
「そうだ」
「切れ目が入っているということは、ここに具材を挟むのですね」
「正解」
俺が言うより先にハリーが動いている。
自分の倉庫からトングを引っ張り出してパンに焼きそばをのせていた。
「おおっ、焼きそばパンにする手があったか。
これなら肉なしでも誤魔化せそうだ」
そこでトモさんから納得の声が聞かれた。
だが、それは正解ではない。
「違うよ、焼きそばパンで仕上げる訳じゃない」
「え?」
ソーセージを焼く手は止まらないが、トモさんの表情は困惑に染まっていた。
「残念だけど似て非なるものだよ」
トモさんへの返事に続いてハリーに指示を出す。
「ハリー、焼きそばを少し減らして」
「はい」
メニューが焼きそばパンであれば適量に盛られた焼きそばの盛りを少なくさせる。
特に疑問を口にすることなくハリーは指示に従った。
「減らしたら焼き上がったソーセージをのせろ」
「はい」
盛りつけが終わったものを俺に見せてくる。
「それくらいの分量で量産だ」
「はい」
「俺たちもやるぞ」
「「おうっ」」
ハリーの返事に黒猫3兄弟たちも続く。
あっと言う間に仕上がっていった。
「なるほど、焼きそばドッグだったんだ」
ドンドン仕上がっていくのを見ながらトモさんが感心していた。
「そゆこと」
「怪我の功名かな?」
「どうだろうね。
それよりも呼び込みをしないと売れ残りになる」
「売り物じゃないよ」
「いや、そういうツッコミはいいから」
何故か漫才的やり取りになってしまう我々であった。
『ダメじゃん』
真面目にやろう。
「さー、焼きそばドッグができたよー」
「欲しい人は並ぶべし」
俺とトモさんが軽く声を張り上げた。
するとゾロゾロと何人かのドルフィーネが集まってきた。
数十人といったところか。
他の所で並んでいて後ろになった面子がこちらに流れてきたようだ。
出遅れた分は取り戻さないとな。
読んでくれてありがとう。




