574 戦闘終了
「まずはロール回転か」
「スクリューブローは貫通力がありまっさかいなぁ」
「あ、そっちの見立てでしたか。
俺は機関砲弾だと思ってました」
「そういやセールマールの世界やとそんなもんがありましたな。
言われてみると、そっちの方がしっくりきますわ。
言い得て妙っちゅうやつでんな」
そんなに感心されるほどのことでもないと思うのだが。
『まあ、いいか』
事実はひとつでも、感じ方は人それぞれ千差万別ってことだ。
特にこちらの世界では銃器はないからね。
だからエヴェさんが言ったように感じても無理はないのだろう。
「それにしても、えらい仰山まわしますなぁ。
弾扱いされてる魔物は使い捨てるみたいでんな」
『亜竜クラスを百頭単位でか』
「贅沢な使い捨てではありますね」
連中はそうでもしなければ駄目だと判断したのだろう。
そこにとやかく言うつもりはない。
残虐?
今更の話だろう。
シャークマンが残虐なのは、もともと分かっていたことだ。
それにジャイアントシャークも凶悪な魔物である。
『こっちの世界じゃ動物愛護とか言ってられないんだよ』
見逃せば、それだけドルフィーネとかが被害を被る訳だし。
弱肉強食が地球などより色濃く反映される世界だから甘さは見せられない。
それにコイツらを狩り尽くしても再発生するんだよな。
このあたりが野生動物とは違う。
魔物ならではと言える。
海にもフィールドダンジョンがあって、主にそこから湧いてくるのだ。
あとは魔力の淀みになっているような場所でも発生する。
魔物に限って言えば絶滅なんて考えられない訳だ。
仮にジャイアントシャークが絶滅するようなことがあったとしよう。
ルベルスの世界じゃ、ほとんどの者が文句を言わないだろう。
例外はアレを使役しているシャークマンくらいのものだ。
西方人の大半は海へ出ないのが基本だから、何も言わないはず。
海エルフやドルフィーネなどは称賛すらするのではないだろうか。
実際にそうなってみなければ確たることは言えないが。
的外れではないと思う。
『まあ、いずれにしても凶暴凶悪な魔物を見逃す訳がない』
この百頭を見逃せばヤエナミの仲間たちの今後に影響するかもしれないし。
別に国民じゃないから、以後も積極的に保護する訳じゃないけど。
この場の危険要素を排除するくらいはするさ。
なんて格好をつけちゃいるが、別の目的もある。
『アイツら旨いしな』
そう、食材の確保である。
そう言う意味でも相手の扱いになど構っていられない。
逃さずトドメを刺して、おいしく食べるだけだ。
一石二鳥と言うと下種っぽくなってしまいそうだけど。
旨い肉はゲットしたい。
それ故に気になるのは回転しすぎじゃないのかということだ。
「あー、回すのはそれくらいにしてくれー」
いつもより多く回っておりますとか言うんじゃないだろうな。
『おめでたくなんてないんだから、さっさと撃ち出しやがれ』
喉まで出かかった言葉は飲み込んでおく。
「どないしはったんです!?」
エヴェさんが目を丸くしていた。
『そんなに驚くことか?』
一瞬、考え込みそうになってしまった。
『もしかすると弱気発言と思われたのか』
「あれだけ回転させたら内臓が酷いことになりそうで」
エヴェさんが呆気にとられた表情になった。
そして次の瞬間、笑い出す。
「ハッハッハ!
そりゃ確かに大変ですなぁ。
食材として見たら、アレはヤバいでっせ。
今のまま回転続けたら使える身がだいぶ減りまっしゃろ」
「だから、そう言ってるじゃないですか」
言われなくても分かっているのだ。
弾けてミキサーに掛けたような内臓が肉だけでなく血まで汚染する。
考えたくはないが、このままだと食材どころか素材もダメになってしまいかねない。
『アイツら分かっててやってるのか?』
シャークマンどもがそこまで計算しているとは思っていなかったのだが。
こうもしつこく回転させていると疑いたくもなってくる。
「とっくの昔に目が回って失神してまっさかいなぁ」
それは俺も確認してる。
拡張現実の表示で状態異常がないか見てみたが[失神]だった。
『まだ破裂はしてなさそうだ』
時間の問題だとは思うが。
「そろそろヤバいんとちゃいますか?
どないなってますやろなぁ」
状態が[瀕死]になったらアウトだ。
しかしながら、いつそうなるかというような状態だ。
「言うても祈るくらいしかできまへんで。
内臓がグチャグチャになってまへんようにって」
それくらい派手に回されている。
『せめて洗濯機くらいの回転だったらなぁ』
願ったところで叶いはしない。
術式を制御しているシャークマンにしても必死なのだ。
手抜きなどするはずがない。
まして「食材が傷むから回転を落とせ」などと要求しても聞き入れる訳がない。
『最悪の場合、グシャグシャの部分は削ぎ落とすしかないな』
どれだけ使えるかは運次第となりそうだ。
とにかくシャークマンたちに向かって「もういいだろ」と何度言いたくなったことか。
『うんざりだぜ』
思わず溜め息をついていた。
その時である。
「そろそろ来まっせ」
エヴェさんの言葉通り状況に変化があった。
ジャイアントシャークという砲弾の周囲に新たな術式が流れ込んできていた。
「螺旋水流波ですか」
「さっきとは威力が桁違いでんな」
「だからこそ撃ち出す勢いがある」
「おまけに更なる回転や。
今までの回転に更に回転を加えてきまっか。
擦っただけでも、ゴッソリ削られそうや」
『確かに、そうだな。
まるでディスクグラインダーだ』
形状は大幅に異なるが、電動工具を想起させる回転振りだったからな。
が、そんなことで感心している場合ではない。
「来たっ!」
先程をはるかに超える螺旋水流波の勢いで巨大砲弾が射出されていく。
連続で一気に迫ってくるが、こちらも黙ってはいない。
動くのはメタルサーバントに乗った皆であって、俺ではないけどな。
海面に向かって螺旋機動で降下しながら砲弾を側面から殴りつけていく。
首ポキならぬ腰ポキをされて彼方此方に飛び散る砲弾。
もちろん結果は即死だ。
後は自動人形を介して倉へ回収である。
もちろん、即座に中身のチェックを行ったさ。
「……………」
とりあえず大丈夫なようだ。
後続が安心安全とは限らないけどね。
片っ端から回収して倉の中で確認していく。
確認が終わったら鮮度を落とさないように倉庫行き。
「内臓はどうにかセーフです」
「そりゃ良かった」
「際どい所ですから後続はダメなのもあるかもですけど」
「そこは、しゃあないでっしゃろな」
そんな一言と共に苦笑されてしまった。
「ところでハルトはん」
「はい?」
「こういう時に定番の台詞は言わんのでっか?」
「定番の台詞ですか?」
「獲ったどぉとか、食材ゲットだぜみたいな」
ド定番の後者はともかく前者はアニメじゃないだろう。
まあ、定番の台詞ではあるけれど。
「よく御存じですね。
言われるまで俺の方が忘れてましたよ」
「そりゃもう、嫌や言うても見せてくる御仁がおりましたさかい」
同情を禁じ得ない。
思わず責任を感じてしまう。
そんなものを感じる義理も必要性もないのだけれど。
とにかく申し訳なさで一杯だ。
なんで、アレがベリルママの筆頭眷属なのか。
冗談がキツすぎる。
「それを聞いてしまうと、言いたくないですね。
そもそも戦闘中なので不謹慎とも言えますが」
「ああ、そうでしたな。
すっかり忘れてましたわ」
「「アハハハハ!」」
2人して乾いた笑い声を出してしまった。
ひとしきり笑い終わると溜め息を漏らす。
そんな俺たちを見てヤエナミは絶句していたけれど。
「さて、ジャイアントシャークは片付いたようでんな」
「あー、そうですね」
下らないことを言っている間にも皆は海面に突入し、次々と獲物を仕留めていた。
一部ダメになった食材もあったが、そこは仕方がない。
状態の悪いものは1割ほどか。
『上出来な方だろうな』
そう思うしかあるまい。
ダメなやつだけ先に処理して使えない部分は分解の魔法で抹消する。
その間にもうちの子たちは円陣に向かって突入していき──
『終わったな』
後はもう一方的な掃討戦になってしまった。
巨大機関砲が通用しなかった時点で士気はガタガタである。
魔力もスッカラカンで、まともに戦える状態ではなかった。
いや、魔力の使いすぎで逃げることもままならない。
「まさに背水の陣だった訳か」
「周りは水だらけでんがな」
ツッコミなのかボケなのか、よく分からないことを言ってくるエヴェさん。
「なんでやねんと言った方がいいんですか」
「ハハハ、そこまで要求しまへんがな」
そんなことを言いながらも視線を逸らすのだが。
『本当はセールマールの世界から来たとか言うんじゃないよな?』
実に疑わしいところである。
面倒だから追及はしない。
そんなことより戦闘が終わってしまった。
最後の足掻きとばかりに徹底抗戦の構えを見せていたシャークマンたち。
魔神によって強化されていようと消耗していれば、まともに戦えるものではない。
一方的にやられてしまうだけであった。
『同情はしない』
瀕死の重傷を負わされたヤエナミのことを考えればできるものではないだろう。
とにかく終了である。
戦闘はね。
読んでくれてありがとう。




