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573 工夫はするようだ

 残りは千の精鋭……

 西方人の常識で考えれば驚異的な戦闘力を持つ集団なのだが。


『見劣りするよな。

 うちの子たちと比べると』


 しょうがない。

 全員がすでに亜竜クラスを子供扱いできるレベルだ。

 メタルサーバントに乗っているからとか、そんなのは関係ない。


 むしろ攻撃力に縛りを入れているから、まだ掃討戦のように見えている状態だ。

 これで制限なしだったらシャークマンたちもとっくに終わっている。

 生身かどうかは関係ない。

 一部に眷属化による強化した奴がいても関係ない。

 魔法の一斉射だろうが、同調による威力拡大だろうが関係ない。


 実際、俺が近接戦闘を指示したのと、ほぼ同時のタイミングでデカいのを撃ってきた。

 数十人の同調による螺旋水流波を。

 こいつは水のトルネードみたいなものだ。

 他の言い方をするなら火災旋風の水バージョンとか。


 同調人数はそれなりだ。

 多くも少なくもない。

 西方では、この魔法は儀式魔法に分類されている。

 割と大がかりな儀式を必要とする魔法なんだそうだ。

 攻城魔法と言われたりもするから分からなくもない。


 勢いのついた大質量を利用するので破壊力は満点。

 大量の水が確保できる場所でないと使えないと言われていたり。

 儀式魔法であるために準備が必要だったり。

 難点は多々ある。


 だが、一流の魔導師を何十人も集めれば儀式なしでも同調するだけで可能なようだ。

 それをシャークマンたちが実現している。


『あの円陣が味噌なんだな』


 ただの輪っかだし、複雑なことは何もない。

 それでも魔力を均質化し術式を安定化させる魔方陣の役割を果たしている。


 そこそこのサイズの水竜巻とでも言うべきものが水中から勢いよく飛び出してきた。

 数十本単位で。

 だが、直撃コースではない。

 ただの1本も命中したものはなかった。

 俺たちが弾くまでもなく、最初から周囲に展開していたのだ。


「ほう」


 水の柱が檻のように俺たちを取り囲んでいた。


『一網打尽にするつもりか』


 単体でぶつけなかったのは工夫と言えるだろう。

 一気に狭めて螺旋水流波同士をぶつけようという魂胆が透けて見えた。


『破壊力が桁違いに上がるのは間違いないからな』


「少しは考えたようでんな」


 エヴェさんはそう言うものの、その声には同情を感じさせる響きがあった。


「えっ、あっ、あのっ……」


 ガタガタ震えて青い顔をしているヤエナミとはまるで対照的だ。


「心配は無用だ。

 俺は1人であれと同じ魔法が使えるから」


「あー、ハルトはんやったら余裕でっしゃろなぁ」


 エヴェさんが笑いながらヤエナミの方を見た。


「ハルトはんの言う通り、心配は無用でんがな。

 ヤエナミはんも安心して見ときなはれ。

 ちゅうても無理かもしれまへんなぁ」


 太鼓判を押して安心させようとしたエヴェさんだったが……


「……………」


 ヤエナミは絶句してフリーズしてしまった。

 気絶するには至っていないのが、せめてもの救いであろうか。


「まあ、見ときな。

 俺が対処するまでもなくクリアするから」


「っ!?」


 ギョッとした表情でヤエナミが俺を見た。

 その目は「無茶を言わないで!」と叫んでいる。


「ほら、決定的瞬間を見逃すぞ」


 ヤエナミが画面の方に振り返ったときには、みんな動き出していた。

 臆した様子もなく水の柱に突っ込んでいる。

 1本につき数体のメタルサーバントが対処しようとしていた。


「────────っ!?」


 引きつった表情で仰け反り、ヤエナミはほとんど声にならない悲鳴を発していた。

 自分が螺旋水流波に巻き込まれるかのような錯覚をしているのだろう。


「だから心配いらないって。

 あれだって1人1本で十分に対処できるから」


「あ、やっぱりせやったんですか」


 うんうんと頷きながらエヴェさんは俺に確認を取ってきた。


「そうですよ」


「ほな、アレは安全策っちゅうことでっしゃろか?」


「違いますよ。

 経験値稼ぎの一環です」


「あー、なるほど。

 高い攻撃力を無効化してボーナス経験値をゲットっちゅうことでっか」


「ええ、そうです」


 俺が返事をしたあたりで各メタルサーバントのクローや拳が水竜巻にぶち当たる。

 ドバッと派手に水飛沫が上がった。

 周辺が拡散した水と水煙であたりが見えなくなる。


「おー、派手にしぶいたもんですなぁ」


 エヴェさんはちょっと目を丸くして感心していた。

 ビビった雰囲気は欠片もない。

 テーマパークの派手な体感アトラクションに驚いた感じに似ている。

 ヤエナミはというと──


『両手で目を覆っちゃうか……』


 見ていられなくなった訳だ。


『しょうがないなぁ』


 本人はかなりのビビりだし。

 それを考えると無理もないのかもしれない。

 アレの単体で城攻めに用いられるような魔法だし。

 1本につき数人だけで対処するとは到底思えないのだろう。

 いかに巨人に見えるメタルサーバントに乗り込んでいるとはいえ、だ。


『まだマシなのかもな』


 悲鳴を聞かされなかったし。

 椅子に座っていたから俯くだけで終わっているのだと思う。

 これで椅子がなかったら、しゃがみ込んで丸まっていたかもしれない。

 それでも俺としては苦笑を禁じ得ないのだが。


「大丈夫でっせ、ヤエナミはん。

 見てみなはれ。

 誰も怪我なんてしてまへんがな」


 エヴェさんが声を掛けると、恐る恐る顔を上げてくる。

 ちょうど水煙の向こうから無傷のメタルサーバントたちが姿を現すところだった。


「そんな……

 儀式級の魔法だったのに」


 呟くように言葉を漏らすヤエナミ。

 愕然としか言いようのない表情を見せていた。


「勘違いしたらあきまへんで」


 そこに割り込みを掛けるエヴェさん。


「え?」


「儀式魔法ちゅうんは威力がどうこういうもんやない。

 あれは魔力が足らんさかいにやるもんや。

 まあ、結果的に威力は上がるけどな。

 魔力が確保できるんやったら後は意思の力しだいやで。

 ここの人らは1人であの規模の魔法が使えてしまうんや。

 もちろんアレ潰すんも、大したことやあらへん」


「大したことがないって……」


 ヤエナミが困惑している。

 エヴェさんの言うことが信じられないようだ。


「おいおい、大陸で色々と見せただろ。

 まさか忘れたとか言わないだろうな」


「あっ……」


 俺の指摘にヤエナミが驚きの声を上げた。

 そしてばつの悪そうな表情になり、そのまま考え込んでしまう様子を見せた。


「とりあえず、敵の出方を見ようか。

 何か準備に入ったみたいだし」


 俺の言葉に我に返ったヤエナミが慌てたようにモニターを見る。


「あれはっ!?」


 海中の様子が映し出されているところを見たようだ。


「威力不足と見て取ったようだな」


 五重の円陣を組むシャークマンたち。

 その中心にはジャイアントシャークが縦に並んでいた。

 コマのように見えなくもない。


「どうやら更に威力のある魔法を使うつもりのようでんな」


「そんな……」


 ヤエナミが絶望的な表情を浮かべる。


『敵を信用してどうするんだ』


 だが、それも無理はないのかもしれない。

 先程は数十組の円陣を組んでいた奴らが、今度はたった一組で勝負に出ている。

 しかも単純な輪っかから五重の円に切り替えて。

 それだけ制御術式を精密にしている訳だ。

 この距離で命中精度は必要ない。

 ならば考えられるのは──


『連射するつもりか』


 つい先程の螺旋水流波が可愛く思える威力の魔法でだ。

 そして円陣の中心にいるのはジャイアントシャークたち。

 連射と言えば機関砲。

 その弾として見立てている訳か。


『百発あるんだよな』


 発想としてはユニークだ。

 次から次へと新手の攻撃方法を繰り出してくる周到さに思わず苦笑が漏れる。

 咄嗟の思いつきではないだろう。

 事前に訓練していたことを感じさせる連携で動いているからな。


『あー、うん、必死なのは分かった』


 シャークマンどもも意外と涙目になっているのかもしれない。

 まあ、俺の知ったことではないんだが。


「ほらほら、またそんな顔してはるしー」


 ヤエナミをからかうように喋り掛けているエヴェさん。


「これも大丈夫や。

 よう見てみなはれ」


 そう言いながらエヴェさんは画面に映るうちの面子を指差した。

 ヤエナミの視線も誘導される。


「え……?」


 その顔に浮かび上がったのは困惑の表情。

 縦一直線の布陣が理解できなかったのだろう。


「あれは敵が何をするか見抜いてる証拠ですわ」


 でなきゃ、ジャイアントシャークたちと向かい合うように一直線にはならないだろう。

 こちらには円陣を組む部隊は存在しない。

 それでも負けるとは思えなかった。

 ここがヤエナミとは違うところだろう。

 いい加減、信じてくれとは思うけどね。


「始まりまっせ。

 さすがにスロースタートでんな」


 5重の円陣を組んだ分、制御術式が複雑化した訳だ。

 ジャイアントシャークたちが回転を始めた。

 それも術式を複雑化させた要因のようだ。


「さて、お手並み拝見」


 巨大機関砲が撃ち出されようとしていた。


読んでくれてありがとう。

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