568 断じてシスコンではない
リオンが健気だからお兄さん奮発しちゃいましたよ。
え? お前は兄じゃないだろうって?
何を言うのかっ!
『俺は歴としたリオンの兄だぞ』
義理だから血のつながりはないけどな。
別の言い方をすれば姻族ってやつだ。
戸籍の証明書発行を求める場合には親族なのに委任状が必要になる姻族だ。
まあ、戸籍の謄抄本が必要になることなんて姻族にはまずないけどね。
それと日本じゃないから関係ない話でもある。
「……………」
話がそれたな。
とにかくリオンの頑張りに感動したからバトル中にレベルアップさせたのだ。
本来バトル中にレベルアップなんてしないところを15も上げましたよ。
その分の経験値はリオンが自前で稼いだものだけど。
これは一種の裏技である。
バトルものの漫画とかでたまに見かけるやつだ。
戦っている最中に強くなる話。
今回はそれに近い状態を作り出した。
『実は上手くいくか不安な部分もあったんだよな』
【諸法の理】で確認した方法だから間違いはないんだけど。
ぶっつけ本番だったからな。
上手くいって本当に良かった。
『これでリオンの願いに一歩近づけたはずだ』
ここから先、姉に追いつけるかは本人の努力次第である。
その旨を本人に説明したら張り切って交代してたさ。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
満面の笑みでそんなこと言われてみなさいよ、アナタ。
成人しているとはいえ俺よりひとつ下だし。
姉に似て美少女だし。
妹属性がなくてもコロッと逝っちゃいますって。
いや、死なないけどね。
とにかく人一倍がんばる人間がいれば周囲も触発されるんだよな。
士気が上がって何割かは魔神の浄化する効率が上がったのには些か驚かされた。
思わず笑っちゃうくらいにね。
そんなこんなで何度か交代を繰り返し終焉を迎えるときが来た。
すでに日が暮れて何時間たっただろうか。
夕飯は各自が交代の合間に携帯食で済ませていたくらいだから割と遅い時間である。
先に音を上げたのは、うちの面子の方だった。
全員がヘロヘロ状態でへたり込んでいる。
魔力は回復できるんだけど、疲労の方がね。
何度も交代を繰り返すうちに疲れが蓄積していった結果である。
『完全には浄化しきれなかったか』
とはいえ想定していたことだ。
むしろ思ったより好結果じゃないだろうか。
石化した魔神が聖炎による浄化で物凄く小さくなっていたからね。
具体的に言うとお菓子のオマケでついてくるような小さいフィギュアサイズだ。
お菓子がメインかオマケがメインか分からないやつあるよな。
まさしくアレのサイズだ。
『手乗り文鳥ならぬ手乗りフィギュアだな』
文鳥であれば可愛くもあるんだが、相手は魔神である。
マイカに前衛芸術と言わしめた姿だから可愛いはずがない。
「じゃあ、最後の仕上げだな」
この期に及んでも魔神は諦めていないようだ。
封印の内側で死に物狂いになっている様子がうかがえる。
ここで「無駄だ」とか言ったりはしない。
フラグになるからな。
淡々と終わらせるのみだ。
俺は手を前に突き出し無言で魔法を放つ。
使ったのは聖炎ではなく聖光球である。
熱は発さないが普通の光と違って圧力がある。
浄化の効果を伴った全周囲でプレスする魔法だ。
更に封印を強化する効果もあるのでチョイスした。
最後の仕上げって時に自爆覚悟で大暴れされても困るからな。
『万が一など許さんよ』
結局、魔神は最後まで抵抗らしい抵抗もできず聖なる光の浄化作用で蒸発していった。
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魔神が消滅したことで封印が消えた。
そこで結界を維持したまま本当に消滅したか確認していく。
『残りカスなし、オッケー。
残留思念なし、オッケー。
分体反応なし、オッケー』
【多重思考】を駆使して複数の俺で確認していく。
全員が『問題なし』の結論を出したところで結界を解除した。
周囲を見渡すが、皆は未だに回復の途上である。
そこへ背後から歩み寄ってくる者がいた。
エヴェさんである。
「お疲れさんでしたな」
朗らかな様子で声を掛けてきた。
『任せたはずのヤエナミはどうしたんだ』
完全に任せっぱなしだったので様子は気にしていなかった。
そちらを確認してみるが、横に寝かされている。
『あの様子だと一度は目覚めたようだな』
ただし、またしても気を失ったらしい。
寝かされた状態で淡い光に包まれている。
『エヴェさんの魔法か』
どうやら、あの光の中だと快適に過ごせるようだ。
無責任に放置している訳でもないようなのでエヴェさんの方に向き直った。
「皆に頑張ってもらったので俺よりも皆に言ってやってください」
そう言うと吹き出すようにして笑われた。
意味が分からない。
何もおかしなことはしていないんだが。
「スパルタなんか優しいんか、よー分かりまへんなぁ」
心外である。
俺は身内には優しいつもりなんだが。
まあ、野郎相手だと厳しくなったりもするけれど。
「地獄の特訓を課しておいて慈しむような眼差しされたらドSやと思われまっせ」
ますます心外である。
ちょいSの傾向はあるかもしれないが、ドSではない。
念のために言っておくとMでもない。
とにかく俺は無言で抗議した。
「アハハ、冗談でんがな」
引きつった笑みで答えるエヴェさん。
『割とマジで言っていたってことだな』
「それ、笑えませんから」
更に目の温度を下げる。
氷点下の瞳で見ておいた。
「いやいや、大したもんでんなぁ。
日付が変わる前に終わらせたんでっさかい」
「……………」
そこまで露骨に話を逸らすのかと呆れてしまった。
【ポーカーフェイス】スキルで表情には出さなかったけれど。
『強引すぎだろ。
小学生かっての』
思わず内心でツッコミを入れるくらい話を逸らすのが下手だ。
実に残念な人である。
どこかのイタズラ好きな人に比べたら遥かにマシだけど。
『まあ、いいや』
このまま状況を停滞させるのも好ましくないしな。
「それよりベリルママに魔神を片付けた報告をお願いします」
「おっと、そうでんな。
ウッカリしてましたわ」
わざとらしくペシッと頭を掌で叩いて首をすくめるエヴェさん。
「ちょっと失礼しまっせ」
そそくさと逃げるように隅っこの方へ移動して後ろを向く。
電話じゃないんだから移動する必要性は感じないのだが。
『あの様子だと助かったとか思ってるんだろうなぁ』
ほとぼりを冷まそうとするだろうから、しばらくは戻ってこないだろう。
それならそれで、こちらも都合がいい。
皆のステータスを確認しておきたかったからな。
とりあえず自分のステータスを確認する。
『色々やらかしたからなぁ』
広域で結界を張ったり。
しつこく封印をかけたり。
最後にダメ押しの聖光球で魔神にトドメを刺したからな。
外から見る分には楽勝に見えたかもしれないが、それなりに苦労はしている。
魔神の抵抗はなかなかウザかったし。
油断すれば逃げられていたことだろう。
そのせいか【魔導の神髄】スキルの熟練度が、またしても微増していたし。
神級スキルって熟練度が高くなるほど上げにくくなるはずなんだが……
結界に囚われた後の魔神の抵抗がそれだけ激しかったということなのだろう。
それ以外に説明のつけようがない。
『この調子だとレベルも少しは上がってるんだろうなぁ』
とりあえずレベルだけ見てみた。
[レベル1243]
「……………」
いかに魔神相手だったとはいえ多すぎではないだろうか。
だが、これはゲームのバグではない。
現実である。
どういうことなのか詳細を確認してみた。
結界と封印の魔法が大きいようだ。
魔神の抵抗があった上に完封したからだとか。
神級スキルの熟練度が上がったのも含まれている。
そして魔神にトドメを刺したときのダメージ分での経験値だって当然入っている。
『トドメでボーナスまで入ってるのか……』
皆を差し置いて、いいとこ取りをしてしまった。
罪悪感まで湧き上がってくる。
『この調子だと称号の方も何かついてそうだな』
見るのが怖い。
だが、見ない訳にもいかない。
[完封超人]
『……何だよ、その完璧超人みたいなヘンテコ称号はっ!?』
説明文によると、魔神を滅びるまで何もさせなかったから得られた称号のようだ。
『うん、分かるよ』
理解はした、理解はね。
『誰が納得するかよおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』
思わず絶叫だ。
心の中で寂しくね。
リアルで叫ぶと変な人のレッテルを貼られかねないからな。
『ここはひとつポジティブに考えよう』
説明文の中には好材料もあった。
魔神が滅んだという部分だ。
神様のシステムが滅んだと記載しているのだから間違いないだろう。
お墨付きをもらったようなものである。
それだけは安心できる点だよ。
『復活とかされたら鬱陶しいもんな』
これで魔神のことはもう考えない。
次だ、次。
皆のステータスも確認していかないとな。
読んでくれてありがとう。




