567 頑張る妹に御褒美を
修正しました。
閉じた瞼が → 瞼が
俺の結界内へと皆の聖炎が注ぎ込まれていく。
実際には、結界の中心にいる封印された魔神へと叩き込まれているのだが。
四方八方から炎が集まることで、その姿を見ることができない。
故に結界に聖炎をぶち込んでいるように見えてしまう訳だ。
結界の特性により外からの魔法は受け入れ、内側からは逃さないせいもある。
聖炎の発する強烈な熱量にしてもそうだ。
おかげで至近距離にいても熱くない。
普通は四方八方から撃ち込んでいれば相当な熱量になっているはずなのだが。
結界がなければ余裕で火災旋風が発生していたはずである。
わざわざ脳内でシミュレーションするまでもない。
それだけの熱量を極狭い範囲内でとどめながらも結界はビクともしない。
封印だって同じだ。
どちらもその程度で解けたりするものではない。
『この場合は溶けたりと言うべきかな』
ついつい、下らないことを考えてしまう。
ハッキリ言ってどうでもいいことだ。
『することないからねぇ』
「……………」
無いというのは正しい認識ではないか。
万が一の事故が起こらぬように監視するだけの簡単なお仕事を実行中です。
つまり見てるだけ。
それ以外にすることがないのだ。
例えようもないくらいに暇だとも言える。
『暇すぎて色々と作ってしまったりな状態なんだけど』
もちろん【多重思考】で複数の俺状態になった上での話だが。
その製作風景を皆の監視をしつつ眺めているのが現状である。
ん? 色々とは何かだって?
基本的にはメタルサーバントだな。
トモさんにダメ出しされたズワクマリナーやズワクダイバーは真っ先に作ったとも。
熊谷さんも忘れてはいない。
後はメタルサーバント用の空戦支援機フミダイとか。
調子に乗ってフライングローダーも作ってしまった。
単独で飛べないメタルサーバントの弱点は少しでも潰しておきたかったからなんだが。
それでも空戦をすることになると機動性に不安が残る。
『こんなことなら戦闘機が変形するアニメの方を採用した方が良かったか』
ただ、あちらは接近戦に不安が残る。
高速機動戦闘が主体になるからなんだろうけど。
それが採用しなかった理由でもあるのだが。
今にして思えば、あの空戦能力は魅力的である。
『この際、オリジナルで両方の特性を持った機体を作るか』
仕様をまとめておいて製作は後日ってことになるだろうけど。
基礎設計からになるし気を取られすぎてしまう恐れもあるしな。
『おっと』
あれこれと考えている間に交代する者たちが出始めた。
転がるようにして交代要員の邪魔にならないように抜け出てくる。
そのままへたり込んでしまうのは限界まで魔力を使ったからだ。
しばらくしてノロノロとした動作で魔力回復ポーションを出して一気に煽る。
すぐに魔力が回復するのだが、それだけで元通りとはいかない。
最大出力をずっと維持し続けた制御疲れがある。
疲労回復ポーションを使えば復活するのだが、それはあえて教えない。
『これも訓練の一環ってことだな』
魔法を最大出力で制御し続けること。
己の限界の感覚を知ること。
離脱のタイミングを自己判断でつかむこと。
疲労回復までの時間と状態を体感すること。
『まあ、様々ある訳だ』
本来なら離脱後も敵襲の警戒をしたりなんてこともしなければいけないのだろうが。
さすがに今回はそこまでを要求していない。
主目的は魔神の浄化である。
防御無視で攻撃させているので、今回の訓練はこういう形になるというだけ。
別の機会に防御も視野に入れた訓練をすればいい。
段階を踏まず一足飛びにあれもこれもと欲張るつもりはない。
ここで防御も徹底せよとか、そんな要求は酷というものだろう。
まさしく鬼の一言である。
『もしくは鬼軍曹だな』
口汚く罵る方かAKをぶっ放す方か。
まあ、俺はどちらにもなる予定はない訳で。
故に離脱した者が寝っ転がっていても叱咤することはない。
そこで色々と身につけてくれれば、それで良いのだ。
交代した面々の様子を見ていく。
『ふむ、限界の見極めはギリギリだな』
これは訓練であるが故だ。
え、実戦じゃないのかって?
そうとも言うかな。
『敵に何もさせない状態を実戦と言えるのであればだが』
今の状況はワンサイドゲームどころの話ではない。
魔神に抵抗の素振りすら許さないのが現状だ。
『俺の封印は伊達じゃない、なんてな』
とにかく魔神の抵抗はない。
逆にそうでないと皆にこんな真似はさせられない。
封印された体の奥底で暴れるというか激しく抵抗しようとする意思は蠢いてはいたよ。
そのたびに封印の上掛けをして黙らせてるけどね。
それは監視している俺じゃなくて別の俺の仕事なんだけど。
『細けえこたあいいんだよ』
大事なのは魔神にダメージを与えているってことだ。
俺ではなく皆が、というところが重要である。
誰がやってもノーダメージなんていうのはシャレにならない。
『経験値稼ぎができなくなるからな』
何のために厳重な封印をかけてここに引き寄せたのか分からなくなってしまう。
訓練目的でもあるので何の意味もないなんてことはないけれど。
『やはり最大の目的は皆のパワーレベリングだからな』
与えたダメージに相当する経験値はちゃんと得ていた。
懸念されたレベル88のリオンも経験値を稼ぐことができている。
ただし、皆より効率が悪い。
俺が補助魔法で魔法攻撃力を上げているからだろう。
そうでないとリオンだけ骨折り損になりそうだったから仕方がない。
そして魔力をほぼ使い切ったリオンが離脱してくる。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」
下駄を履かせていたせいか皆より疲労の度合いが濃いようだ。
四つん這いの状態で息を荒らげている。
俺は回復の魔法を使った。
過保護と言われればそうかもしれない。
だが、今のままでは姉に大きく引き離されてしまうことになるからな。
過保護だろうが依怙贔屓だろうが関係ない。
姉に追いつきたいと根性を見せるリオンが気に入ったから手助けするだけだ。
それのどこが悪いというのか。
平等? 公平?
そんなものは最低限のベースラインが守られていれば、それでいいのだ。
少なくとも俺はそういう考え方である。
何でもかんでも一律にするつもりはない。
「気分はどうだ」
回復魔法の効果により息が整ったリオンが顔を上げる。
「陛下でしたか。
すみません、ありがとうございます」
立ち上がりペコリとお辞儀した。
「気にするな」
恐縮気味のリオンに魔力回復ポーションを手渡す。
「それを飲んだら座禅を組んでみろ」
「はい?」
意味が分かりませんと目で問われてしまった。
「いいから、騙されたと思って座禅を組んでみろ」
「は、はあ……」
リオンは曖昧な返事ながらも頷いた。
ポーションを飲み干すと言われた通りに座禅に入る。
『ちゃんと姉から教えてもらっていたようだな』
俺はリオンに座禅を教えたことはなかった。
が、レオーネの所にたびたび遊びに来るリオンである。
トレーニング法のひとつとして教わっていない訳がないと読んでいたが。
『ズバリ的中ってな』
正しい姿勢で揺らぎがない。
そして、わずかな時間でフラットな精神状態へと入り込んだ。
『レオーネの教え方も見事なものだな』
姉妹だから他人より伝わるものもあるからなのかもしれないが。
それでも確実に伝わっていることが重要だ。
「強く念じろ」
静かに強く語りかける。
リオンの心に直接届けるかのように。
返事はない。
それだけ集中できている証拠だ。
だが、俺の言葉は届いている。
座禅とは周囲の全てを遮断するものではないからな。
いかなる環境であれ揺るがぬ状態を維持する精神修行である。
そんな風に日本人だった頃に行った旅先で教わった。
体験型のツアー旅行だったので、本格的に修行した訳ではないけれど。
故に俺が教える座禅はなんちゃってだろう。
都合の良い所だけを利用させてもらうのでね。
「思い描け。
それは願いであり実現させるべき目標だ」
リオンの瞼がピクリと動いた。
何を想像すべきか問うているのだ。
「イメージするのは今よりも強い自分」
今度は反応がない。
だが、次を促す空気を感じた。
もっと具体的にと言いたいのだろう。
「少しでいい。
一歩先を行く自分を思い描け。
ただひたすらに、その姿を追いかけろ」
本来の座禅とは掛け離れているだろう。
どう考えても雑念だらけになりそうな指示だからな。
だが、これでいい。
必要なのは強く願うこと。
これでは座禅の理想となるフラットな精神状態にはなれないだろう。
ただし、極度の集中状態にはなれる。
『リオンの中には渇望する感情があるからな』
姉と一緒にいたいという気持ち。
しかしながら、今のままでは足手まといになると思っている。
ならば強くなればいいというのが、自力で急激にレベルアップした理由である。
それでも開きがあることに焦りを感じていたようだが。
今回はその気持ちを利用させてもらった。
お陰で体内の魔力が活性化した状態となり、通常時にはない効果が得られるのだ。
それを確認するためにリオンのステータスを見る。
[リオン・ソレイユ/人間種・シャドウエルフ/女/16才/レベル103]
『よしっ!』
思わず内心でガッツポーズをした。
レベルアップに成功しているからだ。
魔神は未だ消え去ってはいない。
通常であれば敵を倒す前にそういう真似はできないのだが。
『リオンは気付くかな』
気付かなくとも次の交代では皆に近い効率で経験値が稼げるだろう。
レオーネに置いてけぼりにされるという状態にはならないはずだ。
頑張っているリオンへの御褒美である。
読んでくれてありがとう。




