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566 目論見は不評であった

 集合の号令に皆がシュバッと集まってきた。

 俺は後ろを向いているが気配で皆の動きは手に取るように分かる。

 妖精組はいつものごとく綺麗に整列。

 そのほかの面子はそれぞれの小集団を形成しつつ適当に。


 このあたりは訓練好きの妖精組と外で活動することが多い面子との違いだ。

 見た目には妖精組の整列ぶりは綺麗だが、それを皆に強制するつもりはない。

 妖精組だって自主的にやっていることだからね。


『そんなことより、だ』


「ハルトはん、どないするんでっか。

 この人、完全にフリーズしてますがな」


 もちろん、この人というのはヤエナミのことである。


「相当なショックを受けたんとちゃいますやろか」


 言われなくても分かっている。


「すみませんが見ていてもらえませんか」


「ええっ!? わてがでっか?」


「その間に我々で浄化を終わらせてしまいますので」


 エヴェさんが呆気にとられた顔をした。

 だが、それも一瞬のこと。


「そういうことでっか。

 なかなか周到やとは思たんですけど、そこまで考えてはったとは」


 苦笑しながらも了承してくれた。

 俺の目論見も察してもらえたようである。

 という訳で、ヤエナミはエヴェさんに任せて皆の方へと向き直る。


「えーっと」


 こちらはこちらで皆の顔が引きつっていた。

 平気そうなのはミズキとマイカ、それからローズとシヅカとマリカぐらいだろうか。

 ノエルもいつもの無表情なんだけれども、微妙に目が釣り上がっている。


『怒っている……というよりは、耐える感じかな』


 ということは皆より少しマシ程度の状態なんだろう。

 どうやらレベル200前後が境界らしい。

 それ以下だと恐怖を感じるようで。

 原因は目の前の封印された魔神なのは言うまでもない。


『瘴気などは漏れ出さないように厳重に封印してあるんだがなぁ』


 あと、結界で内から外へは一切を漏らさないようにもしているし。

 そのあたりが理解できない一同ではない。


『むしろ理解できるからこそヤバいと悟ったのか』


 よくできた国民で嬉しいのだが、ビビられたままでは話にならない。


「おーい、これからコイツを皆でボコるんだから気合い入れろー」


 ほとんどの者が一斉にブルブルと首を横に振る。


「無茶言わないでよー」


 いつも強気のレイナが気弱な声を出している。


「せやで、ハルトはん」


 尻尾がだらんと垂れ下がったアニスも同様の状態だ。


「旦那よ、無謀ではないか?

 相手は邪神なのであろう」


 我が妻にして弟子1号のツバキも逃げ腰のようだ。

 賛同するように弟子2号のカーラもコクコクと首肯する。


「おいおい、随分と気弱だなぁ」


「無理言わないの」


 ポカリと頭を叩かれた。


「イテッ」


 思わずそんな言葉が口から漏れたが本当に痛い訳ではない。

 条件反射というやつだ。

 殴られた方を見ると膨れっ面のミズキがいた。


「何の説明もなしに、いきなりあんなの出されたら皆ビックリするでしょ」


 確かにもっともな話である。


「あれだけガッチガチに結界や封印をかけるって余程のことじゃない」


「いや、スマン」


 俺の無神経が招いたことなので、そうとしか言えない。


「で、この前衛芸術の出来損ないは何なのよ。

 たぶん聞くまでもないとは思うんだけどさ」


 マイカが顎で魔神を指して聞いてきた。


「ご想像の通りってやつだ。

 今回の首謀者である魔神だよ」


 ああ、やっぱりという空気が周囲に流れた。

 諦観すら感じられる。


「ハルトさん」


 声を掛けてきたエリスの方を振り向く。

 特に憤慨するでもなく淡々とした様子である。

 目で何かを語るような感じでもない。


「私達が全員で浄化を掛ければどうにかできるのですか?」


「いいや、限界まで魔力を使っても足りんな」


 仮にも魔神である。

 いくらほぼ全員が3桁レベルに到達しているとはいえ簡単に消えてくれる相手ではない。


「ちょっとぉ、どういうことよぉ─────っ!?」


 俺の返答に全力で抗議してきたのはレイナだ。


「せやで、無茶振りどころの騒ぎやあらへんやん!」


 アニスも追随して追及してくる。

 俺が無茶振りしていると理解しつつも浄化しきれると思い込んでいたのだろう。

 なかなかの憤慨っぷりだ。


 バタバタという音がするので、そちらを見てみた。

 2人がリーシャとダニエラに羽交い締めにされていた。

 あの様子だと俺に掴みかかるつもりだったか。


「「まあまあ、2人とも落ち着いて」」


 ギャーギャーと吠えまくる両名が双子に宥められている。

 ルーリアがそこに加わらないのは彼女らとの付き合いの差を考慮してのようだ。

 こういうゴタゴタは幼馴染みに任せた方がいいとね。


 でも、完全に逃げたという訳でもない。

 ノエルと一緒に立ち位置を変えて俺との間に入り込んでいる。

 羽交い締めを突破するようなことがあった時に対応するつもりなのだろう。


 当人たちは、そんなことなどお構いなしに唸っているが。

 それほど必死で止めているようにも見えなかったので半分はポーズのようなものだろう。


「話は最後まで聞けよ」


 そう言うと、暴れ気味だったレイナとアニスも一応は大人しくなった。


「結論をぶっちゃけるとパワーレベリングをしようってことだ」


「「無茶苦茶よっ!」」


 暴れこそしないが羽交い締めにされたまま抗議の声を上げる約2名。


『ホント息ピッタリだよな』


 まるでベテランの漫才コンビである。

 そんなことを本人たちに言ったら「不真面目だ」と言われて殴られそうだが。

 本気で暴れられても困るので俺の内心で留めておく。


「無茶なもんか。

 格上相手なのに無抵抗なんだぞ」


「「「「「えっ!?」」」」」


 月影の面子だけでなく、その場にいた全員が驚いていた。

 まるで意外なことを聞いたと言わんばかりである。


「あれ?」


 なぜか皆が説明を求めるような目で俺を見てくる。


「あのぅ、本当に無抵抗なんですか」


 おそるおそるといった様子でマリアが聞いてきた。


『そこなのっ!?』


 俺の方が混乱するっての。


『どうしてそう思ったんだか』


 今まで色々見せてきたというのに。

 欠片の灰と融合したクラーケンとの戦闘なんかは録画して妖精組にも見せたのだが。


『そういう意味では魔神に対しても耐性はあるはずなんだけど』


 それに瘴気などを発していない。

 殺気は感じるだろうが、それはいつものことだ。


「俺の見ている前で皆を危険な目にあわせると思うか?」


「アタシらはこの国に来た頃に酷い目にあったわよ」


 ジト目でレイナに見られた。

 言われて思い返してみる。

 今更感が半端ないけれど。


『魔法の練習をして……

 パワーレベリングでダンジョンに潜ったな。

 そういや割と大変そうだったかもしれん』


 思い当たる節が確かにある。


「あー、もしかしてダンジョンでアンデッドの相手をしたときか?」


 魔法の練習のために割とギリギリの緊張感の中で戦わせた覚えはある。

 今の彼女らであれば単独でどうにでもできるが、当時は大変だった。


「そうよ」


 不服そうに唇を尖らせている。


「いつも無茶振りするんだから」


『いつもって訳じゃないと思うんだが』


 まあ、下手なことは言わない方が良さそうだ。

 プッツンして壊れられても困る。


「とにかく聖炎で浄化を掛けていくからな」


「こらあっ、無視すんなぁっ!」


 ダンダンと地団駄を踏むレイナだが、そちらは見ない。

 放っておいても月影の面子で抑え込んでくれるはずである。

 そのうち静かになるだろう。


「まずは半分ほどの数で囲め」


「全員じゃないんですか?」


 不思議そうにクリスが聞いてきた。


「魔力を使い切る寸前で交代するためだ。

 交代したらポーションで魔力を回復させて待機」


「「もしかして……」」


 そんなことをハモりながら言ったのは、ABコンビであった。


「もしかしなくてもぶっ倒れるまでエンドレスで交代しつつ浄化してもらう」


 先に聞きたいであろうことの答えを言っておく。


「「「「「マジですか─────っ!?」」」」」


 全員ではないが、結構な人数の面子が悲鳴を上げた。

 残りの面子の大半が諦観を感じさせる表情をしている。


『分かってんのかなぁ?

 レベルアップのボーナスタイムなんだぞ』


 どうしてこの世の終わりみたいな顔をするのか理解不能である。


「こんなパワーレベリングのチャンスは滅多にないからな。

 それが終わったら少し休憩して魔神の軍勢を潰しに行くぞ」


「「「「「鬼だ……」」」」」


 失望感満載の呟きがあちこちから聞こえてくる。


「たまには骨折りしておけ。

 損はさせんよ。

 終われば絶対に身になってるからな」


 いつも俺がフォローしてやれる訳じゃない。

 だったら少しでも強くなって俺を安心させて欲しいものだ。


「ほらほら、グズグズしない。

 休憩の時間が短くなるぞ」


 そう言うと、さすがに動き始める。

 ササッと魔神を中心に円陣を組むように並んでいく。

 その後ろに交代要員が控え、そして聖炎による浄化が始まった。


 やり始めれば誰もが必死な表情である。

 いつぞやの時のように罰ゲーム付きではないんだが。


『いっそのこと制限時間つきにすれば良かったか』


 もしくは全員がぶっ倒れる前に浄化しきれるかどうか。

 そしたら特製青汁の出番を作れたんだろうけど。

 ここから罰ゲームを提示したらモチベーションが低下しかねないのでやらないが。


『今でも充分に必死だし』


 余計なことはしないに限る。

 こんな風につまらないことを考えている間にも聖炎が叩き込まれていく。

 皆、最大出力で聖炎を使っている。

 それでも浄化は徐々にしか進まない。


『まさしく千里の道も一歩からだな』


読んでくれてありがとう。

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