564 魔神に仕事なんてさせません
『封印の封印はみな封印だ!』
世界に広げたりすると大変なことになるので対象は魔神だけだ。
それに魔神は友達ではない。
生きとし生けるものの敵である。
一部、例外もいるがそいつらだって役立たずの判定をされたら命はない。
魔神とはそういう存在だ。
哀れみや同情を誘うような思念波を送りつけようとしても惑わされはしない。
幼女の泣き叫ぶ声なんて聞かされても怒りの矛先が魔神に向くだけである。
『コイツ、ちょっと頭が残念なんじゃないのか?』
何故そんな真似をして俺が結界や封印を緩めると思うのか謎である。
シカトしても、しつこく思念波を送ろうとするのが地味に苛つく。
『鬱陶しいだけだと気付けよ』
空気の読めない魔神である。
なり振り構わず助かろうとしているにしても、少しは頭を使えと言いたい。
あまりにしつこいので、この対象にだけ思念波を反射する結界を追加した。
俺以外の誰かにこんなものを送りつけられても迷惑だし、丁度いい。
『静かにしやがれ、ドン!』
壁ドンではないが威圧になるかと結界ドンもおまけしておいた。
ちなみに女子に迫るときの壁ドンではない。
「……………」
ともかく静かになった。
厳重に封印をかけていく。
必死になって暴れようとしているが、狭っ苦しい結界が邪魔になって動けないようだ。
『そろそろ視認できるかねっと』
【天眼】を使ってみた。
まだ抵抗される。
『ホント往生際が悪いったら』
だが、今度はそのまま見続ける。
靄がかかっていようが、モザイクだろうがお構いなしだ。
『絶対にその面、拝んでやるからな』
半分以上は意地である。
ここまで来れば姿を見ることができなくても、コイツが魔神であるのは疑いようがない。
結界に抵抗する。
封印にも抵抗する。
見ようとするだけで抵抗する。
とにかく抵抗するパワーは半端ではなかった。
復活したばかりで弱っている状態だから一方的に抑え込めているが。
これが万全な邪神であったなら、結界で抑え込むのにもう少し苦労させられただろう。
今のコイツは悪足掻きをするだけの存在だがな。
とにかく抵抗して粘る。
こっちは力ずくで封印をかけていく。
『おっ』
靄が薄くなってきた。
封印への抵抗に力の配分を変えたようだ。
モザイクの方も荒さが取れていく。
そのまま封印をかけ続ける。
油断はしない。
見ることに注力しすぎて封印の方が疎かになると逆襲して来かねないからな。
『ガチガチに固めてやるからな』
とにかく封印。
また封印。
それでも手を緩めない。
『まだまだぁ、こんなもんじゃねえぞ!』
気合いを入れ直した次の瞬間。
『む?』
一気に靄が晴れた。
モザイクは……
『これモザイクなしなんだよな』
自分の目を疑ってしまうところであった。
「……………」
そして見たことを後悔した。
アレを思い出したよ。
俺が魂喰いに半身をやられたときの姿。
邪神は全身バージョンだったけどね。
有り体に言ってしまえばグロ注意である。
ハッキリ言ってゾンビの酷いやつだ。
『最悪だ』
見たくはないが、とにかく我慢である。
まだまだ向こうの抵抗が弱まった訳ではない。
むしろ姿を見られることは諦めた分だけ強くなった。
『あーっ、しつこいっての!』
【多重思考】の俺を増員して十重二十重に封印を掛けて掛けて掛け倒す。
『『『『『うおるあああぁぁぁぁっ、往生せいやぁ────────っ!!』』』』』
寄って集っての封印攻撃だ。
まるで弱い者苛めである。
もちろん、そんな事実はない。
邪悪な存在を封印しているだけだ。
『『『『『そりゃそりゃそりゃあああぁぁぁぁぁぁっ!』』』』』
連続する波状攻撃に魔神の抵抗も弱々しいものになっていく。
実際には封印の内側で大暴れなんだろうけど、それが伝わらなくなってきた。
見た目も徐々に変わっていく。
基本的な形は変わらない。
グシャッとした質感が滑らかなものになっていく。
腐臭が伝わってきそうな色合いは大きく変わる。
灰色へと色褪せていくのだ。
そう、石化である。
別にギリシャ神話に出てくる3姉妹の1人を召喚した訳ではない。
見た者を石化させるのではなく、封印の結果が石化なのだ。
そうなるように俺がした。
身動きなどわずかでも取らせないために。
反撃の余地など与えない。
まずは動けなくする。
そのための石化だ。
体の動きだけではない。
魔力の流れを止めて霧散させる。
瘴気も同様の処理がされる。
霧散する前に浄化されるけどね。
思念波も結界だけじゃなく封印に組み込んだ。
遮断し反射することで石化した体内に留まるように。
なかなか鬱陶しいんじゃないかな。
自分の中だけで木魂し続けるのだから。
ありとあらゆる封じ手を使う。
暴れなくても動かなくても消耗するようにした。
力を蓄えて脱出を試みるような真似はさせないさ。
もっとも、蓄える猶予など与えるつもりはないけどな。
『ガチガチに封印した後は浄化の時間だぜ』
魔神は完全に石化した。
『グロ注意なのが随分とマイルドになったものだ』
見た目は前衛彫刻家が作り出した石像といった感じとなった。
単色で硬そうな質感になっただけで精神抵抗値が低くても見られる気がする。
「あの、ハルトはん?」
ここでエヴェさんが呼びかけてきた。
「おや、どうしたんですか」
「どないしたもこないしたも……」
困惑の表情を浮かべている。
すぐにピンときた。
というか分からない方がどうかしている。
「すみませんね。
ほったらかしにしてしまって」
「いや、ホンマですわ。
急に黙り込んだと思たら、凄い形相で固まってしまいはりますし」
やはり読み通りだった。
というより、分からない方がどうかしている。
「あー、すみません。
ちょっと夢中になりすぎましたね」
石像と化した魔神を確保するために仕上げにかかる。
念のために結界の範囲内を他の俺たちでチェックしていく。
「え? 夢中て、どういうことですのん?」
「魔神の捕獲ですよ」
「……もっかい、お願いしてよろしおまっか?」
エヴェさんが首を傾げている。
「わての耳がどないかしてたみたいでして。
魔神の捕獲て聞こえたような気がしましてん。
聞き間違いにしたかて酷すぎますがな」
「聞き間違いじゃないですよ」
「またまたぁ」
楽しそうに笑いながらエヴェさんが人を招くときのような手の動きをした。
もちろん、そんな訳はない。
『大阪のオバちゃんみたい』
つまり、そういう仕草ってことだ。
対する俺は沈黙で返す。
何度も同じことを言うのは面倒くさい。
「え? マジで?」
「マジですよ」
「せやけど、ハルトはんの魔力が減ってまへんがな」
そういう所は抜け目なく観察してるようだ。
『まるで、浪速の商人だな』
本物なんて旅行で大阪方面に行ったときに、ちらっと見ただけだ。
そんな感想を漏らせるほど詳しく知っている訳ではない。
まあ、その場のノリである。
「そこは魔力チャージ済みの魔石をバンバン使わせていただきましたよ?」
「なんで疑問形なんでっか」
ツッコミを入れずにはいられなかったようだ。
完全に関西人のノリだな。
「それに、そないぎょうさん有ったんでっか?」
「前々から暇のあるときに作ってはチャージしてましたから」
そう説明すると、エヴェさんが天を仰ぎ見た。
そして俺の方を見て一言。
「無茶苦茶でんがな」
そうだろうか?
「そんなことを言われても……」
俺にしては大人しい方だと思うのだが。
『だが、まあ集めた量は決して大人しくはないか』
そう思うことにする。
「ホンマに、よーやりますわ」
エヴェさんも信じない訳ではなさそうだ。
苦笑しながらも俺から話を聞きたそうにしていた。
「途中なんでっしゃろ?
良かったら手伝わせてもらえまへんやろか」
どうやら、まだ終わっていないと思っているらしい。
「あ、もう捕まえました」
「はあっ!?」
エヴェさんが笑顔のままで固まってしまった。
「どういうことですねん!?」
「いや、一気に網型の結界を展開して亜空間から引きずり出しただけですよ?」
「一気にて……
まるでベリルベル様みたいやがな」
それは言い過ぎじゃなかろうか。
いくら俺が息子だからといっても管理神とは違うのだ。
まあ、目くじらを立てるようなことでもない。
それより話を進めないとな。
読んでくれてありがとう。




