561 どうするかと問われれば答えはひとつ
「どないするんでっか!?」
エヴェさんが前のめりになって聞いてくる。
まあ、エヴェさんだけではないな。
周りの皆も期待と不安が半々な様子でこちらに注目しているし。
まさしく固唾をのんで見守る感じだ。
「確かめてみないと分かりませんよ。
でも、俺の想像通りなら対処は可能です」
響めきが起きた。
まだ戦ってもいないんだけど。
『まずはコソコソ隠れている奴を釣り上げないといけないしな』
だが、俺の推測は大きくは間違っていないだろう。
ベリルママがエヴェさんに何の助言もしていないのはそういうことだ。
「逃げ方と隠れ方が俺の想像通りならですがね」
「両方わかるんでっか!?」
エヴェさんが驚いている。
だが、その考え方そのものが間違いなのだ。
「個別じゃないですよ。
逃げるのも隠れるのもワンセットです」
「っ!?」
本人としては大きく見開いているつもりであろう細い目で俺を見てくるエヴェさん。
驚いているはずなんだけど、にこやかに見えるのにも慣れてきた。
「わては転送魔法で逃げてるもんやとばかり思てたんですけど」
エヴェさんの口振りからすると気付いたようだ。
「隠れるのが先やったっちゅうことですか」
「だから同時です」
「そらまた無茶な」
「やって、できなくはないでしょう」
「そらそうですけど、下手したら何処に飛ばされるか分かりまへんで。
空間魔法で隠れながら転送魔法っちゅうことでっしゃろ」
俺は頷いた。
元日本人としては普通の発想なのだが。
SF作品なんかで見る亜空間航法なんかが元ネタだ。
「制御、間違えたら何処に行くことになるか分かりまへんがな。
それこそ次元の狭間にある奈落に落ちたら、えらいこっちゃがな」
「別にいいんじゃないですか」
「ええっ!?」
「有害物質を廃棄処分場に捨てると思えば」
一瞬、呆気にとられたようになったエヴェさんだったが。
「ハッハッハ、こら一本とられてしまいましたがな。
確かにそうでんな。
討伐する相手が二度と出てこられへんようになるんやったら討伐したも同然ですわ」
「できれば経験値の糧になってもらいますけどね」
「「「「「ええ─────っ!?」」」」」
固唾をのんで見守っていた面々が慌てている。
魔神が相手というのが本当にビビり要素なのだろう。
「ハルトはん、笑顔がえらい怖ぁ見えるんでっけど。
なんや良からぬことを考えてはりませんか」
「あ、笑ってました、俺?」
エヴェさんに指摘されるまでマジで気付かなかったんだが。
自分の顔をペタペタと触ってみたが、よく分からない。
「いや、もう笑顔やのうなってます」
苦笑しながら言われてしまった。
「そうなんだ」
ちょっと恥ずかしい。
「それで、どないするつもりなんでっか」
「釣り上げてボコりますよ」
「釣り上げるんでっか……」
エヴェさんは呆れ気味である。
「ちゅうことは居場所は既に……」
「あー、それはまだこれからですよ。
裏付けもなく動くと何かミスをしたときが怖いですからね」
「それはつまり、わてがベリルベル様に聞くちゅうことですな」
「なんだか不機嫌な姿を見せたり声を聞かせたりしたくないみたいですから」
「あー、それは確かに」
苦笑と溜め息がコンボで出てきてしまうエヴェさんであった。
「なんだかすみませんね。
使いっ走りというか顎で使うみたいなことをさせてしまって」
「いやいや、これはわてが動かんとラソルトーイ氏の隣に並べられてしまいますわ」
「一緒にお仕置きされるということですか」
「言わぬが花っちゅうやつですわ」
引きつった笑みを浮かべるエヴェさんであった。
そこに趣などはないことに戦慄をおぼえる。
『マジか……
どんだけ怒らせたんだよ』
ベリルママが相当お冠なのは分かっていたけれど。
直接、俺と話そうとしなかったからね。
たぶんルディア様を怒らせたときより凄いことになるのだとは思う。
『怒らせちゃダメな人ほど、普段は温厚なんだよな。
で、逆鱗に触れると正反対のモードが発動してしまうと』
考えるだけでも恐ろしい。
『まあ、余計なことをしなければ痛い目を見ずに済んだはずだしな』
とはいえラソル様が動かなきゃ余計にマズいことになっていたような気がするんだけど。
そういう意味ではラソル様に同情を禁じ得ない。
『ルディア様にメールしとくか』
それで処分が軽減されるかまでは俺の関知するところではない。
薄情かもしれないが、俺もとばっちりはゴメンだ。
後は日頃の行いだろうな。
庇うに値すると思うなら覚悟も決めるんだが。
色々と振り回されているから、そこまでする気はない。
お仕置きが軽減されなかった時は諦めてもらおう。
『死にはしないさ』
「とりあえず連絡入れまっさかい、ちょっと待っとおくんなはれ」
「了解です」
そのままエヴェさんが固まってしまう。
それを見計らったように子供組が飛びついてきた。
「陛下ー、大丈夫かニャ」
ミーニャが胸元に飛び込んできてしがみついている。
「大丈夫?」
「心配なの」
「「なの」」
そう言いながら他の子供組もしがみついてきた。
ルーシー、シェリーが両腕に。
ハッピーとチーが両足に。
幼女まみれでモフモフまみれである。
なにか「ダンダン!」と地面を叩いている女がいるが見なかったことにしよう。
「モフモフ天国があああぁぁぁぁぁっ!」
などという絶叫などは聞こえていない。
聞こえたように思えるなら、それは幻聴である。
「大丈夫だから心配するな。
エヴェさんが言ってただろ。
戦闘力は魔王程度だって」
「「「「「そうだけどぉ……」」」」」
「俺を信じろ。
そんなことよりメタルサーバントの操縦訓練を始めるぞ。
時間は有限なんだ。
不安を感じている暇があったら、まずは為すべきことを終わらせてからにしろ」
そう言って空いているスペースに操縦訓練用のシミュレーターを出していく。
実は【多重思考】を駆使してつくっていたのだ。
編隊行動をとることを視野に入れたリンク機能付きである。
仮想敵として設定することで対戦することも可能。
三つ巴なんて状況も設定できる。
その気になれば、それ以上も不可能ではないが現実的ではないだろう。
「「「「「はぁい」」」」」
気乗りのしない返事だったが、切り替えてはくれた。
そこから先は急ピッチで訓練が始まったさ。
指導役は元日本人組である。
チュートリアルから始めていく。
適性のある者はドンドン先に進めていく形だ。
エリスもさすがにヤエナミの面倒は見ていられなくなったが、しょうがない。
とにかく、みんな必死なのだ。
魔神が敵の親玉だと知らなければ、こうまではならなかっただろう。
偵察部隊との戦闘を見学している頃は楽勝ムードがあったからな。
ビビりすぎだとは思ったが、悪いことばかりでもないようだ。
「あ、あの……」
恐る恐るといった感じでヤエナミが声を掛けてきた。
「どうした?」
「いえ、あのっ、……どうして陛下はそんなに落ち着いていられるのかなって」
「どうしてって言われてもなぁ。
相手の推定戦闘力が思ったほど高くないからだろうな」
俺が生まれ変わる理由を説明されたときに見せられた動画を元に推定してみた。
そして今更なんだが思ったことがひとつ。
『皆にあの動画を見せれば少しは気が楽になったかも』
魔族など恐るるに足らずってな。
「あと、対処するための方策を準備中だ。
お陰で他のことを気にしていられないってのもある」
【多重思考】を使っているから、いくらでも考える余裕はある。
だが、敵への対応に集中したくはあるわけで。
「怖くないんですか」
「今回の相手がという意味なら別に何とも思わないな。
こう見えて修羅場は色々と潜ってきてるからさ」
ヤエナミは唖然としていた。
俺からすると修羅場でも無い気がするんだが。
まあ、ヤエナミからすると天変地異級のとんでもない出来事ばかりだと思う。
「俺が怖いのは、うちの国民が死ぬようなことだね。
寿命ならともかく、今回の戦闘で死人が出るなんて許さない」
思わず笑ってしまった。
敵が怖くないというのは、些か頭のネジがぶっ飛んでいるんじゃなかろうか。
少なくとも感覚が麻痺しているのだとは思う。
そういうのを感じさせないように次の言葉は冗談めかして言っておいた。
「あるいは自分の奥さんたちに本気で嫌われるとかは怖いよね」
「………」
返ってきたのは沈黙だったけど。
ものの見事に滑った訳だ。
「滑ったところ悪いんでっけどな」
エヴェさんが絶妙なタイミングで割り込みをかけてきた。
ありがたいのか余計に恥ずかしいのか分からなくなったがね。
「お見事。
正解でしたわ」
盛大に滑った後だと、自説の正しさが証明されても嬉しくない。
論文にして発表するような代物でもないしな。
「確かめるだけにしては時間がかかりましたね」
「ハハハ、さすがに誤魔化せませんなぁ」
そんなことを言いながら誤魔化すようなわざとらしい笑い方をする。
「それなんですけど、色々聞いてたんですわ」
一転して真顔で話し始めるエヴェさん。
まあ、真顔というよりは笑顔なんだが。
そこは、それこそ言わぬが花である。
ここはひとつ、何を話していたか当ててみるとしよう。
皆は訓練に夢中だしな。
動くとするなら、もう少し後だ。
読んでくれてありがとう。




