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543 喜んだのは1人だけではなかった

活動報告に「本編で書けないグランダムについてのネタバレ」というタイトルで補足説明を用意しました。

グランダムのタイトルや内容がどうしてそうなったのかが多分わかると思います。

「あの……」


 ヤエナミが恐る恐る声を掛けてきた。


「あのゴーレムは一体……」


 何でしょうと聞きたかったのだろう。

 が、徐々に声が小さくなってゴニョゴニョした感じになってしまっていた。

 どんな返事であったとしても己の常識を覆すであろうことだけは予期しているようだ。

 思わず苦笑してしまう。


「ぶっちゃけるとジャイアントシャークを楽に倒すための魔道具だ」


「ま、魔道具、ですか……」


 ハハハと乾いた笑いが漏れている。


「いつの間に……」


 溜め息と共に呟きが出てきた。

 これは俺に対する質問というよりは独り言の類いのようだ。


「いつの間にと問われれば、ここで見学している間にだな」


「そ、そんな!?

 ヒガ陛下は何もっ……」


「俺は手を使わなくても作業ができるんだよ」


 その辺の石ころを理力魔法で持ち上げて色んな動きをさせる。


「で、アレを作るのは空間魔法で用意した別の場所。

 誰にも見られることのない作業スペースだから何かをしているようには見えない訳だ」


 見て聞いたヤエナミはあんぐりと口を開けたまま固まっている。


「作業時間が短いって思うだろうが、前に似たようなものを作ったことがあってな。

 今回のはデザイン変更と性能向上だけだから、そんなに時間はかかっていないぞ」


 嘘は言っていない。

 夢の世界で即席に作った実績があるからな。

 グランダムの名を冠した可変機とか数倍の多い差を誇るやつとか。


『あのときは完全思考制御にしてしまったからな』


 それをすると魔法の制御が疎かになりやすいので、今回は採用しなかった。


『その分、操縦を覚える必要があるけどな』


 だからこそ操縦補助用の自動人形を付けなきゃならなくなったし。

 それが解決しても稼働時間に問題が出てくる。

 攻撃だけでなく動作に使用する魔力を節約する方法として魔力増幅器を追加した。

 ハッキリ言って前回作ったものとは別物だ。

 だから今の発言は嘘ではないがグレーゾーンだと思う。

 そういう雰囲気を感じたのかヤエナミも戸惑い気味である。


「あ、いえ……」


 何か言いたげにしながらも口ごもる。

 どうも俺の空間魔法を用いた機体製作に戸惑っているだけじゃなさそうだ。

 だとするなら、やはり大きさだろう。

 いきなり人間の十倍以上は背丈のあるゴーレムが何体も現れて度肝を抜かれた。

 そんなところだろう。


『ゴーレムではなくてメタルサーヴァントだけど』


 まあ、ヤエナミにしてみれば関係ない。

 とにかく凄く驚かされたということだ。


『こんなのいきなり引っ張り出されても動かせるとは思わんか』


 下手すりゃ巨大オブジェくらいに思っているかもしれない。


「ちなみに、あれだけ大きくても魔力消費は少ない」


 故にフォローしておく。


「だからといって見かけ倒しの性能でガッカリなんてことにもならないはずだ」


「そういうことでは……」


『ないと言いたいのか?』


 そう言われてしまうと俺としてはお手上げだ。

 ヤエナミが何をどう思っているのか見当がつかない。


「まあ、色々と言いたいことはあるだろうがな。

 俺から言えることは今まで見たものを受け入れろってことだ。

 後はこれくらいで驚いてたら心臓のスペアが必要になるぞ」


「えっと……」


 戸惑うヤエナミが視線をあちこちへと向ける。

 誰かに助けを求めるかのように。


「妖精の娘よ、諦めよ」


 悟ったような表情でハマーが声を掛ける。


「ええっ!?」


「ワシらの王を世間の常識で推し量ることなどできんよ。

 鼻歌交じりに次から次へと固定観念を打ち壊していくのだからな」


 ハマーの評価が何気に酷い。


『鼻歌交じりって、どういうことよ』


 ちょっと校舎裏へ連れて行ってOHANASIしたくなるじゃないか。


「鼻歌交じりって……」


「本気じゃないということですよ」


 ボルトが補足した。

 ギギギと軋むような音が聞こえそうな首の動きで俺の方へ向き直ろうとするヤエナミ。


「今回のは比較的本気の部類だぞ。

 全力かと聞かれると違うとしか言えんがな」


 俺の返答に周囲の皆がウンウンと頷いている。

 慣れるとこんなものだが、ヤエナミはそうではない。

 またしても固まってしまった。


『あーあ……』


 悲しいが思い知らされてしまった。

 俺の常識、世間の非常識ってな。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「で、これの操縦を覚えろってこと?」


 ヤエナミが立ったまま気を失ったも同然の状態でいる間にマイカが聞いてくる。


「そうなんだが、戦線の友情って知ってるか」


「グランダムのゲームでしょ」


「ゲーセンのやつだよね。

 私達もやってたよ」


 ミズキが話に加わってくる。


「それなら話は早い。

 操縦系はあれを参考にさせてもらった。

 多少は複雑にはなってるがセミオートだと、かなり近いと思う」


 そう説明するとトモさんが全身を躍動させてガッツポーズした。


「おっしゃあぁ───っ!」


『ゴールを決めたサッカー選手みたいだな』


 このテンションが1人だけなので浮いてしまっている。

 だが、本人はお構いなしだ。

 フェルトが「しょうがないなぁ」という目で苦笑しつつ見ていた。


「ハルトさん」


 エリスが俺を呼んだ。


『今日は、ハルトさんなんだ』


 俺のことをエリスは「ハルトさん」と呼ぶことが多くなってきた。

 実は日によって呼び方が異なっている。

 どうやら色々と自分にしっくり来る呼び方を探しているようだ。


「なにかな、エリス」


 俺が応じたものの、反応がない。

 トモさんの方を見て少し首を傾げている。


「あー、トモさんのはしゃぎっぷりが理解不能だと?」


「そうです」


 エリスは苦笑しつつ首肯した。


『まあ、無理もないよな』


 マルチプルメモライズで渡した情報の中に銀河騎兵グランダムも含まれてはいる。

 こういう物語の作品で、こんなメカや登場人物がという程度でしかないが。

 それ故にトモさんの傾倒っぷりが理解できないのだろう。


「俺らが子供の頃に夢中になった物語なんだよ。

 ミズキやマイカもトモさんほど熱は入ってなかっただろうけど見てただろ」


「続編で見始めたけど、後でDVD借りてマイカちゃんと一緒に第1作も見たよ」


 さすがは幼馴染み。

 趣味の傾向が似るようだ。


「その後でミズキとお金を出し合ってボックスを買ったわ」


『そいつは初耳だ』


 それなりに濃いファンだと思っていたが、それ以上だった。


「2人とも実は乗るのが楽しみだったりするだろ」


「バレた?」


 テヘペロ風に舌を出すマイカ。


「エヘヘ」


 照れくさそうに笑うミズキ。

 2人も否定はしない。


「とまあ、こんな具合に向こうの世界じゃ熱狂的なファンが大勢いたんだよ」


「なるほど、分かったような気がします。

 幼い頃の憧れが実現したから嬉しさが爆発したのですね」


「そんなとこかな」


 エリスは苦笑している。

 理由は判明したが理解はしがたいといったところか。


「詳しくは知りませんが、その銀河騎兵の物語は英雄譚ではなかったですよね」


「グランダムはぶっちゃけ2国間の戦争の話だからね」


「それで、そんなに面白いものなのですか」


 元西方人としては国同士の戦争より勇者や英雄の物語の方が共感できるようだ。


「「「見れば分かる!」」」


 シュバッと元日本人組の3人がエリスの目の前に飛び込んできて力説していた。


『トモさんまで……』


「そっ、そうですか」


 珍しくエリスが引き気味だ。


「姉さん、わたし見てみたい」


「私も少し興味が……」


 クリスとマリアが食いついてきた。

 別に撒き餌をバラまいた訳ではないのだが。


「上映会はしてもいいけど──」


「「「「「やったー!」」」」」


 話の途中で喜ばれてしまった。

 クリスとマリア以外の面子まで加わって喜んでいる。

 おかげで俺が言いかけたことはかき消される形になってしまった。


『人の話は最後まで聞けよな』


 そう言いたかったが、一度盛り上がると話にならない。

 あちこちで盛り上がっている。


 冷静なのはエリスくらいか。

 盛り上がりっぷりにドン引きしていたけれど。

 このタイミングで我に返ったヤエナミにとっては災難だったと言えるだろう。


「えっ!? え? あれっ!? なに?」


 オロオロした様子でしばらく挙動不審になっていた。

 みんなハイテンションで話し掛けられそうな面子がなかなか見つからんからな。

 唯一、話し掛けられそうな俺も離れてしまったし。


 退避したとも言う。

 思った以上に皆が興奮して踊り出さんばかりの雰囲気だったのでね。

 その真っ只中に留まり続けるのは耐えがたいものがあったのだ。

 少し離れて見ている分にはどうってことはないのだけど。

 そのものという感じではないのだがビールかけを連想してしまった。


『ここにビールがあったら本当に始まりそうだな』


 そういう雰囲気があった。

 さすがに取り残されたヤエナミを巻き込むようなことにはなっていないが。


「あれは可哀相じゃありませんか、ハルトさん」


 集団から抜け出してきたエリスが苦笑しながら、そんなことを言った。

 ヤエナミを残して退避してきたことを言っているのだろう。


「そう言うエリスだって単独脱出じゃないか」


「事故にはならないでしょうから」


「だよな」


 そうでなければ、とっくに保護している。


 怪我をさせる訳にはいかんし。


「それにしても凄い反響ですね」


「ああ、些か想定外だ」


「そうだったんですか?」


「最近はみんな動画に慣れてきたからな」


「言われてみれば、そうですね」


「鎮静化するまで待つしかないだろ」


「ヤエナミさんは迎えに行かないんですか」


 俺たちを見つけて向かおうとしているのだが、なかなか踏み出せずにいる。

 車の往来が激しい道路の真ん中で取り残された子猫を連想させる姿だ。


「メンタルを鍛えるのに丁度良さそうだから、そのままで」


 エリスが苦笑する。

 その時、俺のスマホが倉の中で鳴った。


読んでくれてありがとう。

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