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542 もうひとつは……

修正しました。

同士 → 同志

大いと → 大きいと

 キースたちに合図を送ると上がってきた。


「あっ」


 ヤエナミが驚きの声を発した。


「濡れていない……」


「言っただろ、魔道具だって」


「そこまでの……」


 何故か言葉を失っている。


「おいおい、言うほどのことじゃねえだろ」


「じゃから無茶を言うでないわ」


 呆れたようにガンフォールがツッコミを入れてくる。


「ハルの常識、世間の非常識ってね」


 クククと楽しそうに喉を鳴らしてマイカがそんなことを言ってきた。


「そこまで言うのかよ」


 ふて腐れたくなってくる。

 だが、まだ話は終わっていない。


『俺が用意した保険はまだ披露していないんだぜ』


 それに後始末もしないといけない。

 保険はスペースを食うのだ。


『色々と種類を用意したからな』


 カテゴリー的には同じだが、性能的にもデザイン的にも異なるものを作った。

 1体だけでもそれなりに場所を食う。

 サンプルとして1体ずつだが、大きさはそこそこある。

 場所を食うのでプールは邪魔だ。

 故にプールは分解の魔法で消滅させた。


「なっ!?」


 ヤエナミが目をむいて言葉を失っている。


「はいはい、これくらいで驚かない」


 パンパンと手を叩きながら、そう言うと我に返るヤエナミ。

 やや恨みがましい視線を俺に向けてくる。


『そんな目で見られてもなぁ』


 俺は小心者なんだから止めてくれませんかね。

 ……誰だ? 嘘ばっかりなんて思った奴は。


「そろそろ常識の物差しは捨てた方がいいぞ。

 少なくともうちじゃ、そんなものは通用しない」


 いい加減に学習してくれと言いたいところだ。


「無茶を言わないでください」


 ガックリと肩を落とすヤエナミ。


「そんなこと言われてもなぁ。

 まだ見せていないものがあるんだぞ」


「……どういう、こと、ですか?」


 恐る恐るといった様子で言葉を句切りながら聞いてくる。


「水中戦対策はひとつだけではないんだよ。

 もうひとつ、今回の一件に合わせて用意した」


「「「「「え!?」」」」」


 何故かヤエナミ以外の面子も何人か驚きの声を発している。

 国民として日の浅い面々だな。

 妖精組とかは、それくらい俺なら当然と言わんばかりに平然としていた。

 プールから上がったときに変身を解いているので表情で確認できている。


「いつの間に……」


 そんな風に声を漏らしたのはフェルトだった。


「倉の中で作業してた」


 うちの国民であれば、そう言うだけで充分だった。


「「「「「ああ……」」」」」


 そうだったと納得の表情を浮かべている。

 ただし、国民でないヤエナミは困惑したままだ。


「気にしなくていいぞ、ヤエナミ。

 俺にかかれば、これくらいは朝飯前ってことだ」


「はあ」


 呆れ気味に返事をされてしまった。


「とりあえずデカいのを引っ張り出すから腹に力を入れておけ」


「え?」


「さっきみたいに腰を抜かされちゃ敵わんからな」


 そう言うと、コクコクと神妙な表情で頷かれた。


「じゃあ、行くぞ」


 倉から完成品を引っ張り出していく。


「ズンッ」


 意図的に浮かせた状態で出してきて着地させていく。

 1体、また1体と。


「「「「「おおーっ」」」」」


 うちの国民には受けがいいようだ。


「やった─────っ!!」


 拳を突き上げて絶叫するトモさん。


「ちょっと、何なのよ!?」


「ビックリしたぁ」


 側にいたマイカとミズキが仰け反るほどだ。

 抗議の視線を向けられてもトモさんは動じない。

 というより眼中にない。

 興奮が止まらない抑えられない状態であるが故に。


「ハルさんハルさん、こいつはアレだろ、アレアレ!」


 トモさんがラミーナだったら尻尾が出力全開で振られていることだろう。


「そうだな、アレだな」


 両手で「どうどう」と宥めつつ同意する。

 デザイン的にパクっているから分からないはずはないのだ。


「「銀河騎兵グランダム!」」


 俺たちが小学生の頃に第1作がテレビ放映された日本を代表するロボットアニメ。

 間違いなく金字塔と言っていい作品だ。


 以後、現在に至るまで続編や派生作品が次々と生み出されている。

 アニメだけではなくゲームも漫画も小説も数え上げれば切りがない。

 劇中に出てくる人型兵器のプラモデルは玩具会社の稼ぎ頭と言われる定番商品だ。


 肝心の物語だが、宇宙に進出した人類と謎の異星人との戦争がベースになっている。

 第1作は最前線に取り残された少年少女が生き残るために戦うというものだった。

 戦争を話の軸にしながらも成長や恋愛、そして永遠の別れを盛り込んでいる。

 これまでのロボットアニメでも扱われてきたが、より複雑になっていた。


『当時は分からなかったが、斬新だったよな。

 そのせいでストーリーが難解になってたけど』


 視聴者が離れていかないよう色々工夫はしていた。

 派手な戦闘シーンなんかはそのひとつだろう。


 他にも詳細なメカ設定なんかがある。

 アニメ本編では出てこないマニアックな機体まで設定されプラモ化された話は有名だ。

 これが反響を呼び、打ち切りの危機を何度も乗り切ったという。


 スタッフはこれで自信を得て世に様々なアニメを送り出していったそうだ。

 グランダムの続編もそこに含まれている。


『これがまた凝ってたんだよな』


 前作の設定を引き継ぐのは当然として、残されたままだった謎を解き明かしていた。

 その中で異星人が古代文明時代に宇宙へ移民した地球人であることが明かされたんだが。


『そこから敵との恋愛に繋げるとは思わんよな、普通』


 少なくとも、それ以前のアニメで俺は見た覚えがない。

 理由としては難しいものではない。

 ストーリーが難解になることでタブー視されていたのだ。

 有り体に言ってしまえば視聴率が低下することをそれまでの制作側は恐れていた。


『スポンサーの意向とかもあるからな』


 それを考えると、よくやれたものだと思う。

 大胆で野心的な作品である。

 プラモデルの爆発的な売り上げが無ければ後の成功はなかっただろう。


「あまり登場しなかった水陸両用のスゴークを真っ先に出すとはやりますなー。

 初期型に赤い指揮官機に後期型までそろえているし。

 沢口泰介さんが知ったらスゲー悔しがるだろうなぁ。

 その上、マッカイもあるよー。

 これは総司令部襲撃シーンが再現できてしまうじゃないかっ。

 ゴッヅもあるし、ハイゴッヅまである。

 地球サイドはグランダムは当然として量産機ディムのバリエーションも出すとは。

 プラモでしか登場してないやつを用意するとかマニアックだわ。

 それにしても万能タイプのグランダム以外は見事に水陸両用の機体だけだねぇ」


 トモさんはいつになく饒舌だ。

 実に嬉しそうである。


「んー、水中戦がメインになるからなぁ」


「いやいやいや、そういうことじゃなくてさ」


「どういうこと?」


「無印のグランダムは資料が少ないじゃない。

 当時は設定資料集なんて販売されていなかったし。

 アニメ誌とか月刊漫画誌なんかで細々と紹介される程度でさ」


「フフフ、DVDボックスの初回限定版の予約特典というものがあるのだよ」


「おおうっ! なんてこったぁ。

 そいつは俺も持ってるけど、まさか身近に仲間がいたとはっ!?」


『持ってるのかよ』


 だったら驚くなと言いたくなった。

 言ったところで聞く耳を持たないであろうことは想像に難くなかったが。

 興奮の度合いがハンパない。


「さすがは我が同志!」


 言いながら握手を求められたので応じるとブンブンと激しく歓迎された。

 握手が終わったと思ったら、ダダッと赤い機体のすぐ側へと駆けて行く。


「やっぱコイツだよなぁ。

 ディムの土手っ腹に穴を空けたシーンは圧巻だった。

 スゲーなぁ、1分の1で再現されてるよぉ。

 クローアームは当然として、頭部ミサイル発射管も完全再現っ。

 ああ、でも腕部ビーム砲は今回の戦闘で使えそうにないのは残念だ」


「ビームは光魔法で再現させてるから水中でも使えるよ」


「マジで!?」


「うん、マジ」


「うおおおおぉぉぉぉぉ─────っ!」


 仰け反るようなガッツポーズで喜びを表現するトモさん。


『オリジナルと同じ仕様じゃないのに喜ぶのか』


 1分の1で喜んでいたはずなんだけど。

 何処がツボなのかよく分からない。


「ちょっと、ハル」


 ムッとした表情を俺に向けてくるマイカ。


「おう、どうした?」


「どうした、じゃないでしょ。

 火に油を注ぐようなことして」


 両手を腰に当ててプリプリと怒っている。


「あ、トモさんがグランダムマニアなの知ってたんだ」


「そんなの有名じゃない。

 じゃなくてっ!」


「なんだよ」


「こんな所でこんなの引っ張り出しても意味ないでしょうが」


 ガーッと噛みついてくる。


「そうか?」


「あのねえ、こんなのでアピールしようとしたらさっきのプールじゃ小さすぎでしょ」


「別にプールは出さないぞ」


「どういうことよ?」


「だって水中での活動に支障のない魔道具をさっき見せたばかりだぞ。

 後から出したものが、何の対策もしてませんなんてことがあると思うか?」


「ぐっ」


 マイカ撃沈。


「まあ、ここで動かすつもりはないから魔力の消費具合は見せられないけどな」


「ねえハルくん、こんな大きいと魔力消費が大変なことにならない?」


 今度はミズキが聞いてきた。


「新開発した魔力増幅器を仕込んである。

 シミュレーション上では持久戦になるほど有利なんだぞ」


「さすがというか抜かりがないよね。

 でも、こんなことしなくてもハルくんが本気を出せば終わるんじゃない?」

 ミズキは身も蓋もないことを言う。


「そんなことしたら皆がレベルアップできないだろ。

 それに本気になってる妖精組の見せ場が無くなるじゃないか」


 俺の言葉に妖精たちがブンブンと激しく首肯する。


「余程のことがない限り俺は手を出さないよ」


読んでくれてありがとう。

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