541 ハルト凹まされる
「キース、いいぞ」
「了解であります」
俺がゴーサインを出すと何故か敬礼するキース。
『口調も変だし』
教えた容疑者は約2名。
モフリストの方が本命だが、我が友である線も捨てきれない。
まあ、追求はしないでおこう。
実害はないんだし。
『それよりも許可を出したキースが動き出すのを見届けないとな』
「とおっ!」
掛け声と共にジャンプ。
常人離れした跳躍を見せる。
まあ、うちの子たちなら助走も必要のない高さだ。
ヤエナミもこれくらいでは大騒ぎしなくなった。
少しは慣れたのだろう。
ただし、驚いていない訳ではない。
そこも慣れてもらうしかないが時間がかかりそうだ。
いちいち気にしても疲れるだけなのでキースの跳躍を眺めて堪能する。
『やはり特撮番組の華は跳躍だよな』
変身後のジャンプなんて燃えるだろ?
『やっぱ格好良さが際立つよなー』
まるで本物の特撮番組を見ているかのようだ。
見られる側であるキースも、その辺りを意識しているらしい。
ジャンプの頂点で捻りを加えた前転を披露するキース。
「「「「「おおーっ」」」」」
跳躍は脚力勝負だが、宙返りは技術である。
高い技術で繰り出されたそれは皆の感動を呼び込む訳で。
『完全に見られることを意識してたな、アレは』
綺麗な姿勢を維持したまま飛び込みの体勢に入るキース。
そして空中に浮かぶ巨大プールに飛び込んでいった。
普通のプールとは水深が違うことを意識してかキースはグッと深く潜っていく。
プールの底の方へ到達すると、こちらに向けてサムズアップしてきた。
「我らも行くぞ!」
「「「「「おうっ」」」」」
ヨウセイジャーに変身した他の妖精たちも続く。
「「「「「とおっ!」」」」」
次々と跳躍し思い思いの宙返りを披露して飛び込んでいく。
派手に水飛沫が上がりそうなものだが、そうはならない。
俺が飛び散るのを理力魔法で抑制しているからだ
「ヤエナミ、よく見ておけよ。
うちの子たちがシャークマンごときに後れを取るのかどうかな」
返事がない。
それは食い入るようにプールの中を見ているからだった。
既にプールの中で飛び回っている妖精たちに視線が釘付けである。
そう、妖精たちは水中を飛んでいた。
まるで妖精が空を飛ぶように。
『って、妖精だからな』
冗談はさておき、皆が自在に水中を移動する姿は華麗であった。
言うまでもなく速さもある。
巨大プールが小さく感じるほどに。
そんなものを見せつけられれば目を奪われるのも無理はない。
ヤエナミの場合は意識ごとと言うべきだろう。
『俺の呼びかけがまるで耳に入ってないようだし』
ヤエナミの表情が徐々に驚愕のそれに変わっていく。
妖精たちが模擬戦を始めた訳ではないのだが。
目に見えるような派手な魔法を使った訳でもない。
そんな真似をしなくても動き回るだけで充分にアピールになっていた。
「そんな……
我々より速い」
愕然とした表情のままで呟きが漏れ出ていた。
完全に独り言だが、ヤエナミは無意識であろう。
「しかも泳いでいるように見えないのは……」
なにげに注意深い。
唖然とした様子で見ているのにもかかわらず、そんな真似ができている。
矛盾を感じずにはいられない。
『いいけどさ……』
アピールは成功しているようだし。
ちなみに今のヤエナミの疑問に答えるつもりはない。
理力魔法を使っているからな。
色々と問題があるので理力魔法は部外秘にしている。
『西方人に知られると面倒なことになりそうだからな』
では、ヤエナミに見せるのは大丈夫なのか。
そこは相手が妖精だからである。
信用度の違いというやつだ。
『それに見ただけでバレるような魔法でもないしな』
「これでもそちらのお眼鏡に適わないかな」
「そ、それは……」
「あの変身スーツは一種の魔道具だ。
水の抵抗を減らす処理がされている。
もちろん防具としての効果もあるぞ。
普通の鎧などより遥かに防御力は高いからな」
「魔道具!?」
ギョッとした表情を俺に向けてくる。
「そんなに驚くことか?」
少なくとも大がかりな魔法を使うよりは驚かれないと思っていたのだが。
『超音速で飛行したりデッカいプールを作るよりは楽なんだけどなぁ』
変身スーツなんてチマチマしてる分だけ手間がかかるだけのものだ。
どう考えても驚くようなことじゃないだろう。
そんな風に思っていたら──
「ハルトよ、無茶を言うでないわ」
ガンフォールにツッコミを入れられてしまった。
「まったくだ」
ハマーも追随してくる。
ボルトはその後ろでうんうんと頷いていた。
『マジか……』
「ですよね」
エリスまでもが参戦してくる。
「初めて自動車を見せられたときは呆れてしまいました」
「えー、そうかぁ?」
とてもそんな風には見えなかったのだが。
「あー、自動車は酷かったのう」
ガンフォールがしみじみと思い出すように語る。
「あんな魔道具をホイホイ気軽に使う神経を疑ったものじゃ」
「そこまでっ!?」
「あれほどの代物は普通であれば一生お目にかかれんのじゃぞ」
「またまたぁ、大袈裟だなぁ」
「大袈裟なものかっ」
ハマーが鼻息荒く反論してくる。
「壊れるかと思うような乱暴な運転をしおるし」
「ハッハッハ、すまんすまん。
けど、全開のラリードライブだからこそ早く到着できるんだぞ。
チンタラ走ってたら倍以上の時間がかかるからなぁ」
「……まったく」
ジト目で見られてしまった。
ハマーとボルトに。
「車だけじゃないわ。
挙げ句の果てには輸送機じゃぞ」
「アレは確かに驚きましたね」
クリスがしみじみと語っている。
「私達は声も出ませんでしたよ」
「初めてフェンリルを見たときと同じくらいの衝撃を受けました」
そんなことを言うのはABコンビである。
『初お披露目の時は確かにインパクトはあったか』
「あんな巨大なものが空を飛ぶなど常識外れにも程があるじゃろう」
「そうか?」
「そうかじゃないわっ」
ちょっと憤慨気味のガンフォール。
「仕方あるまいて。
旦那は始めて出会ったときから非常識な存在だったからな」
『ツバキまで』
徐々に味方が減っていく。
「発想が無茶なら、作るものも必然的にそうなるわね」
レイナが溜め息交じりに語る。
「なんだかんだ言って私も慣れちゃったけどさ」
「あー、それはある」
「せやせや」
レイナの意見に同意するリーシャとアニス。
「ですよねー」
「「ねー」」
ダニエラと双子などは何故か楽しげに首を傾けながら相槌を打っている。
「ぐぬぬ」
「ハルト様は自覚がなさ過ぎです」
マリアなどバッサリである。
「ハル兄の辞書に自重という言葉はない」
『ノエルまで!?』
「いや、さすがに有るだろう」
ルーリアがフォローしてくれる。
『くぅーっ、泣けるなぁ。
凜々しい童顔侍ガールに癒やされるぅー』
内心で感動していたら──
「辞書にはあるが閲覧されないだけだ」
持ち上げておいて落とされた。
「ぐはっ」
トドメを刺された気分だ。
『みんな酷いじゃないかっ』
内心でだけ文句を言っておく。
リアルで言ってしまうと返り討ちにあいそうだからな。
自業自得?
……返す言葉もございません。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
何時までも凹んだままではいられない。
ヤエナミとの話も途中だったしな。
「皆さんが水中でも戦えるのは分かりました」
こういう言い方をするってことは拒否られる訳だ。
「先に言っておく」
『断らせるかよ』
「ヤエナミはうちの客人だ。
誰が何と言おうが客人だ」
大事なことなので強調してみた。
殺気は発していないが、気迫でヤエナミにも否定はさせない。
「客人に害をなした輩を俺は許すつもりはない」
「ですが……」
ヤエナミは本当に頑固である。
どうあっても断るつもりなのだろう。
だったら、こちらは何があっても断らせない。
「数の上で不利だと思っているなら勘違いも甚だしいぞ。
俺が本気になれば万の数を超える敵がいようと関係ないからな」
「え?」
何を言っているのだろうという目で見られた。
常識的に考えれば、その困惑は間違いではない。
『いい加減、慣れろよ』
非常識な体験をいくつもしておきながらブレないヤエナミであった。
読んでくれてありがとう。




