540 妖精たちの変身
修正しました。
マイカを愛でる → マリカを愛でる
『変身するのは分かるんだけど』
よくよく考えると謎なことがひとつ。
『変身する前に歌を歌うのはどういうことなんだろう』
思うに歌う必要があったのだろうか。
変身シーンに合わせて曲が流れるって感じじゃないし。
そんなことを考えているとポンポンと肩を叩かれた。
「くうくーくくぅ」
察してやんなよと訳知り顔で頷きながら言ってくるローズさん。
「くっくっくくーくうくーくっくくぅくぅくくー」
主題歌を歌って気分を盛り上げたいんだってば、だそうである。
言われてみれば、妖精たちは気合いの入った顔をしていた。
ワントップで最前列となったキースがポーズを決める。
変身を開始する時の最初の構えのようなものだ。
そんなことしなくても変身はできる。
だが、これは変身ヒーローの伝統というか様式美のようなものである。
『緊急的な変身でもないのに省略するなどあり得んよな』
そのあたりは俺も同意するところだ。
キースのポージングを合図に背後の妖精たちも同じようにポージングしていく。
波が伝わるように見えるのは妖精たちの演出だ。
このあたり動きが連動して綺麗に決まるから見ていて気持ちがいい。
『50人ほどで変身するのは圧倒されるものがあるがな』
だが、ここですぐに変身を始める訳じゃない。
「影に生き!」
キースが声を張る。
「「「「「闇を裂き!」」」」」
後方の妖精たちが負けじと台詞を繰り出した。
「電光石火で走り抜け!」
再びキース。
「「「「「はびこる悪は許さない!!」」」」」
そして全員で吠えた。
ググッと腹に力が入るところである。
「凝ってるわねー」
「燃えるじゃない」
「戦隊もののお約束かな」
元日本人組が口々に感想を呟いていた。
変身直前の溜めのタイミングであることを承知した上での発言だ。
たった数秒ほどのことだがタイミングを逃さない。
『逃してしまうと変身の掛け声に被ってしまうからな』
このあたりは特撮番組を見慣れているが故だろう。
さすがである。
「忍精チェンジ!!」
溜めが終わりを迎えるとキースが掛け声と共に変身アクションを始めた。
ダイナミックな動きで躍動感がある。
「「「「「忍精チェンジ!!」」」」」
他の妖精たちも追随する。
次の瞬間、妖精たちが眩い光に包まれた。
そして光はすぐに消える。
妖精たちは懐かしの変身スーツに身を包んでいた。
「「「「「我ら忍精戦隊ヨウセイジャー!
お呼びでなくても只今参上!!」」」」」
爆発の演出とかはない。
『魔物とかまた集まるからね。
ヤエナミが腰を抜かしかねんしな』
それだけならまだしも、魔物の襲撃と勘違いして錯乱する恐れだってある。
妖精組も相応に配慮はしているのだ。
『まあ、ヨウセイジャーごっこの時も変身直後の爆発はなしだったしな』
これだけの人数で一斉に変身するだけで充分に迫力がある。
「うわぁ、圧巻だね」
普段はあまり興奮しないミズキが真っ先に喋り出すほどだ。
これで迫力がないなどとは言うまい。
「数十人レベルで変身とか、劇場版かっつの」
マイカも文句を言っているようで口元は緩い。
ショボければ、こんな風には喜ぶまい。
『素直じゃないんだから』
「凝ってるねー。
微妙にデザイン違うよ、アレ」
トモさんはライダー派なので冷静に見ているけど、感心しているのは間違いない。
『そういや変身のアクションなんかは記憶情報として渡してなかったっけ』
元日本人組が驚きつつも感動するのは初見だからというのもあるのだろう。
恐らく次からは普通に見られるはずだ。
『何度見ても喜ぶ可能性は否定しないけどな』
それはともかく変身が終わったらアピールする必要がある。
変身で終了したんじゃ意味がない。
それこそ何のために歌ってまで派手に変身したのか分からなくなるからな。
「よぉーし、そこ空けろ!」
俺が声を張るとヨウセイジャーたちがシュバッと大きく飛び退く。
俺が何をするのか理解している証拠だ。
というより妖精組の声なき要望を俺が察した形である。
「あらよっと」
掛け声と共に巨大な水の塊を作り出す。
「───────────っ!!」
ヤエナミが声にならない悲鳴と共に尻餅をついた。
『あちゃー、やり過ぎたか』
俺的には水中パフォーマンスを最低限できる程度に留めたつもりなんだが。
それでも海の妖精たるドルフィーネをも驚愕させてしまったようだ。
『普通は儀式魔法の規模だもんなぁ』
ちと反省。
「あー、スマン。
腰が抜けたか?」
一応は謝って声を掛けておく。
だが、ヤエナミからの返事は期待できなかった。
「なっなっなっなななっ……」
唇が震えてしまって上手く言葉が喋れなくなってしまったようだ。
「あーあ、どうすんのさ、ハル」
「ちょっと大きすぎたんじゃない?」
ジト目で見てくるマイカと、困り顔で苦笑しているミズキ。
「50メートルプールをうんと深くしたくらいあるか」
トモさんが、やや呆れ気味に目測の結果を言葉にしている。
「俺だと一度じゃ無理だ、これ。
フェルトはどうだい?」
「私も一度では無理ですよ、アナタ。
こんなことができるのは陛下だけじゃないですか」
無理と言いながらも特に驚いた様子も見せないフェルト。
これくらいで驚いていられないという訳だ。
『まあ、超音速で飛んで来ているしな。
それに比べたら可愛いもんだろうさ』
「妾はできるぞ」
シヅカがドヤ顔でフェルトにアピールしていた。
「くっくくー」
もっちろんとローズも胸を張っている。
悪の幹部風マントをしたままなので発言の軽さとのギャップが大きい。
「水じゃなくて氷ならマリカもできるよー」
何故か万歳ポーズでアピールしている幼女。
「もちろん私達もできるわよ」
「何だか申し訳ないんだけど……」
マイカは自慢げにしているが、ミズキは恐縮しきりという感じである。
ノエルが悔しそうにしているのを見たせいか。
「あー、そうでしたね」
苦笑せざるを得ないフェルトであった。
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あれから数分ほどでヤエナミがどうにか落ち着きを取り戻した。
『割と速かったな。
少しは慣れてきたのかね。
あるいは魔法の規模がそんなに大きくなかったからか』
できれば前者であってほしいところだ。
「申し訳ありません。
取り乱してしまいました」
「いや、気にするな。
予告なしでやった俺も反省すべきだろう」
だが、再びやらかすとは思う。
それは反省とは言わない?
面倒くさいから改善しないだけだ。
故にあれから追加で魔法を使っている。
使っているというか使わせた。
マリカにな。
「プールにして使うから四方と底を凍らせてくれ」
「はーい」
元気よく手を挙げて返事をするマリカ。
そこから大きく息を吸い込んで幼女の小さい口でブレスを吐き出す。
その仕草がまた可愛いんだ。
そのせいで身悶えしてたな。
マイカが。
「うはっ、ケモ耳尻尾の幼女が可愛い仕草の凄いブレスで大魔法!」
さっそく抱きつきに行く。
マイカが男なら通報ものの事件である。
「お巡りさん、こっちですぅ」
作った真顔でそんなことを言っているトモさん。
ふざけているのは明白である。
「トモさん、ここは日本じゃないからね」
「ウゥーウーウー」
トモさんは赤色灯を模したであろうジェスチャーとサイレンの声真似までしている。
俺のツッコミなど、何処吹く風であった。
『これは目の前のカオスから逃避しているな』
そのカオスはマイカが作り出している。
度を超したモフりでマリカを愛でるという形で。
「うー、やめるのだー」
マイカに抱きつかれたマリカがジタバタと暴れる。
「んー、きゃわいー」
ガッチリ完璧にホールドして放さない。
モフりつつ頬ずりしている。
マリカが脱出を試みているがレベル差があるから無理だろう。
『何が、きゃわいーだ。
キモいっつうの!』
声に出してツッコミを入れないのは理由がある。
『ヤバイ……
本気でモフってやがる』
こういうときのマイカは[触れるな危険]状態なのだ。
普通のモフりとは明らかに目の色が違う。
血走ってすらいる。
『この状態だと周りが見えなくなるからなぁ』
そのせいで邪魔者はすべて敵と見なすのである。
モフり対象者以外は誰が誰かなど認識しないので邪魔しようものなら……
で、肝心のモフり相手はどんなに暴れようと最終的には根負けする。
投げ遣りになって好きにさせるようになってしまうのだ。
業の深い女である。
『この悪癖さえなければなぁ……』
「あー、落ち着こうね、マイカちゃん」
マイカの本気モフりモード中に存在が唯一認識されるミズキが宥めに入る。
『任せておこう』
俺が加わっても状況を悪化させるだけだからな。
『とりあえずマイカはミズキに任せておこう』
ヤエナミに見せつけなければならない。
俺たちが水中でも存分に戦えるということを。
妖精組のお陰で切り札が1枚増えたのは朗報だ。
読んでくれてありがとう。




