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536 海のエルフは成長の片鱗を山のドワーフは頑固さを見せる

 結局、リオンの氷弾8発でチビ地竜が沈黙することとなった。

 これを同行している他の誰かに実行させていたなら1発で終わらせていただろう。

 何発も外したということではない。

 リオンが発展途上だったというだけのことだ。


『氷弾を習得しながらだから、こんなものか』


 1発目は額に命中するも弾かれた。

 威力がまるで足りていなかったせいだ。


 2発目は氷弾が突き刺さりかけたが砕け散った。

 今度は強度が足りない。


 3発目はめり込み、そして落下した。

 ただし、狙いが2発目までと比べて甘くなっている。

 数センチ程度だが、動かぬ的相手ではズレは小さくない。


 4発目は右目に突き刺さった。


『わざと目を狙ったか』


 柔らかい部分からの内部破壊は、こういうデカブツ相手の常套手段だ。

 地竜が瞼を閉じたことで止められてしまったが。


『さすがにそこまで自由を奪っている訳ではないのでね』


 睨まれると石化するとかであれば話は別だが。

 亜竜風情にそんな特殊能力が備わっている訳はないのである。

 メタルワイヤーを駆使してグルグル巻きにして理力魔法を使えば充分。

 身動きなんてできるはずもない。

 片目を潰されれば普通は大暴れするところだろうがね。

 そんな真似は俺が絶対に許さない。


『リオンの安全に関わるからな。

 レオーネから頼まれている訳だし』


 妻の妹に怪我をさせるなど、あってはならない。


 5発目は眉間よりも下の角度の浅い部分に当たった。

 これにより、またしても弾かれた。


『狙いが雑すぎる』


 目に当たったのも偶然だったようだ。


『砕け散った氷弾に意識が奪われているな』


 硬度のことしか考えられなくなっているのだろう。

 それでは意味がない。


「リオン、強く念じろ」


 俺はリオンが6発目を撃つ前に声を掛けた。

 ここで修正しなければ無駄弾を何発も消費するだけだと判断したからだ。


「アレの眉間を貫く瞬間を、だ。

 堅さがどうとか速さがどうとかじゃない。

 リオン、お前が奴を仕留めるんだ」


「はい」


 静かだが強い意志を感じる返事だった。

 魔力が練り直される。


『少し良くなったか』


 次の瞬間、6発目が放たれた。

 亜竜の眉間にめり込んだが、こぼれ落ちた。

 威力的には3発目より少しマシになった程度。

 だが、正確に眉間に当てている。


『アドバイスは無駄じゃなかったようだな』


 続いて7発目。

 氷弾がギリギリ埋まりきるくらいに突き刺さった。


『まだ弱い』


「そんなんじゃレオーネに笑われるぞ」


「っ!?」


 発破をかけた後の8発目。

 7発目を押し込む形で奥深くに貫入。

 地竜の大きくはない脳を完全に凍結させた。


『やれやれ、リオンがシスコンで良かったよ。

 でなかったら仕留めるのにどれだけ時間がかかったことか』


 それではヤエナミに対するアピールが弱くなってしまう。

 ミズキがフォローしてくれているはずだが、それでも限度がある。

 そういう意味では冷や冷やさせられた。


『下手をすればこちらの援軍を断られかねないからな』


 妖精組にとってはドルフィーネは類属とも言える存在だ。

 その危機を知って本気になっているのに助太刀できないなど顔向けできない。

 断られても強引に介入するつもりではあるが。

 だが、それをするとお互いにしこりが残らないという保証がない。


『せめて実力に不足なしと思わせておかなきゃな』


 今回はどうにかそれをキープできたと思う。


「よくやった。

 今の感覚を忘れるなよ」


 内心で感じていた焦りとは裏腹に余裕の笑みを浮かべてリオンを褒める。

 氷弾壱式をマスターしたに過ぎないが。

 褒めていい気分を保たせておく。

 そうすれば次へのモチベーション維持に繋がるはずだ。


『基本部分のフォローは帰ってからだ』


 イメージの重要性はまだ理解していないだろうし。

 理解できれば、恐らくは化けるだろう。


「はいっ」


 今にも泣きそうなほどリオンが瞳を潤ませている。


『よほど嬉しかったんだな』


 喜んでくれるなら俺も嬉しい。


「今後も期待している」


「ありがとうございました!」


 凄い勢いでお辞儀されてしまった。

 思わず苦笑が漏れる。


『さて、チビとは言え地竜だったんだ。

 リオンはどれだけレベルアップしたかな』


 【鑑定】で確認する。


[リオン・ソレイユ/人間種・シャドウエルフ/女/16才/レベル91]


 思ったより伸びが悪い。

 おそらくは内包型魔法の基礎をマスターできていないが故だろう。


『それでここまでレベルアップできたのが凄いけどな』


 姉に置いて行かれたくない一心だったのだろう。

 基礎を徹底的に仕込んだら面白いことになりそうだ。


『シスコン恐るべしだな』


 皆の所に戻ってきたときにレオーネに声を掛けておいた。


「姉として負けてらんねえぞ」


「はい」


 神妙な表情で答えちゃいるが微妙に眉根が寄っていた。

 どういう意味かは帰ってから教えてやろう。


『レオーネがどういう反応をするのか楽しみだ』



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 その後もデモンストレーションが続いた。

 出てきた魔物が群れの時は複数で対応。

 単体の大型は1体ずつ転送魔法で引き寄せ1人で相手をさせる。

 ヤエナミも徐々に慣れつつはあったようだ。

 驚いて呆然とする時間が徐々に短くなるだけとも言うが。


『まあ、オークみたいな雑魚はもういないしな』


 背丈はオークと同等ながらスピードで圧倒するリザードマンなんかはいたけど。

 これが細マッチョでパワーもあるんだよ。

 経験値的にはオークとそう変わらないのに。

 力任せなオークと違って技も使えば連携もしてくるので同格じゃないと思うのだが。


「リザードマンは仮想シャークマン対策になるだろうか」


 微妙なラインだと思う。


「似ておるのか?」


 ガンフォールが聞いてきた。


「タイプ的にはな」


「ふむ、スピード重視で連携もしてくるというのじゃな」


「そんな感じだ」


「良い訓練相手になりそうじゃが?」


 俺が渋い表情をしているのに気付いたのだろう。

 疑問を挟んでくる。


「あっちとの戦闘は水中だぞ」


「そうじゃな」


 素っ気ない返事からすると気付いていないようだ。

 ガンフォールにしては珍しいと言わざるを得ない。


『だが、ずっと山で生活してきたんじゃ気付かんか』


 しかも訓練と漁以外では絶対に泳ごうとしない。

 海水浴の誘いを断ろうとするくらいだ。


『ドワーフってのは変な連中だよな。

 泳ぐのは嫌がるから水に入るのが嫌いなのかと思ったら、風呂は喜んで入るんだぜ』


 本当に訳が分からない。

 これはガンフォールだけではない。

 ハマーや若いボルトまでもがこの調子である。

 本当に海水浴へ行かないのかと再び聞いたときの返事だって取り付く島もなかったし。


「嫌じゃ」


「嫌だ」


「絶対に無理です」


 ボルトに至っては断りの返事じゃなくて完全否定だったからな。

 仕事でなければ、とにかくダメで嫌なようだ。

 こうなると後の交渉は粘りが必要だったさ。

 普段の俺なら「ああ、そうなんだ」で、それ以上は無理に誘わないんだけど。


『妖精たちがなぁ……』


 ガンフォールたちも一緒じゃなきゃ嫌だと言ったので、どうにか頑張ったのだ。

 何度も泳がなくていいと言ったのだが「駄目、嫌、無理」のいずれかで返された。

 水着も用意しなくていいなんてのも条件に入れた。

 温泉があるんだぞと別方向からもアプローチしてみた。

 一度ではびくともせずという感じだった。


『ホント頑固者ばっかだわ、ドワーフって。

 若手のボルトでさえ動かざること山のごとしだもんなぁ』


 何度も粘り強く「なあ~、皆で遊びに行こうぜぇ~」と誘って態度が多少軟化した程度。

 どうすりゃいいんだと頭を抱えて匙を投げたくなったほどだ。

 ところがである。


「じゃあさ、屋台を切り盛りしてくんない?」


 投げ遣り気味に言ってみたら──


「ふむ、その面子は必要じゃな」


「ワシもそれならやるぞ」


「あ、手伝います」


 実にアッサリ参加の返事がもらえてしまった。

 訳が分からない。

 分からないが、それくらい泳ぐことを嫌うのだ。

 それ故なんだろう。

 彼等には水中活動での視点が大いに欠けている。


「地に足がつかない戦闘だぞ」


「ふむ、そうじゃな。

 足場がないと踏ん張れぬのは厳しいの」


「それだけじゃねえよ」


「む?」


 反応は芳しくない。

 どうやら本気で分かっていないらしい。


「足元からも攻撃される恐れがある」


「おお、確かに」


 指摘されて気付くとはガンフォールにしては珍しい。


「あと肝心なことを忘れてないか」


「肝心なことじゃと?」


「水の抵抗を忘れるなよ」


「むう、そうじゃったな。

 あれは忌々しいものよ」


 ガンフォールでこの調子なのだ。

 ハマーもボルトも気付いているはずはない。

 ドワーフとは、とことん水中活動とは相性が悪い種族である。


『対策を準備して正解だったな』


 助っ人としてなら水中にも潜るだろうが、どうにも危なっかしいし。

 おそらくは役立つと思う……


「だからリザードマンは良い訓練相手とは言えないな。

 少しは参考にできるという程度だろう」


 シャークマンと戦うときの皆は初めての水中戦ということになる。

 それを考えると、対策は全員に行き渡るようにしておいた方がいいかもしれない。


読んでくれてありがとう。

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