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535 姉を慕う妹を指導してみた

 3姉妹がバーサーカーを片付けた。


「蹴り殺すだけの簡単なお仕事です状態ね」


 マイカの感想は的を射ていると思う。


『実に呆気ない幕切れだったからな』


「首ポキの練習台にしていたみたい」


 ミズキもなかなか鋭い。

 3姉妹が首ポキをするのが初めてなのを見抜いたようだ。


『確かに1体目は微妙なぎこちなさはあったか』


 キースの動きをコピーした結果だから仕方のないところはある。

 2体目で修正し、3体目で更に良くなっていたけどね。


『思えば強くなったもんだよな』


 それは本人たちの方が強く実感しているだろう。

 バーグラー王国へ殴り込みをかけた時には想像もできなかったんじゃなかろうか。

 もしかすると未だに信じられない気持ちが心の何処かにあるかもしれない。


『そのあたりは本人たちに聞いてみなきゃ分からんがな』


 とはいえ信じられない気持ちはヤエナミの方が強いだろう。

 見れば完全に絶句している。

 俺がバーサーカーを倉に回収しても何も反応がない。

 最初ほど驚かなくても、何かしら反応があると思ったのだが。

 ピクリとも動かない。

 そのうち復帰するのは分かっているので放置している。


『しばらくはこのパターンが続きそうだな』


 転送するまで呆然として始まったら驚いての繰り返し。


『まあ、そのうち慣れるだろ』


 と思いたい。

 デモンストレーションの最後まで慣れることがなかったとしても討伐には行くがね。

 恐らくヤエナミは反対しないはずだ。

 懸念材料がないではないが、それは【多重思考】の俺たちで対応中である。

 色々とシミュレートして製作するお仕事です。


『本当はもっとじっくり仕上げたかったんだが』


 贅沢は言っていられない。

 保険になるものはちゃんと間に合うように用意しとかないとね。


『次はリオンだな』


 ジャンケンには参加したんだが順番が最後の方になったのでリオンだけは変えさせた。

 後の方になるとレベルの低いリオンではやりづらくなるからな。

 かといってトップバッターは緊張しすぎてヘマをしかねない。

 まあ、キースから3姉妹までの戦い振りを見てガチガチにならない保証もなかったが。


「どうだ行けるか、リオン」


「はいっ」


 見たところ、変に緊張はしていない。

 リラックスとも言い切れない入れ込み具合ではあったが。


『これなら大丈夫か』


 フォローは必要だろうが、それは最初から考えていたことだ。


「誰か、ヤエナミのフォローを任せる」


 そう言って俺はリオンと共に前に出る。


「任せて」


 背後から聞こえてきたのはミズキの声だ。

 ミズキなら大丈夫。

 妙なノリでヤエナミを振り回すことはないだろう。

 マイカや他の面子がちょっかいを出さない限り。


『どうにも不安だ』


 ミズキの「任せて」を信じるしかあるまい。

 今はリオンのバックアップに集中すべきである。

 外野はあえて無視だ。

 と思ったら、レオーネが頭を下げてきた。


「妹をよろしくお願いします」


「おーう、任せとけ」


 姉は無視できないので応えておく。

 シャットアウトはここからだ。

 が、ここで問題が発生する。

 姉から離れるほどにリオンの表情が強張っていくのだ。

 ギャラリーから充分に距離を取って立ち止まったときにはガチガチだった。


「心配はいらん」


「は、はひ」


『ここに来て噛むか……』


 普通に歩けていたはずなんだが。

 この調子だと、魔物を引き寄せても満足に体を動かせない恐れが出てきた。

 防御に関しては俺が受け持つので体が動かなくても問題はないのだが。

 頭が働いてくれなければ体どころか魔法も使えない。


『魔法までってのは勘弁してほしいぜ』


 先程まで大丈夫そうに見えていたのは姉が側にいたからのようだ。


『レオーネに付き添いを任せるべきだったか』


 己の読みの甘さに内心で歯噛みした。

 それを顔に出す訳にはいかないので【ポーカーフェイス】スキルで誤魔化しておく。


「いいか、リオン」


 なるたけ威圧感のないように呼びかけた。


「レオーネはお前のことを俺に託した。

 信用してなきゃ、自分の妹を他人に任せるなんてできないぞ。

 それともお前は自分の姉まで信じられないのか?」


「いっ、いえっ!」


「それならいい」


 不敵な笑みってやつをリオンに向けてやる。

 芝居がかっていようが、少しでも不安を和らげられるならやってやるさ。


「俺がお前には絶対に手出しさせない。

 だからリオンは攻撃のことだけ考えろ。

 レオーネから教わった魔法で敵をぶちのめせ」


「はいっ」


 鋭い眼差しで見返してきた。


『姉を出しにするとアッサリだな』


 これほどの効果が得られるとは思っていなかった。

 リオンはどうやら俺が思っていた以上のシスコンらしい。


『正直、助かった』


 気合いを入れ直すのに手間取るところだったもんな。

 チョロいなどと言ってはいけないのである。


「それじゃあ始めるぞ」


「はい!」


 返事と共に魔力を練り始めたリオン。


『まだまだ制御が甘いな』


 若干のもたつきを感じる。


『確かレベルは90近かったはずだが』


 それは間違いない。

 だからこそ違和感を感じた。

 月影の面子に魔法を教えたときとは明らかに違う。


『もっとレベルが低いときのもたつきに近いぞ』


 転送魔法で魔物を引き寄せた直後なので原因究明は保留だ。


「これはっ!?」


 目の前に現れた地竜にリオンが動揺する。

 小さめの若い地竜を選んだつもりだったんだが、それでも大型の魔物。

 人の背丈を超えるベアボアなどよりも更に大きいのだ。


 ましてやリオンは地竜を初めて生で見た訳で。

 動揺するなと言う方が無理である。


『早まったか』


 思った以上の反応に後悔するが今更である。


「狼狽えるな」


 一瞬でメタルワイヤーの魔法を多重起動させて地竜を縛り上げていく。

 葉巻かというくらいグルグル巻きにしてやった。

 首だけ出した状態だが、口も縛り上げている。

 体ほど巻き付けなくても口を開くことができないでいる。


『どうやら口まわりの筋肉の付き方は地球の爬虫類と同じようだな』


 爬虫類は噛みつく力は強くても逆は弱いというのを何処かで聞いたことがあったのだ。


『いずれにしても安全策として理力魔法で拘束しているがね』


 故に暴れることはおろか吠えることさえできない。


「緊縛プレイだ」


「随分と色気のないプレイね」


 背後から思わず脱力したくなるような会話が聞こえてきた。


「お主ら、少しは真面目に見ぬか」


「「へーい」」


 ツバキが抑えに回ってくれたお陰で誰かさんたちが際限なくボケまくることはなかった。

 ミズキにヤエナミを任せたぶん収拾がつかなくなるかと思っていたんだが。

 危機は回避された訳だ。


『ナイスフォロー、ツバキ』


 心の中で称賛する。


『帰ったら御褒美のナデナデだな』


 人前だと嫌がるが、俺と妻たちだけになると黙って無表情で撫でられる。

 これだと御褒美にならないだろうと思うことなかれ。

 他に誰もいない場合にはナデナデだけで御機嫌な表情を見せるのだ。

 ツンデレ亜種のクーデレだと俺は思っている。


 それはそれとして俺はリオンのフォローをしなければならない。

 動揺したことで魔力の流れも乱れてしまった。

 また一からやり直しである。

 だが、制御を失敗したことで分かったことがある。


『明確なイメージがなしに魔法を使おうとしている』


 今ひとつ、内包型の魔法を理解できていないのだろう。

 イメージがあやふやな代物だから、そちらに気を取られる。

 当然、集中ができない。

 結果的に魔力の制御が乱れる。

 乱れるからそちらにも意識が行ってイメージが更に覚束無くなる。


『悪循環だな』


 それだけではない。

 リオンがこうであるなら城住まいでない他の国民たちも同じような状態の恐れがある。

 帰ったら調査して、懸念通りなら対応しないとダメだ。


『今はリオンをどうにかしないとな』


「リオン、俺を見て真似てみろ」


「え……あっ!? はい」


 動転した状態から抜けきれていないようだ。

 一瞬、不安が脳裏をかすめたのは事実。

 けれども強引に行く。

 こういう状態だからこそ余計な情報が脳に入らないとも言えるからだ。


『下手にボンヤリした状態を抜け出されると雑念だらけになりかねないからな』


 やるのは氷弾壱式。

 1発目、俺の氷弾だけが地面に穴を空けた。

 リオンは氷弾を作り出す段階で失敗している。


「失敗は無視しろ、次だ」


 2発目、また俺だけ。

 氷弾の生成で躓くようだ。


「俺の作り出す氷弾をよく見ろ。

 頭の中に思い描け。

 何も難しいことはない。

 ただ真似をするだけでいいんだ」


 次々に作っては地面を目掛けて撃ち込んでいく。

 チビ地竜を狙わないのは、リオンに経験値を稼がせるためだ。

 俺が仕留めてしまっては意味がない。


 8発目でリオンが氷弾の生成に成功した。

 が、射出で失敗した。


「その調子だ、ドンドンやれ」


 失敗を無視させるために氷弾生成のペースを上げた。


「くっ」


 必死で食らい付いてくるリオンだが、そう簡単に成功したりはしない。

 それでも更にペースを上げる。

 その脳裏に焼き付けとばかりに。


 途中から数えていなかったが地面はそれなりの範囲が凍り付いていた。

 そんな中でついにリオンの氷弾が鋭く地面を穿つ。


「もう一丁!」


 ここで俺は氷弾の生成を止める。


「次は奴の眉間を狙え」


 俺の手本がなくてもリオンは地竜に向けて氷弾を放っていた。


読んでくれてありがとう。

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