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517 @純田朋克:正体を知った後は仕事あるのみ?

37話を改訂版に差し替えました。

『俺は必要ないって言ったんだけどな』


 それでもリサは襲撃者のことを話すと言って聞かなかった。

 リサが話すまでもなく男は顔見知りの人間と分かっていたのだが。

 無理に止めても向きになるだけである。


『強情さんなんだから』


 しょうがないので観念して聞くことにした。

 細かい情報は知らないしな。

 それを知ったところで役立つ訳ではないのだけれど。


『父ちゃんが放っておく訳はないからな』


 リサに向かって刃物を向け襲いかかった。

 あの男は全てを失うだろう。

 未遂だろうが怪我をしていなかろうが関係ない。


『奴は父ちゃんを怒らせた』


 今頃は雷電の爺さんからの報告を受けて激怒しているはずだ。

 だから知っても意味がないと思ったのだ。

 とはいえ、話を聞くと決めた以上はちゃんと聞く。


『上の空で聞くのはリサに失礼だからな』


 そこから話されたのは「ああ、やっぱり」と言いたくなるような内容だった。

 まず、男の正体。

 リサが通っていた中学高校の同級生という時点で既にありがちだ。

 高校卒業間際にリサに告白するも玉砕。

 直後からストーカーと化したという典型的な逆恨みタイプである。


『予想通り過ぎて言葉が見つからんな』


 ただ、高校卒業から8年間もそんな真似を許すほど父ちゃんは甘くない。


『それでも2年近くは我慢したっていうのが逆に凄い』


 相応の理由があるんだけどな。

 未成年と成人なら、どちらがより重く責任を問えるかという話だ。

 他にも嫌がらせレベルを逸脱しなかったことが辛抱した理由のひとつだと思われる。


 その間のリサは徹底したガード体勢で守られていた。

 そして野郎だが、成人してから少しの間は泳がされていたようだ。

 弁護士を伴って警察への相談実績を作った上で成人してからの証拠を集めるためである。

 証拠が充分に集まった時点で内容証明を送る。


 この時点で被害届を出さないのは交渉材料のひとつにするためである。

 本人はともかく身内に抑止させるには効果的な場合があるらしい。

 結果は向こうから全面降伏の形で謝罪してきたので狙い通りになったようだ。

 誓約書を書かせて無事解決。


 以来6年間、奴の姿を見ることはなかったという。

 今日、あの男が再び姿を現すとは誰も思っていなかったようだ。

 執事である雷電の爺さんさえも。

 本人を前にすれば「知らなかったのか、雷電爺さん!?」とか言ってしまいそうだ。

 言わんけどな。


『そりゃあ慌てるか』


 いかれたストーカーをノーマークにしてしまってたんだし。


『処分は如何様にもなんて言う訳だよ』


 そこまで話を聞いて、ふと違和感を感じた。


『今頃になって殺意を抱くか?

 それに俺に対する殺気の方がより強かったし』


 こんなのは俺がリサの婚約者だと知らなければ起こりえないことではないだろうか。

 では、そんな情報を何処で知り得たのか。

 俺たちが婚約したことは対外的に発表していないのだ。


『父ちゃんは自分たちが知っていれば充分と言っていたしな』


 本来なら付き合いとかあるだろうに俺に気を遣ってシャットアウトしてくれている。

 そんな訳だから俺も秘密にしている。


『てことは内通者がいるってことにならないか』


 そうでもなければ辻褄が合わないだろう。

 襲撃者は6年前に懲りて大人しくなったんじゃない。

 情報が手に入るから潜伏していたんだ。

 で、俺という婚約者が急に現れたことで逆上して犯行に至ったと。


『こりゃ、父ちゃんに連絡しておいた方が良さそうだな』


 向こうでも気付くだろうが、万が一ということもある。

 俺は電話で父ちゃんに連絡を入れた。

 リサにも知られてしまうが仕方あるまい。

 協力者が誰か分からない以上は襲撃者の逮捕が知られる前に行動すべきだ。

 証拠を処分されてからでは遅いからな。


 後日、清掃業者の人間が逮捕された。

 息子の友達が襲撃者だったらしい。

 世間は狭いことを痛感させられた事件であった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 空腹を満たすだけの昼食を終えた。

 さすがにあんな事件があった後では味わって食べる気にもなれない。

 施設内の売店で菓子パンと缶コーヒーを購入して控え室で詰め込んだ。


『リサと一緒だと、いつもより旨く感じたのは幸いだな』


 気のせいではないと思いたい。

 お陰で俺もリサも少しは気が晴れた。


 食べた後は作業中だった社員たちを手伝う。

 今日、用いる配付資料の最終確認作業だ。

 来場者が会場へ入る際に出欠を取るので、その際に手渡していくことになる。

 サプライズで受付をしたいと言ったら社員全員から断られた。


『自分たちの仕事を奪わないでくれと言われちゃしょうがない』


 今は控え室で時間になるのを待っている。


「社長、時間です」


「ほ~い」


 軽い調子で返事をして立ち上がる。

 社員たちの反応は若干の困惑といったところか。

 自分たちの上司がお気楽な性格をしているとは夢にも思っていなかったのだろう。

 面通しくらいはしたが、一緒に仕事をするのは今日が初めてだからな。

 確認作業中も努めて明るくなるように振る舞ったお陰で少しは慣れたようだが。


『たぶん呆れているとは思うけど』


 そこは知ったことではない。


『というか慣れてくれ』


 俺が堅苦しいのは苦手なんでな。

 社員たちには今後の環境への適合を期待する、以上。

 俺に続いてリサも席を立った。


「休んでなくていいのか」


 先程の確認作業と違って説明会は長丁場になる。


『少なからぬストレスとなるはずなんだがなぁ』


「今日の私は朋克さんの秘書ですから」


「そういう設定でも体調不良の時は休むべきだと思うぞ?」


「いえ、本当に大丈夫です」


『大丈夫じゃないんだがな』


 大きなストレスで精神的負荷がかかったのだ。

 気を抜けばドッと疲れが押し寄せるだろう。

 それこそ立っていられなくなるくらいには弱っているはず。


『言い出したら聞かないからなぁ……』


 頑固一徹である。


『仕方ない』


 困ったときの魔法頼みである。

 要求される難易度は高い。

 使うのはバフなので、こちらの世界でも難しいものではないのだが。

 問題は魔法を知らないリサに勘付かれないようにしないといけない点だ。

 ある程度はっきりした効果を出そうとすると厳しいものがある。


『こういう時、ハルさんならどうするかな』


 面倒くさいとか言って眠らせてしまいそうな気がする。

 却下である。

 そんなことをしたら誤魔化すのが大変だ。


 もし魔法がバレたら、眠らせたことを抗議してくるだろう。

 そっちかよ、だって?

 リサなら俺が魔法を使うと知っても、そういう反応をしそうだと思っただけだ。

 本当にそうなるかは分からん。

 故に魔法バレしない方法を考えるのだ。

 そこで、ふと気付いた。


『一気にやろうとするからダメなんだよ』


 効果を悟られない程度のバフを持続させればいい。

 問題は出力調整だ。

 説明会の最中にデリケートな魔力操作なんて普通なら無理である。


『だが、俺には【並列思考】スキルがある!』


 という訳でジワッとバフっておきました。

 これで長丁場にも耐えられるだろう。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 会場となった貸し会議室の前まで来た。


「社長、当初の人数より増えています」


 ドアの手前で待っていた社員がそう報告してきた。


「あー、フリー以外の人でしょ。

 余裕があったら各事務所が追加で人を出すとか聞いてたけど」


 父ちゃんが精力的に動いてくれた結果である。

 当日になるかもしれないが、それでも構わないならという話だったはず。

 この業界じゃ珍しい制度を導入しようとしているからだろう。

 レンタル移籍とか金銭トレードなんて馴染まない気はするのだが。


『父ちゃんの資金力だからこそ成し得ることだよな』


 いずれにしても人が集まるなら、それに越したことはない。


『誰もいないとかシャレにならんからな』


 フリーの人からは返事をもらっているので参加者ゼロはないのは分かっていたけど。

 ドタキャンされない限りはだが。

 そういう意味では今日になってもドキドキしていた部分はある。

 1人でもいると分かっている今は穏やかでいられるのだ。

 だが、社員を見る限りでは困惑気味である。


「そうなんですが……」


 どうにも歯切れが悪い。


「どうしたのさ?」


『本当にドタキャンで人が大幅に減ったとか?』


 それなら受付担当が血相を変えて控え室に飛び込んできそうなものだ。

 そうなっていたら各方面に電話しまくりになっていたと思う。

 幸いにして、そのような報告は受けていない。


「最終リストから5割増しになりまして」


『困惑していたのはそのせいか』


 1割2割ほど増えることは彼も想定していたのだろう。


『最終リストは、つい2日前にできたそうだしなぁ』


 そこからの1.5倍は予想できなかったのだろう。

 俺もそこまでは予想外だった。

 正直「マジで!?」と喉まで出かかったのは事実である。

 だが、ここまで来て社員たちやリサの前で動揺を見せる訳にはいかない。


「あ、そうなんだ」


 なるたけ何でもない風を装ってみた。


『人が減るよりいいじゃないか』


 そう考えると気が楽になる。

 どのみち、全員が登録してくれる訳じゃないのだ。


『2割いればラッキーなんだろうなぁ』


 場合によっては1割を切ると考えている。

 そういう状況なら、1人でも多く来てくれるなら本当にありがたいことだ。

 幸いにして倍以上の人が来ても余裕がある会場を借りている。

 俺はおもむろに社員の肩に手をやりウンウンと頷いた。


「大丈夫、大丈夫。

 来てくれた人たちを立たせなきゃいけない程の状況じゃないだろ」


 そう言うだけで社員の体から強張りが消えた。


「そうでしたね。

 やりましょう!」


 気合いの入った返事を受けて頷きを返す。

 リサも笑みを浮かべていた。


『よし、行くぞ!』


 俺自身も気合いを入れ直し、会場のドアを開けて中に入っていった。


読んでくれてありがとう。

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