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505 @純田朋克:世の中そんなに甘くない

遅くなりました。

すみません。

 結局、あれから何度も世界間を往復することになった。


『こんなに頻繁に往復するとは……』


 夢にも思わなかったというやつだ。

 もちろん具現化した呪いを消滅させるためである。

 自動人形に任せると修行にならんからな。

 経験値も稼げないし。

 お陰でレベルは115になった。

 1体1レベルの勘定である。

 倒すごとにシンサー流の奥義を使うときの疲労度が減っていった気がする。

 ただ【ヘルプ】で確認したがレベルアップは主な要因ではないようだ。

 【魔導の極み】の熟練度が上昇したことの方が深い関連性があるという結論ですな。


『シンサー流の技って奥義も含めて魔法じゃないみたいなんだけどなぁ』


 何だかよく分からない。

 とはいえ特級スキルの熟練度がグングン上がったので俺としてはホクホクだ。

 なんでこんなに上がるのか怖いくらいだったけど。

 首を捻っていたらエリーゼママが教えてくれた。


『そんなの簡単よ。

 魔法が使いづらくなる封印してる場所で魔力操作してたじゃない』


「あ」


 実にアッサリ解決した。

 要するに負荷をかけてトレーニングしていたようなものだったのだ。


『どうりで消耗しやすいと思った』


 その辺りのことを失念していたのは我ながら間抜けだと思う。

 なんにしろ奥義は威力絶大だった。

 教えてくれたルーリアさんによれば滅多に使わない大技だったそうだけど。

 初代以外の伝承者が実戦レベルで使おうとすると命懸けになったとか。


『それを負荷のかかる世界で使った俺って……』


 危機感がなさ過ぎだ。

 それとも大事なことを肝心なときに忘れる天然ちゃんなのか。

 いずれにせよ大いに反省することとなった。


『バンバン使ってたもんなぁ』


 見敵必殺な勢いで仕留めにかかっていた。

 後で師匠に聞いたところ──


「威力が過剰です」


 と言われてしまった。

 叱られはしなかったけど、レベルが低いと命に関わるとの注意は受けた。


『道理で残りの呪いたちが雑魚っぽく見えた訳だよ』


 エリーゼママの話じゃ手強いのほど後回しにしていたというのにだ。


『オーバーキルだったんだな』


 とはいえ何の問題もないはずだ。

 相手は呪いの塊。

 百害あって一利なしだ。

 実際、俺は被害者なんだし。

 文句を言われる筋合いはない。


『逆恨みした奴なら言いそうだな』


 自分勝手なことしか言わない輩の主張など聞く耳を持たないが。


『寝言は寝ているときに言うもんだ』


 既に永眠してるがね。

 じゃあ地獄で吠えてろと思ったが、野郎は地獄にも行けないらしい。


『放った呪いが強力すぎたのよね。

 魂が染まりきってるから修正指導もできやしない』


 なんてエリーゼママにぼやかれた。

 それで、どうなったかというと完全浄化だそうだ。

 簡単に言うとシンサー流奥義の金剛滅却のもっと強力なのを浴びせるらしい。

 結果的に魂はその存在を失ってしまうとか。


 存在の抹消とは穏やかでない話だ。

 だって、そうだろう?

 魂が残っているなら転生できるんだ。

 無ではない。

 普通は記憶を洗浄されて真っさらな状態からのリスタートだがね。


 中には記憶が残ったまま生まれ変わる者もいるけどさ。

 そういう場合、大抵は同じ世界での転生だ。

 希に異世界転生なんてこともあるらしい。

 なぜかセールマールの世界は異世界からの客人が多いんだとか。


『それってエリーゼママが仕事してないからじゃないの?』


 監視網が緩いから、ドンドン入り込んでくるとか。


『あり得ないと否定できないんだよな』


 ただ、そうは思っても本人には言えない。

 ハルさんには言っておいたけど。


「あー、そういうこともあるだろうね。

 だけど悪影響がある訳じゃないだろ?」


「そりゃまあ、そうなんだけど……」


「もしかしたら理由があって意図的にそうしてるかもしれないし」


 そんな風に言われて想像してみたが……


「とてもそうは思えないんだが」


 エリーゼママは確かに優秀な神様なんだとは思う。

 けれども優秀=真面目ではないよな。

 仕事はできるけど面倒だからサボるというのがエリーゼママのイメージだ。

 どうしても避けられない仕事も誰かに丸投げという名のプレゼントをするし。

 俺も現に強力な呪いの排除を任されたし。


「うん、俺もそう思う」


 思わずズッコケた。


「ハルさーん」


 情けない声が漏れ出てしまう。

 その一言に「だったら、そんなこと言わないでくれ」の気持ちを込めたつもりだ。


「ハハハ、気にするだけ無駄ってことだよ。

 実害がないんだからスルー推奨だ」


「実害があったら?」


「賠償請求する」


「ああ、うん、そうだね」


 ハルさんの言葉にテンションが下がりきってしまった。

 追求したい気持ちが完全に萎えている。


『もしかしたらハルさんはこれを狙っていたのかもな』


「だけどね、トモさん」


「ん?」


 よく分からないが話は続くようだ。


「外からの風が入ってくるのは悪いことばかりじゃないんだよ」


「どういうことかな?」


「魔法が著しく使いづらい世界で魔法なんて言葉が自然発生すると思うかい」


「どうだろう?

 昔の人は迷信とか信じたみたいだし」


「確かにそういうのもあるだろうね。

 だけど、それにしては魔法を題材にした作品が世の中に多すぎないか。

 昨今じゃもっとあからさまだよね。

 異世界ものの物語が世の中に溢れているだろう?」


「……………」


 言われてみれば確かにそうだ。

 ラノベじゃ定番ネタである。

 実際にそういう題材のアニメやゲーム作品に参加したこともある。


「もしかして異世界からの転生者が作品を創出しているとか?」


「多分そうなんじゃないかな。

 全部ではないんだろうけどね。

 そこはエリーゼ様に確認しないと判明しないけど」


 怖い話である。


『怖いと言えば……』


 逆恨み野郎の魂が完全抹消されているということ。


『存在しないものを転生させることは、出来ないからなぁ』


 自分がその立場だったらと思うと背筋が凍る。


『誰かを呪うなんて出来ないけど』


 だから同情はしないし、できない。

 そもそも、魂全体が濃密に染まりきっている相手だ。

 完全浄化するまで処置すれば何も残らなくて当たり前。

 下手に残せば呪いをばらまく汚染源となる。

 消されて当然という訳だ。


『そりゃ、しょうがない』


 自業自得である。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「はあー」


 盛大に溜め息が出た。

 漏れるとかそういうレベルの話ではない。


「甘かった……」


 己の見通しが。

 こんなに落ち込んだのは久しぶり。

 生まれ変わってからは初めてだ。

 ひとり自室でお通夜状態。


「仕事がない……」


 オーディションは受けている。

 でも、通らない。


「呪いをすべて祓ったら何もかもが変わると思ったんだがなぁ……」


 何も変わらない。

 むしろ状況は悪化している。

 リハビリが終わる頃などはラジオとかゲストで頻繁に呼んでもらえた。


「ありがたかったなぁ……」


 人の情けが身に染みた。

 番組に送られてきたメールで自分のことが忘れられてなかったと知ることができた。


「それだけで生きる希望が湧いてきたもんな……」


 ところが現状はというと、ボロボロであった。

 オーディションがダメ。

 仕事のオファーもない。

 ゲスト出演すらままならない有様。

 恐怖すら感じてしまう。


「この業界でやっていけない……」


 新人の頃は技術が足りなくて感じたことだ。

 今や仕事がなくて痛感している。

 今更、普通の勤め人が務まるとは思えんのだが。


「アラフォーのオッサンだし。

 アラフォーのオッサンだし……」


 またしても溜め息が出た。

 自分で言ったことにダメージを受けて落ち込むとかアホである。


「なんで2回も言っちまうんだ……」


 大事なことでもないのに。

 だが、冗談抜きで働き口があるとは思えない。

 年齢は言うに及ばず悪条件が重なるからな。


「職歴なしで資格なしだもんなぁ……」


 車の免許くらいはあるけど、お世辞にも運転が上手いとは言えないし。

 ないない尽くしなのだ。


「あ、金はあったな」


 今までの貯金が鼻で笑われるほどの慰謝料をもらったから。

 あれがなきゃ、もっと落ち込んでた。


「というか焦ってただろうな」


 家賃に食費に光熱費などが貯金を食い潰していくんだから。

 そう考えると少し希望が持てた。


「いっそのことセミリタイヤするか」


 贅沢しなけりゃ食っていける。


「こっちじゃ結婚できそうにないし」


『大人になっても小学生状態だったからなぁ』


 女性と向き合うと心の何処かで一線を引いてきたツケが回ってきている。

 今から積極的になっても今更感が半端ないだろう。

 俺としてはフェルトがいるから、さほど気にはならない。

 親不孝ではあるとは思うが、しょうがない。


「でも、仕事してえなー」


 やっぱり声優という仕事が好きなんだよ、俺。


読んでくれてありがとう。

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