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504 @純田朋克:実は丸投げされていた

修正しました。

中に入る → 中にはいる

始めて → 初めて

返事を期待している → 返事を期待している訳じゃない



「シンサー流、紫電一閃」


 逆袈裟で振り上げた刀が靄状の黒い影を切り裂いた。

 そこから1歩引いて基本である霞の構えをとる。

 と同時に切り裂いた部位から銀の炎が立ち上り影の全身を包み込んだ。

 人ならざる者の断末魔の悲鳴が上がる。


 が、構えは解かない。

 人間が相手であれば、ほぼ即死の攻撃であった。

 しかしながら相手は血を流さない。

 これだけでも大きな差である。

 元は人間だっただけあって人の形をしてはいるのだが。


 影は銀の炎に包まれ動けなくなってはいた。

 そういう技だ。

 霊体や残留思念など思念体の動きを封じ消し去るまで燃え続ける。


『相手が消え去るまで戦いは終わりではない、か』


 この技を教えてくれたハルさんの妻ルーリアさんの言葉だ。

 彼女は退魔道シンサー流の伝承者でもある。


『すげー技だよな』


 ルベルスの世界でアンデッドを相手に初めて使ったときは正直驚かされた。


『スケルトンとかゾンビが動けなくなるとは思わなかったし』


 子供の頃に遊んだ「だるまさんが転んだ」みたいだった。

 もっとも、相手は燃えつきてコアだけになってしまう点が大いに違うのだけど。

 それに自分の命を担保にしているので遊び感覚ではいられない。

 故に【並列思考】で色々なことを考えながらも、油断なく相手の状態を観察している。

 銀の炎が影を燃やし尽くすまで。


『強い相手だと炎を吹き飛ばす奴もいるそうだし』


 目の前の影もなかなかしぶとい。


『最初に切った奴なんて技を使うまでもなく一瞬で消滅したのにな』


 切った直後は何処かに逃げたのかと思ったくらい拍子抜けの結末だった。

 元を同じとする呪いの中でも最弱の存在だと言える。

 こんなのじゃ経験値など稼げる訳もなくレベルアップはしなかった。

 既にこちらの世界でも3桁レベルだから無理もない。


『2回目以降は甘くはなかったが……』


 退魔用に術式を刻み込んだ刀で切っただけでは消えはしなかった。

 さすがにダメージは入っていたが。

 何度も切り付けて弱らせた上で技を使ってトドメを刺した。


『そういや、2回目の時はいきなり技を使って失敗したよな』


 相手だって動くのだ。

 大振りの技は躱されても仕方がない。

 あの時は腕1本しか潰せなかった。

 即座に考えを切り替え技はトドメまで使わないようにしなかったら、どうなっていたか。


 そして何故かレベルアップした。

 苦戦と言うほどのことはなかったのだがレベル102に。

 後でハルさんに聞いてみたら臨機応変な対応をしたからじゃないかということだった。

 経験値の換算についてはゲーム的だと思っていたが、そうでもないようだ。

 技の連発でゴリ押ししなくて良かった訳だ。


『状況によってはレベルアップしなかったかもしれないんだな』


 俺としてはより確実に勝てる手段に切り替えただけだ。

 技を使うと魔力を消費するしな。

 魔法とは微妙に違うらしくて消費率は魔法よりも少ない。

 魔法を制限する結界に覆われた世界でも低燃費なのがありがたい。

 それでも脳筋戦法で戦っていたら厳しかったと思う。


『負けはしないまでも終わったらヘロヘロだっただろうし』


 だから今回も相手を弱らせるまでは技を控えていた。

 そして動きが鈍ったのを確認した上で技を使ったつもりだったのだが。


『本当にしぶといな』


 動けはしないものの、なかなか燃えていかない。

 頭部に誰かの顔の映像を貼り付けたような状態で威嚇してくる。

 ほとんど獣の形相だ。


『これが俺を逆恨みしていた奴の面か』


 実に個性的なことをしてくる割に特徴のない顔をしている。

 怒りに顔を歪めてさえ印象に残らない気がするほどだ。


『残留思念といえどピンキリってことだな』


 本能的にしか動けない奴も中にはいる。

 特にコイツらは呪いが散り散りになったものだ。

 どれも均質の状態であるはずがない。


『最初に切ったのは存在感の希薄な奴だった』


 一刀両断で終了。

 探し出すのに時間がかかったさ。

 事前にエリーゼママが『この辺りだから』と教えてくれたんだけどね。

 脳内スマホに地図まで転送してくれたのに。

 まあ、俺が最寄り駅を間違えたのが悪い。

 言っとくが忍者スタイルのままで電車に乗ったりはしていないぞ。

 ギャグアニメじゃないんだし。


『そんな怪しげな格好で電車に乗っていたら注目の的じゃねえか』


 絶対に通報される。


『そして警察官に職務質問を受けること間違いなしだ』


 あとは純田朋克とバレないようにもした。

 以前、カードゲームの大会に出場したらモロバレだったからな。

 ローカルな小さい大会だからと高をくくって変装なしで出たのがバレた原因だ。

 イベントとか他にも色々顔出しの仕事をしてるからな。

 相手がカードゲームをプレイする者たちともなれば趣味が似通うのも無理はない。

 そういう意味では今回はバレない可能性も充分にあった。


 それでも念のために幻影魔法で姿を変えたよ。

 イメージはバイト帰りの大学生。

 部活帰りの設定と迷ったが遅い時間で自然な方を選んだ。

 後悔はしていない。

 反省?

 する訳ないない。

 仕事は楽しくやるものだ。

 呪い退治が仕事かって追及されそうだけど。

 細かい部分を気にしてはいけない。


『2回目の相手はトカゲのように末端部分を切り離して逃げ回ったっけ』


 初回ほど弱い相手でないと判断して技を使うも、その戦法を使われ一撃必殺とはならず。

 一時的に技を封印して結界内を追い回して切り刻んだ。

 そして最後に技を使ってジ・エンド。


『3回目は三位一体で襲いかかってきたな』


 こちらは1人なので最初は受けに回る。

 俺の方が動きは軽かったので囲まれないように位置取りしながらだったが。

 相手の死角や動くタイミングを利用して瞬間的に1対1の状況を作り少しずつ反撃。

 おかげで呪いとの戦いの中で最長時間となったのは言うまでもない。

 最後は突き技の嵐牙で3体へ向け無数の連続突きを放った。

 仕留めたのは、ほぼ同時である。

 このときもレベルアップしてレベル103になった。


『4回目は、とにかく素早い奴だった』


 追い回すのが面倒で結界を狭めていくことにした。

 身体強化の魔法を使えば追いつけなくはなかったがね。

 それをしなかったのは疲れるからだ。

 修行中というならともかく実戦で消耗するのは下策だろう。


 侮っていい相手ではない。

 結界は見えない壁だからピンボールみたいに跳ねて愉快なことになっていたな。

 最終的にはガチガチの型枠に填め込んだように身動き取れないようにしたが。

 でもって今回と同じ紫電一閃で確実にトドメを刺した。

 動けないなら逃げられることもない。

 素早いだけの相手だったので技ひとつで仕留めることができた。


『今回の相手は2回目のに近いか』


 トカゲの尻尾切りのような真似はしないがタフだ。

 動きが鈍るまで切り続けるのに、どれだけ時間がかかったことか。

 しかも技を使うと判断して放ったはいいが沈まない。


『しつこい』


 いや、俺の判断ミスだろう。

 まだトドメを刺す段階ではなかったと見るべきだ。


『どんだけタフなんだよ』


 思わず呟きそうになるが返事を期待している訳じゃない。

 こういう情報はエリーゼママも教えてくれない。

 おおよその出現場所と日時を知らせてくれるだけだ。


『それだけでも充分にありがたいけどな』


 後は呪いの数。

 最初に32と聞いたときは多いとは感じなかった。

 細かく分裂してくれた方が楽になりそうだなとか感じていたくらいだ。

 しかしながら、その考えは甘すぎた。


 よくよく聞いてみると、対処すべき呪いが32個なのだ。

 もっと細かなのは自然消滅するとかで何倍もの数があったらしい。

 それこそ残滓と呼ぶに相応しいようなのがね。

 え? 正確な数は分からないのかって?

 それは俺も聞いた。


『勝手に消えるようなやつの数まで数えてられないわよ。

 放置できない、それこそ育つかもしれないのが32個』


 その回答がこれである。


『数えたって無駄だし面倒じゃない』


 とも言われたな。

 言ってることは間違っていないけど、ひとこと余計だと思う。

 ハルさんに聞いていたけどエリーゼママは本当に面倒くさがりだ。

 自己評価が面倒くさがりな人に言われるって余程のことじゃないかな。


『あと、丸投げ体質だとも言ってたな』


 考えてみれば、この呪いは俺以外の人間に対処可能とは思えない。

 それも聞いてみたけど返事はイエスだった。

 そういう類いの呪いは管理神とその眷属の処理案件らしいのだが……


『トモくんの修行になるでしょ』


 これである。

 見事に丸投げされた訳だ。


『確かに修行にはなったけどさ』


 何か釈然としないものを感じてからの32個は多かった。

 ちなみに今で21個目である。


『これをクリアして残り3分の1かぁ』


 残っている奴が呪いの元である憎しみを増幅させるかと思うと、うんざりだ。


『夏休みの宿題がどっさり残っている気分だな』


 我ながら、ずいぶん懐かしいことを例えに思いついてしまったものだ。

 こちらの肉体は38才のオッサンなんだが考えることは若くなっている気がする。

 どうやら若返ったエルダーヒューマンの方に引っ張られているようだ。


「ん?」


 目の前の具現化した呪いが一回り小さくなった。


「ようやく、まともに燃え始めたか」


 そう言った次の瞬間、銀の炎が消し飛んだ。


「マジか!?」


 一瞬、飛び退きかけたが踏ん張ってその場に留まった。

 間合いを開くのは嫌な予感がしたからだ。

 現に黒い影の弾丸が飛んできた。

 刀で切り落とすと──


「おわぁっ!」


 マシンガンのように連射してきた。

 その全てを切って切って切りまくる。

 結界を突き抜けて外部に被害なんて出されては堪ったもんじゃないからな。

 幸いにして技は使わなくても刀で切れば消滅する。


『持久戦はゴメンだぜ』


 ここが勝負所と俺は奴の懐に飛び込んだ。

 もちろん弾丸のことごとくを切りながらである。


「!」


 まさか踏み込んでくるとは思わなかったのだろう。

 奴の動きが止まった。


『今度こそ終わりだ!』


 金の炎を纏わせた刀を振り下ろす。


「シンサー流奥義、金剛滅却」


 業火のごとく燃え上がる金色の炎。

 瞬く間に奴は燃えつきていった。


「手間取らせやがって……」


 ハアハアと荒い息を吐く。


『奥義を使ったとは言え、肩で息をしなきゃならないとは修行が足りん』


 レベル105になった。

 エルダーヒューマンのレベルにはまだ及ばない。


読んでくれてありがとう。

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