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491 髭爺は御機嫌ななめ

修正しました。

調べた似 → 調べたに


『疲れるわー』


 まだ1層目だというのにドッと疲労感を感じてしまった。

 原因は言うまでもなくジジイどもだ。

 ゴードンは深く潜りたがる。

 髭爺は階層の隅々まで回りたがる。

 結果、階下へ向かう場所で揉めた訳なんだが。

 さすがに仲間割れするほど酷くはやり合わなかったが……


「嫌じゃん、嫌じゃん!

 ワシはもっとこのフロアを見て回りたいんじゃー!」


 いい年したジジイが地団駄を踏んで駄々をこねていた。


『やっぱガキだな』


 これだけで精神をガリガリ削られたさ。


「行きたきゃ1人で行け。

 ワシらは下へ向かう」


 ゴードンは正反対の意見を冷たく言い放つし。

 妥協する気がないからなんだけど。


『言い方ってもんがあるだろうに』


 古い付き合いがあるせいか遠慮など微塵もない。

 こっちは互いの沸点とか把握できてないんだっての。


『喧嘩の仲裁なんざ真っ平なんだよ』


「最初に言ったはずだ。

 今日の目的は限界を見極めるためだと」


 そりゃ、ごもっともなんだがな。


「あんまりワガママ言ってんじゃねえぞ」


『少しは言葉を選べよ』


 ただでさえキレてるのに、これ以上煽ってどうすんだ。


「それにワシが主導権を持つ約束だ。

 お前は単なる同行者でしかない」


『あ、ダメだ』


 ゴードンを問い詰めたくなったさ。

 なんで今それを言うのかとね。

 言ってることは正しいんだけど。


『言葉は時と場所を選べよな』


 俺も人のことを言えた義理などないのだろうが。

 それでも、この後の展開を考えると言いたくもなる。


「キイイイィィィィィ─────ッ!」


 髭爺はローブの袖を噛みしめて奇声を上げた。


『ほら、これだぜ』


 どこのヒスBBAだよって感じだ。

 必死すぎて怖いんだけど。


 後でゴードンに聞いてみたら若いときは何度か見たことがあるらしい。

 ゴードン曰く「奴は癇癪持ちだったからな」だとさ。

 齢を重ねると共に分別がついていったんだとか。


 昔と今の差は癇癪を起こした直後に魔法をぶっ放すかどうからしい。

 さすがに人死には出さなかったようだが。

 怒らせると何しでかすか分からない奴だと恐れられていたってさ。

 無茶苦茶なことやってたみたいだな。

 今は魔法で八つ当たりしないだけマシなようだ。

 迷惑な話である。


 結局、ゴードンの意見が採用された。

 髭爺はこれからダンジョンに潜る機会がまだあるからな。

 一方でゴードンはそろそろブリーズの街に戻らなきゃならない。

 優先されるべき相手はどちらかという話になった。

 内容的には大人の会話であったが……


「フーンだ、ツーンだ」


 とか言いながら拗ねている爺がいるんだよ。

 一応は了承しているのにこれだからな。

 あからさまに聞こえるように言わないあたり質が悪い。

 午前中はずっとそんな感じであった。

 しょうがないから魔物との遭遇戦は任せっきりにした。


「エアスラッシュじゃ!」


 鬼面狼をズタズタに切り裂き。


「エアスマッシュじゃ!」


 ゴブリンを撲殺し。


「フォッホッホ、風壁を堅くすればこの通りじゃ!」


 群れで突っ込んできた牙ウサギは、ほとんどが首の骨をへし折られていた。

 正面衝突による自爆だがな。

 見えない壁は時として攻撃手段になり得る訳だ。

 カウンター専門だがな。

 そして運が良いのか悪いのか即死しなかった牙ウサギが数匹ばかり残っている。

 それも髭爺が止めを刺していった。

 決闘の時は使っていなかった長杖を棍棒代わりにして。


『短杖は護身用ってことか』


 生き死にには影響しない試合で用いるのに手頃な代物だった訳だ。

 当然、実践に使うものの方がスペックは上だ。

 一方的に魔物を狩っているしな。

 そうやって髭爺は鬱憤を晴らしていた。

 ただの八つ当たりである。


『本当に子供だ』


 これからしばらくジェダイトシティに滞在するのが鬱陶しい。

 嫌な奴ではないが非常に面倒くさい。

 前に王都であったときの印象とギャップがあるんだよな。

 本性を現しているというか。


『まさか……』


 普段は猫を被ってるとか?

 ないとは言い切れない。

 ならば今のはっちゃけた状態は何なのか?

 ふと、ある諺が頭の片隅を過ぎった。


『旅の恥はかき捨て、か……』


 つまり猫を被っていた分だけ抑圧されたものを外で解放していると。

 暴走は言い過ぎにしてもプチ暴走している訳だ。

 いい年したジジイが。


 そんなだからルーシーに子供爺さんとかネーミングされるのだ。

 この場合はミズキの子供ギルド長の方がより的確か。


『勘弁してくれよー』


 普段はギルド長として窮屈な日々を送っているのは理解できなくもない。

 それを八つ当たりでなく他の何かで昇華してこその大人だと思うのだが。

 俺も人のことは偉そうに言えないけどな。

 まあ、所詮は他人事だ。

 こちらに被害が及ばない限りは放置しておこう。

 ゴードンも呆れた視線を送るだけで傍観を決め込んでいるしな。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 結局、午前中で不満の解消とはならなかったようだ。


『飯食って落ち着くしかないか』


 旨いものでも食べれば機嫌を直すかもしれないという短絡的な考えではあるが。


「よお、飯にしようぜ」


 髭爺がオークをエアスラッシュで仕留めたところで声を掛けた。


「いーや、ワシは腹など減っておらん。

 もっと狩って狩って狩りまくるんじゃ!」


 堅く拳を握って断言する。


『はー、面倒くせえ』


「ゴードンは?」


「休憩した方がいいだろうな。

 結構な階層まで来ているし。

 ここから先はより強い魔物が出るんだろ」


「次のフロアじゃ場所によってはベアボアとかも出てくるだろうな」


「なんじゃとぉーっ!?」


 憤慨していた髭爺が素っ頓狂な声で割り込んできた。


「こここ、こんな階層でベアボアがもう出るじゃと!?」


 事前情報が乏しい状態で潜ったから知らなくても無理はない。


「出てもおかしくないぞ」


 そう答えたのはゴードンだ。


「にゃんじゃとぉ?」


 動転しているのか噛んでしまった。

 そして赤面。

 ジジイが恥ずかしがっても何とも思わんのだが。

 本人はほんの一瞬でも無言の圧力と感じたようだ。

 若干だが目を逸らしていた。


 何かしらツッコミとか入れた方が良かったか。

 面倒だからしないけど。


「上の階層でも場所によっては厄介なのが出るしな」


「にゃにぃ?」


 今度は噛んでいない。

 噛んだのが恥ずかしくて誤魔化したってところだな。


『そっちの方が余計に恥ずかしいっての』


「このダンジョンは王都のダンジョンとは違う。

 同じ階層内でも別のフィールドがある」


「ど、どういうことじゃ?」


 その問いには俺が答える。


「普通の洞窟風なのは一定の範囲内だけなのさ」


「なんと!?」


「それより外側は色んな場所があるぞ」


「た、たとえば?」


「浅い階層だと沼地とか森とかだな」


「鬼面狼は森のフィールドから流れてきたってことか」


 ゴードンが1人で納得している。


「別に鬼面狼に限ったことじゃないぞ。

 フィールドから離れない魔物もいるしな」


「あー、そういや面倒なのがいたな」


「面倒じゃと?」


 動揺していても、そういう不穏な単語は聞き逃さないのはさすがと言うべきなのか。


「沼地にいるアンデッドなんかがそうだな」


 アッサリと言ってのけるゴードン。

 最初の頃は凄い勢いでギルドに飛び込んできてたのにな。


「アアア、アンデッドが出たぞぉ!」


 とか叫びながら。

 まあ、普通は浅い階層で出るような魔物じゃないからなぁ。

 倒すのが手間だから初心者キラーだし。

 騒ぎたくなるのも分からなくはない。


「騒がなくてもいるのは知ってる」


「へ?」


 訳が分からないと言わんばかりに間抜け面を晒していたな。


「沼地だろ」


「あ、ああ……」


 何故知っているのかと言いたげにしていた。

 そんなもん自分で調べたに決まってるだろう。

 浅い階層は隅々までチェック済みである。

 沼地に出てくるアンデッドもスケルトンやゾンビだけだ。


「目撃した程度のやつならゴードンも倒せるだろ」


「まあな……」


 返事がハッキリしないのは数で押し寄せてきたときに不安があるからだろう。


「初心者には注意喚起してるさ」


「し、しかしだなぁ」


「アンデッドは沼地から出ないから行かなきゃいいだけだ」


「本当だろうな」


「ああ、そんなに騒ぐようなことじゃない」


 そんなやり取りがあったのだが……

 慣れとは恐ろしいものだ。

 そして今度は髭爺の番である。

 一通り説明が終わる頃には大人しくなっていたけどな。


読んでくれてありがとう。

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