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486 暴風のブラド VS 肉弾ゴードン

すみません。

今日も遅くなりました。


「双方、用意はいいですか」


 ガブローが大きく距離を取った2人をそれぞれの方へ向きながら確認を取る。


「おうよ、いつでもいいぜ」


 まずはゴードン。

 腰を落とした姿勢で体を窮屈そうに縮めている。

 まるでガチガチに堅いコイルバネを限界まで押し縮めたかのようだ。

 解き放てば瞬時にすっ飛んで行ってしまうだろう。

 さすがに我々からすると退屈なスピードだとは思うが。


 続いて髭爺を見るガブロー。


「オッケーじゃ」


 懐から少し太めの短杖を出してくる。

 俗にワンドと言われる短剣サイズの杖だ。


『ほう』


 外見はシンプルに見せかけているが、そうではない。

 実は皮を巻いてニスで塗り固めている。

 よく観察しないと木の杖と勘違いされるだろう。


『おそらく地味に見せるのが目的だな』


 中はかなり凝ったことをしている。

 細長い革袋に魔石を詰めたものを縄のようにより合わせてあるのだ。

 それを特殊な樹液で固めて折れ曲がらないようにしていた。

 しかも樹液の中には魔石を砂状にすり潰したものが大量に含有されている。


『あれなら堅さとしなりを両立した杖になりそうだな』


 ただ、そのままでは持つと手がベタベタするのは間違いない。

 それを防ぐために袋を被せた上に皮を巻いて仕上げてある訳だ。


『考えたものだ』


 ほぼ魔石の塊と言えるような代物だ。

 あれならロスの多いはずの放出型の魔法でも魔力のロスは少ないはず。

 それだけではない。

 発動寸前の魔法を安定して蓄えておくこともできる。

 現にいくつかの魔法が杖の中に込められていた。


『あれなら無詠唱に近い状態で発動させられるな』


 先程まではゴードンが有利かと思ったが、そうでもないようだ。

 ガブローが両手を双方に突き出して制止させている。


「それでは始めます」


 落ち着いた声で周囲に宣言する。

 両手は保持したままだ。

 否が応でも緊張感が高まっていく。

 始まりの合図が出される瞬間を待つだけなのに。


 ほんの数秒。

 だが、恐ろしく長い時間であった。

 これから戦おうとしている両者の放つ気がそうさせるのだろう。

 殺気ではないがピリピリしたものがある。

 双方の護衛たちはガチガチに固まっていた。


『それなりの腕は持ってるはずなのになぁ』


 ジジイどもの方が1枚上手ということにしておこう。


「始めっ!」


 ガブローが鋭い声を発すると同時に両腕を振り下ろした。

 そのまま飛び退る。

 その場にいれば交通事故にでも巻き込まれると言わんばかりだ。

 現にゴードンは押し縮めた体を一気に解き放って突進を始めていた。

 ガブローの前を通り過ぎただけで、その服をはためかせるほどの勢いがあった。


「ぬぅおりゃあっ!」


 一気に距離を詰める。


「おいおい、これなら間近で始めても変わらなかったんじゃね」


 護衛の1人が呟いた。

 ゴードンが大きく振りかぶる。


「ぬぅん!」


 ボクシングで言えばフックに相当するであろうパンチが繰り出される。

 体格差もあって打ち下ろし気味だ。


「直撃コースだ!」


 別の護衛が思わずといった感じで叫んでいた。


「当たらないんだな、これが」


 俺は呟く。

 普通に喋っても彼等に声は届かないけどね。

 向こうは1階で俺らは2階に相当する階段席にいるから。


 そして俺の言った通りになった。

 髭爺は回避動作なんてしていない。

 護衛たちには杖を胸元で構えるのみに見えたことだろう。

 だからゴードンのパンチが当たると思ったはずである。

 そのパンチは見えないクッションに当たったかのように減速し止められた。


「あ、当たらないだと……!?」


「どうなってる!?」


「何をしたんだ?」


「わかんねえよっ」


 魔法を使う冒険者って思ったより少ないのだろうか。

 そんなことはないと思うのだが。

 だとするなら、防御系の魔法が一般的ではないということか。

 世間的には魔法=攻撃力と結びつけられている気はする。


「見えない壁に止められたみたいだな」


「恐らく魔法だろう」


「そうか、風魔法だ」


 ようやく正解。

 そう、ワンドの方に溜め込んだ風壁の魔法を発動させたのだ。

 ゴードンが距離を詰めた時の掛け声に合わせて髭爺は「風壁」と呟いていた。

 それを聞けた者は2階の階段席にいる面子のうちの何人かだけだと思われる。

 だから護衛たちに聞き取れるものではない。


「呪文の詠唱なんてしてなかったぞ」


 たとえゴードンの掛け声に合わせていなかったとしてもだ。

 唇の動きもほとんどなかったから読唇術を会得していたとしても見破れなかっただろう。


『伊達に年は食っちゃいねえな』


 技の髭爺、力のゴードンってところか。


「暴風のブラドの二つ名は伊達じゃねえってことだ」


 たった1発のパンチを止めただけで護衛たちは大騒ぎである。

 一方でうちの面子はというと誰も騒がない。

 何をどうしたかは、ちゃんと見抜いているからだ。

 今日ここで観戦している面子は1ヶ月かけてダンジョン巡りの合間に特訓したからな。


 そこそこキツかったと思うぞ。

 レベルが低めの者は20も上げることになったからな。

 お陰で全員が3桁レベルである。


 まあ、俺だけでどうにかした訳じゃない。

 本人はもちろん、手伝ってもらったのは大きい。

 そのアシストの面子は5人。

 ローズとシヅカとマリカのトリオ。

 それからミズキとマイカのコンビ。


 この面子はレベルアップしなかったのは残念なところだ。

 ひとつくらいはと思ったんだけどね。

 合間にやっていたとはいえ、そこそこ大がかりになってしまったからさ。

 御苦労様である。

 結果はこんな感じだ。


[トモ  ・エルス/男/レベル 98→118]

[フェルト・エルス/女/レベル 81→101]

[ツバキ ・ヒガ /女/レベル152→162]

[カーラ ・ヒガ /女/レベル147→157]

[ノエル ・ヒガ /女/レベル180→188]

[ルーリア・ヒガ /女/レベル128→141]

[リーシャ・ヒガ /女/レベル123→136]

[レイナ ・ヒガ /女/レベル123→136]

[アニス ・ヒガ /女/レベル123→136]

[ダニエラ・ヒガ /女/レベル123→136]

[メリー ・ヒガ /女/レベル122→135]

[リリー ・ヒガ /女/レベル122→135]

[レオーネ・ヒガ /女/レベル113→128]

[エリス ・ヒガ /女/レベル 98→118]

[マリア ・ヒガ /女/レベル 98→118]

[クリス ・ヒガ /女/レベル 98→118]

[アンネ ・ヒガ /女/レベル 98→118]

[ベリー ・ヒガ /女/レベル 98→118]

[ハリー     /男/レベル135→145]

[ミーニャ    /女/レベル130→140]

[ルーシー    /女/レベル130→140]

[シェリー    /女/レベル130→140]

[ハッピー    /女/レベル130→140]

[チー      /女/レベル130→140]

[ガンフォール  /男/レベル 98→118]

[ハマー     /男/レベル 98→118]

[ボルト     /男/レベル 98→118]


 レベルが3桁を超えると魔法を使わなくても魔力の流れなんかが目で追えるようになる。

 故にトリックを見破るのも楽々なのである。

 苦労した甲斐はあると思う。


「うーん、迫力不足だねぇ」


 マイカが首を捻っている。


「全体的に遅いからかな」


 いや、西方の基準で見れば速い方だと思うよ。

 両者ともに2桁レベルの後半には到達しているし。

 確かに俺らの基準だと遅いのは事実だけど。


「たぶん殺気を放ってないからじゃないか」


 ここでトモさんが自説を出してきた。


「言われてみれば、そうかもね。

 始める前に井戸端会議なんて始めるくらいだし」


「あの2人、手抜きはしてないぞ」


「えっ、そうなんですか?」


 俺の言葉にフェルトが驚いていた。

 他の皆も意外そうに見てくる。


「ほら、試合見ようぜ」


 皆の意識を観戦の方へ促す。

 フックが当たらなかったゴードンはそのまま拳をねじ込むように押し付けていた。


「ぬぎぎぎぎぎっ!」


 歯を食いしばって顔を真っ赤にしている。

 対する髭爺は余裕の表情だ。


「フォッホッホ」


 挑発するように笑ってすらいる。


「相変わらずの力任せじゃのう。

 そんなこっちゃ、ワシの風壁は破れんぞい」


『そうでもないけどな』


 割とヤバいから精神的に揺さぶりをかけて無理だと思わせようとしているのだ。

 実際にゴードンの拳はごく僅かずつだが進んでいる。

 まだ本人が自覚できるほどではない。

 それが故に騙される。


「ちっ」


 拳を引いてジグザグに飛び退っていく。

 反撃を警戒してのことか。


「どうやら耄碌はしていないようだな」


「フォホホ、そちらもな。

 それなりの動きをしておいて息を乱しておらんではないか」


『どっちもタヌキだな』


 ゴードンは独自の呼吸法で乱れかけた息を誤魔化している。

 髭爺は騙して引かせるまで間に風壁の魔法をチャージしていた。

 腹話術の一種なんだろう。

 声を目一杯まで絞り込んでいるので3桁以上のレベルでないと聞き取れないがな。


「準備体操は終わりだ」


「そう来なくてはのう」


 ジジイどものバトルはこれからが本番のようだ。


読んでくれてありがとう。

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