479 トラブルに好かれたい訳ではない
遅くなりました。
すみません。
翌日は早朝から出かけることにした。
その日のうちに戻ってきたかったからね。
街の門前で締め出されて野宿とかみっともないもんな。
そうそうトラブルに遭遇するとも思わなかったんだけど念のためだ。
『念のためだったんだよ』
出発した時はね。
はい、見事に裏切られました。
トラブル誘因体質とかだったらマジで嫌なんですが。
冒険者崩れの盗賊に襲われていた行商人を発見しましたよ。
さほど大きくない馬車を1頭の馬に引かせて逃げている。
盗賊は騎乗している連中が5人。
馬車を左右から挟むように併走している。
必死の形相で馬に鞭を入れている行商人だが、荷車がある時点で勝ち目はない。
盗賊はそれを理解して襲っているのは明らかだ。
「ほーらほら、はやく逃げないとぉ」
「死んじゃうぜえええぇぇぇえぇぇっ!」
「うひゃひゃひゃっ、死んじゃう死んじゃうぅっ」
「おんやぁ、コイツ泣いてるぜぇっ」
「おー、本当だぁ。
こいつぁ傑作だな」
『リアルヒャッハーじゃねえかよ』
こんな調子で追い立てているからな。
荷物を積んでいる馬車じゃ逃げ切れるものじゃない。
それでも行商人が逃げている間は盗賊たちに攻撃する意志が感じられなかった。
まったくの無駄でもないということだ。
今回のように誰かが介入するような状況は滅多にないだろうけれど。
そういう意味では行商人の運は土壇場で盛り返したのかもしれない。
ちなみに俺の方は移動に使っていたマイクロバスを倉庫に仕舞って待機中である。
遠目に発見した時点で停車して待ち構えることにしたんだよね。
こっちに向かってきてたし。
もう、そんなに距離はないけど魔法で光学迷彩をかけておけば気付かれない。
向こうの様子は【天眼・遠見】と【遠聴】のスキルを使って完全に把握している。
「どうしたぁ?
スピードが鈍ってきたぞぉー」
『何が、どうしただ。
分かっててやってるだろ』
馬がバテてきたのを見透かして盗賊たちが下品で粗野な笑い声を周囲に響かせていた。
『カスの部下はカスしかいないのか……』
非常に不愉快です。
コイツらを放置した自分に腹が立ちましたよ。
頃合いを見計らったように盗賊たちが3人ほど先行して馬の進路を塞いだ。
両サイドは残りの2人が塞いでいるので進路変更はできない。
『手慣れてやがる』
「ほーら、これでストップだぞぉ」
減速していく。
押し包むようにスピードを殺されていく馬車。
御者である行商人の表情は絶望と諦めがない交ぜになっていた。
「この先は行き止まりだぁ」
「ざあんねぇんでしたぁー」
「まぁた、どうぞぉー」
「割と保ったじゃねえかよ」
「ゴールにゃほど遠いがなぁ」
そして全員で嘲笑う。
下卑た声が周囲に響いていた。
「さあ、それじゃあサヨナラの時間だ」
「さっきみてえに命乞いはもうしねえのかぁ?」
「ギャーハハハッ、無理なんじゃねえの」
「そうでもないさ」
「そうそう、そうでもない……ん?」
俺の言葉に釣られる馬鹿がいた。
「なっ、なんだコイツ。
どこから現れやがった!?」
ずっと姿を見られないようにしていたからな。
光学迷彩を解除すると急に現れたように見えるよな。
だけど、この下品な盗賊たちは無視だ。
常人離れした跳躍で奴らの頭上を飛び越える。
「「「「「なっ!?」」」」」
そして御者台の上に着地。
理力魔法でその衝撃は馬車に伝わらないようにした。
緩慢な動作で行商人は俺の方を見る。
涙は涸れ果てたのか既に止まっていた。
しかし、肩口から流れる血は止まっていない。
『結構な深手だ』
盗賊どもの手口が何となく分かってきた。
時間帯から見て出発前に襲撃をかけたのだろう。
馬車に乗り込む前に行商人は怪我を負わされたが、なんとか逃げ出す。
まあ、これは盗賊たちが意図的に逃がしたと言うべきか。
いたぶって遊ぶのが目的だろう。
『反吐が出るぜ』
だが、そんなことを言っている場合ではない。
俺はポーションを取り出して行商人にぶっ掛けた。
これでまず傷口が塞がる。
しばらくすれば失った血液も回復するだろう。
盗賊たちは呆然としている。
言葉を発することすら忘れているようだ。
『静かなのは好都合』
ボンヤリした状態の行商人の意識が戻ってこないからな。
そのまま魔法で眠らせ倉に馬車ごと放り込んだ。
「「「「「───────────っ!?」」」」」
声にならない絶叫で盗賊たちが驚愕。
いきなり馬車みたいなデカいものが馬や人もろともに一瞬で消えたら当然か。
『さて、さっさと殺して終わらせるか。
ここに来るまで待ち続けてそこそこ時間を使ったしな』
捕まえて街の衛兵に突き出すなんて真似をするつもりはない。
どうせ極刑になるような罪を犯してきている連中だ。
鑑定して確認したから間違いない。
ついでに判明したことがある。
『コイツら、黒豚の配下かよ』
冒険者みたいな革鎧と長剣を携えてはいたが、軍属だったとはな。
『例の部隊か』
狼煙や音でオーガ兵団を誘導する役割の連中。
そういやコイツら始末し忘れてました。
放置しても勝手に国元に戻るだろうと思っていたら、これである。
『ここで会ったが百年目ってな』
それにしても罪悪感が湧いてくる。
俺が放置したせいで、こんなことになったんだからな。
『行商人が死ななくて良かったわ』
しかしながら怪我はしていたから罪悪感が残る。
『横着をしようとした罰が当たったんだな』
自分自身に怒りが湧いてくる。
その怒りのままに空間魔法のフォルトスラッシュを多重起動。
防具ごと体を真っ二つにしてやった。
惚けている間に即死である。
ファントムミストは使わないのかって?
こんな連中にこれ以上時間なんか掛けてられないよ。
待つのに時間を使ったからな。
仕上げはベリアルで地中深く土葬してさようならだ。
クズには綺麗サッパリ消えてもらうのみである。
盗賊たちが使っていた馬はドライ洗浄をかけて倉へ回収した。
馬に罪はないし、主がいないんじゃ所有権は俺にある。
「さて、道草食ってる場合じゃないんだよ」
一息ついている暇はない。
さっそく倉から行商人を引っ張り出した。
もちろん馬や馬車も一緒にね。
行商人の眠りが徐々に覚めていくように魔法を使う。
馬には疲労回復するように魔法をかける。
「御苦労さん」
馬に声を掛けるとブルルと返事があった。
『コイツ、頭いいな』
それと度胸もある。
妙なことに感心させられてしまった。
「お前の御主人様はもう少し眠ったままだ。
そのうち目を覚ますだろうが、それまで休憩しておけ」
再びブルルと返事。
今度は頷きもした。
思わず欲しくなるほどだったが、こいつは行商人の持ち物だ。
鑑定しているので間違いない。
些か残念ではある。
『ま、しょうがない』
早々に諦めて次の行動に移る。
周囲の状況を確認。
危険がなさそうなので行商人が目覚めるのを待たずに出発することにした。
俺は仕舞っていたマイクロバスを引っ張り出して乗り込む。
「遅れた分を取り戻さないとな」
そしてアクセルを踏み込んだ。
誰も同乗していないし、いつも以上に派手な運転でジェダイトシティに戻っていく。
ハマーとかが見ていたら震え上がったかもしれんな。
同乗は絶対に嫌がったと思う。
ある意味、ジェットコースター状態だったからな。
コーナーでは地魔法で一時的にバンクを作ったりして強引に曲がったし。
おかげでかなり時間は短縮できたと思う。
昼前には到着していた。
ガブローには呆れられてしまったがな。
「もう少し時間がかかるものと思っていましたよ」
「下手すりゃ、そうだったかもな。
面倒事に巻き込まれかけたから」
で、先程のことを説明したら溜め息をつかれてしまった。
「それは巻き込まれたと言うのです」
「そうだっけ?」
「……そうなんです」
なんだか呆れられてしまった。
「それで冒険者ギルドで研修をする人員でしたよね」
「おう、集まってるみたいだな」
「そういう指示だったじゃないですか」
「仕事が早くて確実だって言いたいんだよ」
「それはどうもありがとうございます」
なんだか棒読みくさいが、まあいいや。
それより研修生だ。
細マッチョのオバちゃんズが5人に若手の兄ちゃんたちが5人か。
「どういう人選なんだ?」
「女性陣は酒場での人あしらいが得意な者に集まってもらいました」
「あー、そりゃ的確だな」
荒くれ者の多い冒険者も、このオバちゃんたちにはタジタジになるだろう。
「残りは頭の回転が速くて柔軟な連中です」
「職人の見習いみたいだが、いいのか?」
「他の見習いよりも技術的な面で負けていると思っている者に来てもらいましたので」
『あー、自分の才能に見切りをつけた訳か』
兄ちゃんたちに目を向けると頷かれた。
全員が後悔していないと、その瞳で語っている。
「なら、さっそく行ってもらう。
到着したらそのまま研修が始まると思ってくれ」
「「「「「はい」」」」」
全員が頷きと共に返事をした。
それじゃあブリーズの街に戻るとしよう。
読んでくれてありがとう。




