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472 宰相が吠え、シノビマスターは翻弄す

 トモさんの言葉を宰相はどう受け取ったのだろうか。

 目には徐々に理知的な光が戻りつつあった。

 いかほどの自制心をもって、それを成し得たのか。

 余人には推し量ることしかできない。

 それでも聞く耳があるのは色々と自制を求められる立場で鍛えられたからか。


「過去ハ変エラレヌガ未来ハ違ウ」


「確かに、な」


 苦々しげな表情を残しつつも理解を示す。


「将軍ノ日記ヲ王太子ニ預ケタ」


『お?』


 宰相の様子を見てトモさんは独自に判断したようだ。

 このまま続きの映像を見せなくても良いと。

 若いと言ってもアラフォーだ。

 まあ、こちらの世界じゃ老人予備軍だし。


 年齢プラス責任ある立場。

 日々ストレスとの戦いだろう。

 色々と体を壊しかねない状況を憂慮したか。

 だから俺もその判断を否定はしない。


「奴ノ悪事ガ事細カニ記サレテイル」


 日記でも確認できるから続きを見る必要は必ずしもある訳ではない。

 むしろ映像の方がダイジェスト版である。

 しかしながら、ここまで話を聞いた宰相はゆっくりと頭を振った。


「いや、続きを見せてもらおうか」


「血管ガ切レテモ知ラヌゾ」


「それくらいで良いのだ。

 奴に対する怒りがこれからなすべきことの原動力となる」


 そう言って宰相は獰猛な笑みを浮かべた。


「好キニスルガイイ……」


 あ、ちょっと呆れてる。

 俺もだけどな。


 再び黒豚の自慢大会が再開された。

 自らが次期国王にと推す王子以外の王族を毒殺したことが語られる。

 そのためにどれほど入念に準備したのか。

 利用した相手を卑劣な手段で意のままに操り。

 用が済めば躊躇なく消していく。


 それを優越感に浸りながら言葉にしていく黒豚。

 部外者である俺たちが耳にしても不快感のゲージがオーバーフローしてしまう。

 宰相であれば再びブチ切れても何らおかしくはない。

 現に鬼が再び顔を覗かせていた。

 ここで再生を止める。


「コレデモ続ケルカ」


「聞いていいか」


「何ダ?」


「奴は戦争がしたいのか。

 それとも権力を欲しているのか」


「現時点デハ、ドチラモダ」


「なにっ、現時点だと!?」


「戦争ハ最終目標ノタメノ手段ニ過ギヌ。

 シカシナガラ、将軍ハ戦争ヲ楽シンデイル。

 剣闘士ノ試合ノ延長デ考エテイルヨウダナ」


「それはつまり戦争を娯楽の一種と考えているということか」


「イカニモ」


「下種がっ」


 宰相は無理やりに自分を抑えながら、それでも抑えきれずに吐き捨てていた。


「それで最終目標とは?」


「王位ノ簒奪ダ」


「継承権第2位の王子を傀儡にするだけでは飽き足らぬというのかっ」


 殺意が室内に充満する。


「幼い殿下も殺めるつもりだったとは……」


「奴ノ計画デハ数年後ラシイガナ。

 ホトボリガ冷メルノヲ待チ病死サセルト」


「何が病死だっ」


 黒豚の手口を知る者からすれば毒殺しか考えられないよな。


「続きを頼むっ!」


『マジか……』


 これ以上は本当に血管が切れかねないほど激高しているのに続きを要求するとか。

 Mの気があるんじゃないのかと思ってしまうよな。

 先程の発言から察するにヘイトを溜め込んでいるだけなのだろうが。

 変なところで固執するオッサンである。


 そんな訳で再生再開。

 今度は最後まで無言を貫き通す宰相であった。

 決して内容がマイルドになった訳ではない。

 黒豚たちの悪辣さは少しも衰えることなどなかった。

 それでも血を流すほど唇を噛み、耐えに耐えて見終わったのだ。

 お陰で直後が酷かったね。


「こぉの豚野郎がぁ───────────────ッ!」


 目を血走らせて絶叫していた。

 完全に錯乱したのかと思うほど酷い様子だったさ。

 それこそ気が触れたのかと思うくらいに。

 滅多矢鱈に罵詈雑言。

 よくも悪口が次から次へと出てくるものだと感心させられるくらいに喚いていた。

 まあ、明らかに限界を超えて我慢していたからね。

 しかもだ。


『外部に聞かれる心配がないことを逆手に取ってやがる』


 なかなか、ちゃっかり者である。

 激怒する姿を部下に見せると萎縮しかねないからな。

 一旦吐き出すことでストレスを緩和させることも狙いだろう。

 頭に血が上ったままでは的確な指示は出せないと考えたか。

 この宰相なら、そんな状態でもミスは少ないと思うがな。

 己を過大評価せずに確実を期す。

『なかなか油断のならないオッサンだ』


 怒りのトーンは下がるだろうが記憶は残る。


 ここぞという時には闘志をわき上がらせる元とするだろう。

 そんなに都合良く制御できるとも思えないが。

 過剰なストレスで体を壊しかねない無茶な方法だが思いつきではないはずだ。

 いずれにせよ最初からこうするつもりで続きを見せろと言ったのは間違いないだろう。

 すべて計算のうちだったとはね。


『舐めてかかると一本取られそうだ』


 そうそう関わるつもりもないけれど。

 そんな風に考えていると、宰相が叫び終わった。

 ゼエゼエと肩で息をしている。


『あれだけ続けざまに叫んでりゃね』


 部屋の中心で憎悪を叫ぶってな。


「絶対に許さんぞ、あの豚野郎っ」


 息を荒くしながらも怒りの表情は崩さない。


『まだ言い足りないみたいだな』


 体力的な問題で叫ぶのを断念しただけかよ。

 もっと持久力があれば、どれだけ続いていたことか。

 この宰相、ブレット王家にどれ程の忠誠を誓っているんだか。

 その方がこちらとしても都合はいいけどね。

 途中で日和ったりはしないだろうし。


『それにしても連続で豚野郎か』


 同じ国の人間からもそう認識されるんだな。

 顔からしてオーク顔だから、むしろ当然なのか。

 つまらないことに感心している場合ではない。

 今夜中に終わらせないといけない仕事はまだあるのだから。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 宰相の前に次々と姿を現すシノビ装束の集団。

 まさかここが集合場所だとは誰も思わないだろう。

 それを説明する気もないがね。

 宰相は全員集合した俺たちを見て呆れたように頭を振った。


「王城の警備が穴だらけなのが、よく分かった」


 何か誤解しているようだ。


「警備ナド関係ナイ。

 我ラデアレバ、ドコデアロウト同ジコト。

 シノビガ忍術ヲ駆使シテイルノダカラナ」


 宰相が怪訝な顔を向けてきた。

 俺の言葉で納得するかと思ったのだがな。

 逆に疑問が湧くとは予想外だったものの話を聞いてみれば「なるほど」という話だった。


「魔法ではないのか?」


『あー、忍術の部分に引っ掛かったのか』


 使ったのは確かに魔法だけどね。

 シノビに成り切っているから、そこは譲れないのだよ。


「違イヲ知リタイノカ」


 あえてそう問う。

 宰相が切れ者だと思うからこそだ。

 凡庸な相手ならイエスと答えただろう。


「いや、よそう」


 頭を振りながら宰相は答えた。


「知ったところで何の意味もない。

 それどころか時間の無駄だ」


「賢明ナ判断ダ」


「貴殿がシノビマスターだな」


「左様」


「なぜ我が国の将軍と敵対するか聞いても答えてはもらえないのだろうな」


 答えが得られぬと予感しつつも聞かずにはいられないか。

 その理由から自分たちと敵対するかどうかを推し量りたいようだ。


 黒豚が一般人であるならここまで懸念を抱いたりもしないのだろう。

 この国の軍事部門の責任者だからな。

 軍全体が敵と認識されかねない。

 下手をすれば国自体がそう見られる。

 宰相はそれを恐れているようだ。

 王城内に誰にも気付かれずに忍び込める相手を敵に回したくはないか。


「不安カ?」


「なに?」


 図星のようだ。

 わずかに動揺する宰相を無視して先に踏み込んでおく。


「案ズルナ。

 我ガ敵ハ将軍トソノ一味。

 貴国ヲ敵トハ認識シナイ」


 しばし宰相が沈黙した。

 俺の狙いが読めないのだろう。

 面倒なのが嫌だから相手の都合とかお構いなしで話を進めたいだけだ。

 理由を語る必要もないが、何の説明もないのでは混乱するか。

 これから実行することは特に想定外だろうからな。


「我々ハ勝手ニ目的ヲ達スルノミ。

 残ルハ後フタツダガ我ラノ仕事ハ終ワッテイル。

 イズレモ天罰ガ下サレルノヲ見届ケルダケダ」


「な、何っ!?

 何を言っている?」


 話の展開が急すぎて、さすがの宰相もついて来られないようだ。


「ヒトツハ参謀本部ノ壊滅。

 モウヒトツハ国境地帯ノ軍勢ヲ下ガラセル。

 イズレモ、我ラシノビハ手ヲ出サナイ」


「どういうことだ?」


「特別ニヒトツ見セテヤロウ」


 幻影魔法で参謀本部を映し出す。

 そこに轟音と共に無数の稲妻が落ちていく。


「なっ!?」


「コレガ天罰ノヒトツ目ダ」


読んでくれてありがとう。

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