473 天罰から幕間
落雷は連発していた。
雷光など本来は一瞬のものであるはずなのに周囲を照らし続けるほどである。
参謀本部に収束して間断なく落ちている証だ。
狙ったように他の場所には落ちない。
それは魔法を発動させている俺からすれば当然のことなのだが。
あるいは身内の大半はこれくらいで動じることもない。
『うはっ、すっごいねー。
どれだけ魔力を消費しているんだよ』
念話でトモさんがそんな感想を漏らしてくるくらいだ。
ちなみに魔力消費の収支はプラマイゼロだ。
本気のを連続で撃ち込めば回復が追いつかないだろうけどね。
まあ、そんな真似をすれば周辺一帯が一撃で壊滅状態になってしまう。
連撃なんてさせた日には……
今の加減した状態でも参謀本部周辺に結界を弱めに張って周辺被害を抑えているからな。
それでも外の警備をしていた連中は耳をやられている。
雷に付き物の轟音のせいだ。
連発で至近距離に落ちるのだから推して知るべしである。
王都中に響き渡るようにと音は結界に阻害されないようにしておいたからね。
王太子の部屋だけ結界を張っておいたけど。
あと、宰相の執務室もだな。
幻影魔法で中継しているので音量を下げた状態で聞いてはいるけど。
普通なら報告や指示を仰ぐために誰かがすっ飛んできそうな状況だ。
けれども、それすらままならない。
途中からは王城の地下を震源とした地震も発生させている。
加減しているので震度は4程度だ。
それでも地震を知らぬ者たちには驚愕の出来事だろう。
しかも延々と続くのである。
落雷と同じように。
ここまでやると王都の街中でも事故などが発生する恐れありだ。
それは承知していたので事前に大量の自動人形たちをばらまいておいたけどね。
当然、光学迷彩モードである。
自動人形経由で家具はもちろん建物が崩れたりしないように理力魔法を展開。
家具の固定や建物の補強は大事です。
あ、黒豚や禿げネズミと繋がりのある連中の所は保護しなかったよ。
逆にそこだけ振動を増幅するようにしておいた。
終わる頃には瓦礫の下敷きだろうね。
同情の余地などない悪党連中だけだから遠慮なく実行できる。
自動人形を通じて確認しつつ地震の魔法は続行。
恐怖でパニックを起こす者は自動人形に魔法かけさせて眠らせた。
残った者の反応は、ほぼ一貫している。
怯えて居竦まっているのだ。
まあ、普通に天変地異だからな。
普通というのもおかしな言い様だとは思うけど。
これらを冷静に見られるとすれば結界で外部と遮断されている宰相だけだ。
「こんなことが……」
驚愕の表情で余裕があるようには見えないけれど。
それでも結界で外と切り離された状態だから怯えや混乱を見せるようなことまではない。
振動も音も完全に遮断されているからな。
落雷の音も幻影魔法の調節した音量で聞いているから爆音ですらない。
言ってみれば離れた場所でテレビ中継を見ているようなものだ。
「鬼畜ノ所業ヲ何十年ト続ケレバ神ガ天罰ヲ下スコトモアル」
「確かに天罰と言うしかない天変地異だ。
人に成し得る所業とは思えぬ」
やってますが、何か?
一応は人間のカテゴリーに入ってるんですよ、これでも。
「しかし、民は悪くないはず」
宰相は何故と言いたげな視線を向けてきた。
「警告ダロウ」
「警告?」
「再ビ同ジコトヲ繰リ返スナラ国ガ滅ブトイウ警告ダ」
「なっ!?」
「少ナクトモ我ハ、ソウ感ジタ。
貴族ノ不甲斐ナサガ付ケトナル。
支払ワサレルノハ常ニ国民ダ。
汝ラガシテキタコトト何ラ変ワリハナイ」
宰相が唇を噛む。
再び血が滲み出てきた。
理不尽だと思うか。
自分たちの責任と感じるか。
それは宰相が自分で決着をつけるべき問題だ。
結果しだいで、この国の行く末が決まると言っても過言ではない。
宰相がここで考え導き出した答えを俺はあえて聞かなかった。
聞けばお節介を焼いてしまう気がしたから。
ここは俺たちの国ではない。
そこまでする義理はないだろう。
落雷に地震はやり過ぎたかもしれない。
だが、考える切っ掛けにはなると思う。
スリープメモライズを使って黒豚たちの悪行とこれが天罰であると伝えたからな。
宰相だけでなく国民も答えを出すはずだ。
結果がどうなるかは知らない。
たとえ無責任と言われても、これ以上は深入りしない。
再び魔人化薬を利用しようと考える奴が出てくるなら話は別だが。
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天罰と称した落雷と地震のコンボは深夜過ぎになって終息。
その後、宰相とはあれこれと言葉を交わしたが大した内容ではないので割愛する。
黒豚と禿げネズミは転送魔法で参謀本部だった瓦礫の山の上に引き上げておいた。
『主犯が行方不明じゃ話にならんしな』
掘り起こす間に死体の腐敗も進んで誰だか分からなくなるからな。
それくらい参謀本部の建物は壊滅的な状態になっていた。
そうなるように事前に細工してもらったからね。
特に地下の研究施設は先に破壊し尽くしておいたさ。
隠し部屋も含めてね。
『脱出路がなかったのは意外だったけど』
自分たちが襲われる立場になるとは夢にも思っていなかったんだな。
王族や宰相たちを完全に舐めていたのが分かる。
その結末が圧壊した建物に押し潰されての圧死である。
あんな死に方はしたくないというような無残な死に様だったよ。
『有り体に言えばグロ注意だ』
そこから後は転送魔法の連続だったさ。
まず、王太子暗殺の手駒にされた使用人とその一家を新天地に送った。
更にガンフォールの所へ行って状況を報告し宰相に書かせた手紙を渡した。
ゲールウエザー王国側に渡してもらう予定である。
シノビマスターから受け取ったことにしてもらっている。
色々と追及されるだろうけど知らぬ存ぜぬで通せるからな。
肝心の手紙の内容は詫びと許しを請うものだ。
将軍が勝手な真似をして申し訳ないというのが詫びの部分。
許しを請う方は、軍は攻め込まないから許してねというところ。
言うまでもないことだが[許してね]なんて書き方はしていない。
宰相の書いた文面は礼儀や作法に則った丁寧なものである。
謝るはずが文章が不真面目だと相手を怒らせるだけだもんな。
事実と異なる部分があることも怒らせる元になりそうだとは思うのだけれど。
ただ、そこまで目くじらを立ててくる部分ではないはずだ。
将軍が処刑されたと書いている部分。
ここは本来、宰相の認識では天罰である。
だが、公には天罰で死んだとは発表できないからな。
処刑したことにしておいた方がゲールウエザー側の心証も多少は良くなりそうだし。
『そう言ったのは宰相だけどな』
小さな嘘ではあるが躊躇いは見せなかった。
国のためには都合が良いと判断したのだろう。
逆に、軍が攻め込まないという部分については書き渋った。
その保証がないからだとさ。
『俺、自分の耳を疑ったぞ』
最終的には納得させたけれど。
天罰の片方を見せたのに信じ切れないとかどうなんだろう。
ちゃんと予告したのにな。
国境地帯の軍勢を下がらせるって言ったよ、俺。
宰相だって忘れていた訳ではなかったけどね。
何を思って躊躇ったのかは俺には分からない。
とにかく書いたんだから良しとしよう。
で、最後に転送魔法でやって来たのが国境地帯である。
事前の仕込みは終わってるけど、何故か皆やる気を出してしまっている。
当初の計画だと俺が魔法で終わらせるつもりだったんだけど。
まあ、皆に任せる方が面倒くさくはないかもね。
いすれにせよ後は夜明けを待つのみである。
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もうすぐ夜が明ける。
たいまつの明かりの下で侵撃軍司令官に任命された男は高揚していた。
夜明けと共に新たな歴史が始まる。
魔人化薬があれば大国といえど恐るるに足らず、だ。
国中からかき集めた犯罪者どもの数は数百に及ぶ。
そして軍の中でも将軍に批判的な勢力に属する者たち約千名。
この者たちがオーガとなれば数万の敵兵とも互角に戦えるだろう。
実際には奇襲も同然となるため一気に王都へ攻め込めるはずである。
王都を蹂躙し王族を抹殺した後は暗示薬で仕込んだ合図で同士討ちに持ち込む。
所詮は使い捨ての駒だ。
最終的には将軍に忠誠を誓った騎士団を従えて王城に乗り込む。
楽な仕事だ。
将軍の傍らで魔人化薬の実験を幾度となく見てきたからこそ勝利を確信している。
ついつい笑みが漏れてしまうのも仕方のないことだ。
なにしろ次期将軍を打診されている。
将軍は近いうちに弱腰の王家を打倒するつもりだ。
そして新しい王となる。
バラ色に満ちた将来が約束されているのだ。
数万に相当する軍勢を指揮する司令官はお前だと言われた時ですら至福の時であった。
それを超える未来があるとは何と素晴らしいことか。
思えば屈辱まみれの人生だった。
何をやっても凡人以下という評価しか受けたことがない。
そうじゃない。
いつも本気を出す前に終わっていただけだ。
それを無能というレッテルを貼って決めつけてくる。
一度たりとて無能以外の評価を得たことがない。
皆わかっていないのだ。
本気を出しさえすれば誰にも負けないのだということを。
試験であれ試合であれ、本気になったことなどまだないのだからな。
そのことを誰も知らない。
本気になりさえすれば凄いのだということを教えてやる。
本物の戦争でも本気ならば負けることなどあり得ない。
輝かしい未来のために今回は最初から本気を見せてやろう。
男はそう決意する。
そこへ伝令が駆け寄って来た。
空はそろそろ白み始めている。
物思いに耽っている間に時間が経過していたようだ。
「報告します。
総員、配置につきました」
「よぉーし、合図の銅鑼を鳴らし強化薬を飲ませろ!」
「はっ」
伝令が走り去る。
いよいよだ。
本気を初披露したとき未来が変わる。
読んでくれてありがとう。




