453 子供組の決着は
バトルは続くよ、どこまでも。
いや、組み手なんだけどね。
ギャラリーたちは手に汗握るような状態になっているみたいだ。
訓練場を所狭しと駆け回る子供組。
すでに試験を終えているチーは見学中だけれど。
1人が心細いのか俺の服の裾を掴んで半身の体勢である。
ギャラリーは誰1人としてこちらに注目などしていないのにね。
何、この人見知り幼女さん。
試験の時の堂々とした戦い振りは何だったのか。
ギャップが可愛すぎて悶えそうになってしまうだろう。
なお、俺はロリコンではない。
断じて俺はロリコンではない。
大事なことなので2回言いました。
バカなことを考えている間にもバトルじみた組み手は派手になっていく。
壁面を使った三角飛びアクションで跳び蹴りだとか。
ジャンピングアッパーからの旋風脚だとか。
そしてスピードアップしようとして止まる。
「「「「「おお───っ」」」」」
ギャラリーには仕切り直しのように見えているようだが、そうではない。
興奮状態になりつつあることで俺が言い渡した縛りを忘れそうになっているのだ。
『失敗したかもしれん』
今ここで「セーブしろ」とか言える訳ないしなぁ。
まあ、見る人間が見れば余裕があるのはバレバレなんだが。
派手に暴れているように見える割に息ひとつ乱していないし。
ギアを上げてしまうのは時間の問題だ。
かといって組み手の終了宣言は期待できない。
あまりの暴れっぷりにゴードンが唖然とした状態で固まっている。
いい加減に慣れてくれと言いたい。
間合いを取ったミーニャとルーシーが腰だめに構えた。
『頼むから制限速度を超えて突進してくれるなよ』
「行くニャ!」
「来るですよ!」
ミーニャがルーシーが突進した。
俺が制限したスピードギリギリで。
「はっ、速えーっ!」
ギャラリーの誰かが声に出して驚いていたが俺としては安堵するばかり。
そんな風に思った自分がバカでした。
突如、両者の間に位置する地面から次々と石柱が迫り上がっていく。
『なんだとぉ!?』
「「「「「なにぃ────────っ!!」」」」」
地魔法を使ったのか。
石柱は大人の背丈を超える程度のものから電柱の高さのものまで様々だ。
いずれも人化した子供組の肩幅よりやや太めである。
死角を生み出す障害物を用意した訳だ。
無茶苦茶である。
こんなの縛りには入れなかったさ。
『まさか、ここまでするとは思わねえよ!』
制限されたスピードの中で有利に戦えるようフィールドを作り出すとか。
『ここはミズホ国内じゃないんだぞ!』
少しは自覚して自重してくれ。
でないとギャラリーが度肝を抜かれるほど驚くことになるのだ。
高速移動しながら無詠唱で地魔法を使ったという事実は単なる驚愕を超越する。
しかしながらそれを実行した当人たちは気にする素振りすら見せない。
目の前の状況に集中するのみ。
石柱の林の中をスピードを落とさず縫うようにジグザグに進む両者。
互いに己の姿をさらさぬよう石柱を利用しつつ距離を詰める。
だが、それだけでは足りない。
相手の裏をかくことができないのだ。
気配を把握しているが故に。
姿が見えなかろうが関係ない。
有利な位置から攻撃しようという狙いは共通だ。
そのせいで、じわりと接近しては離れるのを繰り返していた。
かと思えば──
「ドッ!」
あっと言う間に距離をゼロにして一撃を入れ合い弾き合う。
そして少しもスピードを落とさず別々の方向に離脱。
ギャラリーたちにとっては信じがたい光景なのだろう。
ポカンと口を開けて固まっている者が大勢いた。
そんな状態だと、もう一方がどうなっているかなど気にしている者がいる訳もない。
それでも不意に気付くことがある。
「あ、あれ?」
「どうした」
「何処だ?」
「なにがだよ」
「語尾がニャじゃない組み合わせの子たち」
「そういや見かけないな」
「つーか、柱が増えてねえか」
「ホントだ!?」
「いつの間に?」
ミーニャたちに気を取られている間にシェリーとハッピーを見失っていたようだ。
実はミーニャたちが石柱を作った直後から便乗していたのだが。
だからこそ石柱も増えているのだが。
まるで気付いていないとはね。
まあ、あの両名は注目されていなかったことを逆手にとったのだけれど。
まずは気配を消して石柱を増やす。
そして石柱内へと入っていったのだ。
行動原理はミーニャたちと同じ。
相手に見つからないように接近して隙を突く。
スピードも同じとくれば、ミズホ組以外では見つけるのは至難の業だろう。
時折、聞こえてくる「ガガッ!」や「ドガッ!」という音の方を見ても意味はない。
互いに打ち合った直後に離脱しているからな。
耳を澄ませば他の「トッ」や「シュタッ」という音なども聞こえるかもしれないが。
石柱を足場にした時の音である。
もちろん石柱にぶつかるようなヘマはしない。
「主よ、そろそろ止めた方が良くはないか」
ツバキが呆れたと言わんばかりの表情で聞いてくる。
「だよな」
シェリーたちの組は徐々に打ち合う場所を上の方へと変えつつある。
すでにミーニャたちとは交錯しない高さになっていた。
トップスピードが出せない縛りがあるなりに石柱を足場にして縦横無尽に駆け巡る。
ジグザグに動いて距離を取りながら相手の死角へ死角へと入ろうとする。
そして時折、交錯する。
刃物は持っていないが故に火花は散らないが。
まるで忍者同士が森の中で戦闘しているかのようだ。
本来のトップスピードからはほど遠いがな。
それでもギャラリーたちの目では追うことができない。
忍者っぽいと思うこともできない訳だ。
それ以前に忍者を知らないだろうけど。
「他人事だな」
「呆れてるんだよ。
空気を読まずに制限をつけたことしか守らんことにな」
そう言うと苦笑されてしまった。
「まあ、子供だからな」
「そこなんだよなぁ」
叱るにしても、タイミングや程度が分からない。
難しいものである。
「申し訳ありません」
そう言ってカーラが謝ってきた。
「私の教育が行き届いておりませんでした」
「カーラだけのせいじゃないさ。
むしろ、俺の方が責任が重い」
「ですが」
ずっと見ていたのはカーラだと言いたいのだろう。
だからこそなのだ。
「俺の監督不行届でもある。
ずっとカーラやキースに任せっぱなしだったからな」
ホイホイ西方を飛び回っていたツケが回ってきた。
これでは叱るに叱れない。
それを考えていて子供組を止めるのが遅れていたというのもある。
どう考えてもやり過ぎだ。
ギャラリーたちはもう音でしか子供組を追えていないからな。
すでにミーニャたちも気配を消しているし。
徐々に薄くしていたからギャラリーは気付いていなかったようだ。
「今度はニャのお嬢ちゃんたちがいない!」
「マジか」
「ベテランみたいに気配を消しやがる」
「いつの間に……」
お前らがシェリーたちに気を取られている間に、だ。
「そんなことも出来るのか」
「本当に子供なのかよ?」
「それくらいできないと賢者の弟子にはなれんってことなんだろ」
「「「「「ああ~」」」」」
変な納得をされてしまった。
「しょうがない」
強制介入だな。
「ちょっと止めてくるわ」
俺がそう言うとツバキとカーラが前に出た。
共に何も言わずジッと俺を見る。
自分たちに任せてほしいと訴えているのは明らかだった。
カーラは責任を感じていたし。
ツバキは俺と同じようなことを考えていたのだろう。
「じゃあ石柱は俺が片付けるから、後ヨロシク」
「心得た」
「お任せください」
2人の返事を確認して地魔法を行使する。
「ほいよ」
石柱を一斉に沈める。
元の地面の状態に戻すのに数秒とかからなかった。
「ニャッ!?」
「えっ!?」
「うわわっ」
「っ!」
急に足場を失った4名が空中で藻掻く。
まるで、その場に留まろうとするかのように。
そんな状態はもちろん維持できる訳もない。
無防備な体勢で落下していく。
そこをツバキとカーラが跳躍して回収していく。
易々と襟首を掴まれ御用となる子供組。
「ねー、ハル様ぁ」
チーが俺を見上げてきた。
瞳がウルウルと潤んでいる。
「お仕置きするの?」
まるで自分が罰を受けるかのような不安げな表情だ。
「そこまではしないかな。
後で説教はするだろうが」
「はー、良かったー」
自分が罰を受ける訳でもないのに心配して安堵している。
仲間思いなチーさんであった。
読んでくれてありがとう。




