441 根回しすると予定が決まる
ゴードンが壊れた。
「@:・$%&!#(&’────────っ!」
顔を真っ赤にして訳の分からない奇声を発している。
怒り狂うって感じじゃないんだが、興奮しているのだけは間違いない。
何を言っているのかはサッパリだが。
脳内スマホの言語補助アプリでも[翻訳不能]と判定された。
「そうかそうか、ショックでおかしくなってしまったか」
「んな訳あるかぁ─────────────っ!」
全力で吠えて抗議してくるゴードン。
血走った目と凄みの利いた形相、そして荒い鼻息。
普通の子供が見たら手がつけられないくらい泣き喚くぞ。
うちの子供組は、これくらいで動じたりはしないがね。
「変なお爺さんだニャ」
ミーニャが小首を傾げながら呟いた。
「血管が浮き上がってるねー」
シェリーが本人には聞こえないように指摘し。
「血圧、高そう……」
ルーシーは他人事のような口調でボソッと呟く。
「心肥大、狭心症、心筋梗塞……」
「脳梗塞、脳いっ血、腎臓病……」
ハッピーとチーが高血圧の合併症を挙げていく。
ツッコミがブラックだ。
『誰だ、こんなこと教えた奴は』
本来なら知っている訳がないんだよな。
ミズホ国民になって間もないフェルトは呟きを耳にして怪訝な表情を浮かべているし。
逆に元日本人のトモさんはギョッとした表情になっていたけど。
「やけに詳しいな。
腎臓病とか知らなかったよ」
「それって何ですか?」
トモさんは独り言を呟いた自覚はなかったようだ。
フェルトの問いかけに目を丸くしていた。
隣にいるんだからバッチリ聞こえるっての。
「病気の一種だよ。
体内の臓器を痛める病気。
詳しくはハルさんに聞くと細かく教えてくれるから」
『おいっ』
ここにもいますよ、丸投げさんが。
まあ、それはいいとしてだ。
子供組があんなツッコミするのは不自然だ。
知識的なものは教えても、こういう使い方をすることまでは教えていない。
『お仕置き依頼だな』
事実確認は必要だと思うけど、十中八九あの人しかいない。
【多重思考】スキルでもう1人の俺を呼び出してメールを出しておくように頼んでおく。
そうこうする間にゴードンが「フン」と鼻を鳴らして変な状態から戻ってきた。
「失礼な」
「ふむ、復活したか」
興奮状態はさめやらぬままだがな。
意味不明な奇声は出てこなくなっただけでもマシというもの。
「なんで、そんなに落ち着いていられるんだっ」
「そんなこと言われてもなぁ」
「新しくダンジョンができるなど、百年に一度の大事件ではないかっ!」
「っ!!」
興奮しながら喋るゴードンが唾を飛ばしてきた。
『アンタの唾の方が俺にとっては大事件だ』
相変わらず興奮すると、これだよ。
もちろん理力魔法でブロックである。
「毎度毎度、汚えんだよ」
淡々と返すが微量の殺気をオマケで付け加えておく。
「うっ、すまん」
ようやくトーンダウン。
『疲れるジジイだぜ』
「心配しなくても対処している。
ドワーフのお膝元だからな」
俺がそう言うと、ゴードンが深く息を吐き出していた。
髭面のむさいジジイが安堵した表情を見せるのは似合わないものだ。
その微妙な雰囲気に流されそうになったが忘れてはいけない。
「ゴードン、俺はジェダイト方面でと言ったはずだがな」
ジーッと見る。
一挙手一投足を見逃さぬよう瞬きひとつせず。
見られる側はさぞかし居心地が悪かろう。
顔を引きつらせて視線を逸らしている。
間違いなくドワーフの存在を失念していたな。
面倒くさいからツッコミ入れるのはなしだ。
既に充分プレッシャーは感じて反省しているだろうし。
さっさと話を終わらせて宿屋へ行こう。
「俺も少しだけダンジョンの様子を見てきた」
「な、なにっ、本当か?」
芝居がかった慌て振りを見せて聞いてくるゴードン。
渡りに船だと思ったんだろうな。
あまりに白々しいのでジーッと見ておく。
「うっ」
プレッシャーに負けたゴードンがたじろいだところで話を進める。
「とてつもなく広そうだ。
そのせいで浅い階層には魔物がまだいない」
「魔物がいない?」
訳が分からないといった様子でゴードンが聞き返してくる。
「超大型のダンジョンができた時の文献を調べてみろ」
滅多にないことだが記録に残っていたりするんだよな。
「どういうことだ?」
「ギルドマスターなんだから少しは考えろ。
俺がこんなことを言うってことは意味があるってことにな。
過去に前例があるなら参考にできることがあるはずだろ?」
「むっ!?」
指摘されてようやく考え始めるゴードン。
『これだから脳筋は……』
まあ、俺も人のことは偉そうに言えないんだろうがな。
とりあえずダンジョンの構造についてはこのヒントだけで充分だろう。
調べて参考資料が見つかるなら、めっけ物だ。
百パーセントの答えが文献で提示されるなんてありはしないがね。
それじゃあ予言になってしまうからな。
調子に乗って、そんな真似をするつもりもないぞ。
舐めてかかったら痛い目を見そうだし。
「そっちは宿題にしておく」
ゴードンの奴、いま露骨に嫌そうな顔をしやがった。
「ギルド長の自覚を持てよ」
そう言うと渋々頷いた。
『まったく……』
「そっちだって間違いなく忙しくなるんだぞ」
「なにっ!?
どういうことだ?」
もう指摘されたことを忘れてるよ。
そんな簡単に染みついた習慣は消すことができないか。
「規模のデカいダンジョンに冒険者はつきものだろ」
頷かれる。
が、考える素振りは見せない。
「素材の買い取りは誰がするんだ?」
「あ……」
ここまで言われりゃ猿でも気付く。
目の前にいるのは野生のゴリラとタメを晴れそうな筋肉ダルマ爺だが。
「新規ギルドの登録手続きか」
ゴードンが渋い表情を見せた。
「それはここでは無理だぞ」
「んなこたあ百も承知だ。
登録はガンフォールたちが王都のギルドに行ったしな」
「じゃあ、何だ?」
「初期スタッフの確保はどうなると思う?」
「そりゃあドワーフに全面協力を依頼するだろうな。
ノウハウのレクチャーがあるから……」
尻すぼみにボリュームを下げていく。
どうやら気付いたようだ。
渋い表情で腕組みをしてブツブツと呟き始めた。
「うちが立ち上げ準備をすることになるよな」
目の前にいてさえ聞き取り辛いであろう音量だ。
うちの面子ならスキルなしでも聞き取れるが。
「暴風の野郎のことだ、そうに決まってる。
こっちが突っぱねられないよう命令書の形で依頼してくるぞ」
王都の冒険者ギルド長ブラドとはずいぶん気安い間柄のようだな。
そして行動を読み切っていると言わんばかりに決めつけであれこれ言っている。
「おーい、戻ってこーい」
「はっ」
軽く呼びかけただけで我に返るなら、最初から自分の世界に没入するなと言いたい。
「エリスが根回しが必要になると言っていたから話を通した。
距離の都合上、どうしてもタイムラグができるからな」
「っ! ワシに先に動けというのか」
脳筋っぽく見えるけど、察しが悪い訳でもないんだよな。
まあ、ギルド長をやるだけのことはあるってことか。
その割にはダメダメな部分が多いけど。
「知らなきゃ何もできんが、知ってるなら現場の判断で動くこともあるだろう?」
「それはそうだが……」
「例えば一時的に新人をここで教育するとか」
「むうっ」
そういう発想がなかったのか、しかめっ面で唸るゴードン。
「できない訳じゃないんだろ」
「無理ではないが……」
「現場の人間の負担を考えろよ」
「ぬう」
何を悩む要素があるのか分からんが、ゴードンが唸っている。
「ここで教えるなら手間は増えるが人手は減らんぞ」
「確かに、それは言える」
「命令書とやらが来れば現場に行かざるを得ないよな。
場合によっちゃ、長期出張ということになるだろう」
「ぐっ、それは困る。
ワシの所もギリギリの人員でやっておるのだ」
『やはりな』
エリスの抜けた穴は大きかった訳だ。
頭数をそろえても経験や個人の能力の差は埋めようがないからな。
「なら、決まりだろ。
間違いなく出張期間を短縮させられるぞ」
「分かった」
ゴードンの了承を得た後は細かな情報を伝えておいた。
唸ったり頭を抱えたりと大変そうだが、そこまで面倒は見ていられない。
とにかく新人教育の受け入れは了承された。
ガブローに指定の人数を送り込むようにメールしてこの件は完了。
とはいえ思った以上に時間を食っていたらしい。
ギルドを出る頃には夕日の色に染まった空になっていた。
「面白いな、あのギルド長」
トモさんが楽しそうだ。
本当に爺が好きだな。
「岩塚さんとどっちが好きなんだよ」
「群青さんに決まってるだろう」
普段から好きな群青さんと言ってはばからないだけのことはあるのか。
ギルド長はまだまだランキング外のようだ。
読んでくれてありがとう。




