440 ハルトまたしても土下座される
遅くなりました。
すみません。
店を壊すように仕向けたのは俺の責任だ。
元通りに直したのだとしても思い出を壊したという行為自体は消えない。
だから俺にできることで償おうと思った。
詫び状と金銭という形になるがね。
所詮は自己満足の域を出ないだろう。
だから少し多めに包んだつもりだ。
「もしかして袋の中身は大銀貨ですか」
ケニーが問うてきた。
俺が詫びるのが意外で驚いていたのかと思ったが金額面で驚いただけのようだ。
『俺の方が失礼だった訳か』
内心で憤慨したのはスマンかったと思う。
それはそれとして大銀貨だと思われたのは心外だ。
精神的に傷つけておいて慰謝料が数十万円相当で済むと思われるとか情けない。
「いいや、金貨だけど」
日本円相当で数百万円くらいになるはずだ。
とりあえずはこれくらいでどうだろうかと用意した額である。
『せめて、これくらいはしないとな』
賠償金として相場がどれくらいかは分からない。
この辺は日本人的感覚なので、もしかすると少ないのかもしれないが。
足りなければ俺宛で商人ギルドに請求するようにとは詫び状に書いておいたけど。
幸いチンピラどもが暴れたことで住人が死傷するようなことにはなっていない。
桁がもう一つ上なんてことにはならないだろう。
「「「「「きっ、金貨ぁ─────っ!」」」」」
ケニーだけでなく衛兵全員が声を上げた。
「いいい、いくらなんでも多すぎですよっ」
ケニーのどもりながらの発言に衛兵たちが一斉に頷く。
「そうか?
思い入れのあるものを壊したから当然だと思ったんだが」
「何を仰いますかっ。
壊したのはエコップの部下どもじゃないですか」
俺に賠償責任がないと言いたいらしい。
理屈は分からんではない。
「いや、そう仕向けたのは俺だしな。
それに暴れた証拠とするために、あえて止めなかったし」
「確かに賢者様なら連中を抑え込むことなど造作もなかったでしょう」
隊長であるケニーの言葉に衛兵の何人かはギョッと目を見開いていた。
俺たちの倍以上はいる面子を確実に抑え込めるということが信じられなかったのだろう。
外野でひそひそ話が始まってしまうのにも慣れてしまったな。
今回はケニーの話に集中したいので聞くつもりもない。
「ですが、そういう問題ではないのです。
こんな金額を積めば店を買収していると誤解されかねませんよ」
「「なんですとぉ────────っ!!」」
今度はこちらが驚く番だ。
声に出して驚いたのは俺とトモさんだけだったが。
そこまでは考えてなかった。
「そんなに安いのか?」
次の瞬間には思わず聞いてしまっていたさ。
『あ……』
ケニーが頭を抱えている。
煩くて耳をやられたって感じじゃない。
どう見ても「信じらんねえ」って面だぞ、アレ。
ひそひそ話に参加していなかった衛兵たちにはドン引きされてしまった。
参加していた衛兵たちは訳が分からず困惑している。
わざわざ説明するつもりはない。
知りたきゃ諸君らの仲間に聞いてくれ。
どうやら黒歴史級の失態を演じてしまったようだ。
「いや、まあ金貨がマズいのは分かった」
このままだと何を言われるか分かったものではないので金貨は引っ込めることにした。
空気は読まないとな。
でないと、俺の変な噂が拡がりかねない。
賢者が借金で弱っている姉妹を金の力で強引にものにしたとか。
そこから発展して賢者は無類の女好きだとか。
『無いと言い切れない雰囲気なんだよなぁ』
ケニーの反応からすると大銀貨でも問題があるようだ。
賠償金の受け取りを拒否される恐れだってある。
『マジかよ……』
そう言いたいのをなんとか我慢した。
「だったら銀貨で妥当な線かい?」
いくら何でも大銅貨までは落ちないだろう。
だとしたら賠償金が数千円ってことになってしまう。
『いくら何でもなぁ』
そう思いながらも確認せずにはいられない。
俺の常識は西方じゃ非常識みたいだし。
「被害規模からすると、そうですが……」
ケニーの言質を得て金貨と銀貨を入れ替える。
『賠償額が数万円レベルとはな』
恐ろしいとすら感じてしまう。
これが地球での常識なら悪党どもは陰で狂喜乱舞するんじゃなかろうか。
「本当によろしいのですか?
賢者様には何の責任もないのですよ」
あくまで悪いのは犯罪者と言いたいのだろう。
「ああ、気にしないでくれ」
「気にしますよ。
賢者様は修繕もされているじゃないですか。
この様子だと前の状態を完璧に再現しているのでは?」
「それができなきゃ、この連中に好き勝手にはさせなかったさ」
沈黙の間が流れる。
ケニーが何かを悟ったような諦めたような表情になっていた。
半ば冗談で言った言葉だったようだ。
衛兵たちは、またしてもドン引きである。
そんな大層なことをした覚えはないんだがな。
この店舗を消し去ったりした訳じゃないんだぞ。
『大袈裟すぎるんだよ』
衛兵たちはそう思ってくれないようだが。
「なんにせよ、元通りの状態なら賠償金なんて必要ありませんよ」
こちらでは慰謝料という発想はないみたい。
賠償金はあくまで損失補填する意味合いしかないようだ。
『どんだけ被害者軽視なんだよ』
どう考えても弱い方が悪い的な発想が根ざしているよな。
常識のギャップに恐怖すら覚えるぞ。
「そこは俺の自己満足だ」
ここまで言えばケニーも食い下がりはしなかった。
衛兵連中にはお人好しと思われただろうけど。
とにかく現場検証を終えたら、俺たちは店に用がなくなる。
賠償金以外に食事の代金を置いて店を出た。
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『どうしてこうなった』
思わず遠い目をしてしまう。
「ありがとうございました!」
礼を言われるのは構わない。
相手はゴードンだからな。
養子たちが巻き込まれた一件だと容易に想像がつく。
衛兵詰め所から連絡が入って事情を聞きに行っていたのだろう。
タイミング的に無いとは言えない。
昼飯の騒動で相当に時間を浪費してしまったからな。
既におやつ時は過ぎている。
衛兵隊長のケニーとは入魂だし、詳細な話を聞けたことだろう。
ならば礼を言いたくなるのも頷ける。
礼を言うだけなら律儀な奴だとしか思わない。
それだけで済んでいるならな。
『だから、なんで土下座するんだよっ!?』
冒険者ギルドに到着するなりギルド長の部屋へ通されたかと思ったら、これだよ。
「意味が分からんわっ」
「これくらいしかワシにはできることがないのでございます」
喋り方までおかしいし。
こんな調子でダンジョンの報告とか無理だよなぁ。
『どうすりゃいいんだよ』
途方に暮れたくなってしまうだろ。
予定が詰まっているから簡単に諦めるつもりはないがな。
『エリスを連れて来れば良かった』
そんなことを考えてしまうが引率の仕事を割り振っているから無理だ。
仕方がないので自力で何とかしよう。
「あのな、俺らも暇じゃないんだ。
アンタが養子を大事にしているのはよく分かったよ。
だが、それは俺には関係ないことだよな。
俺らは俺らの用事と都合があってここに来ているんだ。
ゴードンにもギルド長の仕事をしてもらう必要があるんだがな」
長々と喋って耳に入るか不安はあった。
が、面を上げたところを見ると耳は正常なようだ。
その先の思考回路に問題が残っている気はするけど。
「それでワシの仕事とは?」
「簡単な方から片付けよう」
「複数あると?」
「ああ、ひとつは冒険者登録だ。
試験が必要になる。
言っとくが、生半可な相手じゃ話にならないぞ」
ゴードンが改めて俺の連れを見た。
「ワシの知る登録者以外全員か?」
人化した子供組などはノエルより幼く見えるからな。
確認したくなる気持ちは分からんではない。
「そうだ」
「多いな、今日中には集まらんぞ」
「だよなぁ」
予定がどんどん狂っていく。
当初の予定よりも大幅に時間を使ってしまったからな。
食堂で引き止められた形になったのが痛い。
現場検証に事情の説明、どれも必要なことだ。
しょうがない。
衛兵たちも仕事なんだし。
それでもチンピラたちには八つ当たりしたいところだ。
『俺も殴っときゃ良かった』
済んだことをあれこれ言っても始まらんがね。
「なんとか明日の午前中で終わるようにしてくれ」
割と無茶な注文をつけているという自覚はある。
が、予定を狂わせる訳にはいかんからな。
他の組が予定通りに進んでいるなら尚更だ。
トラブルの報告はない。
むしろ、こちらがメールで報告ばかりしている。
『絶対に厄日だよな』
ドミノ倒しのように連鎖的に予定が崩壊するとか勘弁してほしい。
「分かった、なんとかしよう」
ゴードンは何も言わずに引き受けてくれた。
ありがたいね。
「それで、他の用件とは?」
ゴードンが聞いてくる。
頭の方も働くようになってきたようだ。
これなら大丈夫だろう。
「ジェダイト方面で新しいダンジョンができた」
「なんだとぉ─────っ!!」
大丈夫じゃないかもしれん。
読んでくれてありがとう。




