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436 再会と昼飯と

「お疲れー」


 戻ってきたツバキに声を掛ける。


「どうと言うほどのことでもなかったが」


 馬の駆け足と変わらぬ速度で走り続けて息ひとつ乱していない。

 西方人の常識では考えにくいことなんだけどね。

 ミズホ国では特に不思議なことでもない。


「主の方こそ無茶をしたのでは?

 この短時間でここまで来るとは思っていなかった」


 そう言いながらチラリと髭もじゃオッサンことフェルゼンの方を見る。

 遠い目をしてブツブツと呟いているな。


 まあ、絨毯に乗って突風のような速さで飛んだからなぁ。

 あの場に居合わせた全員に加え馬車や馬と一緒だから絨毯も特大だったし。

 そのせいで現実感が薄くなったかもしれない。

 飛んでいる最中はやけに興奮していたが着地後は逆に放心状態になってしまった。


 ある意味、眠らされたままの連中の方が幸せだったかもな。

 しばらく放っておけば、そのうち正気に戻るだろう。

 面倒だから俺からアフターケアはしない。


「これくらいで無茶と言われてもな」


 そう返事をすると苦笑いされてしまった。

 俺に対する認識はそんなものか。

 仕方あるまい。

 もっと派手なことをすることだってあるんだし。


 そのタイミングで何頭かの馬が次々と駆け込んでくる。

 鼻息を荒くしている馬を落ち着かせながら衛兵たちが下馬してくる。

 いずれも見たことのある顔ぶれだ。

 そのうち先頭にいた男が前に進み出て話し掛けてきた。


「御無沙汰しております、賢者様」


「おう、久しぶり。

 元気にしてたかい、ケニー隊長」


「御陰様で」


 にこやかに答えるイケメンは様になるね。

 しかしながら、すぐに表情は引き締まったものになる。


「危険薬物を扱う商人だそうですが」


 さっそく仕事の話に入ってくれるのはありがたい。


「奴なんだが知ってるか」


 ダメ元で聞いてみた。

 すると、ケニーは知らないようだったが衛兵は覚えていた。

 現場に出るか出ないかの差が出たようだ。

 人当たりは良いが、どこか胡散臭さを感じていたようである。


「それで問題のブツはどうやって運び込んでいたのです?」


 やはり、そこが気になるよな。


「軽く調べた結果がアレだ」


 横倒しになった荷車を親指で指し示しながら目線では麻袋の方を見る。


「これはっ!?」


 上げ底になっている荷車に目を見張るケニー。

 衛兵たちは言葉を失っている。

 気持ちは分からんではないけどね。

 意表を突く巧妙な手口だろうし。

 顔を真っ赤にしたり青くしたりで反応は様々だけど相当ショックなようだ。


「そんなのより中身の方が大事なんじゃないか」


 荷車の近くで散らばる小さな麻袋に目を向けさせた。

 あえて荷車からこぼれ落ちた時の状態を維持させてある。

 一度も直には触れていない。

 移動のため絨毯に乗せる時はまとめて理力魔法を使って浮かせたし。


「中身の方は幻覚見せるタイプだ。

 暗示にかかりやすくなる」


「まさか!?

 許可なく扱えば縛り首ものなんですよ!」


『あ、そうなんだ』


「それだけバレない自信があったんだろうな」


 バレた後のことまで考えちゃいまい。

 悪党なんて、そんなものだ。


「そこの放心しているオッサンが被害を免れたから事情を聞いておくといい」


 俺がただ1人起きている当事者に視線を向けるとケニーが目を丸くする。


「フェルゼンじゃないか!?」


 今ごろ気付いたのかよ。

 ゴードンの養子ならケニーも知り合いだろうとは踏んでいたがな。


『気付くの遅すぎ』


「ケニー!?

 なんでここに?」


 名前を呼ばれたことで我に返った髭もじゃオッサン。

 どうやら気安い仲のようだが違和感を禁じ得ない。

 変だと思って年齢を拡張現実で表示させたら納得がいった。

 どちらも29才の同い年だったのだ。


『嘘だろぉーっ!?』


 久々に【ポーカーフェイス】を使ったような気がする。

 どう見てもフェルゼンはアラフォーに見えたせいだ。

 弟2人もオッサンくさい顔をしてて20代には見えないのだが。


『この兄弟、どんだけ老け顔なんだよ』


 ただ、向こうはこっちの衝撃など知ったことではない。

 俺が動揺している間にフェルゼンが何が起きたのかを話し始めている。

 面倒なので話すに任せておくことにした。

 最後に釘を刺して俺たちのことは外部に漏れないようにすればいいだろう。

 人の口に戸は立てられないとも言うけれど……



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 どうにか話も終えてブリーズの街に入ることができた。

 フェルゼンたち3兄弟は衛兵たちの詰め所へと向かったので門の所でお別れ済みだ。

 俺たちのことは広めるなとは念押ししておいたが、どうなるかは読めない。

 そんなことより昼過ぎだ。


「ハル様、御飯だニャ」


「ごはん、ごはんー」


「お昼ですぅ」


「「……お昼ごはん」」


 などと子供組にせがまれたことだし、冒険者ギルドは後回しとなった。

 あそこにも飲み食いできる食堂はある。

 合理的に行動するなら、そこを利用して冒険者登録するのが良いように思えるだろう。

 だが、あの食堂は常連がたむろしていて空きが少ないからなぁ。

 俺らの頭数で押しかけても全員は座れまい。


 いや、場合によっては貸し切り状態になるかもだ。

 そうなったら居心地は最悪である。

 誰もいなくなるんだからな。


 そもそも利用する気はないのだけれど。

 味の方がお値段なりだと聞いているのでね。

 情報提供者は元職員のエリスだ。

 間違いはあるまい。


 お値段以上などと贅沢は言わないが安い食堂でそれなりの味というのは回避したい。

 空腹も限界ギリギリレベルではない。

 ならば店を吟味するくらいはしても罰が当たったりはしないだろう。


 どのみち日帰りの強行軍も難しくなったのだ。

 久しぶりにアーキンの宿屋を利用することにして通り道の食堂で食べることになった。

 オーダーを通している間にチェックインのためハリーにひとっ走りしてもらう。

 宿泊したことのある面子は限られてしまうからな。


 ドルフィン・グレンの着ぐるみを着込んでいるローズは無理だし。

 完全無口キャラなのでね。

 本来の姿はもっと無理だけど。

 ツバキにはさっき動いてもらったし。

 ということでハリーに働いてもらった訳だ。


 ササッと最上階の部屋をキープしてきてくれた。

 さすがはハリー、仕事が早い。

 注文したランチ定食が気になっていたせいかもしれないが……

 食い意地が張っているせいか責任感がそうさせるのかは追及しないでおこう。

 動機なんぞ仕事の内容に関係ないからね。


 そんなことより飯だ、飯!

 アーキンの宿屋に近い食べ物屋は庶民的な感じが薄い。

 どちらかというと高級志向だ。

 そういうのも近隣の店とのバランスが自然と取られるものなのだろう。


 その中でもいい匂いをさせている店を選んで入った。

 選んだのは妖精組だけど、だからこそ間違いはあるまい。

 店の外観とかまるで気にしていなかったもんな。

 他の店と比べると地味な店構えではあったが確かに旨そうな匂いをさせていた。

 入ってしばらくは「大丈夫かよ」と思わせるような雰囲気だったけど。


 はっきり言ってしまえばお通夜のような静けさだったのだ。

 店員が静かに「いらっしゃいませ」と言い店の奥へと案内する。

 壁面を指し示して「注文が決まりましたら、お呼びください」と言って退場。

 思わずトモさんと顔を見合わせてしまったさ。

 お互いに「やばくね?」って顔をしてたな。


 けれども逃げ出す訳にもいかないだろう。

 入り口付近なら座る前に脱出できたとは思うがね。

 奥まで連れて来られては出て行きづらい。

 しょうがないので壁面上部に掛けられたいくつかの札を見た。

 本日のランチとなっているが数が少なくて歯抜けのようになっている。

 本来なら倍以上のメニューがあるようだ。


「匂いに騙されたかな」


 こそっとトモさんが聞いてきた。


「いや、どうだろうね」


 それとなく周囲の客を観察してみたが一心不乱に食べている。

 とてもマズメシを食べている感じじゃない。


「遮音結界を使って会話は聞かれないようにしておいたよ」


 それを告げつつ観察を続ける。


「何だか静かですね。

 街の食堂とはこういうものなのでしょうか」


 フェルトが聞いてきたので慌てて首を振って否定した。

 これが西方のスタンダードだと思われるのは問題がある。


「この時間帯で席がポツポツ空いてるのは変だ」


 繁盛しているとはお世辞にも言い難い。


「それに、どの客も繋がりは薄そうなのに同じメニューってのもな」


 全員が常連客っぽいし何かを知っているということなのだろう。


「比較してみますか」


「だね」


 トモさんの提案が妥当だろう。


「ボリュームはあるから2品は頼みにくいか」


「食べられるニャ」


 ミーニャが真っ先に食いしん坊万歳な反応をしたので釘を刺しておく。


「この後で模擬戦するんだぞ」


 単に登録するだけなら模擬戦は行われないが、その可能性は薄い。

 常連客が食べている定食っぽいものはボリュームがある。

 同じ量の2品を食べれば、しばらくは動きに支障が出るだろう。

 そういうみっともない状況になるのは看過できるはずもない。


「言っておくがディジェストは使用禁止だからな」


「撃沈だニャー」


 結局、常連客と同じものを頼む派と好きなものを頼む派で注文することになった。

 見た目だけでも何か分かることがあるはずだ。

 それでも分からない時は半々で分け合うまでのことである。

 あまり行儀がいいとは言えないが、魔法を使えば誤魔化すのは難しくない。

 で、遮音結界を解除してオーダー。

 店員を呼んだが影の薄い先程のお姉さんがスルッと参上。


『まるで忍びじゃないかよ』


 そこまで言うのは些か言いすぎかもしれないがね。

 だから、そのツッコミは俺の心の中だけに止めたけれども。

 飲食店のウェイトレスとしてはどうなんだろうと思うレベルではあるな。


読んでくれてありがとう。

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