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429 乗ってみた

修正しました。

人口的に → 人工的に

変わってください → 代わってください

集会を → 周回を


 可変戦闘車両はボルゾイと命名した。

 言いにくいもんな。

 由来はロシア原産の狩猟犬だ。

 超大型犬に分類されるが「え、大丈夫?」ってくらい細身で足が速い。


 人型の形状がなんとなくボルゾイのイメージと被ったことによる命名だ。

 もちろん足の速さも根拠のひとつである。

 他の候補はグレイハウンドとかサルーキあたりだったんだが呼びやすさを優先した。


 この流れで今まで車としていたハッチバック車にも名前をつけた。

 こっちはビーグル、イギリス原産の狩猟犬である。

 こちらも見た目のイメージで決定した。


 ちなみに輸送機と輸送機・改の旅客機は、まだ決めていない。

 適当なアイデアがなかったからだ。

 ごく一部から「Gはどうだい」とか「2号だね」とか言われたが却下した。

 本人も冗談を言っている時の顔だったからね。

 それはそれとして可変戦闘車両改めボルゾイは完成の翌日に試乗することになった。

 レース用のサーキットとか万能型シミュレーターを作るのに時間がかかったからだ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「ハルさんは何者なんだろうと思うよね」


 トモさんが15階建てのサーキット施設を見て呟いた感想だ。

 国民になって日が浅い者ほど激しく頷いている。

 例外はガンフォールとエリスだろうか。


『言われても仕方ないか』


 むしろ例外の2人が大物過ぎる。

 半日で完成させたにしては巨大すぎる施設だからな。


 1階は搬入や整備のためのフロア。

 2階はシミュレーター専用のフロアだ。

 残りのフロアは各階ごとに観客席と設定の異なるコースがある。

 舗装されたコース。

 悪路だけのコース。

 両方を備えたコース。


 特に舗装のみのコースはバリエーションが多い。

 最高速を競うようなものやテクニックを要求されるコーナーの多いもの。

 果てはジェットコースターみたいなループやローリングしたものまで。

 コースごとに特色が異なっている訳だ。


 そして各フロアには人工的に気象制御する魔道具を設置しておいた。

 悪天候がまったくないレースだと味気なくなるもんね。


「分かったから、試乗会を始めるぞ」


 希望者全員分のボルゾイを用意したけど、一斉に走る訳じゃない。

 今日の所は1人3周までの制限つきでタイムアタックの形を取った。

 いきなりレースなんてしたら何が起こるか分からないからね。


 レスキューと救急専用の自動人形を配置させたけど。

 それでも最初は1人ずつだ。

 トップバッターはクジ引きでボルトになった。


「記念すべき第1号だな」


 そう言ったら硬い表情で「代わってください」と言われた。

 残念だが却下である。

 トレードは認めないというルールでクジを引いてもらったからな。


 だいたい試乗を希望しておいて走るのが嫌だって何だよ。

 最初が嫌だってことなんだろうけど、これも慣れだ。

 降板はさせない。


「とりあえず1周してこい。

 それで止めたいならピットに入ってくればいいから」


 強張った顔で頷いたボルトがゆっくりとボルゾイを加速させていく。

 滑らかな滑り出しだ。

 スマホに送信されてくるデータではアクセルの踏み方と合致していない。


『AI制御にした効果が出ているな』


 カクカクした動きにならないようボルゾイの方で調整している訳だ。

 始めて乗る場合はAIが強めに働くように設定してある。

 いきなりアクセルベタ踏みするような無謀な者が出ても対応できるようにね。

 AIをカットした状態でそんなことしたら搭乗者は酷い目にあうだろう。

 まあ、レベルが低ければ安全は保証できないとだけ言っておこう。

 今日の試乗会参加者でそんなのはいないけどな。


「ガチガチだった割にスムーズに走れているわね」


「マイカちゃん、そういう仕様みたいだよ。

 ピーキーすぎるからAIで調整するんだって」


 感心しているマイカにマニュアルをちゃんと読み込んだミズキが教えている。

 ミズキの発言に気になる単語があった。


『自分で記述しておいてピーキーだと強調したのを失念するとはな』


 ボルトはその部分に反応してビビっていたようだ。

 トップバッターだと誰かの走りを参考にもできないし。

 過剰に怖じ気づくのもしょうがないのか。

 山岳ラリードライブ体験者だからな。

 一方、逆に気合いの入る人もいるようで。


「AIだとぉー!?」


 驚きをあらわにして俺の方へと向かってくるクレーマー。


「ちょっとぉ、私のもそんな調整してるんじゃないでしょうね」


「仕様だからな」


 ガルガルと猛犬を思わせるような威嚇をしてくるマイカ。

 だが、俺はシカトして話を続けた。


「AIだから成長するぞ。

 上手い奴なら、より性能を引き出す方向へ導いてくれる。

 下手な奴が操縦するなら操作しやすいように変化していく」


「くっ、電脳フォーミュラの仕様を踏襲しているのね」


 それなら仕方がないと言いたげにマイカは引き下がった。

 アニメの設定は絶対なのかよ。

 設定資料集とか好きな割にマニュアルは読まない女である。


 結局、ボルトは1周でギブアップした。

 コースの後半ではそんなに悪くなかったんだけどな。

 降車した時は出発時より顔色が戻ってきていたので大丈夫だったのだろうが。

 まあ、無理強いはしない。

 トラウマになって乗れなくなるのは回避したいからな。


『ハマーと同じようにビーグルの試乗に回れば良かったのに』


 今更である。

 子供じゃないので自己責任だ。

 そういう意味ではハマーは適切な判断をしたと言える。

 本人はトラウマ克服のためと言っていたし。

 結果はハマーたちのいるフロアに行ってみないと分からないけど。


「後でもう一度乗るか?

 それともビーグルの試乗に切り替えるか?」


 念のためボルトに聞いてみたら前者を選んだ。

 繊細なように見えて頑固な男である。

 さて、2番手はレイナだ。


「まっかせなさぁーい」


 何を任せろと言うのかは分からんが思い切りのいいスタートを切った。

 ボルトの時とは違ってグンと一気に加速する。


「おおっ、さっきと違うやん」


「ビーグルより加速するようね」


 アニスとリーシャが感想を述べる。

 それに釣られたのかもしれない。


「あのバカ、ベタ踏みしやがった」


 思わず俺はそう漏らしていた。


「その割にはホイルスピンしなかったようだが?」


 困惑気味にルーリアが聞いてきた。

 その疑問もビーグルの走行性能を知っていれば当然だ。

 ビーグルなら間違いなくホイルスピンして白煙を上げていたはずだからな。

 派手な見た目に反して時間をロスするだけなので意味がない。


「あれがAIの効果だ。

 極端な操縦をしようとして補正されたんだよ」


「何か操縦してる感が薄れる仕様ね」


 俺の答えにマイカがケチをつけてくる。


「もし今のがAIなしの状態だったらスタート直後に事故ってたとしてもおかしくない」


「ええっ、そうなん?」


 俺の返答にはマイカではなくアニスが反応した。

 軽く驚いている。


「ああ、あらぬ方向を向いて壁面に突っ込んでた恐れがある」


 機械的な制御でそういうのを無しにできるようにはしなかったからな。

 そのためにAIを導入したようなものだ。


「ピーキーすぎるってマニュアルに書いていたのって、そういうことだったんだね」


「暖気なこと言ってんじゃないわよ。

 とんだ化け物ってことじゃない」


 ミズキが納得する横でマイカがツッコミを入れていた。


「AIをカットして走りたい人、手を挙げて」


 結果は想像がつくが言ってみた。

 もちろん誰も手を挙げない。

 だよな。

 誰もいつ事故るか分からない状態で乗りたいとは思わないだろう。


「極端な操作をするとAIは下手くそ認定するからな。

 本当に速く走りたいなら、あの走りじゃダメだ」


 幻影魔法で映し出されたレイナの走りっぷりは一見するとスムーズだ。

 しかし、コーナー手前の減速や出口での加速はちぐはぐである。


「なんだか無駄が多そうですー」


「「そうだねぇ。

  部分ごとに見ると滑らかだけど全体で見ると変だよ」」


 ダニエラや双子ちゃんたちが真っ先に見抜いたようだ。


「言われてみたら、せやな」


 アニスも同意する。


「突っ込みすぎ」


 ノエルは何が原因かを指摘していた。

 結局、ノエルの指摘を克服することなくレイナの試乗は終わった。

 1人3周までの制限をつけておいて良かったよ。


「全然っ、足りないわっ!」


 AIの補正が強すぎてフラストレーションが溜まったようだ。

 地団駄を踏みながら物足りなさをアピールしている。


「精神面での修行が足りんのだ」


「どういうことよ、それ」


 リーシャの指摘にブリブリと怒りながら文句をつける。


「次はアニスだ。

 見ていれば分かる」


「ぐぬぬ」


 ルーリアにそう言われては黙るしかなかったようだ。

 スタートから食い入るように見ている。

 ついでだからゲームのゴーストカー的にレイナの走りを幻影魔法のスクリーン上に投影した。


「ああっ」


 最初の加速から違う。

 強めの補正がかかったレイナの方はどうしてもテンポがずれるのだ。

 コーナーでも同様である。

 スピードが乗りすぎているために強く減速されてしまう。

 だからこそフラストレーションが溜まっていったのだろう。


「これで分かったでしょ

 直線番長過ぎたのよ」


「なんてこった」


 リーシャの容赦ない言葉にガックリと肩を落とすレイナであった。


 一方でノエルは周回を重ねるごとにタイムを更新していく。

 今日の試乗では誰もノエルのタイムを破れなかったことを付け加えておこう。

 俺? 制作者なんだから速く走れるだろって?

 俺は乗らなかったからね。


読んでくれてありがとう。

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