表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
428/1785

422 異世界の常識、日本の非常識?

 純田くん以上に気になる異性はいるか。

 俺がそう問うとフェルトは固まってしまった。

 だが、何も考えられないフリーズ状態ではない。

 己と向き合い考え始めたのだ。

 眉間に皺を寄せたり赤面したりしている。

 しまいにはワタワタと両手を振ったりする始末だ。


『完全に周囲が見えなくなっているなぁ』


 見事なポンコツぶりだ。

 見ているこちらが赤面したくなってくる。

 これを撮影して後で見せられたら黒歴史確定だな。

 そこまで悪趣味なことをするつもりはないが。


 なんにせよ赤面ものの時間も永遠に続くわけではない。

 そして、その瞬間は急に訪れるものだ。

 忙しなく変化していた表情がスッと落ち着いたものに変化する。


「結論は出たか?」


「はい」


 頬を赤らめながらもフェルトはしっかりと頷いた。


「他に気になる異性はいません」


「だそうだよ」


 振り返って聞いてみた。

 相手はもちろん純田くんだ。


「あっ」


 純田くんが何かを言うよりも先にフェルトが反応。

 瞬時に茹で上がって固まってしまった。

 目の前に相手がいることを失念したまま発言していたようだ。

 視野狭窄どころの話じゃないな。


『恋は盲目、か?』


 うちの国民になるというなら、もう少し何とかしてほしいがな。

 それはそれとしてだ。


『純田くんはどうなんだ?』


 こちらもポンコツ状態なら洒落にならんのだが。

 俺とフェルトの会話中に復帰していたようだから大丈夫だとは思うのだけど。


「飛賀くん、ひとつ聞きたいのだが」


「何かな」


「この子と添い遂げた場合、元の世界で結婚できないよね」


 なかなか重い発言をしてくるな。

 誰か好きな人がいたっけ。

 噂とかは聞くけど本人から直接聞いたことはない。


「それは純田くんの考え方で半分以上が決まるんじゃないかな」


 どういうことと言わんばかりに首を捻る純田くん。


「エルダーヒューマンとしての純田くんはルベルスという世界に属することになる。

 いや、既に属している。

 ルベルスの……もっと細かく言えば惑星レーヌの常識として重婚はタブーじゃない」


「えっ、マジで!?」


「極端な例だと妻が18人とかね」


「何だ、そりゃ!?

 マジモンのハーレムだよ」


 すかさずツッコミが入った。


『やっぱり、そう言われるんだ』


 なんとなく予感はしていたけど。

 そして当事者のはずなのにマイカさんが受けていますよ。

 純田くんのツッコミ、そんなに面白いかね。

 俺も他人事なら笑っていた気はするけど。

 本人だから笑えない。


「それと、18人のうち1人は未成年だから婚約している状態だ」


「なんだってぇ!?」


 大きく仰け反る純田くん。

 その表情は何か恐ろしいものを見てしまったかのようだ。


「よりにもよって超重婚野郎が、まさかのロリコン1?」


 超重婚野郎って……

 おまけにロリコン呼ばわり。


 あー、ノエルさんが御機嫌斜めになっていくのが分かりますよ。

 なんか「もうすぐ大人……」とか呟いているし。

 あと4年なのに、もうすぐって言い切るのが凄いね。


 それより誰かマイカを止めてくれ。

 我慢しきれずに腹を抱えて笑い始めたぞ。

 そんなに俺がロリコン呼ばわりされたのが面白いのか。


 でも、問い詰めたら超重婚野郎で言い逃れしそうな気がする。

 とりあえずミズキに任せておこう。

 ノエルが不機嫌になっているのを指摘してるからじきに収拾がつくだろう。

 俺は純田くんを抑えないとな。

 これ以上、ノエルを不機嫌にさせることを言わせてはいけない。


『やむを得ん』


「ちなみに俺なんだけど」


 ここは自爆するしかない。


「飛賀くんかよ!?」


 脊髄反射的スピードで返された。


「って、もしかして……」


 周囲を見回す純田くん。


「あー、1人だけ本国で留守番だ」


「ほぼ全員を連れ回しているのかー!?」


 些か錯乱気味である。

 日本人の感覚を残している純田くんだとこんなものか。

 羨ましくも犯罪的だとか考えているんだろうなぁ。


「日本的な常識だと許されないんだろうけどね」


「あ、タブーじゃないんだっけ」


 失念しているであろうことを軽く指摘すると、我に返った。


「言い訳になるけど俺からは告ってないよ」


「なに、その羨まチックな情報─────っ!?」


 魂の叫びって感じだな。

 ちょっと驚いたわ。


「純田くんも告られたわけだよね。

 羨ましいとか言われる側だと思うよ。

 しかも美人で真面目そうだし」


 ポンコツな部分があるのは、あえて言わない。

 純田くんも分かっているはずだ。

 殊更、マイナス面を強調する必要もないだろう。

 というのは建前であるのは言うまでもない。

 より良く見えるように誘導すれば──


「ぐぬぬ」


 唸りながらも自分でリア充組へと移籍してくるのである。


「相手がいることだから真剣かつ慎重になるのは分かるけどさ」


 そこですかさず懐柔しにかかる。

 逃がしませんよ、お客さん。


「皆で幸せになろうよ」


 何処かで聞いたような台詞を言いながら純田くんと肩を組む。

 まあ、純田くんは棒立ちなので一方的なものだけど。

 グッと背を丸めてひそひそ話の体勢に入る。


「異世界じゃ日本人の常識は通用しないよ」


「そうのなのかい?」


「そうさ、忘れてもらっちゃ困るな。

 あっちは弱肉強食の世界なんだぜ」


「そうだった」


 すんなり頷く純田くん。

 この辺の話がスムーズに行くのはエリーゼ様から知識をもらっているからだな。


「婚姻に関してもそうだ。

 力のある者が、より多く妻を娶ることができる。

 でないと人類が滅亡しかねないんだ」


「そこまで弱肉強食なのぉ?」


『もしもし、声が裏返ってますよ?』


 貰った知識と己の意識との間にギャップがあるようだ。

 それなりにショックを受けている。

 ロープレとかのゲーム感覚で認識してたんだろうね。

 命のやり取りという意識が希薄だったようだ。

 是正できたようで何よりである。


「大丈夫だって。

 純田くんは3桁レベル目前だし。

 うちは亜竜殺しがゴロゴロいるからね」


「お、おう」


 返事と同じように、ぎこちない感じで頷く。

 無理もない。

 現代日本じゃ実戦なんて経験しようがないからね。

 いくら学生時代に格闘技の経験があっても、ルールに守られた世界の話だしな。

 命をかけた実戦との隔たりは越えられない壁のように感じているようだ。


「心配しなくても訓練をちゃんとするって。

 俺はもちろん、実戦経験豊富な忍者たちが教えるからさ」


「忍者?」


 フォローのことより、たったひとつの単語に反応されてしまう。


『あ、そっちに困惑するんだ』


 あまりにも当たり前になりすぎていて俺自身は変に思わなくなっていた。

 現代日本人の感覚だと異世界に忍者は似合わないらしい。

 人それぞれだとは思うんだけど純田くんは違和感を感じるタイプだったようだ。


 しょうがないので手っ取り早く説明しておいた。

 イタズラ好きの亜神が現地の半妖精に日本の文化を仕込んだということを。

 納得してくれたけど、ラソル様のことはドン引きしていた。

 たぶん将来的な被害は減らせたんじゃないだろうか。


「とにかくフォローはちゃんとするから、ビビることないって」


「わかった」


 ここで仕事用の渋い声を使ってきた。

 読み切れない部分はあるが、余裕が出てきたということにしておこう。


「で、話を戻すよ」


 コクコクと頷きが返される。


「向こうの世界じゃ奥さんが納得すれば妻が多くても文句は言われない」


 奥さん同士の仲が悪いと家庭が崩壊するからな。


「ああ、それで半分か」


 純田くんが納得したと言わんばかりの表情になった。

 俺が先ほど言ったことを思い出したようだ。


「でも、日本の方はどうするんだい?」


「行き来できるのは純田くんだけだよ」


「なんだか現地妻みたいな感じになりそうなんだけど」


「それってどっちが本妻の扱いになるんだ?」


 あえて突っ込んで聞いてみた。


「え? あれ?」


 思った通り純田くんが混乱し始めた。


「結局、どっちも本妻なんだよ」


「そんな無茶な」


「無茶なもんか」


 即座に否定したが、本当は俺も無茶だと思う。

 ここは無理を押し通して道理を引っ込めさせるさ。


「同時に2人の純田くんがいるんだぜ」


 魂がひとつだからややこしくなるけどな。

 それが念頭にあるから割り切った考えができないのだろう。


「そもそも遺伝情報がまるで違うんだから」


「いっ!?」


 俺の言葉は衝撃的だったらしく、ただただ驚いていた。


「日本の純田くんは元の遺伝情報だけを引き継いでいる」


 ヒューマン+に進化はしたけどね。


「でも、今ここにいる純田くんの遺伝子はミックスされて別物になってるんだよ」


「あっ」


 双方に親と子以上の差があることに気付いたみたいだ。

 表情からは「理解はしたけど納得はなぁ……」といった雰囲気がバリバリだけど。

 さて、もう一踏ん張りだ。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ