419 身代わり人形
修正しました。
ベリル様 → エリーゼ様
各種映像作品に各種ゲームという予想だにしなかった報酬。
ホクホク顔になるのも無理はない。
「いやぁ、最高ですね!
ありがとうございます」
溢れんばかりの笑みで礼を述べる。
一歩間違うと「ニヤニヤしててキモい」とか言われかねないのだが。
止められない止まらない。
「そうかい?」
「いやぁ、これ以上の報酬はないっすね」
「気に入ってもらえたようで何より」
エリーゼ様も御満悦な様子。
かと思ったら、何かに気付いたかのような表情になる。
「そうそう、忘れてた」
なんだろう。
いつもなら凄く警戒するところなんだが今日はそういう嫌な予感的なものがない。
それで油断すると痛い目を見るのは世の常なんだけど。
「自動人形の素体を見せてもらえないかしら」
「はあ……」
素体というのが謎だ。
骨組みに最低限の肉をつけたようなものだからな。
ガリガリだぞ、アレ。
まあ、言われた通りに素体を出すんだけどね。
動作はしないのだが直立で立っている。
最低限、人の形をしている段階で立つのがデフォルトになるようにしてあるからね。
背筋を伸ばして立っている姿は骨格標本に近しいものがある。
おそらく骨格標本に皮を被せたと言えば大抵の人は納得するだろう。
あるいはギリギリまで削ったデッサン人形か。
もっとも日本の成人女性の平均より少し高い身長のデッサン人形があるとは思えないが。
とにかく病的にガリガリでヒョロッとしている。
背はあまり高くないこともあり頼りない印象を抱かれることが多いんじゃなかろうか。
『こんなもの何に使うんだろうな?』
ただ見せるだけで終わるはずがない。
「これが最大なのかしら?」
「いいえ、これは標準サイズです。
設定を変更すればある程度までは大きくできますけど」
現状で標準から大小それぞれに60センチのサイズ調整が可能だ。
「じゃあ、このくらいにしてみて」
手で示しながらリクエストされた。
けっこう高い位置に手がある。
肉付けしたら180弱くらいになりそうだ。
『あれ?
もしかして……』
疑問を抱きつつもサイズ変更にかかる。
パラメーターだけを変えるので錬成魔法を使ったりはしない。
素体の背中に手を当てて設定変更を念じながら魔力を流していった。
指定のサイズにパラメーターを変更すると素体側が情報を読み取って変形していく。
骨格がスルスルと伸びる。
その分だけ更にガリガリ状態になっていくので不気味さが増した。
「じゃあ、これで」
「ありがとう」
笑顔で礼を言われたよ。
なんか思ってた感じと違って自然な感じなんだよな。
俺の予想通りなら、もっと悪巧み系のニヤッとした笑みになると思っていたんだけど。
「いえ、でもこんなの何に使うんですか?」
分からないなら素直に聞くのが吉だ。
「え? ああ、説明してなかったわね」
テヘペロな感じで舌を出してますよ。
こういうのを見ると本当に神様なのかと思ってしまうよな。
「ところで、これ貰ってもいいかしら」
説明してくれるのかと思ったらしてくれない。
何か話を逸らされた気がするんだけど。
「こんなので良ければ、どうぞ」
それでも人形を渡して話を進めれば用途が分かるだろう。
「ありがと。
使用目的なんだけど、見た方が早いわよ」
エリーゼ様が言うなり「ボムッ」という音がして素体の足元から白い煙が湧き起こる。
素体が煙に覆われ、数秒と待たずに煙が消えた。
「「ええ─────っ!?」」
純田くんとフェルトがシンクロする形で驚いていた。
煙の中から現れたのは黒いジャージ姿の純田くんだった。
人形っぽさは全然ない。
「お、お、俺がいるぅ?」
『あ、マジだ』
芝居がかって見える驚きっぷりをしている純田くんだが、あれは芝居じゃない。
人形のリアルさに挙動不審なまま視線が泳いでいる。
そしてフェルト。
純田くんの元の姿を知るはずのない彼女も驚いていた。
「人形が人に……」
薄気味悪い人形が人間にしか見えない姿になったことに驚いていた。
が、純田くんの「俺がいる」発言にもうひとつ驚かされていた。
「えっ!?
……別人?
あれ、え、どういう?」
完全に混乱しているようだ。
『しょうがないさ』
面識のなかったフェルトにしてみれば別人も同然だからな。
よく見知っている人間なら面影を見つけられたんだろうけど。
エルダーヒューマンとしての純田くんをよく知る人間などいないのだが。
「せめて何を作るか予告はしておくべきだったのでは?」
俺の問いにエリーゼ様が苦笑いする。
「ちょっと予想外だったわ。
こんなに耐性がなかったとはねぇ」
うちの子たちなら、まあ少し驚くぐらいなんだろうけど。
魔道具とかに縁のないであろう純田くんやフェルトじゃ無理がある。
「俺も人のことは言えた義理じゃありませんが──」
激しく頷く気配が多数。
更に多くの苦笑している空気が伝わってくる。
そこはスルーだ。
「サプライズは相手を選んだ方がいいですよ」
「確かにねー」
エリーゼ様が俺の言葉に同意した。
一方で、お前が言うな的視線が背中に突き刺さるかのようだ。
『おそらくハマーだな』
だが、気にしない。
面と向かって文句を言われた訳じゃないからな。
「それにしてもコピー人形ですか」
小学生が宇宙人から貰ったアイテムで超人化するアニメを連想してしまった。
原作漫画があるようだけど、読んだことはない。
でも、アニメはよく知っている。
コピー人形はその中で登場するキーアイテムだ。
主人公や仲間が超人化している間に身代わりをするためのアンドロイド的な人形である。
ただし、こちらの鼻はボタンじゃないし赤くもない。
本家のように鼻を押した人間をコピーするのでもない。
そもそも最初から純田くん専用として変身済みだ。
それでも役割は全く同じだという確信があった。
「純田くんがルベルスサイドに来ている時のアリバイ用ですね」
「さすがだね、正解」
「ヒューマン+が仮死状態になったら活動を始める設定ですか」
現状だと立ったまま眠っているかのように動かないのは、そのためなのだろう。
「そそ、そうしないと好きな時に行き来できないでしょ」
ごもっとも。
付け加えるなら好きなだけ俺たちの世界にいられるかどうかにも影響する。
「いくつか問題点もありそうですが、そこはクリアしてますよね」
「例えば?」
「コピー人形を活動させる時の本体の扱いとか。
どうにか隠さないとダブルで存在することになりますよね」
少なくとも家族にはバレる可能性が出てくる訳だ。
「特例として一部の魔法を使えるようにしておいたよ」
「倉ですか」
本体と人形がそれぞれ倉に格納するようになれば他人の目に映るのは片方のみだ。
倉は作成や拡張には魔力が必要だが、維持コストには必要ないからな。
霊感の強い人間に気取られたりもしないか。
「そゆこと。
自動で出し入れされるからトモくんは何もしなくていいわね」
「魂の行き来がスイッチになっているんですね」
「察しがいいわね。
その通りよ」
「じゃあ、人形が活動するための魔力はどう調達するんですか?」
「本体とリンクさせて供給されるようにしたわ。
亜空間でつながるから誰にも気付かれないのが利点よ。
あと、本体が活動中も記憶に連続性を持たせるために常時シンクロ状態ね」
倉の中にある時もリアルタイムで記憶のやり取りがある訳か。
老化のプロセスも常時コピーしないといけないだろうし。
このあたりはアニメのコピー人形とは違うな。
「それから維持コストに寿命を使わせてもらってるわ」
『なるほどね』
進化して伸びた分の寿命をどうやって誤魔化すのかと思っていたら……
『そうきたか』
俺が納得できた一方で純田くんとフェルトはギョッとした表情になっていた。
これはフォローの必要がありそうだ。
「そうやってヒューマン+に進化した矛盾を解消しますか。
ヒューマン並みの老化スピードに調整したんですね」
上手いこと考えたものだと思う。
「そうよ。
でないと半世紀後も若々しいままだもんね」
俺たちのやり取りを聞いて両名も落ち着いたらしい。
心臓を掴まれたかのようだった表情が穏やかなものに戻っていた。
「あ、でも1年のうち半分くらいは戻ってきなさいよ」
そう言われて純田くんは「はあ」と気の抜けた返事をしていた。
「本体を寝たきりにするつもりかい」
「あ、そっか」
俺がフォローすると気付いたような反応をしたけど、本当の意味では分かってないな。
「そこなのよね。
時々は動かさないと弱っちゃうから早死にしかねないわよ」
それを聞いた純田くんは慌てて首を縦に振っていた。
「そこまで心配しなくても大丈夫だよ。
エルダーヒューマンとしての純田くんが一緒に死ぬ訳じゃないから」
「そうね、そこは安心して。
半年ほど戻れないくらいなら問題ないわ」
「えっ、そんなに放置したら餓死するんじゃ……」
困惑したように聞いてくる純田くん。
だが、そこは抜かりがない。
「そのための自動人形なの。
人形が代わりに栄養を摂取してくれるわ」
動作のための魔力と引き換えにしているようなものだ。
うまく考えられている。
「できれば、こまめに行き来した方がいいわ。
いくら便利なスキルがあってもね。
半年分の記憶を整理するのって大変よぉ」
少し意地の悪い笑みを浮かべながらエリーゼ様はそう言った。
確かに半年も記憶を溜め込めば【並列思考】と【高速思考】をフル活用しても……
当人はよく分かっていないようだが。
そのうち実感するかもね。
なんにせよ元の世界でも活動できるのだ。
後悔だけはしないでほしいと思う。
仕事でもプライベートでもね。
読んでくれてありがとう。




