415 エリーゼ様の種明かし
よくよく考えたらミズキやマイカは純田くんほどスキルを持ってない。
エリーゼ様って軽いように見えてスパルタ系な気がする。
決して丸投げという名の放任主義だからという訳ではない。
『てことは大盤振る舞いってことでいいのか』
熟練度もMAXだし。
どうやら詫び兼、礼という認識のプレゼントっぽい。
渡された方の純田くんはどうしてるかね。
「……………」
真面目な顔して固まっているね。
「唐突すぎて面食らってるのかい」
「ん? ああ……
なんだっけ?」」
俺の質問で我に返って聞き返してくる純田くん。
【並列思考】も駆使して考え事をしていたのかな。
それとも使い慣れていないから未使用だったか。
「その様子だとスキルに面食らってたのかなと思ってね」
「あー、戸惑ってはいるかな。
スキルより今後のことについての説明がねー」
「今後?」
記憶転送で事情の説明とかだけじゃなくて、そっちの説明もしたのか。
「なんか二重生活になるって」
「はあ?」
訳が分からん。
「それで名前も考えないといけないみたいだ」
「名前ってどういうことよ?」
「そっちの世界で使う名前だって」
俺の時はそのままだったぞ。
漢字は使えなかったし姓名の順序が逆になったけど。
ミズキやマイカも同様だ。
まあ、この両名は再会時にはすでに俺の苗字になっていたがね。
なんにしても純田くんが名前を考える必要性を感じない。
訳が分からなかったのでエリーゼ様の方を見た。
我、説明を求むだ。
「あっるぇ~?」
ウィンクしながら首を傾げられてもね。
「態とらしいんですが」
「アッハッハ、冗談冗談」
地味にイラッときたので無言でジーッと見つめてみる。
「ん、もう、やりにくいなぁ」
愚痴ってくるけど、そういう風にしているのはエリーゼ様自身ですから。
「大したことじゃないんだよ。
単にトモくんは元の体も残ってるってだけだから」
「はあ──────────っ!?」
何処が大したことないんだよ。
予想の斜め上どころか突き抜けちゃってるんですが?
「元の体を残したままエルダーヒューマンの体を用意したのよ」
「……………」
言葉がない。
無茶苦茶なことを言ってるぞ、おい。
「残したって……」
「言葉通りの意味よ。
残した体から献血みたいなことをしたのよ。
でもって、それを使ってエルダーヒューマンとして生まれ変わらせた」
「無茶苦茶じゃないすか!
どうやったって言うんです!?」
「説明が面倒くさいなぁ」
「ちょっ」
抗議しようとしたら幻影魔法を使って説明された。
字幕付きのスライドといった感じである。
注目させたい部分を指差していくだけの簡単なお仕事です状態だった。
その分エリーゼ様は喋らなかったけどね……
『本当に面倒くさいんだな』
それはともかく、スライドによる説明はこうだ。
まず、集中治療室で治療を受けている純田くんを魔法で眠らせる。
包帯でグルグル巻きになっていることを利用して、やはり魔法で治療。
医療関係者の目を欺くため、同時に色々と細工したようだ。
だが、ここでは関係なくなるので説明は省かれた。
純田くんは完治したが放置はできない。
隠れ里の負荷でいずれは耐えきれなくなるからだ。
そこで魔法で保護しながら少しずつ新しい器の素を用意する。
細胞を採血するように少しずつ集めるという形で。
集めては魔法で再生させるという荒技がここで使われている。
集めた細胞が体の半分以上になったところで生まれ変わりの処理を実行。
こうしてヒューマンの体を残したまま上位種の体もできた訳だ。
『無茶するよなぁ』
事実上のクローンってことだろ。
ヒューマンとエルダーヒューマンで違いは出るけどさ。
『それに重大な見落としがある』
誰だって分かることだ。
体がふたつでも魂はひとつなんてことは。
そう思ったが、そこは問題ないらしい。
誰でも分かるようなことは当人だって分かっているということだ。
『分かってるなら、ちゃんとフォローするよな』
丸投げはしても手抜きはしませんって訳だ。
じゃあ、どうするのか。
俺も少し考えてみた。
真っ先に思ったのは魂の分割。
魂の半分を喰われた俺だからこその発想かもしれない。
減った分は補えば良いのだ。
けど、これは二重存在になり不具合が生じやすいのだそうだ。
ぶっちゃけると短期間で双方とも発狂し廃人になるってさ。
理由までは面倒なので聞かなかった。
そうなると分かっただけで充分だ。
じゃあ双子はどうなんだという話になるが、双子でも魂は別物なんだと。
同じ理由でコピーもアウトだって。
それじゃあお手上げじゃないかと思ったら魂は増やさないんだと。
ひとつの魂でふたつの体を運用するってさ。
どうするか。
双方の体で魂を自在に行き来できるようにしてあるらしい。
距離どころか世界も関係ないらしい。
セールマールとルベルスにそれぞれの体があっても入れ替わりはすぐできるって。
ヒューマンの方は生まれ変わった魂の器としては弱すぎるので大変だったらしいけど。
『そりゃそうだよな』
上位種準拠の魂に生まれ変わってるんだから。
結局、ヒューマンのままでは無理があるってことでヒューマン+へと強制進化だって。
外見的な特徴は維持したままだそうだけど。
その分を魂を受ける強化に回した特殊仕様って、どうよ?
『無茶にも程があるっての』
しかも、話はそれで終わりじゃない。
魂が自在に行き来できるのは良いとしよう。
問題は魂が抜けた方の体をどう維持するかだ。
魂がない体ってことはつまり死体と同じ。
ほったらかしにされれば腐敗する。
もちろん、これにも対処がなされている。
体の保存専用の疑似魂が入れ替わりで入るんだと。
これが入ると睡眠に見える形で仮死状態になるらしい。
医療関係者や医療機材でも見抜けないって。
御都合主義もここに極まれり、だ。
「……………」
もはや言葉がない。
現状はヒューマン+の方が疑似魂で維持された状態らしい。
これは理解できる。
フェルトたちの隠れ里を安定して維持するためだからな。
『それにしたって、だ』
溜め息すら出やしない。
「いくら何でもやりすぎでしょう」
「いやあ、詫びで礼でサービスだよ」
凄くにこやかに言われてしまった。
やけに力の入った仕事っぷりである。
「ちなみに諸々の許可は統轄神様から得ているよ」
根回しも完了しているか。
そこまで熱心に仕事をするなら普段から丸投げなしでお願いしますと言いたい。
まあ、言っても聞こえないふりをされるだけだろうけど。
にしても詫びで礼でサービスと来ましたよ。
詫びというのは、まあ分かる。
エリーゼ様本人のというよりはベリルママの代理としての詫びだ。
フェルトたちが迷惑をかけた訳だからな。
従姉として上司として「申し訳ありませんでした」ということなんだと思う。
礼についても似たようなもの。
謝る台詞が「ありがとう」という礼の言葉に置き換わりはするだろうけど。
ここまでは分かるのだ。
だが、サービスというのが解せない。
要するにおまけってことだろ。
『詫びと礼で充分じゃないか?』
もしかして言葉の綾なのか。
それにしては礼までで収まらない気がするのだが。
ミズキやマイカと比較しても差がありすぎる気がするんだよね。
気がするだけで、このときは分からなかったんだけど。
後日、判明した事実は単純なものだった。
2人がスキルを貰うのを断っていたと言うのだ。
自力でスキルを得たかったんだとさ。
真面目というかストイックというか、勿体ないことをする。
嫌いな相手からのプレゼントを断るのとは違うだろうに。
それでも2人らしいとは思った。
ちなみにこの部分がエリーゼ様の言うサービスに相当したようである。
純田くんが2人みたいなことを言い出さないよう誤魔化したみたい。
気を遣ったってことだ。
貰えるものを無しにした者と受け取った者の差がサービスというのも微妙な気がするけれど。
その上で詫びと礼が加わってくるのだ。
そりゃあ差だって大きくなるよな。
このときには、そこまで分かった訳じゃないんだけどな。
考えるのが面倒くさくなってきたので他のことを聞くことにしただけだ。
「話は変わりますが……
二重生活ってことは別々の世界にという解釈でいいんですか?」
「そそ、こっちでエルダーヒューマンは影響が大きすぎるのよ」
「たとえば?」
「簡単に魔法が使えるのよね」
エルダーヒューマンだと封印された世界でも魔法が使えるのか。
それの何処がいけないのだろうか。
「理由の説明はしないけど、すごくマズいの」
何だかよく分からない。
が、俺たちも教えてもらえないほどの何かがあることだけは確かなようだ。
大人の事情って奴だな。
「ヒューマン+なら問題ないと?」
「それくらいなら抑え込める結界にしてあるわ。
完全って訳じゃないけど、対処は可能よ」
「はあ」
何となくだが、これ以上は聞いても答えてもらえない気がする。
『気にするだけ無駄か』
俺たちにはどのみち関わりのないことだろうし。
それなら、もっと大事なことを聞いた方がいいよな。
純田くんの職業がどうなってるのかとかさ。
読んでくれてありがとう。




