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405 本体なんだけど

遅くなってすみません。

 フェルトが念話で隠れ里の仲間と話し始めた。

 具体的なことは分からないが俺の発言の信憑性についてだろう。


『時間かかるだろうな』


 それなりに議論になると思われるからだ。


『わずかな時間で終わることもないとは言えないけど』


 その場合は向こうの返答も想像がつく。


「誰がそんな与太話を信じるか、ボケ」


 口調はともかく内容は概ねそんなところだろう。

 こうなると厄介だ。


『その状態から説得とかやりたくなさ過ぎだぞ』


 何処から手をつけて良いのやらとなるのは明白だからな。

 憂鬱でしかない。


 が、そういう発想に至るなら健全だとも思う。

 何の証拠もなく一方的な意見を聞いただけで信じますとか言うのは最悪だ。

 詐欺師の格好の餌食だろ。


 そういう意味では聞く耳を持たないというのも立派な自衛手段だと思う。

 できれば何がどう変なのか充分に議論してから返事してほしいところだがね。


『なんにせよ大した根拠もなく信じるとか言う奴よりはマシだ』


 ものの数分ほどの話し合いで「信じます」とか言ってくるようなら俺は助けたくない。

 依頼された仕事だから惑星レーヌへ連れ帰るまではするけどさ。

 後は適当な場所を見つけて移住してくれで終わらせる。

 世界最大の大森林は未だに立ち入り禁止だし。


 そうなった時は生きにくいだろうな。

 西方でフェアリーを受け入れられる所ってそうはないはずだ。

 ヒューマン種からするとエルフよりレアな種族だから目をつけられやすい。

 単なるエルフと思われていたノエルでさえ段ボール野郎に付け狙われていたし。

 エルフのように耳が尖っているというだけで、すごく目立つ。


 その上、魔力制御する時に現れる幻影の羽根を見られるようなことがあったら……

 エルフ以上の犯罪者ホイホイになるのは間違いないはずだ。

 撃退できるほどのレベルに達しているならどうとでもなるんだろうけど。

 千人規模でそれは考えにくい。


 そこそこのレベルに到達しているフェルトが例外だと思った方がいいだろう。

 そうなると東方でも住むのは無理だ。

 平均レベルは2桁の半分を切っているはずだ。

 とてもじゃないが大半は半年と生き残れないだろう。

 それだけ弱肉強食がスタンダードだからな。


『さて、どんな返答をしてくるやら』


 議論が続くようなら、何らかの証拠を見せろと言ってくるんじゃないかな。

 そうであってほしいと思う。

 信じてもらえるかどうかは分からんけど準備ができるからな。

 聞く耳を持たずに引きこもられるよりはマシだろう。


 そっちになったときの対応は丸投げにしよう。

 幸いにして、夢の中にいる俺なら隠れ里に潜んでいる者たちを引っ張り出せそうだし。

 これが夢の外からだと、どうにもできなくなるというんだから不思議なものである。

 なんにせよ全員を叩き出して倉に押し込んでエリーゼ様に連絡って寸法かな。

 そうならないことを願う。


『それにしても暇だな』


 手持ちぶさたになるかと思ったら……


「いやあ、まさか神様だったとはね」


 そんなことを言いながら純田くんが話し掛けてきた。

 どうやらフェルトとの話の間は口を挟まず待ってくれていたようだ。

 ちゃんと空気を読む男である。


「本当にいるとはなぁ」


 茶化すでもなくしみじみと言っている。

 真面目モードのスイッチが入っているな。


「気持ちは分からんでもない」


 思わず苦笑が漏れた。


「それでも姿形は変わったじゃないか」


 激変と言うべきだろうな。


「あー、これかい?」


 両手を広げて自分の姿を見る純田くん。


「夢の中だから美化してるんだと思ってた」


 どうやら魂の方だけ見た目が変わったと思っているらしい。


「おいおい、肉体の方も変わっているだろう」


「それが確認できれば良かったんだけど」


 返事をしながら困り顔で首を傾げている純田くん。

 どういうことだろう?


「美人のお姉さんに集中治療室の自分を見せてもらったんだ」


 エリーゼ様のことだな。


「幽体離脱状態だね」


「ああ、それそれ。

 驚いたよなー」


 興奮気味に目をむいて語っている。

 次の言葉はツッコミどころだな、こりゃ。


「美人でスタイルいいのに何故か賢者タイムになるんだ」


「自分のことじゃねえのかよ」


 予想通りの展開だ。

 ここでコンボをかましてくるのが純田くんである。


「砕けた喋り方してるのに、ひれ伏したくなるし。

 俺、Mじゃないのに「もっと詰ってください」ってお願いしそうになった」


「詰られる理由が見当たらないんだけど?」


「それだけお姉さんが女王様だったってことだ。

 俺が萎える以前に反応すらしなかったのも、そのせいだ」


「プ────────ッ!」


 やたらと女王様という単語を強調してくるせいか、マイカが思いっ切り吹き出した。


「アハハハハ、面白いけどエリーゼママは女王様じゃないよ」


 笑いながら純田くんの言葉を否定したマイカ。

 下ネタにも肝要な女である。


「うんうん」


 それを肯定するミズキ。

 マイカほど肝要ではないのでスルー気味の反応だ。


「ママだって!?」


 純田くんも耳ざといね。

 芝居がかった驚きで反応してくる。


「君にとってもママだよ」


 マイカの指摘に純田くんが固まった。

 咄嗟の切り返しができなかったか。

 これは素で驚いてるな。


「この世界の神様は私らのママなの。

 どうしてそうなったかは話が長くなるから省略するけど、これは事実よ」


「ちょっとぉ話にぃついてけないよぅ。

 待ってぇ、置いてかないでぇ」


 この低音でドスの利いた独特の巻き舌は綿本さんだな。

 ちょっとエッチな忍者アニメの音読丸っぽい。

 ふざけていると言うよりは言葉通り話について行けないようだ。

 照れ隠しのようだが、誤魔化す必要あるか?

 まあ、いいや。


「自分でステータスを確認できればいいんだがね。

 おそらく称号持ちになってるはずだよ」


「おいおい、まるでロープレだな」


「それは否定しない。

 俺なんて事故のせいで売るほど称号がついてるからな」


 レベルが4桁なのは黙っておこう。

 少なくとも今それを言うと、どんな騒ぎになるか想像がつかない。


「売り物じゃないだろう、それは」


「そのくらい多いってことだよ。

 両手両足の指で勘定しても往復して数え切れないからな。

 普通は多くても3個くらいまでだ」


「おおう、そいつは規格外だぁ」


 今度はナレーションの時の綿本さんか。

 微妙に変えてくるとか芸が細かいな。

 それはいいけど、話が進まん。


「とりあえず最後まで話を聞いてくれ」


「分かった、聞こうじゃないか」


 キリリと真面目な顔して言い切る純田くん。

 コロコロと切り替わるから調子が狂うなぁ。

 真面目なのかふざけてるのか、判断に困るところだ。


 が、根は真面目な男なので言葉通り聞いてくれるだろう。

 といっても大層な話ではない。

 体も魂も半分は神様に提供されて生まれ変わったことを説明するだけだ。

 俺はベリルママによって。

 ミズキとマイカはエリーゼ様によって。

 でもってベリルママとエリーゼ様が従姉妹どうしであること。


「──そんな訳でこの2人は俺の妻だが、はとこでもある」


「すごいな……

 押しかけ女房ここに極まれりだ」


「そっちに反応すんのかよ」


 食いつくところが違うんじゃなかろうか。


「重要なことだと思うが?」


「それは否定しないが、今の話からは脱線するだろ」


「そうだっけ?」


 とぼけた顔して言ってくれるよ、まったく。


「純田くんも2人の姉弟ってことになるんだが?」


「しょうなのぉ?」


 今度は荻久保清太郎さんかい。


「いや、正直なところ生まれ変わったという実感がないんだよ」


 なんか変だな。

 もしかして瞳の色か。


「瞳の色が神様と違うのは仕様みたいなものだ。

 神様になると色が変わるそうだから。

 俺らはギリギリ人間の範疇なんで神様と違うってわけ」


「あ、そうなんだ。

 気付かなかったよ。

 本体は眠ったままだし」


「……………」


 そうだよな。

 目を開けたまま眠れる器用な人間はいないだろうし。

 とすると、どういうことだろう?


「包帯でグルグル巻きだしさ」


 あれ? グルグル巻き?

 病院に担ぎ込まれたんだから、そうなっても不思議じゃないけど。

 そこまでとは思ってなかった。


「スゲえんだぜ」


 そう言っている純田くんはキラキラと目を輝かせてとても嬉しそうだ。

 何処にツボがあるか謎な男である。


「露出してる個所がほとんどなかったからな」


 そいつは羨ましい話だ。

 俺なんて半分ゾンビになったグロい姿を見せられたんだぜ。

 できればモザイクとかかけてほしかったよ。


「……………」


 なんにせよ、まさかのオチである。

 それは確かに実感しようがない。

 見たくても見られないんだから。


 不幸中の幸いと言えるか。

 意識不明で寝たきりの人間が面影を残しているとはいえ別人になるんだから。

 病院は大騒ぎになったはずだ。

 エリーゼ様はそこまで見越した上で処理をしたんだな。


『まったく……』


 普段は丸投げばかりで不真面目なのにな。

 格好良すぎだよ。

 どこかの亜神とは似てるようで違う。

 爪の垢を煎じて飲ませたいところだね。


読んでくれてありがとう。

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