403 居場所を失う男と正気に戻った女
遅くなりました。
度々すみません。
それは俺が大事なことを失念していたことにショックを受けた直後のことだった。
内心で頭を抱えたくなったのだが……
それを遮るようなタイミングで声が掛けられた。
「あのー……」
何処かで聞いたような口調だ。
それまでずっと呆然としていたエルダーフェアリーのフェルトである。
『なんで今頃になって……』
というのが俺の正直な気持ちだ。
戸惑いよりは苛立ちの方が濃いかもな。
そのまま「用件は後にしてくれ!」と怒鳴りそうになったが短気は損気。
悪いのはタイミングでしかない。
彼女自身はなにも悪い訳ではないのだ。
それにエリーゼ様に保護を依頼されている相手だしな。
個人的には純田くんの生まれ変わりという事実の方が重要なんだけど。
友達がピンチの時に力になりたいと思うのは普通のことだよな。
でもって、いまの純田くんがその状況だ。
彼の生まれ変わり疑惑。
本人は自覚しているかハッキリしないがね。
『勘弁してくれよ』
愚痴のひとつも零しそうになる。
これのせいで居場所を失うかもしれない。
姿が俺の時のように激変しているせいでな。
まず目立つのはプラチナブロンドの髪だろう。
黒髪を染めても、こうはならない。
カツラのような不自然さもない。
そして顔の輪郭は明らかにシャープになった。
目鼻立ちもリファインされている。
これだけなら赤い人の大尉バージョンに合わせて夢の中限定で修正可能なのかもな。
写真を加工するようなものだ。
かなり手を加えたという印象を強く抱いてしまうけれど。
整形と言った方がしっくりくる。
以前の面影を残した別人としか言い様がないからな。
そして決定的とも言える事実がひとつ。
瞳の色だ。
濃紺に銀が混じった俺にとってはお馴染みとなった色。
俺と同じである。
いや、この場合はミズキやマイカとお揃いだと言うべきだろうか。
それが何を意味するかは火を見るより明らか。
管理神であるエリーゼ様から提供されたものに他ならない。
現に若々しくなっている。
日本人だった頃の俺と同い年だったんだけどな。
現在17才の俺と差がないように見えるのは、そういうことなのだろう。
『間違いなく生まれ変わっているよな』
ほぼ確定である。
『クソムカつく!』
ペアルックならそんな風に思いはしないが、これはダメだ。
以前の面影を残した別人を周囲が受け入れると思うか?
「整形しました」
そんな風に誤魔化そうにも髪の色で変だと思われるはず。
瞳の色でその言い訳はほぼ通用しないだろうし。
その上、若返っているとなったらトドメである。
幻影魔法で誤魔化す訳にもいかないしな。
こっちの世界は理由は不明だが魔法を使えないように封印されているそうだし。
夢の中までは封印の効力も強くは及ばないようだが。
確かに何か引っ掛かる感触はある。
恐らくレベル2桁前半なら強い抵抗を感じるだろうな。
そういう意味では純田くんはよく金ピカの機体を創造できたものだ。
赤い機体たちもね。
『もしかしてレベルが高いのか?』
考えにくいことだ。
こっちの世界じゃね。
それを確かめるためにも【天眼・鑑定】スキルを使うべきだな。
その上でフェルトにも同時に対応しなきゃいけない。
ここは【多重思考】を使って複数の自分で対処するしかあるまい。
その前に、まずは内心で深呼吸するイメージを持った。
こうでもしないと落ち着けそうにない。
今のままだと口を開いた瞬間に殺気をばらまいてしまいそうなのだ。
友達が居場所を失うかどうかの瀬戸際だと思うと、どうしてもね。
それに関しては、すでに手遅れかもしれないが。
いずれにせよ殺気立つ訳にはいかない。
その程度ならフェルトなら耐えられるかもしれないけれど。
純田くんには無理なはず。
鑑定してレベルを表示させてみれば分かることだ。
では、同時進行で対応するとしよう。
『純田くんのことは任せた』
『おう、任された。
そっちはフェルトだな』
『任務了解』
『では、また後でな』
『ああ』
さっそく俺は純田くん相手に【天眼・鑑定】スキルを使用した。
[純田朋克/人間種・エルダーヒューマン/-/男/17才/レベル18]
『やっぱり……』
レベルが低すぎる。
魔法を使えるのが不思議なくらいだ。
いや、それはいい。
そのほかの項目が俺にとっては最悪の事態だった。
名前と性別だけは特に問題とはならない。
他はアウトだがな。
種族からして決定的だ。
こちらの世界セールマールには存在しないはずのエルダーヒューマン。
そして職業が空欄である。
元は声優もしくは俳優だったはずだ。
間違っても格闘家ではない。
高校生の頃は何かやっていたそうだけど。
夢の中だから職業がリセットされるのだといいなぁ。
そんな虫のいい話は何処にも転がっていないだろうけど。
年齢が種族の次に決定的である。
『完全に若返っちゃってますよ』
現在の俺と同じ17才。
偶然なのか狙ってなのかと問われれば後者だろうな。
どう考えたってエリーゼ様の仕業だ。
だが、俺はこれを責められない。
こうなった理由に思い当たる節があるからだ。
フェルトたちの存在である。
いくら隠れ里でも数千人を己の内側に抱え込むのだ。
何らかの負荷がかかるはず。
普通は耐えられないだろう。
【諸法の理】で確認してみたけど、正解だった。
己の記憶の中にある相手ならヒューマンでも多少は許容できるそうだけど。
結界や封印などで対処しない限り、他人は受け入れられないそうだ。
即座にアウト判定される訳ではなようだが。
徐々に衰弱していくというのは不幸中の幸いだったのかもしれない。
でなきゃ純田くんは死んでいた。
彼の夢の中から脱出できないフェルトたち諸共な。
途中で気付いたエリーゼ様が対処したのが生まれ変わりだった訳か。
考えていることが当たっても嬉しくない事実だ。
死ななかったのは喜ぶべきことだけど。
でも、裏技で生き残りましただからなぁ。
フェルトたちの脱出先が純田くんの夢の中だったのは果たして幸か不幸か。
俺には判断が下せない。
だが、そのせいで確実に居場所を失ったはずだ。
今の姿のままで仕事が続けられるだろうか。
別人としてなら可能だろう。
だが、人間関係はリセットされてしまう。
それでは意味がない。
もっと深刻なのはプライベートだ。
友達が受け入れてくれるか。
身内が信じてくれるか。
「イケメン外国人になりました」
そんな説明を受けて誰が信じるというのか。
「今日から若返ってます」
これで完全にトドメだ。
泣きたくなった。
そして八つ当たりもしたくなった。
でも、できない。
誰が悪い訳ではないのだ。
運悪く純田くんが事故に遭った。
運悪くフェルトたちが彼の夢の世界へ逃げてきてしまった。
純田くんを助けるためには、こうするしかなかった。
隠れ里が夢の中に形成された時点でヒューマンには耐えられないからな。
それはフェルトたちも助からないことを意味する。
どう転んでも後味の悪い思いをすることになる訳だ。
死ぬか居場所を失うか。
究極の選択だ。
『これはもう俺の手には負えない』
エリーゼ様がどうするのかだな。
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一方、もう1人の俺は同時進行でフェルトの相手をしていた。
「ようやく正気に戻ったか」
「すみません。
あまりに予想外だったので皆と相談していました」
「皆と?」
驚いてフリーズしていた訳じゃないのか。
「あ、はい。
実は他にも仲間がいるのです」
「知ってる。
隠れ里に数千人規模でいるんだろ。
なるほど、念話を使っていたのか」
道理で固まったままになる訳だ。
俺の場合は【多重思考】の効果に【高速思考】が含まれるから目立たないけど。
普通はああなっちゃうんだな。
「っ!?」
あ、また固まった。
「どうしてそれを……」
さすがに今度はすぐに復帰してきたけど。
物凄く不審がられてはいるな。
「君らが逃げ込んだのは他人の夢の中ってのは理解しているよな」
戸惑いながらもフェルトが頷く。
「じゃあ、夢の主である彼が異世界人だというのは?」
「薄々は……」
そう言いながら戸惑ったままのフェルトがおずおずと頷いた。
「このままだと夢の中に閉じ込められたままだというのは?」
「はい、それは確かめました」
ということは隠れ里を消去しないとダメだということには気付いていないようだな。
仮にそうしたとしても、こっちの世界に放り出されるだけだが。
そして魔法が使えないから色々と詰みである。
「なら話は早い。
俺は君らを迎えに来たんだ」
「ど、どういうことですか!?
どうして私達のことを知っていたのです!?」
「こっちの世界の神様に頼まれたんだよ」
信じてもらえるとも思えないがストレートに言ってみた。
さて、どうなるやら。
読んでくれてありがとう。




