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402 疑問と気付かされた事実

すみません。

またしても遅くなりました。


 フェアリーのフェルトがフリーズしてしまった。

 変なことを言った覚えはないんだが?

 フェルトが助けてくれって懇願してきたところを先読みした返事をしただけだ。


 そんなに意外だったかな。

 お願いは連れて帰ってほしいことなのは分かっているからな。

 隠れ里で引きこもり続けるのも限度があるだろうよ。


 このフェルトは上空の一点にゲートを開いて1人で出てきたけど。

 この娘さんが代表者ってことでいいんだよな。

 向こうの状況が掴めないのに動かなくなられても困るんだが。

 年齢的に俺とそう変わらないように見えるから経験が足りないのか。

 未熟だから少し驚いただけでフリーズ?

 ちょっと考えにくいな。


 そもそも見た目通りの年齢だろうか。

 意外に幼いとかあるかもしれない。

 鑑定するしかないか。

 年齢は拡張現実では表示されないように設定してるしな。

 この際だからフェルトを鑑定しておこう。


[フェルト・フォルト/人間種・エルダーフェアリー/──]


「……………」


 上位種じゃねえかよ。

 若くても代表になる訳だ。

 他に上位種がいないんだろう。


 代表として問題があるとは思うのだが。

 何かに驚いて固まったままになるような人だし。

 これで頼られて出てきたのだとすると、色々と不安がわき上がってくる。

 隠れ里に残っている面子が大人を中心に激減したとか。

 残っている面々がフェルト以上のポンコツな連中ばかりとか。


 あるいは代表を押し付けられたということも考えられそうだけど。

 その場合は人選した人間との関係に問題がありそうだ。

 正直、一番あってほしくない。

 エリーゼ様の依頼を受けている身ではあるが、無視して帰りたくなるかもな。


「……………」


 現実逃避は事実を確認してからでも遅くはあるまい。

 それはそれとして鑑定結果の続きを見ておこう。


[──/狩人/──]


 職業欄だけで見れば大森林の住人らしいと言えるのだが。

 その割に手ぶらだし防具もない。

 出で立ちは上下ともくすんだ緑色の半袖と短パンの上下だからなぁ。

 足元はロングブーツだからいいとしても腕は守らないのかと問いたい。


 深い森の中だと擦り傷や切り傷は当たり前にあるだろうし。

 吸血性の虫なんかから身を守るのは長袖が基本なんだが。

 もしかすると魔法的な防御手段を持っているのかもな。

 でなきゃ無防備すぎる。


[──/女/19才/──]


 性別と年齢についてはツッコミどころがない。

 実に女性らしい顔立ちとプロポーションをしているからな。

 2才差だから同い年くらいという見立ては誤差の範囲内だろう。


[──/レベル81]


 レベルを見て代表になった理由に納得がいった。

 避難してきた中で最強だと推測できるからね。

 上位種だから成長しやすいし。

 フェルト以外の上位種がいる可能性も低い。

 備考欄にノエルの時と同じ記述を見つけたからね。


[先祖返り]


 それを考えると、エルダーフェアリーもレアなはず。

 考えるまでもなく[先祖返り]の説明文中にその旨が書かれていたし。

 レベル81に到達できたのも上位種だったからだろう。

 うちだとビリだけどな。


 つい先日のパワーレベリング前までだったら話は別だったけど。

 なんにせよ、うちの身内以外でレベル80以上の人間にお目にかかったことがない。

 大したものだと思う。


 もしかすると効率よくレベルアップする方法とか身につけているかもね。

 油断は禁物ってことだな。


「……………」


 ちょっと脱線して考えてみたけど数秒も経過していない。

 なのにフェルトは固まったままだ。

 失神してるのかと思ったが、それは鑑定すればすぐに分かることだ。

 そんな事実はない。


 単に呆気にとられて動けないだけだ。

 今から気を失うなんてことはないはず。

 目の前に手をかざして振るだけで我に返るんじゃないかな。

 声掛けだとよほど大きな声を出すか、耳元で囁くぐらいはしないとダメかもね。


 さて、どうしてくれようかというタイミングで純田くんが身じろいだ。


「ところで」


 そう言いながらフェルトの方を向いていた首をこちらに回した。


「ん?」


「この人、何処から来たんだ?」


 今頃それかよ。

 まあ、事情を知らんしな。

 そういや俺がここに来た理由も話してなかった。

 異世界人になった経緯は軽く話したけれど。


 俺の方は純田くんの事情も詳しくは聞いていない。

 純田くんは「妙なものに取り憑かれたせいで事故に遭った」と言っていたけど。

 どうも、きな臭い気がしてならない。

 とりあえずは純田くんの疑問に答えるところからだな。


「彼女らは俺の世界でトラブルに巻き込まれてな」


「ほう、異世界へ転移したと」


 さすがはプロの声優。

 こういう設定の話は山ほど見てきているか。


「正解だな。

 ただ、純田くんの夢に座標がセットされたのは偶然のようだ」


「おうふ、美少女と知り合う切っ掛けになるかと思ったんだが」


 そんなことを言いながら己の顔の前に手を持ってきてわしゃわしゃと指を動かす。

 どう考えてもフェルトの胸を揉みたがっているようにしか見えない。

 そりゃあ揉みごたえのある胸はしてらっしゃるがね。


 だが、それをするとセクハラである。

 際どい下ネタをするということはツッコミ待ちだ。


「やめんか、この変態」


 向こうの思惑通りなんだろうけど言わずにいられない。


「いいねいいね。

 この感覚、久々だよ」


 相変わらず本気なのかふざけているのかが分かりづらい。

 欲望や願望的には嘘ではないのだろうが。

 あえてそういったものを発露させることで周囲を煙に巻くのは純田くんの十八番だ。


「このフェルトは俺らの世界の厄介事に巻き込まれてな。

 遠くへ逃げるために隠れ里を形成してそこに逃げ込むような魔法を使ったようだ」


 かなり強力な魔法であることは間違いない。

 失敗して異世界に飛ばされるくらいだからな。

 そもそも規模が違う。

 人数だって桁が違うし。

 こちらは儀式魔法のように複数の面子でやった可能性があるけど。

 そのあたりはフェルトに聞いてみないと分からない。


「魔法!」


 いちいち脱線するよな。

 けど、まあ今回ばかりは仕方ないか。


「飛賀くん、魔法が使えるのかい?」


 こんな具合に食い気味で聞いてくるからね。


「俺の住んでいる世界ならな。

 後は純田くんの夢の世界に限り使えるようだ。

 こっちの世界は魔法が使えないよう封印されているそうだから」


 ここも別の異世界のようだからな。

 異世界内異世界というか……


「封印かぁ。

 でも、ここでは使えるんだよね」


「ああ」


「……使えないのだが」


 使おうとしたのかよ。

 まあ、魔力に変化はなかったから当然ではあるのだが。

 その割には戦っていた時なんかは結構な魔力の高まりを感じた。

 それでも緑の侵入者たちを倒すには至らなかったが。


 奴らの正体も気になるな。

 最初は神の欠片がらみかと思ったが気配が違ったし。

 後で聞いておこう。


 なんにせよ純田くんの魔法の使い方は安定していない。

 素質はある。

 だが、まだまだ不安定だ。

 使い方も制御も理解できていないんじゃ無理もないけどな。


 それよりも気になることがひとつ。

 どんな魔法を使おうとしたんだろうな。

 碌でもない気がするのでそこはスルーしておこう。


「純田くんは魔法の使い方を習ってないからな」


 こう言っておけば無茶はしないだろう。

 下手に魔法の使い方を説明してコツでも掴まれたら大変だ。

 どう大変かは想像もつかないけど。

 純田くんの言動は突拍子もないからな。

 俺にも読み切れないところがある。


「そいつは盲点だ」


 大人しく引き下がってくれるようで何より。

 ホッと一息つきたいところだが【ポーカーフェイス】を使って流しておく。

 何に反応して「やっぱり魔法の使い方を教えて」と言い出すか分からんからな。

 本題に戻ろう。


「とにかく、フェルトの魔法は失敗した訳だ。

 完全に失敗って訳じゃなくて暴走したと言うべきかな。

 結果として事故に遭った君の意識下に隠れ里が形成されてしまったようだ」


「よくあることだ」


 そう言いながら頷く純田くん。

 だが、仕事用のイケメンボイスで言う必要があるのか?


「ないない。

 そんなことが現実にホイホイある訳がない」


 アニメじゃあるまいし。


「うむ、無念だ。

 せっかく異世界に行けると思ったのに」


 どこをどうしたら、そういう思考になるんだろうね。

 まあ、冗談の類いだろう。


「行くなら相応の覚悟が必要だよ。

 旅行感覚で遊びに行くことはできないはずだ。

 俺のように皆の記憶からいなかったことにされるからね」


 純田くんが驚いている。

 自由に行き来できると思っていたんだろうなぁ。


「異世界間の移動には膨大な魔力が必要だ。

 普通の人間が気軽にできるもんじゃないんだよ」


「あ、いや、そうじゃなくて……」


 歯切れが悪い。

 そんなに言いにくいことだろうか。


「飛賀くんはいなかったことにされたのかい?」


 ああ、そっちか。

 俺のことを心配してくれるとは嬉しいものだ。


「そうしないと死んでいたからね」


「物騒だなぁ。

 それはそれとして不思議なことがひとつあるんだが」


「なんだい?」


「どうして飛賀くんのことを思い出したのかなってね」


「あ……」


 すっかり忘れていた。

 純田くんも俺と同じ生まれ変わり状態であることを。

 どうすんだよ、これぇ─────っ!?


読んでくれてありがとう。

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