401 フェアリーは突然に
俺がエリーゼ様に事情の説明を求めた直後のことである。
「あるじー、なんかくるよー」
ラミーナモードのマリカが頭上を指差した。
コロニーの外光を取り込む部分が見える。
それだけだ。
普通は何もないと思うだろう。
だが、マリカの指差す方向に気配がある。
外光窓の手前だな。
何もない空間から感じる。
すごく薄い上に距離感が掴みづらい。
磨りガラスを間に入れて対象物を見るような感覚に近いかもしれない。
それでも指摘されれば存在だけは感じることができる。
うちの面子ならね。
何者かまでは判別できないだろう。
現に気付いたマリカが判別不能なのだ。
俺たちは一斉に上を向く。
少しでも情報を得て何者であるかを確認しようとするかのように。
ぶっちゃけて言えば、俺は見当がついている。
あえてそれを口にはしない。
これも修行になるだろうから。
そんな中で純田くんだけはマリカを見ていた。
「飛賀くん、飛賀くん」
上から来る相手はうちの子たちに任せることにして純田くんの方を見る。
やたらと興奮している気がするのだが大丈夫か?
純田くんの女性の好みからは明らかに外れているはずだから心配はいらないだろうが。
「君は幼女になんて格好をさせるんだっ」
「……………」
そういうことかい。
わざわざ赤い人の声を真似てまで言うことじゃないだろう。
「まりか、なんかへんー?」
幼女という単語に反応したマリカが首を傾げながら純田くんを見た。
耳と尻尾がピクピクユラユラと動いている。
「なんてことだっ。
まるで本物じゃないか、ガーン」
態とらしく仰け反る純田くん。
言ってる台詞も態とらしい。
だが、その割に地声に戻っているあたり本気で驚いているっぽい。
それを周囲の皆に悟られたくないが故の芝居がかった驚き方かもな。
現に表情も作り物めいているし。
わざわざ口で「ガーン」と言った時に合わせた感じの顔で固定している。
器用な男だと思ったが、声優も役者だよな。
むしろ、これくらいはできて当然か。
「どこで売っていたんだ」
本物だと言っても信じないだろうなぁ。
それとマリカに視線が釘付けになっているせいか、リーシャたちは眼中にないようだ。
人と話をする時に何もない空間を見ていることが多いからな。
俺も人のことは言えなかったりする。
「こっ、これは是非とも購入しなければ」
いかにも驚いています的な表情のままで棒読み台詞を繰り出されてもなぁ。
これは本気だわ。
かなり本気だわ。
大事なことではないけど2回言ってみた。
照れ隠しでこんな態とらしいことしているのはいつものことなので普通に対応する。
「買ってどうすんのさ」
「もちろんプレゼントだよ」
「誰にさ。
永浦くんか田宮氏あたり?」
俺は面識がないけど純田くんの話によく出てくる相手だ。
誕生日プレゼントを贈るための相談に乗ったこともあるし。
その時は誰もプレゼントしないような個性的な品物を送りたいと言っていた。
今回の条件に当てはまりそうではある。
動くケモ耳尻尾はピッタリだと思ったんだが。
「どうして男なんだ」
純田くん的には可愛い系は男にプレゼントするものではないらしい。
「こういうのは女性にこそ似合うはずだろう」
真顔で力説されてもな。
それを見慣れている俺からすると「ふーん、そう?」と言ってしまいそうになる。
「五木さんとか河見さんに是非つけてもらうべきだと思わないのかい」
そう来るか。
「ならば川代さんはどうよ?」
純田くんが挙げた2人と同じくらい会話に出てくるからな。
「彼女は犬耳ではダメだ」
鼻息荒く力説している。
力説しているところ悪いがマリカは犬じゃなくて狼だぞ。
「こだわるねえ」
「当然だ!」
当然らしい。
俺にはサッパリなんだが。
「川代さんはネコ耳こそ相応しい」
「そっちかよ!」
言われて想像してみたが、言いたいことは分からなくもない。
「ツンデレだって言いたいのかい」
「いっ、いや、決してそういう訳ではないのだよ」
「動揺しながら否定されてもねえ」
「そうじゃなくてだね」
やけに焦っている。
なんだろう?
「この会話を彼女に聞かれたら、どうなることかと思ってね」
そういうことか。
思い当たる節はある。
「また絶交されるか?」
「うっ」
オーバーアクションで仰け反る純田くん。
どうやらラジオで聞いた話はネタではなくてマジらしい。
あれは確か別の声優に過去に言ったことを暴露されてそうなったんだよな。
御主人様事件というやつだ。
「変なこと口走るからだよ」
「面目ない」
「まあ、今回の方がマシだとは思うがね」
「油断はできない」
「誰が暴露するんだよ。
俺は純田くん以外の声優と面識なんてないぞ」
「そこは今後のことがあるじゃないか」
「純田くんを通じて知り合うって?」
「そういうことだね」
「それなら心配いらないよ」
「どういうことかな?」
怪訝な表情で首を傾げる純田くん。
「俺はもう他所の世界の住人だからな。
だから姿も変わっている。
背も伸びたろ?
君の夢に介入することもできるし」
「なんとおっ」
仰け反って驚いている。
ネタもぶっ込んでくるし。
その台詞はそういうときに使ってなかったと思うのだが。
「にわかに信じがたいことだね」
「そもそも、これが夢の中の出来事だと言うなら」
ここでタメを入れた。
「言うなら?」
恐る恐るといった感じで聞いてくる。
「誰がチクれるんだよ」
「オーウ、マイガッ!」
さぞかし重要なことに気付かされたと言わんばかりに悶えている。
「なんで、そこだけ外人になるんだよ」
思わずツッコミを入れてしまった。
「金髪になったから?」
更にボケられるとは思っていなかった。
「なんで疑問形なんだ」
再びツッコミである。
純田くんは満足そうに腕組みをして頷いている。
「飛賀くんだなぁと思ってね」
急にシンミリしだした。
「なんだか長いこと君のことを忘れていた気がするんだよ」
「それ、気がするんじゃなくて事実だと思うよ」
「どゆこと?」
目を丸くしているのはマジだと思う。
とりあえず俺が異世界の住人になった経緯を軽く説明しておいた。
「──という訳だ」
返事がない。
純田くんの様子を見る限りは疑っている訳ではないようだけど。
しばしの沈黙が流れる──
「あのー……」
そう思い始めた矢先、第三者による割り込みがあった。
声のした上の方を見ると見知らぬ女の子がいる。
「だっ、誰!?」
素で驚いているのか判断しにくいオーバーな反応をしている純田くん。
あの様子だと顔見知りではないな。
外国人美少女に知り合いがいるという話は聞いたことがないし。
彼女は明らかに日本人ではなかった。
おかっぱにした金髪で碧眼。
透き通るような白い肌。
そして髪の毛の間から伸びる細長く尖った耳。
「エルフだって!?」
「いや、フェアリーだろう」
小さいが背中にアゲハチョウのような羽根も見えるしな。
いずれにしても、この世界の住人でないのは明らかだ。
「フェ、フェラーリだって、ガーン」
「そこでボケなくていいから」
延々とボケそうな雰囲気を感じたので最初に潰しておく。
「純田くんが動揺しているのはよく分かった」
「なんてことだっ!?
なんというボケ殺し」
彼女の方は俺たちが騒ぐ様子を意に介した風でもなく、ゆっくりと地面に降り立つ。
ほぼ同時に背中の羽根が景色に溶け込むように消えていった。
「はじめまして。
私はフェアリーのフェルトといいます」
ペコリとお辞儀した。
「ハルト・ヒガだ。
後は俺の身内と友達の純田くん」
そう言ってから純田くんを促したがどうにもぎこちない。
「純田です」
ボソボソッと名乗るに留まっている。
どうやら緊張しているようだ。
「ヒガ様、あなたは私達と同じ世界の方ですね」
単刀直入にズバッと聞いてくるな。
「ああ、そうだ。
元はこの純田くんと同じ世界の人間だったけどね」
俺が肯定すると、フェルトは安堵の表情を見せた。
「ヒガ様、お願いです。
私達を助けてください」
「連れて帰れって言うんだろ」
「えっ!?」
懇願してきたフェルトに即答すると驚きの表情のまま固まってしまった。
想定外の返事だったらしい。
「飛賀くん、飛賀くん、彼女動かないよ」
そんなこと言われてもなぁ。
俺だってそんな反応されるとは思ってなかったよ。
読んでくれてありがとう。




