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395 夢の世界へ

 視界がブラックアウトして気付くと別の場所に立っていた。


「なんじゃ、ここは!?」


「親父殿っ!」


 真っ先に声を上げたのはガンフォール。

 目を見開いて驚いている。

 何も知らずに目の前の光景を見れば、そうなるだろうなぁ。


 ハマーなどは完全に浮き足立っているし。

 ボルトは口をポカーンと開いて棒立ちだ。


「おもしろーい」


 人化して走り回る幼女マリカ。


「主よ、これはどうなっておるのじゃ?」


 困惑しているシヅカ。


「どうと言われてもな。

 エリーゼ様から説明は受けたんだろ」


「それは、そうじゃが……

 確かに事故で大怪我をした男の夢の中だとは聞いた。

 じゃが、ここまで奇妙な場所だとは思わなんだ」


 奇妙な場所か。

 何の予備知識もないと、そういう風に思うんだな。

 いや、ここがどういう場所なのか分かる俺でさえ感覚的には同じ状態だ。

 まさか自分で体感するとは思わなかったし。

 驚きのあまり取り乱すなんてことがないだけだ。


 レオーネなんかは割と落ち着きなく周囲を見回している。

 あれは確実に混乱しているな。

 でも、初見の反応としてはマシな方か。

 アンネとベリーのプラム姉妹など腰を抜かして、へたり込んでいる。


『大袈裟だなぁ』


 俺なんかはそんな風に感じたのだが。

 他の面子の様子を見る限り、決してそんなことはなさそうだ。


 フェア3姉妹などが好例と言えるだろう。

 マリアとクリスが互いに支え合って立っているような状態だったし。

 長女のエリスも忙しなく周囲を見渡している。

 あれは口を開く余裕もないってところだ。

 落ち着くまでは、もう少し時間がかかりそうかもな。


 それに対して古参組は比較的マシな様子である。

 ノエルは無言かつゆったりした様子で周囲の状況を観察。

 似たような感じなのがツバキ。

 こちらも無言である。


「ふむ、実際にはこんな感覚なのだな」


 ルーリアが観察するように注意深く周囲を見ている。


「「リアルで見ると面白いねー」」


 メリーとリリーは楽しげに上を見上げた。

 姉のリーシャがそれに釣られるように上を見る。

 何かモゴモゴと呟いている。

 気になった途端に耳には届いてしまうのだけど。


「これをリアルと言っていいのだろうか」


 とある男の夢の中だからな。

 随分と趣味丸出しではある。

 そのせいかレイナとアニスはガッチリ握手していた。

 どういう趣味の持ち主かが分かったようだな。

 はっきりと「「アニメの世界だー」」と喜んでいたりするくらいだからな。


 ダニエラはそんな2人を見てニコニコしていた。

 余裕だな、おい。

 胸だけじゃなくて器もデカいわ。

 ここが誰かの夢の中という自覚があるのか心配になってくるけどな。


「ハルトさん」


 エリスだ。

 どうやら少しは落ち着けたか。


「随分と奇妙な精神性を持った人物のようですが」


 夢の主をそういう風に分析してしまったか。


「いいや、それはエリスの情報不足が招いた判断ミスだと思う」


 珍しく絶句している。

 すぐに再起動したけど。


「情報不足ですか?

 では、ここがどういう場所か御存じだと?」


「まあな」


 この返事に動揺していた面子が集まってきた。

 まるで砂糖に群がるアリのようである。


「ハルトは空がない理由を知っておるのかっ!?」


 ハマーが必死である。

 俺に掴みかかろうとしてガンフォールに拳骨を落とされていた。

 さすがにガンフォールは落ち着きを取り戻したようだ。


「こういうのを奇天烈というのじゃろうな。

 本当にハルトはこのような場所を知っておるのか」


 頭を抱えながら涙目でハマーがうんうんと頷いている。

 不思議なものだ。

 俺たちはみんな精神体のはずなのに殴られて痛みを感じている。


 精神体というのは、ここに来てすぐに鑑定して分かったことだ。

 体は元の世界に残してきているみたいだね。


 最初は手ぶらだったり立っていたことに違和感を感じたんだけど。

 俺たちは座って潮汁を食べていたからな。

 でも、このあたりは転送に際してエリーゼ様がやったことだという可能性もあった。


 だからこそ自分自身や皆に【天眼・鑑定】を使ったのだが。

 最初に[精神体]と結果が表示された時は些か驚かされたさ。

 エリーゼ様の「こうなるよ」的な説明がなかったからなぁ。

 勘弁してほしい。


 まさか自分たちが集団で幽体離脱のような状態になるとは思わなかった。

 見た目に大きな変化がないから鑑定するまで気付かなかったのだ。

 老けたり子供になったりしていたら気付いていたんだろうけどな。

 あるいは昔の姿に戻っていたりとか。


 ああ、でも霊体って感じがしないから鑑定しない限りは分からなかったか。

 なんにせよセールマールの世界で昏睡している男の夢の中にいるのもハッキリした。

 ついでに誰の夢かもな。

 純田朋克、飛賀春人として俺が親しくなった最後の相手だ。


『知り合いどころか友達かよっ!』


 そこについてはエリーゼ様に抗議したいところだ。

 とりあえずメールはしておいた。


[そういうのは事前に教えてくださいよ]


 たぶんシカトされるけど。

 それにしても交通事故に巻き込まれていたとはな。

 バイクに乗っていて強引に車線変更した車に引っ掛けられたらしい。

 意識不明が2ヶ月近くも続いているとかシャレにならんよ。

 後遺症も残さずに回復できそうなのが救いではある。


『リハビリ頑張れよ、トモさん。

 ちょいと夢の中にお邪魔させてもらうぜ。

 用が済んだら、すぐに帰るからさ』


 余計なことはできない。

 大ポカをやらかしてトモさんの精神を傷つけるのだけは回避したいからな。

 せっかく鑑定で後遺症を残す恐れがないと出たんだ。

 俺がヘマをしておじゃんにする訳にはいかない。


『まあ、どのみちトモさんは俺のことを覚えてないんだが』


 そこは悲しくはあるがな。


 おっと、ガンフォールの質問に答えないと。

 【多重思考】のおかげで経過時間は1秒にも満たないから変には思われないだろうけど。


「知ってるか知らないかで言うなら知っている」


 俺の周りに集まってきた面子からどよめきが起きた。


「なぜ空がないんですか?」


 空はあるぞ。

 青空ではないがな。


「あの黒くて星のようなものがたくさん見える穴は何ですか?」


 星のようなじゃなくて星だ。

 あなじゃなくて採光用の窓だな。

 桁違いにデカいけど。


「上の方にある建物はなぜ落ちてこないんですか?」


 遠心力で重力の代わりにしているからだ。


「……………」


 矢継ぎ早に質問が来る。


「少しは落ち着けよ」


「それは無理なんじゃない」


 マイカが口を挟んできた。


「なんだよ」


「知ってるアタシらだって驚かされたんだし」


「……………」


 言われてみればそうかもしれない。


「あら、ハルは驚かなかったの?」


 俺の微妙な反応に気付いたマイカが聞いてくる


「まあな。

 夢の主が友達だったんだよ」


「「ええ─────っ!?」」


 マイカだけでなくミズキも驚いてやがる。

 どうせ俺は友達が少ないですよ。


「高校時代の部活仲間とか?」


 ミズキが食い気味に聞いてくる。


「後で教えるよ」


 先に質問してきた皆に答えないといけないからな。

 面倒なので幻影魔法を使って説明することにした。

 宇宙な世紀のアニメをダイジェストで見せるのがメインだったけど。


 後はスペースコロニーの幻影を見せながら補足説明するだけ。

 先にアニメを見せておいたお陰ですんなりと理解してもらえた。

 やはり、あのアニメのファーストは偉大である。


「ハルトがいた前の世界とは恐ろしいものじゃな」


 呆れたように頭を振るガンフォール。


「そうか?」


「あのようなものを空の果てに作ろうとするんじゃから」


 思わず苦笑が漏れた。


「あれは空想の産物だぞ。

 理論的にはコロニーくらいは可能なようだがな。

 コスト面でも技術面でもまだまだ実現できないだろうけど」


 今の俺の方が実現させられる可能性が高いくらいだ。

 その後も皆から食いつかれて答えるのに苦労した。

 続編のダイジェストとか他の作品なんかも見せる羽目になったとだけ言っておこう。

 女子が多いのにロボットアニメに食いつかれるとは思わんかったさ。


 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


「それじゃあ、探索開始だ」


「「「「「お─────っ!」」」」」


 皆、ノリノリである。

 対して俺はゲンナリである。

 質問攻めプラスアルファのお陰でね。

 ようやく探索に移れるのが有り難くて仕方ない。


「ねえ、ハルくん」


「なんだ?」


「手分けして探した方が良くない?」


「そだねー、ここ広すぎだよ」


 ミズキの提案がもっともだとマイカが乗ってくる。


「却下だ」


「なんでよぉ」


 即座に否定されたのが不満なんだろう。

 マイカが口を尖らせて抗議してきた。


「ここが他人の夢の中ってことを忘れるなよ。

 不測の事態があった場合、お前らどうするつもりだ」


「「あ」」


 あ、じゃないよ。


「急ぐより確実性を重視してくれ」


 トモさんの心をぶっ壊す訳にもいかないからな。

 慎重に行かないと。


読んでくれてありがとう。

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